外国人労働者の社会保険料は返ってくる!【脱退一時金】について解説

この記事を読むと、次のことが分かります。

・日本における社会保険制度の概要
・脱退一時金制度の概要と注意点
・脱退一時金を受け取る要件と受け取る方法
・社会保障協定の概要と注意点

「社会保険に加入したとしても、加入期間が足りなかったら掛け金がムダになる。だから社会保険には加入したくない

「母国に帰るときには、納めた社会保険料は返してもらえる?

あなたの会社で働く外国人従業員からこのような発言や質問があったとき、迷いのない回答ができるでしょうか。社会保険は、外国人が日本で安心して生活するために重要な役割を果たします。企業は、外国人が納得して社会保険に加入できるよう、正しい知識を持っておくことが大切です。

本稿では、外国人が日本の社会保険で損をしないために設けられている制度を詳しく解説します。併せて、社会保険の返金申請を代行するサービスも紹介します。外国人が帰国する際は、本稿で紹介しているサービスを案内してみてはいかがでしょうか。

1. 外国人に適用される社会保険とは?日本の社会保険制度を再確認!

日本には、公的機関が運用する社会保険制度が整備されており、外国人も加入することが義務付けられています。

社会保険制度は、病気やけが、老後などに備える「社会保険」と、働く際のリスクに備える「労働保険」に分けられます。「社会保険」というと、制度全体ではなく前者のみを指すことが一般的で、医療保険・年金保険・介護保険の総称として使われます。

図)社会保険制度の全体像

広島県「Ⅶ 労務対策・社会保険制度1 社会保険制度」,p.1を基にライトワークスにて作成,https://www.pref.hiroshima.lg.jp/uploaded/attachment/66126.pdf (閲覧日:2023年3月28日)

外国人が日本企業で働く場合、「健康保険」と「厚生年金保険」に加入するケースがほとんどです。その場合、その外国人は、社会保険料として、健康保険料と厚生年金保険料(40歳以上の場合は介護保険料も)を納めることになります。

2. 「脱退一時金制度」を利用すれば外国人労働者の年金は返金される!

日本で働く外国人も社会保険料を納めなければなりませんが、将来そのまま帰国し、年金を受け取らない場合は、保険料の払い損になってしまいます。そこで設けられているのが、「脱退一時金」の制度です。

ここからは、脱退一時金制度の概要や、制度を利用する際の注意点について解説します。

2-1. 脱退一時金制度は「社会保険料の掛け捨て」を防ぐ制度

脱退一時金制度は、年金保険料の還付が受けられる制度です。日本から帰国した後、2年以内に手続きをすれば、日本で納めた社会保険料の一部が返金されます。この制度により、日本国籍を持っていない外国人労働者が納めた社会保険料の掛け捨てを防げます。

多くの外国人は、年金保険料の還付制度があることを知りません。企業は、やさしい日本語で作られた教材などを活用し、外国人が理解できるよう丁寧に説明しましょう。

情報の周知のために、eラーニングを活用するのも良いでしょう。

株式会社ライトワークス製eラーニングコンテンツ「外国人材が退職後に帰国する場合の手続」

※ 外国人の方に分かりやすいよう、「やさしい日本語」で作成しています。(ベトナム語版もあり)

参考)
「やさしい日本語」についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

また、日本年金機構のウェブサイトには、脱退一時金制度の説明文書が公開されています。英語や中国語など14の言語に対応していますので、こちらを活用するのも良いでしょう。

参考)
日本年金機構|脱退一時金制度の説明文書はこちら
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todokesho/sonota-kyufu/20150406.html

脱退一時金について解説しているブログ記事もあります。ぜひ、自社で使いやすい媒体を選び、外国人従業員に共有しましょう。

企業向けの実務ポイントについては、以下の記事にまとめられています。

2-2. 脱退一時金制度の注意点

厚生年金保険に加入していた人が脱退一時金を受け取る場合は、所得税・復興特別所得税が源泉徴収されています。脱退一時金は税法上「退職所得」とみなされるため、20.42%の税金が引かれてしまうのです。

この源泉徴収分は、多くの場合、帰国後に所定の手続きをすれば還付を受けることができます。厚生年金保険に加入していた人は、所得税の還付手続きも追加で必要になることを覚えておきましょう。

ただし、所得税の還付金を受け取るには日本国内の銀行口座が必要です。日本国内の銀行口座を持っていない場合は、帰国前に「所得税・消費税の納税管理人の届出書」を税務署に提出しておく必要があります。

「所得税・消費税の納税管理人の届出書」は、日本に住所がない人に代わって納税に関する手続きをする「納税管理人」を指定するための書類です。日本に住所がある人なら誰でも納税管理人として指定できます。納税管理人を指定すると、還付金はいったん納税管理人の口座に振り込まれ、その後納税管理人によって外国人本人の口座に送金されます。

もし届出書を提出せずに帰国した場合は、所得税の還付手続きと同時に提出しましょう。

なお、国民年金の場合は所得税・復興特別所得税の源泉徴収はありません。日本で国民年金のみに加入していた場合、還付手続きは不要です。

3. 外国人が厚生年金保険の脱退一時金を受け取る要件

厚生年金保険の脱退一時金を受け取る要件は以下の通りです。

・日本国籍を持っていない
・日本に住所がない
・厚生年金保険に6カ月以上加入していた
・厚生年金保険から脱退している(被保険者ではなくなっている)
・老齢年金の受給資格期間(10年間)を満たしていない
・障害厚生年金の支給を受けたことがない
・日本に住所がなくなってから2年以内である

日本滞在中、厚生年金保険に加入していた時期と、国民年金に加入していた時期の両方を有する外国人もいるでしょう。その場合、厚生年金保険と国民年金の加入期間を合算することはできないため注意が必要です。

例えば、厚生年金保険に5カ月、国民年金に2カ月加入していた場合、合算すると7カ月になります。しかし、それぞれの加入期間は6カ月を満たしていません。

国民年金も厚生年金保険と同様に、脱退一時金を受け取るには6カ月以上の加入が必要です。そのためこのケースでは、国民年金も厚生年金保険も受け取り要件を満たしていないことになり、脱退一時金を受け取れません

もしそれぞれの加入期間が6カ月以上である場合には、国民年金と厚生年金保険の両方で脱退一時金を請求することができます。

4. 外国人が厚生年金保険の脱退一時金を受け取る方法

外国人が脱退一時金を受け取る方法として、自分で申請する方法と代行サービスを使う方法を紹介します。

4-1. 自分で申請をする

脱退一時金の申請は、基本的には自分でできます。必要書類は以下の通りです。

・脱退一時金請求書
・パスポートの写し
・日本に住所がないことを証明する書類(住民票の除票の写し・パスポートの出国日が確認できるページの写しなど)
・脱退一時金を受け取る銀行口座に関する書類(受取先金融機関名・支店名・支店の所在地・口座番号・請求者本人の口座名義であることが確認できるもの)
・基礎年金番号を確認できる書類(基礎年金番号通知書・年金手帳など)

上記の書類を出国後に日本年金機構に提出しましょう。

出国前に申請することも可能ですが、日本国内に住所がある状態だと、要件を満たさないため申請ができません。出国前に申請する場合は、お住まいの市区町村に転出届を出してから申請する必要があります。

脱退一時金の申請は書類を準備して提出するだけなので、手続きとしてはそれほど難しいものではありません。ただ、母国ではない国で個人が公的な手続きを行うことにはそれなりのハードルがあると言えるでしょう。

例えば、申請後、書類に不備があった場合のコミュニケーションに苦労したり、実際に支給があるまで申請がうまく行っているかわからず不安、といったケースがみられるようです。(申請時、支給までの期間は明示されません)

また、所得税の還付については帰国後でないと手続きができず、かつ納税管理人を立てる必要があるので、さらにハードルが高いと言えるでしょう。

こうしたことから、例えば技能実習生については監理団体がサポートに入ることが一般的です。

4-2. 代理人に依頼する

脱退一時金の請求と所得税の還付申請は、代理人に依頼することも可能です。この場合、上記の書類にプラスして「委任状」が必要になります。様式は自由です。

企業が外部に委託する場合は、社会保険労務士に依頼します。

5. 外国人の母国が日本と「社会保障協定」を結んでいる場合

本人の母国が日本と「社会保障協定」を結んでいる場合は、脱退一時金の申請をするかしないか、よく検討する必要があります。ここでは、社会保障協定の概要と注意点を解説します。

5-1. 社会保障協定とは「保険料の二重負担」を防ぐ制度

社会保障協定は、脱退一時金制度と同様、社会保険へ加入することで外国人が損をしないための制度です。令和5年3月時点で日本は、フィリピン中国ブラジルなど23カ国と社会保障協定を締結しています。

社会保障協定の具体的な内容には、以下の2点があります。

・日本と自国との間で加入すべき社会保険制度を調整し、保険料の二重負担を防ぐ
・年金加入期間を日本と自国で通算し、年金を受給しやすくする

なお、中国などいくつかの国と締結された社会保障協定では、「保険料の二重負担を防ぐ」という内容のみとなっています。このように国によって詳細が異なる場合がありますので、あらかじめ確認しておいてください。

5-2. 脱退一時金を受け取ると年金加入期間を通算できなくなる

社会保障協定の注意点として、脱退一時金を申請すると、社会保障協定に基づく年金加入期間の通算ができなくなることが挙げられます。中国などのようにもともと年金加入期間の通算が協定の内容に含まれていない場合は関係ありませんが、フィリピンやブラジルのように年金加入期間の通算が可能な場合は注意が必要です。

脱退一時金を受け取るということは、年金に加入していた期間が加入期間と見なされなくなるということです。例えば、日本で5年間働いていた外国人が脱退一時金を受け取ると、5年間は年金に加入していなかったことになり、自国で年金を受け取る際の金額に差が生じてしまいます。

「年金加入期間を日本と自国とで通算できる」という内容の社会保障協定を締結している国出身の外国人は、脱退一時金を受け取るのか、年金加入期間を通算して将来年金を受給するのかを選択する必要があるのです。

6. まとめ

日本には「社会保険制度」が整備されており、外国人も加入することが義務付けられています。

社会保険制度は、病気やけが、老後などに備える「社会保険」と、働く際のリスクに備える「労働保険」に分けられます。一般的に「社会保険」というと、制度全体ではなく前者のみを指すことが多く、医療保険・年金保険・介護保険の総称として使われています。

外国人が日本企業で働く場合、「健康保険」と「厚生年金保険」に加入するケースがほとんどです。その場合外国人は、社会保険料として、健康保険料と厚生年金保険料(40歳以上の場合は介護保険料も)を納めることになります。

しかし、将来そのまま帰国し、年金を受け取らない場合は、保険料の払い損になってしまいます。このような事態を防ぐために、「脱退一時金制度」「社会保障協定」という仕組みが用意されています。

脱退一時金制度は、納めた年金保険料の還付が受けられる制度です。日本から帰国した後、2年以内に手続きをすれば、日本で納めた社会保険料の一部が返金されます。

厚生年金保険に加入していた人が脱退一時金を受け取る場合は、約20%の所得税・復興特別所得税が源泉徴収されています。多くの場合は、手続きをすれば還付を受けることが可能です。厚生年金保険に加入していた人は、所得税の還付手続きが追加で必要になることも頭に入れておきましょう。

厚生年金保険の脱退一時金を受け取る要件は以下の通りです。

・日本国籍を持っていない
・日本に住所がない
・厚生年金保険に6カ月以上加入していた
・厚生年金保険から脱退している(被保険者ではなくなっている)
・老齢年金の受給資格期間(10年間)を満たしていない
・障害厚生年金の支給を受けたことがない
・日本に住所がなくなってから2年以内である

脱退一時金の申請は自分でできます。必要書類を準備し、出国後に日本年金機構に提出しましょう。

出国前に申請することも可能です。出国前に申請する場合は、お住まいの市区町村に転出届を出してから申請しましょう。

脱退一時金の申請は、代理人が申請することも可能です。この場合は「委任状」が必要です。企業が外部に委託する場合は社会保険労務士に相談します。

外国人の母国が日本と「社会保障協定」を結んでいる場合は、社会保障協定についても理解しておくことが大切です。社会保障協定とは、脱退一時金制度と同様、社会保険へ加入することで外国人が損をしないための制度です。

社会保障協定の具体的な内容として、以下の2点があります。

・日本と自国との間で加入すべき社会保険制度を調整し、保険料の二重負担を防ぐ
・年金加入期間を日本と自国で通算し、年金を受給しやすくする

ただし、国によって協定の詳細が異なる場合があります。あらかじめ確認しておいてください。

脱退一時金を申請すると、社会保障協定に基づく年金加入期間の通算ができなくなります。中国などのように、もともと年金加入期間の通算が協定の内容に含まれていない場合は関係ありませんが、フィリピンブラジルのように、年金加入期間の通算が可能な場合は注意が必要です。脱退一時金を受け取るのか、年金加入期間を通算して将来年金を受給するのかを選択することが求められます。

将来受け取るつもりのない年金の保険料を支払うことに抵抗感があるのは当然です。そうした方にはぜひ、本稿の内容をご紹介ください。本稿が、あなたの会社の外国人従業員の「安心」と「納得」につながれば、幸いです。

参考)
日本年金機構「社会保障協定」, 2022年10月3日, https://www.nenkin.go.jp/service/shaho-kyotei/20141125.html (閲覧日:2023年3月28日)
日本年金機構「脱退一時金の支給を受けるためには、どのような手続きを行えば良いですか。」, 2022年4月1日, https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/2020042804.html (閲覧日:2023年3月28日)
日本年金機構「脱退一時金の制度」, 2023年4月1日, https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/20150406.html(閲覧日:2023年4月1日)

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