技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第14回)

技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(座長・田中明彦国際協力機構理事長)の第14回会合が2023年11月8日に開かれ、事務局が最終報告書(たたき台)の再改訂版を発表しました。10月27日に示された改訂版にさらに改訂を施したものです。この記事では、今回の改訂部分や各提言のポイント、改訂を受けて11月9日に行われた自民党外国人労働者等特別委員会(外特委)での主な議論を紹介します。

参考)
出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第14回)」
https://www.moj.go.jp/isa/policies/conference/03_00078.html

「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」事務局が作成した最終報告書たたき台(11月8日版)の概要と提言は次の通りです。改訂箇所を太字で示しました。

1. 新たな制度及び特定技能制度の位置付けと両制度の関係性等【総論】

1-1. 概要

・現行の技能実習制度を発展的に解消し、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度を創設。
・基本的に3年の育成期間で、特定技能1号の水準の人材に育成。
特定技能制度は、適正化を図った上で現行制度を存続
 ※現行の企業単独型技能実習のうち、新制度の趣旨・目的に沿うものは適正化を図った上で引き続き実施し、沿わないものは、新制度とは別の枠組みでの受入れを検討。

1-2. 提言

① 現行の技能実習制度を実態に即して発展的に解消し、我が国社会の人手不足分野(注)における人材確保と人材育成を目的とする新たな制度(以下「新たな制度」という。)を創設する。人材確保に関しては、人権の保護を前提とした上で、地方における人材確保も図られるようにする。
② 新たな制度は、未熟練労働者として受け入れた外国人を、基本的に3年間の就労を通じた育成期間において計画的に特定技能1号の技能水準の人材に育成することを目指すものとする。
③ 特定技能制度は、人手不足分野において即戦力となる外国人を受け入れるという現行制度の目的を維持しつつ、制度の適正化を図った上で引き続き存続させる。
④ 家族帯同については、現行制度と同様、新たな制度及び特定技能制度(特定技能1号に限る。)においては認めないものとする。
⑤ 現行の技能実習制度で行われている企業単独型の技能実習のうち、新たな制度の趣旨・目的に沿うものについては、監理・支援手段等の適正化を図った上で新たな制度で引き続き実施することを可能とする。また、国際的に活動している企業における1年以内の育成のような、新たな制度の趣旨・目的に沿わないものであっても、引き続き実施する意義があるものについては、適正性を確保するための手段を講じつつ、既存の在留資格の対象拡大等により、新たな制度とは別の枠組みで受け入れることを検討する。

(注)生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にあるため、外国人の受入れにより不足する人材の確保を図るべき産業上の分野をいう。

1-3. ポイント

①について:現行の技能実習制度は、人材育成を通じた国際貢献を制度目的としていますが、実習現場では人材確保としての役割が大きくなっています。このような制度目的と運用実態のかい離を直視し、人材確保と人材育成の両方を目的とする新たな制度の創設が提言されました。

②について:新たな制度の具体的な位置付けについては、現行の技能実習1号と2号の実習期間に相当する計3年間の就労・育成期間で未熟練労働者を特定技能1号の技能水準の人材に育成すべきという提言になりました。業種によっては技能実習3号までの実習期間に相当する5年間の制度とすべきという意見もありましたが、3年で統一されました。

③について:特定技能制度は適正化した上で存続させることが提言されました。

④について:新たな制度や特定技能1号の外国人の家族帯同を認めなければ、外国人にとって日本で働く魅力に欠けるとか、留学等の在留資格で家族帯同が認められている点とのバランスがとれないという意見がありましたが、外国人本人の扶養能力などを勘案し、家族帯同を原則として認めないことになりました。

⑤について:国際企業が技能向上のために1年以内などの短期間で育成を行う場合等については、3年で特定技能1号への移行を目指す新たな制度にはなじまないため、「企業内転勤」の在留資格で受け入れられるようにすべきとの意見もあり、新たな制度とは別の枠組みで受け入れることが提言されています。

1-4. 参考:自民党外国人労働者等特別委員会(外特委)での意見と出入国在留管理庁の答弁

【鹿児島県の議員】地元には工場が多い。受入れ企業や監理団体からは、総じて「働きたい外国人が日本に入国するハードルはできるだけ低くし、日本で育成をして、まじめな人が長く働いてもらえるような制度改正になってほしい」という意見だった。

【埼玉県の議員】留学生の資格外活動の時間を緩和し、就労をより柔軟にしてほしいという要望を受けている。特定活動や技人国をもっと増やしていくべきだという意見もある。そちらのニーズがすごく増えている。

→【出入国在留管理庁】制度の見直しで使い勝手が良くなるようにという観点も含めて検討している。留学生の問題も、この制度ができ上がったときには、合わせて考えていく必要がある。これがこう変わるのであれば、他の資格だとこういう形になるよね、ということはあろうかと思う。そこは見直していくべきものだと思う。

2. 新たな制度の受入れ対象分野や人材育成機能の在り方

2-1. 概要

受入れ対象分野は、特定技能制度における「特定産業分野」の設定分野に限定。
 ※国内における就労を通じた人材育成になじまない分野は対象外。
・従事できる業務の範囲は、特定技能の業務区分と同一とし「主たる技能」を定めて育成・評価育成開始から1年経過・育成終了時までに試験を義務付け)。
・季節性のある分野(農業・漁業)で、業務の実情に応じた受入れ・勤務形態を認める。【P】

2-2. 提言

(受入れ対象分野)
① 新たな制度の受入れ対象分野については、現行の技能実習制度の職種等を機械的に引き継ぐのではなく、新たな制度と技能実習制度の趣旨・目的の違いを踏まえ、新たに設定するものとする。その際、新たな制度が人手不足分野における特定技能1号への移行に向けた人材育成を目的とするものであることから、新たな制度の受入れ対象分野は、特定技能制度における「特定産業分野」が設定される分野に限ることとし、我が国内における就労を通じた人材育成になじまない分野については、新たな制度の対象とせず、特定技能制度でのみ受け入れることを可能とする。
(人材育成・技能評価)
② 新たな制度は特定技能1号への移行を目指すものであるため、外国人が従事できる業務の範囲については、外国人が現行の技能実習よりも幅広く体系的な能力を修得できるよう、特定技能の業務区分(注)と同一としつつ、人材育成の観点から、当該業務区分の中で修得すべき主たる技能を定めて計画的に育成・評価を行うものとする。
③ 受入れ機関は、技能修得状況等を評価するため、外国人に対して、
 ○ 育成開始から1年経過時までに、技能検定試験基礎級等及び日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)
 ○ 育成終了時までに、技能検定試験3級等又は特定技能1号評価試験及び日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)
それぞれ受験させるものとする。
④ 従事させる業務の内容について、現行の特定技能制度において季節性のある分野と整理している農業・漁業については、その業務の実情に応じた受入れ・勤務形態も認めるものとする。【P】

(注)農業分野の「耕種農業全般」「畜産農業全般」等、特定技能外国人が従事することになる業務の区分をいい、各業務には、当該業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務も含まれる。

2-3. ポイント

①②について:新たな制度は特定技能1号への人材育成制度と位置付けるため、新たな制度の受入れ対象分野を特定技能の産業分野に限定し、業務区分は特定技能と一致させることが示されました。また、一部の分野は特定技能制度だけで受け入れるとしており、新たな制度よりも特定技能制度の方が受入れ範囲が広くなります。このため、新たな制度が導入された後の外国人受入れは特定技能を中心とする考え方に変わりそうです。

現在の技能実習制度の職種・作業に対応する特定技能の産業分野がない場合、現在も技能実習から特定技能への移行はできませんが、現状のままでは、新たな制度でも特定技能制度でも受け入れられません。新たな制度で受入れができるようにするには、特定産業分野や新たな制度に新職種として追加する必要があります。繊維・衣服関係(13職種22作業)▽家具製作職種・家具手加工作業▽印刷職種・オフセット印刷作業、グラビア印刷作業▽製本職種・製本作業▽強化プラスチック成形職種・手積み積層成形作業――などがそれに該当します。このため、特定産業分野への追加を目指す分野は出てくるものと思われます。

技能実習は「職種・作業」によって受入れの可否が決まり、特定技能制度での受入れには「業務区分」と「特定産業分野」という2つの要件があります。新たな制度での受入れ対象分野は特定技能の分野に限定されるので、例えば、スーパーのバックヤードでの食品製造(スーパーが小売業なので、技能実習の食品製造職種には入るが、特定技能の飲食料品製造には原則入らない)等は現状のままでは、新たな制度では受入れを継続できなくなります。

③について:技能評価については、1年経過時と育成終了時に試験を義務付けることが提言され、これに関する受入れ機関の負担は現行の技能実習と変わりません。

④について:季節性のある分野で業務の実情に応じた勤務形態を認めることが提言されました。今回の改訂で、具体的に「農業・漁業」が例示されました。現行の技能実習制度では、季節性のある業務を行う農業の技能実習で、農協と個々の農業事業者が連携することで年間を通じた技能実習を行うことができます。また、農業や漁業の実習では、作物の収穫期や魚の漁期の違いなどに応じて違う事業者のもとで実習できるよう、農協・漁協などの受入れ機関から個々の農家や漁業者(組合員)に技能実習生を派遣する労働者派遣形態による受入れも認められています。新たな制度のもとでもこのような運用ができるようにこの提言が盛り込まれました。一方で、「季節性」等に関する拡大解釈が生じないよう、分野の限定が必要だと考えられています。

2-4. 参考:自民党外国人労働者等特別委員会(外特委)での意見

【鹿児島県の議員】特定技能の技能試験は産業分野間のレベルをある程度同一にしてほしい。こっちの分野の試験は難しいがこっちは簡単だというような状況はなくしてほしい。

【岡山県の議員】現在の特定技能は12分野、技能実習は88業種。新しい制度でどの業種が宙に浮いてしまう(=制度の対象外になる)のか「見える化」していかないと不安が払拭できない。どこの業種が宙に浮いてしまうのか、その結果、他の在留資格はどうなるのかは同時並行で考えて示していくべきだ。

3. 受入れ見込数の設定等の在り方

3-1. 概要

・特定技能制度の考え方と同様、新制度でも受入れ対象分野ごとに受入れ見込数を設定 (受入れの上限数として運用)。
・受入れ見込数や対象分野は経済情勢等の変化に応じて適時・適切に変更。試験レベルの評価等と合わせ、有識者等で構成する会議体の意見を踏まえ政府が判断。

3-2. 提言

① 新たな制度は人手不足分野の人材確保も目的の一つとするものであるため、日本人の雇用機会の喪失や処遇の低下等を防ぐ観点及び外国人の安定的かつ円滑な在留活動を可能とする観点から、現行の特定技能制度の考え方にのっとり、受入れ対象分野ごとに受入れ見込数を設定し、これを受入れの上限数として運用する。新たな制度における受入れ見込数の設定に当たっては、特定技能制度における受入れ見込数との関係性にも留意する。
② 新たな制度及び特定技能制度における受入れ見込数や受入れ対象分野は、国内労働市場の動向や経済情勢等の変化に応じて適時・適切に変更できるものとし、真に人材を必要とする分野等に必要な人員が行き渡る運用とする。
③ 新たな制度及び特定技能制度における受入れ見込数の設定、受入れ対象分野等の設定、特定技能評価試験等のレベルや内容の評価等については、有識者や労使団体などの様々な関係者等で構成する新たな会議体が業所管省庁や業界団体等からの説明、情報共有に基づき議論した上での意見を踏まえ、制度全体としての整合性に配慮しつつ、政府が判断するものとする。

3-3. ポイント

①について:新たな制度は、特定技能制度と同じく人手不足分野における人材確保も目的の一つとするため、特定技能制度と同じように受入れ見込数(受入れ上限数)を設けるのが適切との判断になりました。

②③について:受入れ見込数や受入れ対象分野について有識者会議では、経済情勢等の変化に応じて柔軟に変更できる運用にすべきだという意見や、人手不足が深刻化している地方で安定的に人材を確保できる制度とすべきだという意見がありました。また、受入れ見込数や受入れ対象分野を設定する際、さまざまな関係者で構成する会議で検討した上で政府が判断するという方向で議論が進みました。この会議で、技能評価試験等のレベルや内容等が業務の実態に則しているかもチェックすべきだという意見もあり、こうしたことが提言にまとめられました。

3-4. 参考:自民党外国人労働者等特別委員会(外特委)での意見

【鹿児島県の議員】新制度では、技能の面ではなく労働者不足の面を重視して業種を増やしてほしい。

4. 新たな制度における転籍の在り方

4-1. 概要

「やむを得ない場合」の転籍の範囲を拡大・明確化し、手続を柔軟化
・これに加え、以下を条件に本人の意向による転籍も認める。
 ➢ 計画的な人材育成等の観点から、一定要件(同一機関での就労が1年超/技能検定試験基礎級・日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)合格/転籍先機関の転籍者数等) 【P】を設け、同一業務区分内に限る
 ➢ 転籍前機関の初期費用負担につき、 不平等が生じないための措置を講じる。
・監理団体・ハローワーク・技能実習機構等による転籍支援を実施。
・育成終了前に帰国した者につき、それまでの新制度による滞在が2年以下の場合、前回育成時と異なる分野・業務区分での再入国を認める
・試験合格率等を受入れ機関・監理団体の許可・優良認定の指標に。

4-2. 提言

(基本的な考え方)
① 新たな制度における転籍については、まず、現行の技能実習制度において認められている「やむを得ない事情がある場合」の転籍の範囲を拡大かつ明確化する。また、人材育成の実効性を確保するための一定の転籍制限は残しつつも、人材確保も目的とする新たな制度の趣旨を踏まえ、外国人の労働者としての権利性をより高める観点から、一定の要件の下での本人の意向による転籍も認める。
(「やむを得ない事情がある場合」の転籍)
② 「やむを得ない事情がある場合」の転籍については、例えば労働条件について契約時の内容と実態の間で一定の相違がある場合を対象とすることを明示するなど、その範囲を拡大・明確化し、例えば職場における暴力やハラスメント事案の確認等の手続を柔軟化する。その上で、転籍が認められる範囲やそのための手続について、関係者に対する周知を徹底する。
(本人の意向による転籍)
③ 上記②の場合以外は、計画的な人材育成の観点から、3年間を通じて一つの受入れ機関において継続的に就労を続けることが効果的と考えられるものの、以下の要件をいずれも満たす場合には、本人の意向による転籍も認める。
ア 同一の受入れ機関において就労した期間が1年を超えていること
イ 技能検定試験基礎級等及び日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)に合格していること
ウ 転籍先となる受入れ機関が、例えば受入れ中の外国人のうち転籍してきた者の占める割合が一定以下であることなど、転籍先として適切であると認められる一定の要件を満たすものであること【③全文についてP】
(本人の意向による転籍に伴う費用分担)
④ 本人の意向により転籍を行う場合、転籍前の受入れ機関が負担した初期費用等のうち、転籍後の受入れ機関にも負担させるべき費用については、両者の不平等が生じないよう、転籍前後における各受入れ機関が外国人の在籍期間に応じてそれぞれ分担することとするなど、その対象や負担割合を明確にした上で、転籍後の受入れ機関にも負担させるなどの措置をとることとする。
(転籍支援)
⑤ 転籍支援については、受入れ機関、送出機関及び外国人の間の調整が必要であることに鑑み、新たな制度の下での監理団体(後記5参照)が中心となって行うこととしつつ、ハローワークも外国人技能実習機構に相当する新たな機構(後記5参照)等と連携するなどして転籍支援を行うこととする。また、悪質な民間職業紹介事業者等が関与することで外国人や受入れ機関が不利益を被ることがないよう、転籍の仲介状況等に係る情報の把握など、必要な取組を行う。
(転籍の範囲)
⑥ 転籍の範囲は、人手不足分野における人材の確保及び人材育成という制度目的に照らし、現に就労している業務区分と同一の業務区分内に限るものとする。
(育成途中で帰国した者への対応)
⑦ 育成を終了する前に帰国した者については、新たな制度でのこれまでの我が国での滞在期間が通算2年以下の場合(注)、新たな制度により、それまでとは異なる分野・業務区分での育成を目的とした再度の入国を認めることとする。
(悪用防止及び適切な人材育成のための措置)
⑧ 上記の転籍等に係る制度の悪用防止や、適切な人材育成を促すため、上記2の提言③に係る試験の合格率等を、受入れ機関及び監理団体の許可等の要件や優良認定の指標とする。

(注)新たな制度で複数回我が国に滞在した場合、その通算の滞在期間が2年以下であれば再度の入国が可能であり、再度の入国後の滞在を含めた新たな制度での滞在期間は、5年が上限となる(ただし、後記6の提言③により再受験に必要な範囲で最長1年の在留継続があり得る。)。

4-3. ポイント

①について:現行の技能実習制度では、人権侵害など「やむを得ない事情がある場合」を除いて転籍が認められていません。このことが実習実施者と技能実習生との間に過度な支配従属関係を生み、さまざまな人権侵害の背景になっていると指摘されています。そこで、人材育成目的を根拠とする転籍制限は残しながらも、外国人保護等の観点から転籍制限を緩和する方向が示されました。「やむを得ない事情がある場合」の転籍の範囲を拡大・明確化し、本人の意向による転籍も認めると提言されています。

②について:現行の技能実習制度では、「やむを得ない事情がある場合」の具体的要件が明確になっていません。そこで、例えば労働条件について契約内容と実態とで相違がある場合など、要件を明示することが提言されました。そして、転籍の実効性を確保するため、職場での暴力やハラスメントなどの事案では、個別の事情に応じて立証手段を簡素化するなど柔軟な対応を行う方向性も示されました。

③について:転籍を無制限に認めると、人材育成に支障があり、従前の受入れ機関が人材育成・確保のためにかけたコストも無駄になるため、転籍の時期・回数等について一定の制約を設けることが示されました。具体的には、民法や労働基準法で有期雇用契約の場合は1年を超えれば退職が可能であることなどから、育成開始から1年経過で自己都合転籍を可能にすることが提案されました。また、現行の技能実習1号で技能検定試験基礎級等の合格が目標とされていることを踏まえ、新制度での転籍に同試験の合格を要件とすることが盛り込まれました。転籍先の受入れ機関についても、 在籍外国人にしめる転籍者の割合など一定の条件を設けることが提案されました。

④について:外国人労働者を最初に受け入れる機関が負担する来日時のコストや初期の人材育成コストについて、転籍時に新しい受入れ機関も分担することが提言されました。

⑤について:転籍先確保は、引き続き監理団体が中心に行い、新たな機構やハローワークも支援することが示されました。ただし、悪質な職業紹介業者への対策は講じつつ民間の職業紹介会社の転籍支援を排除することはないため、民間も参入できる可能性が高そうです。

⑥⑦について:本人の意向による転籍を認めた場合、異なる業務区分への転籍を認めると、賃金水準が高い産業に人材が流出するなどの懸念があることから、同一業務区分内に限ることが相当と判断されました。ただし、いったん帰国した後に異なる分野・業務区分で再入国(再チャレンジ)できる余地を残しました(現行の技能実習では、帰国後の再実習は原則として認められていません)。育成開始から2年以内に帰国した場合、再入国して従来と異なる分野・業務区分で通算5年まで働けると提言しています。

4-4. 参考:自民党外国人労働者等特別委員会(外特委)での意見と出入国在留管理庁の答弁

【鹿児島県の議員】地元の企業や監理団体からは、転籍の際、新しい受入れ企業から、入国までにかかった費用の最低3分の2はもらいたいという意見や、転籍によって採用計画に狂いが出ないよう、受入れ枠を増やしてほしいという意見がある。転籍された場合に備え、余力を持って採用してもいいのか知りたい。また、最初の受入れ機関(地方)の投資コスト回収に関しては、地方が損しないようにしてほしい。地方が都会への「人材供給基地」にならないようにしてほしいという声が非常に大きい。

→【出入国在留管理庁】転籍をされてしまった企業が経済的な補填を受けることは大事。納得のいく提案をできると思っている。また、転籍による採用計画の狂いを見越して受入れ人数枠に幅を持たせることができるかどうかについては、今後の検討課題としたい。

【茨城県の議員】④の「不平等が生じない措置」の意味を教えてほしい。コストをかけて、育てて、何人か抜けた後の受入れ枠や、金銭の補填をどうするのか。

→【出入国在留管理庁】不平等が生じないための措置の意味だが、費用について転籍前と転籍先がどういうものを分担するかは有識者会議の中でも議論がある。こうすれば平等だというのはまだないが、最初の受入れ機関が一番大変なので、その負担をどう緩和するかという目線で検討すべきだという意見がある。

【茨城県の議員】(人材を)取る側の企業の負担を少し重たくするぐらいにしておかないと、転籍に歯止めがきかず、地方はすごく疲弊する。

【北海道の議員】3年しっかり仕事をしてもらえる育成計画を作り、給与も3年勤めたらこうなると示すなど、受入れ機関のプログラムを当初段階で示すことで、選んでもらえるようになっていくと思う。そういうフォローアップにも初期投資がかかる。転籍されないように、計画を立て、人を育てようと思っている企業が割りを食わないようにしてほしい。

【北海道の議員】転籍先の紹介を民間企業にも任せることはおかしい。彼らは営利目的でマッチングする。監理団体が非営利で転籍サポートもするという枠組みに、商売目的で民間が入れるとなると、転籍ビジネスが生まれる。優良だからよくて悪質だからダメということではなく、民間の職業紹介事業者を入れるということは転籍ビジネスを認めることになる。民間は極力入れるべきではないと思う。

→【出入国在留管理庁】転籍の機会を増やすために、一つはハローワークや機構の活用がある。それに加えて民間職業紹介事業者も認めざるを得ないという目線はある。ただし、悪質なものが入らないようにしなければならない。転籍の仲介者に関する情報を把握し、問題があったところは排除していくという思いは、私どもも同じ。転籍先探しの中心は監理団体になると思うが、民間も一定程度認めていくこともあろうかと思う。ただし、外国人が被害を受けるようなビジネスになってはいけないと思っている。

5. 監理・支援 保護の在り方

5-1. 概要

技能実習機構の監督指導・支援保護機能や労働基準監督署・地方出入国在留管理との連携等を強化し、特定技能外国人への相談援助業務を追加。
監理団体の許可要件厳格化。
 ➢ 受入れ機関と密接な関係を有する役職員の監理への関与の制限/外部監視の強化による独立性・中立性確保
 ➢ 職員の配置、財政基盤、相談対応体制等の許可要件厳格化。
受入れ機関につき、受入れ人数枠を含む育成・支援体制適正化、分野別協議会加入等の要件を設定 
 ※優良監理団体・受入れ機関については、手続簡素化といった優遇措置。

5-2. 提言

新たな制度及び特定技能制度が円滑かつ適切に運用され、また、外国人に対する支援や保護が適切に行われるよう、以下のとおり、両制度に関わる各機関等による監理・支援・保護体制を強化する。
(外国人技能実習機構)
① 外国人技能実習機構を改組(改組後の組織について、以下「新たな機構」 という。)の上、受入れ機関に対する監督指導機能や外国人に対する支援・保護機能(転籍支援や相談援助業務を含む。)を強化するとともに、特定技能外国人への相談援助業務(母国語相談等)を行わせることとし、このような機能を適切に果たすため、必要な体制等を整備する。
② 労働基準監督署等との間での相互通報の取組を強化し、重大な労働法令違反事案に対して厳格に対応する。また、新制度で受け入れる外国人のみならず特定技能外国人の保護の観点からも、地方出入国在留管理局との連携を強化し、不適切な受入れ機関等に対して厳格に対応する。
(監理団体)
③ 新たな制度においても、就労を通じた人材育成の適正な実施の監理等を行う監理団体を設ける。新たな制度の下での監理団体については、国際的なマッチング機能や受入れ機関・外国人に対する支援等の機能適切に果たすことができるよう、受入れ機関と密接な関係を有する監理団体の役職員の監理への関与の制限外部者による監視の強化により独立性・中立性を担保するとともに、受入れ機関数等に応じた職員の配置、財政基盤や外国語による相談対応体制の確保に係る許可要件を設け、送出機関からのキックバック、饗応禁止することとし、制度施行に伴い、新たに許可を受けるべきものとする。その際、監理団体に対しては、新たな許可要件にのっとり厳格に審査を行い、機能が十分に果たせない監理団体は排除していくものとする。
④ 新たな制度の下での監理団体にとってより良い監理支援のインセンティブとなるよう、優良事例の公表、優良な監理団体に対する各種申請書類の簡素化や届出の頻度軽減などといった優遇措置を講じる。
(受入れ機関)
⑤ 新たな制度の下での受入れ機関については、人材育成の観点から、現行の技能実習制度における受入れ人数枠を含む育成・支援体制等の要件を適正化して設定するとともに、人材確保の観点から、現行の特定技能制度における分野別協議会への加入等の要件を設けた上で、その他より適切性を確保するために必要な要件を新たに設けることを検討する。また、外国人の前職要件等、現行の技能実習制度の国際貢献目的に由来する要件については撤廃する。
⑥ 新たな制度の下での受入れ機関にとってより良い受入れのインセンティブとなるよう、優良事例の公表、優良な受入れ機関に対する各種申請書類の簡素化や届出の頻度軽減などといった優遇措置を講じる。

5-3. ポイント

①②について(機構):外国人技能実習機構(OTIT)については、組織改正をした上で受入れ機関に対する監督指導や外国人に対する支援・保護機能を強化するうえ、新たに特定技能外国人への相談業務も担うことが提言されました。また、新たな機構と労働基準監督署や地方出入国在留管理局との連携を強化し、新たな制度だけでなく特定技能についても法令に違反した受入れ機関への対応を強化するとしています。

③④について(監理団体):監理団体の独立性・中立性確保のため、受入れ機関と密接に関係する役職員が監理に携わることを制限し、外部者による監視強化が提言されました。また、監理団体の許可要件として、受入れ機関数に応じた職員配置や財政基盤、外国語での相談体制、送出機関からのキックバックや接待の禁止などを示しています。新しい要件のもとで、監理団体は許可を取り直すことになります。監理団体が要件を満たすために監理費を増額し、受入れ機関の負担が増える可能性もあります。

⑤⑥について(受入れ機関): 受入れ機関にも育成・支援体制や特定技能制度の分野別協議会への加入などの要件を設けることが提言されました。また、外国人の前職要件は撤廃することが提言され、これまで前職要件偽装のために実習候補者が支払っていた費用が削減されることが期待できます。

5-4. 参考:自民党外国人労働者等特別委員会(外特委)での意見と出入国在留管理庁の答弁

【鹿児島県の議員】ベトナムのコミュニティなどきちんと調査をして、わかりやすく示してほしい。不法就労者を受け入れた企業にはより強いペナルティーを設けてほしい。

【富山県の議員】優良な監理団体はプレミア、それ以外はレギュラーのような色分けをするのか?

→【出入国在留管理庁】今も監理団体は「一般」と「特定」と分けているが、新しい制度でどうするか具体的には決まっていない。今出ている案としては、信頼できる監理団体には書類や届出の簡素化を考えている。

6. 特定技能制度の適正化方策

6-1. 概要

・新制度から特定技能1号への移行は、以下を条件。
 ① 技能検定試験3級等又は特定技能1号評価試験合格
 ② 日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等) 合格
 ※当分の間は相当講習受講も可
・試験不合格となった者には再受験のための最長1年の在留継続を認める。
・支援業務の委託先を登録支援機関に限定し、員配置等の登録要件を厳格化/支援実績・委託費等の開示を義務付け/キャリア形成も支援。
・育成途中の特定技能1号への移行は本人意向の転籍要件と併せて検討。【P】

6-2. 提言

① 新たな制度において育成がなされた外国人の特定技能1号への移行については、従前の技能検定試験3級等以上又は特定技能1号評価試験の合格に加え、日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)の合格を要件とする。ただし、日本語能力試験の要件については、当分の間は、当該試験合格に代えて、認定日本語教育機関等における相当の講習を受講した場合も、その要件を満たすものとする。
② 新たな制度を経ない特定技能1号の在留資格取得については、従前のとおり、特定技能1号評価試験等及び日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)の合格を要件とする。新たな制度において育成途中の外国人がこれらの試験に合格した場合の特定技能1号への在留資格変更の在り方については、上記4の提言③の本人の意向による転籍の要件等も踏まえて検討するものとする。【P】
③ 新たな制度で育成を受けたものの、特定技能1号への移行に必要な試験等に不合格となった者については、同一の受入れ機関での就労を継続する場合に限り、再受験に必要な範囲で最長1年の在留継続を認める。
④ 特定技能外国人に対する支援については、支援業務を委託する場合には、その委託先を登録支援機関に限ることとした上、支援業務が適切になされるよう、登録支援機関について、支援責任者等の講習受講や支援の委託元となる受入れ機関数等に応じた職員の配置の要件を設け登録要件を厳格化するとともに、支援実績や支援委託費等の開示を義務付け、情報の透明性を高める。また、登録支援機関には、本人の希望も踏まえ、特定技能2号取得に向けた特定技能外国人のキャリア形成の支援も行わせることとする。
⑤ 特定技能外国人の受入れ機関については、特に登録支援機関を利用しない場合に適切な支援を行えるよう、上記④も踏まえてその要件を適正化するとともに、より良い受入れのインセンティブとなるよう、優良事例の公表、優良な受入れ機関に対する各種申請書類の簡素化や届出の頻度軽減などといった優遇措置を講じる。
⑥ 特定技能2号の在留資格取得については、従前の特定技能2号評価試験等の合格に加え、日本語能力B1相当以上の試験(日本語能力試験N3等)の合格を要件とする。

6-3. ポイント

①について:新たな制度を修了した外国人が特定技能1号に移行する際には、技能検定等への合格に加え、日本語能力試験N4等への合格が条件となりました。現行の技能実習制度では、技能実習2号を良好に修了した技能実習生が特定技能外国人になる際(技能実習ルート)は、日本語試験が免除されていますが、新たな制度から特定技能へ移行する際にはこのような日本語要件の免除がなくなります。ただし、認定日本語教育機関等における相当の講習を受講することを当面の代替措置としています。認定日本語教育機関以外に相当講習を担当できるのがどこかはまだ示されていません。

②について:新たな制度の途中で特定技能1号に移行する要件は、本人意向での転籍の要件を踏まえて検討することが示されました。育成途中でも特定技能1号に移行できる可能性があります。

③について:特定技能1号への移行に必要な試験に不合格になった外国人労働者は同一の受入れ機関で勤務する場合は、試験に再チャレンジするために最長1年の滞在が認められることが提言されました。

④⑤について:特定技能外国人の支援を委託できる先は登録支援機関に限定されることが提言されました。登録支援機関の適正化に関しては、講習受講や人員配置など登録要件の厳格化が示されましたが、許可制や手数料の上限規制は見送られる流れです。人員要件により、登録支援機関への支援委託費が少し増える可能性があります。
特定技能外国人の受入れ機関に関しては、要件を適正化するとともに、優遇措置となるインセンティブの設定(事務手続き簡素化など)が示されました。

⑥について:特定技能1号から2号になる際、現在は日本語要件はありませんが、日本語能力試験N3等が義務付けられることになりました。

7. 国・自治体の役割

7-1. 概要

・入管、機構、労基署等が連携し、不適正な受入れ・雇用を排除。
制度所管省庁は、地域協議会の組織等を含む制度運用の中心的役割。
業所管省庁は、受入れガイドライン・キャリア形成プログラム策定、分野別協議会の活用等。
・日本語教育機関の日本語教育の適正かつ確実な実施、 水準の維持向上
・自治体は、地域協議会に積極的に参加し、外国人材受入れ環境整備等の取組を推進

7-2. 提言

① 地方出入国在留管理局、新たな機構、労働基準監督署、ハローワーク等の関係機関が連携し、外国人の不適正な受入れ・雇用を厳格に排除し、的確な転籍支援等を行う。
② 制度所管省庁は、業所管省庁との連絡調整、業所管省庁や関係機関への助言、送出国との連携強化制度全体を適正に運用する上での中心的な役割を果たすものとし技能実習制度における地域協議会を参照して同様の協議会を組織することなどにより、地域の特性を踏まえた新たな制度及び特定技能制度の適正化等を図るものとする。
③ 業所管省庁は、受入れ対象分野の受入れガイドラインや育成・キャリア形成プログラム(新たな制度から特定技能1号への移行だけでなく、特定技能1号から特定技能2号への移行を含む。)を策定するなどして受入れの適正化を促進するほか、業界特有の事情に係る相談窓口の設置、優良受入れ機関に対する支援等の優遇措置等を講じるなど、外国人の受入れ環境の整備等に資する取組を行う。これらの取組等については、特定技能制度における分野別協議会を新制度でも活用するなどして業界団体等と連携しつつ、業界全体の実情を踏まえて行うものとする。
④ 文部科学省は、厚生労働省及び出入国在留管理庁と連携し、日本語教育機関における日本語教育の適正かつ確実な実施を図り、その水準の維持向上を図る。
⑤ 各自治体は、上記②の協議会に積極的に参加し、同協議会等を通じて業所管省庁等とともに共生社会の実現や地域産業政策の観点から外国人材の受入れ環境の整備等に取り組むとともに、外国人受入環境整備交付金を活用するなどして、外国人から生活相談等を受ける相談窓口の整備や、外国人の生活環境等を整備するための取組等を推進する。
⑥ 政府は、日本で修得した技能が帰国後に活かされ、ひいては日本への送出しにもつながるよう、育成される技能の見える化等を推進する。

7-3. ポイント

①について:受入れ機関による不適正な受入れの是正や悪質な監理団体の排除等に向けて、関係機関の連携の在り方として、地方出入国在留管理局や新たな機構、労働基準監督署、外国人の雇用状況を把握しているハローワークといった、行政機関の連携強化や相互通報を行う方向性が示されました。

②について:現行の技能実習制度では法務省と厚生労働省が、特定技能制度では法務省が警察庁、外務省、厚生労働省と連携し、業所管省庁との調整や送出機関との取決め等を行っています。新たな制度や特定技能制度でも、制度所管省庁は制度の適正履行のための中心的役割を担うことを示しました。また、各地方自治体が都道府県別の協議会等を通じ、地域産業政策として外国人材受入れ環境の整備等に取り組むことなどをめざし、制度所管省庁が技能実習制度の地域協議会と同様、新たな制度においても地域ごとの協議会を組織することを提言しました。

③について:業所管省庁は、現行の技能実習制度では、関係省庁や監理団体、実習実施者、業界団体等で構成する事業協議会を設け、特定技能制度では、特定産業分野ごとに分野別協議会を設け、これらの協議会で、関係者間の連携や啓発などを行っています。新たな制度では、業所管省庁に、分野別協議会を活用するなどして業界団体と連携しながら、外国人受入れガイドラインや育成・キャリア形成に関する標準モデルを策定すること、人材の需給状況を確認することを求める提言となりました。

④について:特に地方で日本語教育の環境整備が遅れ日本語教員も不足していることから、文部科学省や関係者が日本語教育の推進に関連する制度を活用しつつ、日本語学習の質の向上や機会の確保に取り組むことが提言されました。

⑤について:地方自治体が共生社会の実現や地域産業政策の観点から外国人材受入れ環境の整備等に取り組むために、②の協議会に参加して業所管省庁等との連携を強化することや、国の支援を活用した一元的相談窓口の整備などを行うことなどが提言されました。

⑥について:新たな制度及び特定技能制度においては、人材育成を通じた国際貢献を直接の目的とするものではありませんが、日本で修得した技能が帰国後に活かされるような仕組みを検討することを政府に求めました。

8. 送出機関及び送出しの在り方

8-1. 概要

・二国間取決め (MOC) により送出機関の取締りを強化。
・送出機関・受入れ機関の情報の透明性を高め、送出国間の競争を促進。
支払手数料を抑え、外国人と受入れ機関が適切に分担する仕組みを導入。

8-2. 提言

① 政府は、送出国政府との間での二国間取決め(MOC)を新たに作成し、これにより、不当に高額な手数料等の徴収、監理団体・受入れ機関への饗応やキックバック等を行う送出機関の取締りを強化するなどして、悪質な送出機関の排除の実効性を高める。
② 政府は、各送出機関が徴収する手数料等の情報の公開を求めるなどして送出機関に係る情報の透明性を高め、監理団体等がより質の高い送出機関を選択できるようにするとともに、受入れ機関に係る情報の透明性も高め、外国人が安心して働ける受入れ機関をより直接的に選択できるようにする(注)
③ 政府は、MOCに基づく協議等の際に、相手国に対して他国の送出制度の実情等に関する情報提供を行うなどして、送出国間の競争を促進する。
④ 上記②の情報公開等の手段と併せ、外国人が送出機関に支払う手数料等が不当に高額とならないようにするとともに当該手数料等を受入れ機関と外国人が適切に分担するための仕組みを導入し、外国人の負担の軽減を図る。

(注)外国人が受入れ機関に係る情報を直接的に把握できる仕組みとしては、例えば、国際協力機構(JICA)が 2023 年8月からベトナム政府に対する技術協力プロジェクト「ベトナム人海外就労希望者の求人情報へのアクセス支援プロジェクト」(ベトナムの労働当局と協働の下、新たな求人システムを構築し、正しい求人情報の提供、直接応募の推進により、高額な手数料や搾取、ミスマッチなどをなくす仕組みを構築するもの)を開始した。

8-3. ポイント

①②について:たたき台は、送出機関による過大な手数料徴収の防止や悪質な送出機関の排除等に向けて、送出国政府との間で実効的な二国間取決めを作成するなど、国際的な取り組みを強化すべきとしています。送出国に送出機関に関する情報の透明化も求めるとしています。費用に関する情報だけでなく訪日前の日本語教育の内容なども判断できる情報が望ましいと考えられます。

③について:送出手数料等は送出国によって大きな違いがあるため、たたき台は政府に、送出国政府に対し他国の状況を知らせるなどして送出国間の競争を促すとしています。「送出国間の競争の促進」というこれまでにない視点が加わりました。送出国間は既に競争関係にありますが、受入れ機関側に送出国の比較を促すという効果も見込まれます。

④について:外国人が来日前に送出機関に支払う手数料等を日本の受入れ機関が負担する取り組みが一部で進んでいますが、たたき台では、受入れ機関と外国人との「適切に分担」する仕組みの導入が提言されました。受入れ機関のコスト増が予想されます。他方で、外国人に手数料を支払わせない仕組みの導入は見送られました。

8-4. 自民党外国人労働者等特別委員会(外特委)での意見と出入国在留管理庁の答弁

【茨城県の議員】送り出しのあり方だが、いわゆる貧困ビジネスみたいなことが、うまく抑えられるようになるのか。

→【出入国在留管理庁】外国人が日本に来るために多くの手数料がかかり、それを借金で賄う。これが大きな問題の一つだ。分担によって外国人の負担を軽減するルールが作れないかという観点で、有識者会議で議論されている。

【広島県の議員】送出し機関の問題が非常に大きい。不適正な送出し機関の排除をどう実現するかは法案の勝負所の一つだ。

→【出入国在留管理庁】送出し機関の適正化は見直しの中で非常に重要な観点だと思っている。

9. 日本語能力の向上方策

9-1. 概要

継続的な学習による段階的な日本語能力向上。
 ※就労開始前にA1相当以上の試験 (日本語能力試験N5等)合格又は相当講習受講
  特定技能1号移行時にA2相当以上の試験(〃N4等)合格 ※当分の間は相当講習受講も可
  特定技能2号移行時にB1相当以上の試験(〃N3等)合格
・日本語支援に取り組んでいることを優良受入れ機関の認定要件に。
・日本語教育機関認定法の仕組みを活用し、教育の質の向上を図る。

9-2. 提言

① 新たな制度及び特定技能制度においては、以下の試験の合格等を就労開始や特定技能1号、2号への移行の要件とすることで、継続的な学習による段階的な日本語能力の向上を図る。
 ○ 就労開始前(新たな制度)
日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)の合格又は入国直後の認定日本語教育機関等における相当の日本語講習の受講(後者の場合、1年目終了時に試験合格を確認する。)
 ○ 特定技能1号移行時:日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)の合格(ただし、当分の間は、当該試験合格に代えて、認定日本語教育機関等における相当な講習の受講をした場合も、その要件を満たすものとする。)
 ○ 特定技能2号移行時:日本語能力B1相当以上の試験(日本語能力試験N3等)の合格
② 受入れ機関による支援のインセンティブとなるよう、受け入れた外国人の日本語能力試験等の合格率など日本語教育支援に積極的に取り組んでいること等を確認するような要件を、優良な受入れ機関の認定要件とする。
③ 政府は、日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律の施行状況を踏まえつつ、同法の仕組み(認定日本語教育機関や登録日本語教)を活用し、外国人に対する日本語教育の質の向上を図る。また、政府は、外国人に十分な日本語能力試験等の受験機会を確保するなどの方策を検討する。

9-3. ポイント

①について:外国人の日本語要件が引き上げられます。

・新たな制度で受け入れる外国人は日本語能力試験N5等:
就労開始前にN5等への合格か相当講習の受講が必要となります。これは、外国人本人の技能修得や自分の権利保護、地域社会との共生のために提言されました。もし、N5等への合格で入国後講習が不要または短縮となるなら、多くの受入れ機関はN5等合格者から選ぶか、N5等への合格を入国前教育の条件とするようになると思われます。その場合、入国前の教育費は増加する可能性がありますが、入国後講習を削減・短縮できるのであれば、総コストは同じか削減される可能性もあります。なお、N5合格を必須とすると、日本に行きたい外国人が減る懸念もあるため、当面は相当講習の受講という代替手段が設けられることになりました。

・特定技能1号に移行する際には、日本語能力試験N4等:
現行の特定技能1号取得の日本語要件と同じです。現行制度では、技能実習2号を良好に修了して特定技能に移行する場合は日本語要件が免除されていますが、新たな制度では、免除がなくなります。

②について:就労開始後の日本語教育支援を受入れ機関の優良認定の要件に含めることが示されました。ただし、教育コストを受入れ機関が負担する場合、コストが増える可能性があります。

③について:日本語教育機関認定法に基づく新制度の施行状況を踏まえつつ、同法の仕組みの活用によって、日本語能力の習得・向上のための環境整備や日本語教育の質の向上を図ることが提言されました。また、日本語能力試験が年に2回しか開催されておらず、試験機会が少ないと指摘されているため、改善を求めています。

10. その他(新たな制度に向けて)

10-1. 提言

① 政府は、現行の技能実習制度から新たな制度への移行に当たっては、現行の技能実習制度が長年にわたって活用されてきたという経緯や、現在も多くの技能実習生が受け入れられているという実態に留意し、移行期間を十分に確保するとともに、丁寧な事前広報を行う。また、政府は、現行制度を利用している外国人や受入れ機関等不当な不利益を生じさせず、その負担を軽減するため、必要な経過措置を設けるなど、新たな制度の円滑な実施に向けて十分な配慮を行う
② 政府は、新たな制度及び特定技能制度について、制度の趣旨、内容等を適切に国内外に情報発信することにより、外国人本人その他関係者の制度に対する理解を促進し、これによって制度目的が着実に達成されるようにするとともに、制度に対する誤解等を招くことのないようにする
③ 関係省庁は、新たな制度の施行後も、他の外国人材の受入れ制度との整合性を含め、新たな制度が制度趣旨・目的に照らして円滑かつ適切に運用されているか否かにつき、不断の検証と必要な見直しを行う。

10-2. 参考:自民党外国人労働者等特別委員会(外特委)での意見

【鹿児島県の議員】現行の技能実習制度と新制度の移行期間の狭間というのが非常に心配なのでそこは丁寧にやってほしい。

11. まとめ

新たな制度の目玉は転籍要件の緩和ですが、転籍された受入れ機関への初期費用の補てんや、転籍制度を活用した地方から大都市への過度の人材流出への懸念は大きく、有効性の期待できそうな明確な対策はまだ示されていません。

たたき台では、新たな制度における転籍要件の緩和を中心に、監理団体の要件厳格化や、受入れ企業等の不適切な雇用に対する機構や労働基準監督署の対応強化など、外国人労働者の支援・保護を強化し労働環境の改善を促進するための方策が多数盛り込まれました。監理団体の要件を厳格化することや、送出国政府と連携して送出機関の適正化を図ることは、この制度による外国人受入れを長く継続していくために欠かせない改善点です。

ただし、監理団体の要件厳格化で監理費増加などのコスト増が予想され、大都市圏・大手中堅企業への影響は比較的少ないものの、地方・中小零細企業への影響は大きいと予想されます。厳格化し過ぎると、制度が使われず、違法な経路への移行が促進され、ゆるすぎると、大きな改善が期待できないので、バランスが重要です。

日本の技能労働者の受入れ制度の中核は新たな制度施行後は「特定技能1号」になります。新たな制度が施行されるまでに、現在の技能実習での「職種・作業」での受入れから新制度での「産業分野・業務区分」での受入れに円滑に移行できるための準備が重要です。

また、特定技能外国人の支援についても、機構の相談援助の対象に含めたり、登録支援機関の登録要件を厳格化したりすることで、改善を図ろうとしています。さらに、新たな機構と労働基準監督署や地方出入国在留管理局が連携し、受入れ機関の法令違反等に厳しく対処する方向性が示されました。特定技能外国人を巡る諸問題が今の技能実習生問題のように大きな社会問題に発展していくことがないよう、状況把握と改善に継続的に取り組むことが求められます。

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