脱退一時金の【実務ポイント】をわかりやすく解説!<外国人材の帰国>

この記事を読むと、次のことが分かります。
・脱退一時金の基礎知識
・脱退一時金の申請の流れ
・脱退一時金を申請するときの注意点
・一時帰国の際に脱退一時金を申請する場合
実務上、個別具体のトピックで悩むことが多いと思いますが、実は一つの課題には多くの周辺事項が存在しています。周辺事項も含めてまとまった情報を理解する、あるいは参照する方が、結果的な業務効率はアップします。
本ブログでは、毎日多数の問い合わせに対応している実績を基に、企業の担当者が押さえておくとよい情報を、分かりやすくかつ網羅的にお届けします。
ぜひ参考にしてください。

脱退一時金制度は、日本に住む外国人が母国へ帰る際にそれまで日本で払っていた公的年金保険料の一部が返還される制度です。耳慣れない言葉と感じる方も多いのではないでしょうか。

しかし在留資格「技能実習」「特定技能」が増設され、日本で生活する外国人が増加するに伴ってこの制度は注目を浴びつつあります。

本稿では、脱退一時金の基本的な知識から申請について、また一時帰国の際に脱退一時金の扱いはどのようになるのか、という事柄について分かりやすく解説します。

1. 脱退一時金とは

まず、脱退一時金の概要を説明します。

1-1. 脱退一時金って何?

脱退一時金制度とは、日本で国民年金・厚生年金に加入していた外国人が、老齢年金の受給資格を待たずに帰国する際、納めた公的年金保険料の一部が返金される制度です。

外国人も、日本に住所がある場合は公的年金制度に加入しなければいけません。公的年金には国民年金と厚生年金があり、日本に住む20歳以上60歳未満の全ての人は国民年金の加入対象です。ただし、70歳未満で厚生年金の加入要件を満たしている場合は厚生年金に加入します。

国民年金・厚生年金に加入していた外国人が日本を離れ、日本の住所を喪失した場合、これまで支払った公的年金保険料を無駄にしないために一定の要件の下で納めた公的年金保険料の一部が支給されます。これを脱退一時金といいます。

1-2. 脱退一時金の対象者

脱退一時金の対象者は、次の7つの要件全てに該当する人です(厚生年金保険法附則第29条、国民年金法附則第9条の3の2)。

1.日本国籍を有しない
2.公的年金制度(国民年金または厚生年金)の被保険者でない
3.国民年金または厚生年金(共済組合などを含む)の加入期間が6カ月以上ある
4.老齢年金の受給資格期間(国民年金の保険料納付済み期間、厚生年金加入期間、合算対象期間の合計が10年以上)を満たしていない
5.障害基礎年金、障害厚生年金などの年金が支給される権利を有したことがない
6.住所が日本国内にない
7.公的年金制度の直近の被保険者資格喪失日から2年以上が経過していない(被保険者資格喪失日に住所が日本国内にあった場合、同日後、住所を日本国内に有しなくなった最初の日から2年以上が経過していない)

ただし、前提条件として公的年金の保険料を納付している必要があります。また、保険料の一部免除を受けながら納付した期間があった場合、免除の種類に応じた期間が合算されます。

1-3. 脱退一時金の金額

脱退一時金制度で受け取れる金額は、公的年金の保険料を納めた金額国民年金と厚生年金のどちらに加入していたかによって異なります。

(1) 国民年金に加入していた場合

国民年金に加入していた場合、次の計算式で支給額が決定されます(国民年金法附則9条の3の2第3項)。

【国民年金に加入していた場合の脱退一時金の計算式】[1]

最後に保険料を納付した月が属する年度の保険料額×2分の1×支給額計算に用いる数

計算式内の「支給額計算に用いる数」は下表の通りです(国民年金法施行令14条の3の2)。

【国民年金:保険料納付済み期間と支給額計算に用いる数】

保険料納付済み期間などの月数支給額計算に用いる数
6カ月以上12カ月未満6
12カ月以上18カ月未満12
18カ月以上24カ月未満18
24カ月以上30カ月未満24
30カ月以上36カ月未満30
36カ月以上42カ月未満36
42カ月以上48カ月未満42
48カ月以上54カ月未満48
54カ月以上60カ月未満54
60カ月以上60

※GHRSにて法令を基に作成

このように、保険料納付済み期間など月数は6カ月ごとに区分され、その区分に応じて支給額計算に用いる数が定められています。

(2)厚生年金に加入していた場合

厚生年金に加入していた場合の脱退一時金の支給額は、次の計算式によって決まります(厚生年金保険法附則第29条第3項、同第4項)。

【厚生年金に加入していた場合の脱退一時金の計算式】

被保険者であった期間の平均標準報酬額(※1)×支給率(保険料率×2分の1×支給率計算に用いる数)[2]
※1…以下のA・Bを合算した額を全体の被保険者期間の月数で割った額
A:2003年4月より前の被保険者期間の標準報酬月額に1.3を掛けた額
B:2003年4月以後の被保険者期間の標準報酬月額および標準賞与額を合算した額

最終月が2022年4月以降の場合、支給率計算に用いる数と支給率は下表の通りです(厚生年金保険法施行令第12条の2)。

【最終月が2022年4月以降の場合】

被保険者であった期間支給率計算に用いる数支給率
6カ月以上12カ月未満60.5
12カ月以上18カ月未満121.1
18カ月以上24カ月未満181.6
24カ月以上30カ月未満242.2
30カ月以上36カ月未満302.7
36カ月以上42カ月未満363.3
42カ月以上48カ月未満423.8
48カ月以上54カ月未満484.4
54カ月以上60カ月未満544.9
60カ月以上605.5

日本年金機構「脱退一時金の制度」を基にGlobal HR Strategyにて作成,https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/20150406.html(閲覧日:2022年12月21日)

なお、最終月が2017年9月から2021年3月までの場合は下表の通りです。

【最終月が2017年9月から2021年3月までの場合】

被保険者であった期間支給率計算に用いる数支給率
6カ月以上12カ月未満60.5
12カ月以上18カ月未満121.1
18カ月以上24カ月未満181.6
24カ月以上30カ月未満242.2
30カ月以上36カ月未満302.7
36カ月以上363.3

日本年金機構「脱退一時金の制度」を基にGlobal HR Strategyにて作成,https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/20150406.html(閲覧日:2022年12月21日)

このように、脱退一時金の計算式は非常に複雑です。脱退一時金の支給額がいくらになるのか気になった場合は、最寄りの日本年金機構の事務所を訪ねて質問することをおすすめします。

2. 脱退一時金の申請の流れ

ここでは、脱退一時金の申請の流れを説明します。

2-1. 脱退一時金申請までの流れ

脱退一時金を申請するためには、まず日本にある住民票を消除しなければいけません。日本で居住している市区町村へ「転出届」を出しましょう。

転出届が受理され住民票が消除されると、「住民票の除票の写し」を請求することができます。住民票の除票の写しがあれば日本国内に住所がないことを簡単に証明できるので、脱退一時金の申請に「日本国内に住所がないことを確認できる書類」が必要な場合(3-2. 参照)は入手するとよいでしょう。

続いて、「脱退一時金請求書」を作成します。脱退一時金請求書は、日本年金機構のホームページでダウンロードが可能です。英語、中国語、ベトナム語など、14カ国語に対応しています。

参考)
日本年金機構|脱退一時金請求書はこちら
https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todokesho/sonota-kyufu/20150406.html

さらに、必要に応じて以下の添付書類をそろえます。

パスポートの写し
・日本国内に住所がないことを確認できる書類(パスポートの出国日が確認できるページの写しや住民票の除票の写しなど)
・脱退一時金が入金される金融機関名、支店名、支店の所在地、口座番号、口座名義(申請者本人であること)が確認できる書類
・基礎年金番号が明示された書類(年金手帳や基礎年金番号通知書など)
・代理人が申請を行う場合、委任状

各書類に関する注意点は、「3-2. 添付書類の注意点」で解説します。必要な書類をそろえて、日本を出国後2年以内日本年金機構本部もしくは各共済組合に提出しましょう。

2-2. 脱退一時金が入金されるまでの流れ

提出書類に不備がなければ、脱退一時金請求書の受け付けから約4カ月後に脱退一時金が入金され、併せて「脱退一時金支給決定通知書」が送付されます。

脱退一時金を申請する際に日本国外の口座を指定した場合は、ユーロやドルなど該当の国に対応した通貨で支払われます。

2-3. 脱退一時金入金後にすること

厚生年金に加入していた場合、脱退一時金から20.42%(2023年3月現在)の所得税および復興特別所得税が源泉徴収されます[3]

ただし、脱退一時金に係る税金は「退職所得の選択課税による還付のための申告書」を税務署に提出することで還付される場合があります。この申請および還付金の受け取りのためには、帰国前に「所得税・消費税の納税管理人の届出書」の提出が必要です。

納税管理人の要件「日本に住所または居住地を有すること」のみで、個人でも法人でも構いません。

なお、帰国前に所得税・消費税の納税管理人の届出書を提出していない場合は、退職所得の選択課税による還付のための申告書と併せて提出してください。

3. 脱退一時金申請時の注意点

脱退一時金の申請に必要な脱退一時金請求書の作成・提出に関して、注意点を解説します。

3-1. 脱退一時金の申請書の書き方

脱退一時金請求書を記入するに当たっては、以下の3つに気を付けてください。

・請求者氏名・振込口座などの記入
・住所の記入
・口座名義の記入

一つずつ説明します。

・請求者氏名・振込口座などの記入

脱退一時金請求書はさまざまな言語に対応していますが、「4.請求者氏名、生年月日及び離日後の住所」と「5.脱退一時金振込先口座」の欄は必ずアルファベットの大文字で記入してください。

ただし、日本国内の金融機関を指定している場合は、「5.脱退一時金振込先口座」の「請求者本人の口座名義」の欄にカタカナで記入する必要があります。

・住所の記入

住所については、日本国外の住所を記入する必要があります。日本国内の住所を記入してしまうと、「日本国内に住所がある」と判断されてしまい、脱退一時金が支給されません。

・口座名義の記入

金融機関に登録している口座名義を、正確に記入しなければいけません。ミドルネームを省略するなど、口座名義と異なっていると振り込みができなくなることがあります。

また、日本国内の金融機関を指定すると口座名義はカタカナで記入しますが、カナ氏名で濁点、半濁点、スペースを含め26字以上となる場合、その口座は脱退一時金の受け取りに使用できません。その他、ゆうちょ銀行や一部のインターネット専業銀行は指定できない点にも注意しましょう。

脱退一時金請求書に不備があると、脱退一時金が振り込まれなかったり、振り込まれるまでに時間がかかったりすることがあります。間違いのないよう、丁寧に記入しましょう。

3-2. 添付書類の注意点

以下のような添付書類についても、注意すべき点があります。

・パスポートの写し
・日本国内に住所がないことを確認できる書類(パスポートの出国日が確認できるページの写しや住民票の除票の写しなど)
・脱退一時金が入金される金融機関名、支店名、支店の所在地、口座番号、口座名義(申請者本人であること)が確認できる書類
・基礎年金番号が明示された書類(年金手帳や基礎年金番号通知書など)
・代理人が申請を行う場合、委任状

一つずつ見ていきましょう。

・パスポートの写し

氏名・生年月日・国籍・署名・在留資格を確認できるページの写しが必要です。本人からの申請であることを確認するために使用します。

・日本国内に住所がないことを確認できる書類(パスポートの出国日が確認できるページの写しや住民票の除票の写しなど)

日本から出国していることの確認に使用します。帰国前に居住していた市区町村に転出届を提出している場合、この書類は必要ありません

しかし、外国人のアルファベット氏名を日本年金機構で把握しておらず、該当住民票の消除が確認できない場合にはこの書類が必要です。このケースに該当する可能性があるのは、日本年金機構がアルファベット氏名を管理し始めた2012年7月以前から被保険者だった場合などです。

・脱退一時金が入金される金融機関名、支店名、支店の所在地、口座番号、口座名義(申請者本人であること)が確認できる書類

申請者本人名義の口座であり、受け取り可能な金融機関であることが条件です。なお、ゆうちょ銀行や一部のインターネット専業銀行、日本国内の金融機関で名義がカタカナで登録されていない口座では脱退一時金を受け取れません

・基礎年金番号が明示された書類(年金手帳や基礎年金番号通知書など)

公的年金の加入期間の確認のために使用されます。年金手帳や基礎年金番号通知書をなくした場合は、日本年金機構に基礎年金番号通知書の再発行を申請することができます。

・代理人が申請を行う場合、委任状

本人による脱退一時金の申請が難しい場合、代理人が申請手続きを行うことができます。委任状の様式は自由です。

このように脱退一時金の申請には、必要に応じてさまざまな書類をそろえなければいけません。

3-3. 日本国内にいるうちに申請するときの注意点

日本から出国する前に脱退一時金の申請を行う場合、脱退一時金請求書および添付書類は住民票の転出予定日以降に日本年金機構に提出してください。申請は郵送でも受け付けていますが、その場合も転出予定日以降に日本年金機構に届くよう、日程を考える必要があります。

4. 脱退一時金を申請する際のポイント

脱退一時金を申請する場合に押さえておきたいことを解説します。

4-1. 脱退一時金が支払われる期間

2021年4月より、公的年金の加入期間が2021年4月以降も1カ月以上ある場合、脱退一時金を計算する際の上限月数が60カ月、つまり5年になりました[4]

これにより、2021年4月以降に公的年金の加入期間がある場合と、2021年3月以前のみに公的年金の加入期間がある場合計算の仕方が変わります

2021年3月以前のみに公的年金の加入期間がある場合、支給上限月数は36カ月(3年)です。つまり、2021年4月以降1カ月以上公的年金保険料を支払っているかどうかを境目として脱退一時金の支給額が変わります

計算方法の変更による影響を受けやすいと考えられるのは、在留資格「技能実習」を持つ外国人です。

技能実習生の実習期間は最長5年と定められています。公的年金に加入し、技能実習を行っていた期間が2021年3月以前のみだった場合、実習期間(=公的年金加入期間)が3年以上だったとしても3年分の脱退一時金しか支給されません。

なお、脱退一時金を申請すると、支給月数にかかわらず申請以前の全期間が公的年金加入期間ではなくなります

4-2. 日本に住所がないことが必要

日本に住所があると、基本的に脱退一時金の申請はできません。そのため、外国人が日本に住所を有したまま一時的に帰国する場合、脱退一時金は申請できません。

他方、再入国の予定で一時帰国する場合であっても、一時帰国時に日本に住所がない場合には脱退一時金の申請をすることが可能です。

例えば、在留資格「技能実習」で1号、2号と3年間実習し、一時帰国した後に特定技能1号として再度入国して5年間働く外国人の場合を考えてみましょう。この場合、帰国前に住民票を消除して日本に住所がない状態にし、以下のタイミングで2回申請することで、8年間分の脱退一時金を受け取ることが可能です。

1. 技能実習2号の実習修了後、一時帰国するとき(3年間分の脱退一時金を申請)
2. 特定技能1号として在留後、帰国するとき(5年間分の脱退一時金を申請)

4-3. 脱退一時金の要件は「申請時」の要件であること

脱退一時金を申請するのための7つの要件は、あくまで申請時の要件です。脱退一時金を申請するとき「日本国内に住所を有しないこと」は必要ですが、脱退一時金が支給されるときに日本国内に住所を有しないことまでは必要とされていません

そのため、日本に再入国し、日本国内に住所を有していたとしても、脱退一時金の支給を受けることができます。

また、脱退一時金の申請者が支給を受けずに亡くなった場合、申請時点で脱退一時金の支給要件を満たしていれば、申請者の死亡当時生計を同一にしていた配偶者、子、父母など3親等内の親族が代わりに支給を受けることができます。

ただし、これが可能になるのは申請者が亡くなる前に脱退一時金請求書を提出している場合のみです。申請しないまま亡くなった場合には、3親等内の親族が本人に代わって申請し、脱退一時金の支給を受けることはできません(厚生年金保険法附則第29条第9項、国民年金法附則第9条の3の2第7項)。

なお、脱退一時金を申請せず、日本で公的年金に10年以上加入して一定の要件を満たすことで、日本の老齢年金を受け取るという選択肢もあります。脱退一時金の申請は、将来の公的年金加入期間なども踏まえ、慎重に検討しましょう。

5. まとめ

脱退一時金制度は、外国人が母国へと帰る際にそれまで日本で払っていた公的年金保険料の一部が返還される制度です。

外国人も、日本に住所がある場合は公的年金制度に加入しなければいけません。国民年金、あるいは厚生年金に加入します。外国人が日本を離れ日本の住所を喪失した場合、これまで支払った公的年金保険料を無駄にしないために、一定の要件の下で納めた公的年金保険料の一部が支給されます。

脱退一時金の対象者は、以下の要件全てに該当する人です。

1.日本国籍を有しない
2.公的年金制度(国民年金または厚生年金)の被保険者でない
3.国民年金または厚生年金(共済組合などを含む)の加入期間が6カ月以上ある
4.老齢年金の受給資格期間(国民年金の保険料納付済み期間、厚生年金加入期間、合算対象期間の合計が10年以上)を満たしていない
5.障害基礎年金、障害厚生年金などの年金が支給される権利を有したことがない
6.住所が日本国内にない
7.公的年金制度の直近の被保険者資格喪失日から2年以上が経過していない(被保険者資格喪失日に住所が日本国内にあった場合、同日後、住所を日本国内に有しなくなった最初の日から2年以上が経過していない)

脱退一時金制度で受け取れる金額は、公的年金保険料として納めた金額と、国民年金と厚生年金のどちらに加入していたかによって異なります。具体的な支給額は国民年金・厚生年金それぞれに定められた計算式を用いて求めることが可能です。

脱退一時金を申請するためには、まず日本にある住民票を消除しなければいけません。日本で居住している市区町村へ転出届を出しましょう。住民票が消除されると住民票除票の写しを請求することができるので、必要に応じて入手します。

続いて、脱退一時金請求書を作成しましょう。脱退一時金請求書は、日本年金機構のホームページで入手できます。必要な添付書類をそろえたら、日本出国後2年以内日本年金機構本部もしくは各共済組合に提出しましょう。

提出書類に不備がなければ、脱退一時金請求書の受け付けから約4カ月後に入金されます。

厚生年金に加入していた場合、脱退一時金から20.42%(2023年3月現在)の所得税および復興特別所得税が源泉徴収されますが、これは退職所得の選択課税による還付のための申告書を税務署に提出することで還付される場合があります。

ただし、この還付金を受け取るためには帰国前に所得税・消費税の納税管理人の届出書を提出する必要があります。納税管理人の要件は、「日本に住所または居住地を有すること」のみです。

なお、帰国前に所得税・消費税の納税管理人の届出書を提出していない場合は、退職所得の選択課税による還付のための申告書と併せて提出してください。

脱退一時金請求書の作成時に注意すべき点は、請求書氏名や振込口座、住所、口座名義の記入です。不備のないよう正しく記入しましょう。

また、添付書類は以下の通りです。必要に応じ、漏れなくそろえてください。

パスポートの写し
・日本国内に住所がないことを確認できる書類(パスポートの出国日が確認できるページの写しや住民票の除票の写しなど)
・脱退一時金が入金される金融機関名、支店名、支店の所在地、口座番号、口座名義(申請者本人であること)が確認できる書類
・基礎年金番号が明示された書類(年金手帳や基礎年金番号通知書など)
・代理人が申請を行う場合、委任状

日本から出国する前に脱退一時金を申請する場合、住民票の転出予定日以降に脱退一時金請求書および添付書類を日本年金機構に提出しなければいけません。

その他、脱退一時金の申請には押さえておきたいポイントがあります。

第一に、脱退一時金が支払われる期間です。2021年4月より、2021年4月以降に公的年金の加入期間がある場合と、2021年3月以前のみに公的年金の加入期間がある場合で脱退一時金の計算方法が変わりました

これによる影響を受けやすいのは在留資格「技能実習」を持つ外国人です。2021年3月以前のみに技能実習を行っていた場合、実習中に3年以上公的年金に加入していても3年分の脱退一時金しか支給されません

第二に、申請する際日本に住所がないことです。日本に住所を有したまま、一時的に帰国する外国人は脱退一時金の申請ができません。しかし、一時帰国前に住民票を消除して日本に住所がない状態であれば、脱退一時金の申請をすることが可能です。

第三に、脱退一時金の申請要件は申請時に満たしていればよいことです。例えば、脱退一時金申請時には日本国内に住所を持たないが、支給時には日本国内に住所を持っているといった場合も支給を受けられます。

また、脱退一時金の申請者が支給を受けずに亡くなった場合、申請時点で脱退一時金の支給要件を満たしていれば、申請者の死亡当時生計を同一にしていた配偶者、子、父母など3親等内の親族が代わりに支給を受けることができます。

ただし、これが可能になるのは申請者が亡くなる前に申請している場合のみです。

ここまで、脱退一時金のポイントを解説しました。本稿が、脱退一時金についてより知っておきたいと考える方の役に立てれば幸いです。

[1] 日本年金機構「脱退一時金の制度」,https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/20150406.html(閲覧日:2022年12月21日)
[2] 日本年金機構「脱退一時金の制度」,https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/20150406.html(閲覧日:2022年12月21日)
[3] 日本年金機構「脱退一時金請求書 日本から出国される外国人のみなさまへ」,https://www.nenkin.go.jp/international/japanese-system/withdrawalpayment/payment.files/M.pdf(閲覧日:2022年12月21日)
[4] 日本年金機構「外国人技能実習1号・2号の実習期間(合計3年間)が終了しました。一時帰国後に特定技能1号(※)として日本に再入国し、5年間在留する予定です。外国人技能実習1号・2号及び特定技能1号の合計8年間分の脱退一時金について、どのように請求すればよいでしょうか。」, https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/2020042810.html(閲覧日:2022年12月23日)

参考)
日本年金機構「脱退一時金は、どのような人が請求できますか。」,https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/2020042801.html(閲覧日:2022年12月21日)
日本年金機構「脱退一時金の制度」,https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/20150406.html(閲覧日:2022年12月21日)
日本年金機構「脱退一時金に関する手続きをおこなうとき」,https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/todokesho/sonota-kyufu/20150406.html(閲覧日:2022年12月21日)
日本年金機構「脱退一時金を請求する方の手続き」,https://www.nenkin.go.jp/service/jukyu/tetsuduki/sonota-kyufu/20140710.html(閲覧日:2022年12月21日)
日本年金機構「脱退一時金の請求書を提出したのですが、受取までにどれくらい時間がかかりますか。」,https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/2020042807.html(閲覧日:2022年12月21日)
日本年金機構「脱退一時金請求書 日本から出国される外国人のみなさまへ」,https://www.nenkin.go.jp/international/japanese-system/withdrawalpayment/payment.files/M.pdf(閲覧日:2022年12月21日)
日本年金機構「脱退一時金の請求書を記入するにあたって、どのような点に注意すればよいですか。」,https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/2021040103.html(閲覧日:2022年12月21日)
日本年金機構「代理人を通じて、脱退一時金の請求を行うことはできますか。」,https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/2020042806.html(閲覧日:2022年12月21日)
日本年金機構「外国人技能実習(※)1号・2号の実習期間(合計3年間)の終了後に一時帰国し、その後日本に再入国して3号の実習期間(合計2年間)も終了しました。再帰国後に1号・2号・3号の合計5年間分について脱退一時金を請求した場合、どのように支払われますか。」,https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/2020042809.html(閲覧日:2022年12月23日)
日本年金機構「外国人技能実習1号・2号の実習期間(合計3年間)が終了しました。一時帰国後に特定技能1号(※)として日本に再入国し、5年間在留する予定です。外国人技能実習1号・2号及び特定技能1号の合計8年間分の脱退一時金について、どのように請求すればよいでしょうか。」,https://www.nenkin.go.jp/faq/jukyu/sonota-kyufu/dattai-ichiji/2020042810.html(閲覧日:2022年12月23日)

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