日本の社会保険制度は外国人労働者にも適用されます。会社等が外国人を雇用する場合、原則として健康保険と厚生年金保険に加入させることはもちろん、労災保険や雇用保険にも加入させなければなりません。外国人の家族が扶養対象になるための条件や外国人の年金に関する脱退一時金、外国人の社会保険に関する社会保障協定など、外国人労働者に特有の事柄も含めて、外国人に適用される社会保険制度について説明します。
1. 外国人労働者も社会保険への加入が必要
日本の社会保険には次のようなものがあります。
・医療保険
・年金保険
・労災保険
・雇用保険
・介護保険
広島県「Ⅶ 労務対策・社会保険制度1 社会保険制度」,p.1を基に弁護士法人Global HR Strategyにて作成,https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/66126.pdf (閲覧日:2024年6月3日)
これらのうち多くの外国人労働者にとっても加入が必須となる保険は「医療保険」「年金保険」「労災保険」「雇用保険」です。これらについては、外国人労働者であっても、要件を満たすのであれば、日本人と同様に加入が必要です。
ただし、外国人を雇用する企業の業種や従業員数、所定労働時間、個人事業なのか法人なのかなどによって加入が必要な保険制度が異なります。
2. 医療保険
医療保険の制度には次の2種類があります。
・健康保険
・国民健康保険
健康保険と国民健康保険は病気やけが、出産、死亡に関して必要な給付を行う社会保険(医療保険)です。このうち「健康保険」は企業などの従業員とその家族が加入する医療保険制度ですが、健康保険の適用事業所が外国人労働者を雇用する場合、日本人労働者と同様の雇用条件で働いてもらうのであれば、外国人も健康保険と厚生年金保険に加入させなければなりません。
外国人が健康保険・厚生年金保険の適用事業所に雇用され健康保険・厚生年金保険に加入するときは、事業主が「被保険者資格取得届」を日本年金機構へ提出しなければなりません(健康保険法48条、同法施行規則24条第1項、厚生年金保険法27条、同法施行規則15条1項)。
参考)
日本年金機構|外国人従業員を雇用したときの手続きはこちらhttps://www.nenkin.go.jp/service/kounen/tekiyo/hihokensha1/gaikokujinkoyou.html
2-1. 適用対象者・適用除外者について
ただし、健康保険に「加入させなければならない労働者(適用対象者)」と「加入させなくてよい労働者(適用除外者)」がいます。
健康保険の適用を除外される「適用除外者」とは次のような労働者です。外国人も含めてこれらの労働者については健康保険と厚生年金保険に加入させることができません。
① 臨時に使用される人で、次のいずれかに該当する人
・日々雇い入れられる人(1カ月を超え、引き続き使用されるに至った場合を除く)
・2カ月以内の期間を定めて使用される人(2カ月を超え、引き続き使用されるに至った場合を除く)
② 事業所や事務所で所在地が一定しない事業者に使用される人
③ 季節的業務のために使用される人(継続して4カ月を超えて使用されるべき場合を除く)
④ 臨時的事業の事業所に使用される人(継続して6カ月を超えて使用されるべき場合を除く)
⑤ 国民健康保険組合の事業所に使用される人
⑥ 後期高齢者医療の被保険者
⑦ 厚生労働大臣、健康保険組合または共済組合の承認を受けて一定期間、国民健康保険の被保険者になっている人
また、次のような場合も健康保険・厚生年金保険の適用除外となります。
⑧ 社会保障協定締結国の出身者で、出身国の社会保障制度に加入している外国人労働者
⑨ 厚生年金保険の被保険者が101人以上の事業所で働くパートタイム従業員で、以下のどれかに当てはまる場合
・週の所定労働時間が20時間を超えない
・月額賃金が88,000円を超えない
・雇用期間の見込みが2カ月を超えない
・夜間・通信・定時制以外(つまり全日制)の学生
※100人以下の事業所でも、社会保険加入について労使間で合意があり、上記4要件のいずれにも当てはまらない従業員が社会保険加入を希望すれば適用除外にすることはできません。なお、対象となる企業規模は2024年10月からは「被保険者51人以上」となります。
参考)
日本年金機構|短時間労働者に対する健康保険・厚生年金保険の適用拡大の詳細はこちら
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/topics/2021/0219.html
2-2. 外国人労働者の家族は扶養対象になるか
健康保険の加入者(被保険者)の家族は、年収などの要件を満たせば、被保険者本人の扶養家族として扱われ、保険には加入しますが保険料はかかりません。
ただし、日本で働く外国人労働者の家族が扶養家族になるには次のような要件が必要です。
① 外国人労働者(被保険者本人)によって生計を維持されていること
② 日本国内に住民票があること
①については、年間収入が130万円未満(60歳以上または障害者の場合は、年間収入180万円未満)であることなどが要件になります。
また、②の国内居住要件については、日本国外で留学中の学生などは例外的に健康保険の被扶養者として認定され、加入できることになっています。
参考)
日本年金機構|国内居住要件と届出についてはこちら
https://www.nenkin.go.jp/oshirase/taisetu/2020/202003/20200324.html
3. 年金保険
3-1. 外国人も年金保険加入が必要
会社などに勤務し社会保険への加入条件を満たしている人は、外国人であっても厚生年金保険に加入させなければなりません。ただし、適用除外者は国民年金へ加入することになります。
国民年金 | 厚生年金保険 | |
加入対象者 | 外国人を含む20〜60歳の住民 (自営業者や学生、主婦、無職の人など) | 会社員や団体職員、公務員など |
基本的な給付内容 | 老齢年金、障害年金、遺族年金 | 老齢年金、障害年金、遺族年金 |
保険料 | 一定額(全額自己負担) | 給与・賞与の支給額によって異なる (企業と本人が負担) |
扶養制度 | なし | あり |
脱退一時金 | あり | あり |
3-2. 年金制度の考え方
外国人労働者の中には、「日本で年金を受け取る予定がないのに年金保険料を支払うことには納得がいかない」と抵抗を感じる人も少なくありません。しかし、日本の年金制度は「現在働いている人が今の高齢者への年金給付を支える」という考え方で運営されています。そのため、日本で働く外国人も、今の高齢者を支える一員として年金保険料を支払うことになります。外国人労働者にそのことを説明し、わかってもらう努力をしましょう。
また、外国人労働者も年金保険料を10年以上支払うと、自分が高齢になったときに日本の年金を受け取ることができます。受給額は、自分が支払った年金保険料に応じて変わります。また、望む事態ではありませんが、事故などで障害を負った場合、障害年金を毎年受給できる場合もあります。
3-3. 健康保険とセット
また、後述する社会保障協定の該当者を除き、健康保険加入と厚生年金保険加入はセット(加入手続きも一体的に行う)が原則であり、片方だけを選ぶことはできないことも、外国人労働者に説明してください。
3-4. 脱退一時金
外国人労働者が日本の住居を引き払って帰国した場合、それまでに支払った年金保険料の一部を返してもらえます。これは「脱退一時金」という制度です。
次の3つの条件をすべて満たす人は脱退一時金を申請できます。
・年金保険の加入期間の合計が6カ月以上
・日本国籍を持っていない
・年金の受給権を満たしていない
外国人労働者が国民年金・厚生年金保険の被保険者資格を喪失して日本から出国した場合、日本での住所がなくなった日から2年以内に脱退一時金を請求することができます。
このことも外国人労働者に説明してください。
参考)
日本年金機構|脱退一時金についてはこちら
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/20150406.html
脱退一時金について、詳しくはこちらをご覧ください。
3-5. 社会保障協定
ところで、外国人労働者の年金保険に関する社会保障協定があります。
これは、各国の社会保障制度との兼ね合いで、在日外国人労働者による年金保険料の二重負担などを防止するために、加入すべき制度を二国間で調整し、年金加入期間を通算(合算)できるようにした2国間協定のことです。協定によって、外国人労働者が日本で年金保険に加入した期間を、母国に帰国後に母国の年金加入期間に合算できる場合があります。
こうした社会保障協定を結んでいる国は2024年4月現在、下記の23カ国です。
ドイツ、英国、韓国、米国、ベルギー、フランス、カナダ、オーストラリア、オランダ、チェコ、スペイン、アイルランド、ブラジル、スイス、ハンガリー、インド、ルクセンブルク、フィリピン、スロバキア、中国、フィンランド、スウェーデン、イタリア
※英国、韓国、中国、イタリアとの協定については、「保険料の二重負担防止」のみ。
参考)
日本年金機構|社会保障協定についてはこちら
https://www.nenkin.go.jp/service/shaho-kyotei/shaho.html
外国人労働者の出身国によっては、健康保険については日本で加入させるが年金保険は出身国の保険に入り続けるため日本では加入しない(日本での滞在期間によって決定)といった場合などがあります。
4. 労災保険
4-1. 労働保険
労災保険と雇用保険の二つをあわせて労働保険と呼びます。それぞれの保険は以下のような保障をします。
労災保険 |
・仕事や通勤が原因で起こった病気・けが・障害・死亡に関し、労働者や遺族に必要な給付を行う制度。 ・保険料は会社などが全額負担。 ・留学生も加入できる。 |
雇用保険 |
・失業した場合に失業給付などを受けられる制度。勤務先や実習先の会社が倒産した場合も、新しい会社に移るまで給付を受けられる。 ・会社員の場合、会社と従業員が保険料を分担(会社の方が多く負担)。 ・留学生は加入できない。 |
4-2. 労災保険
一人でも労働者を雇用する事業者は、事業の規模に関わらず従業員を労災保険に加入させなければなりません(労働者災害補償保険法3条)。パート、アルバイト、契約社員、日雇いなどすべての労働者が労災保険の対象です。派遣社員の場合は、派遣会社が労災保険に加入します。外国人労働者も、日本人と同様に労災保険が適用されます。
労災保険給付は主に7種類あります。
療養(補償)給付 | 業務(仕事)や通勤が原因で起きたけがや病気の治療に対する給付。 |
休業(補償)給付 | 業務や通勤が原因で起きたけがや病気で働くことができなくなり、給料をもらえない場合の給付。休み始めて4日目の分からお金がもらえる。 |
傷病(補償)年金 | 業務や通勤が原因で起きたけがや病気が1年6カ月たっても完治せず(症状が固定せず)、一定以上の障害があるときに、休業(補償)給付から切り替えて支給される年金。 |
障害(補償)給付 | 業務や通勤が原因で起きたけがや病気の症状が固定し、一定程度以上の身体障害が残った場合の給付(年金を含む)。 |
遺族(補償)給付 | 労働災害で死亡した場合、遺族に生活保障のために給付される年金や一時金。 |
葬祭料等(葬祭給付) | 労働災害で死亡した場合、葬儀を行った人に葬儀費用の一部を給付。 |
介護(補償)給付 | 障害(補償)年金または傷病(補償)年金の受給者のうち、特に程度が重い障害を持ち 、介護を受けている人への給付。 |
仕事に関連する病気やけがに対する保障については外国人労働者の関心も高いので、制度概要についてよく説明してあげてください。下記のような外国語のパンフレットもあります。
厚生労働省|外国人労働者向け労災保険給付パンフレットはこちら
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/
gyousei/rousai/gaikoku-pamphlet.html
5. 雇用保険
5-1. 雇用保険の給付の種類
雇用保険は政府が運営する強制保険制度で、労働者を雇用する事業には、原則として強制的に適用されます(雇用保険法5条1項)。
雇用保険の給付には次のようなものがあります。
求職者給付 | 労働者が失業して収入がなくなった場合に支給(失業保険) |
就職促進給付 | 就職活動を支援するための給付 |
教育訓練給付 | 自ら職業に関する教育訓練を受講した場合の支援 |
雇用継続給付 | 職業生活の円滑な継続を援助・促進するための給付 |
育児休業給付金 | 育児休業を取得した場合の支援 |
これらの給付は外国人であっても日本人と同様に受けられます。
参考)
厚生労働省|ハローワークインターネットサービスはこちら
https://www.hellowork.mhlw.go.jp/index.html
5-2. 雇用保険の加入要件
雇用保険の適用事業所に雇用される労働者で、次の労働条件すべてに該当する場合は被保険者となります(雇用保険法6条)。
・1週間の所定労働時間が20時間以上
・31日以上の雇用見込みがあること
雇用保険は、雇用形態や加入希望の有無にかかわらず、要件に該当すれば加入が必要で、外国人労働者も日本人と同様に加入させなければなりません。技能実習生についても、要件を満たす場合には、加入が必要です。
また、全日制の大学・短大・専門学校等に通っている留学生は加入対象となりませんが(雇用保険法6条4号)、通信教育や夜間の大学・高校等に通う学生は加入対象となります。
5-3. 雇用保険の加入が適用されない場合
下記の従業員は雇用保険に加入できないことがあります。
① 1週間の所定労働時間が20時間未満
② 同一職場で継続して31日以上雇用されることが見込まれない従業員
③ 全日制の学校に通っている学生
④ ワーキングホリデー制度で働く在日外国人や留学生(全日制)
⑤ 国外で現地採用した外国人
※③:休学中の人や企業等から承認を受けて就業しながら大学院などに在学している人は加入対象です。
※⑤:出張や海外支店などへの転勤によって国外で就労する場合などは、国内の出向元との雇用が継続していれば雇用保険加入も継続できます。
2社以上の企業で働く場合、加入できるのは1社のみです。
5-4. 外国人雇用状況届出書の代替
外国人を雇用する事業主は外国人労働者の雇入れ・離職の際、ハローワークに「外国人雇用状況の届出」を提出することが義務付けられています(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律28条)。ただし、雇用保険に加入する場合は、雇用保険の加入手続きが「外国人雇用状況の届出」の代わりとなります(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律施行規則10条2項)。
6. 社会保険加入と在留資格審査
出入国在留管理庁の「在留資格の変更, 在留期間の更新許可のガイドライン」(2020年2月改正)によると、2010年4月以降、外国人労働者が在留資格の変更や更新を申請する際、地方出入国在留管理局の窓口で健康保険証の提示が求められるようになりました。
ガイドラインには、健康保険・厚生年金保険・国民健康保険・国民年金に加入していない企業や外国人労働者が、在留資格の変更・更新申請の際に健康保険証を提示できない場合でも、そのことだけで申請を不許可にすることはないと記載されています。
しかし、社会保険の強制適用事業所でありながら特別な理由なく社会保険に加入していない事業者や、国民健康保険・国民年金に加入していない外国人が在留許可の変更・更新を申請した場合、申請を許可するかどうかを判断する際の不利な材料になる可能性があります。
参考)
出入国在留管理庁|在留資格の変更, 在留期間更新のガイドライン(2020年2月改正)はこちら
https://www.moj.go.jp/isa/content/930004753.pdf
7. まとめ
社会保険・労働保険は外国人も加入が必要
外国人労働者も原則として、医療保険、年金保険、労災保険、雇用保険への加入が必要です。
まず、健康保険の適用事業所が外国人労働者を雇用する場合、日本人と同様の条件で働いてもらうのであれば、外国人も「健康保険」と「厚生年金保険」に加入させなければなりません。
適用除外・社会保障協定・外国人家族の扶養
ただし、季節的業務のために使用される人の一部や臨時事業の事業所に使用される人の一部などは健康保険・厚生年金保険の適用除外者となります。また、社会保障協定締結国の出身者で、出身国の社会保障制度に加入している外国人労働者や、厚生年金保険の被保険者が101人以上(2024年10月からは51人以上)の事業所で働くパートタイム従業員の一部も適用除外者です。
外国人労働者の家族が厚生年金保険の被扶養者となるには、年収要件と国内居住要件があります。
外国人労働者への説明について
健康保険には入りたいが、厚生年金保険には入りたくないという外国人労働者も少なくありません。外国人労働者の年金保険加入への抵抗感を減らすには、厚生年金保険が健康保険とセットの制度であることや厚生年金保険に加入することによる、もしものときの障害年金受給権、帰国後に適用される脱退一時金制度、地方出入国在留管理局の在留資格審査に影響する可能性があることなどについて丁寧に説明することが有効と考えられます。
労災保険・雇用保険
労災保険や雇用保険についても、外国人も要件を満たせば日本人同様、加入が必要です。特に労災保険については、外国人労働者の関心も高いので、外国人労働者を保険に加入させることはもちろん、制度内容についてくわしく説明してあげると安心につながります。また、外国人を雇用保険に加入させる手続きは「外国人雇用状況の届出」の代替になります。