この記事を読むと、次のことが分かります。
・技能実習法の位置付けと構成
・技能実習法が作られた背景
・外国人技能実習機構(OTIT)について
・技能実習法違反行為・違反例
技能実習法は2017年に施行された法律です。外国人技能実習制度自体は1993年に創設された制度ではあるものの、適正に実施されないケースが相次いでおり、外国人技能実習生を保護するために技能実習法が施行されました。
技能実習生を迎えたいと考えている企業にとって技能実習法の理解は必要不可欠ですが、比較的新しい法律のため、まだ一般に広く知られているとはいえないのが現状です。
本稿では、技能実習法を分かりやすく解説します。技能実習法の違反例も取り上げていますので、参考にしてください。
1. 技能実習法とは?端的に言えば技能実習制度を規定した法律
技能実習法は、正式名称を「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」といいます。技能実習制度を規定した法律で、2017年に施行されました。ここでは、技能実習法の位置付けと構成、そして作られた背景を解説します。
1-1. 技能実習法の位置付けと構成
技能実習法は、技能実習制度の土台を成す法律です。技能実習制度は1993年に創設されましたが、運用の開始後、技能実習生を低賃金な労働力として扱い、事故や技能実習生の失踪が相次ぐなど、様々な問題が生じました。これを解消するために法整備が進められ、成立したのが技能実習法です。
技能実習法は、技能実習の目的を改めて「技能実習は発展途上国の人材育成のための制度」と定め、実習生を単純な労働力ではなく、あくまでも日本の技術を学ぶために来日した人材として扱っています。
構成は、大きく「技能実習制度の適正化」と「技能実習制度の拡充」の2つに分けられます。具体的には技能実習計画の認定や監理団体の許可制などを定めており、技能実習の適正な実施と技能実習生の保護に焦点が当てられています。
1-2. 技能実習法が作られた背景
技能実習法が制定された背景に、2017年以前に技能実習生を劣悪な労働環境に置く事態が多数発生したことが挙げられます。
技能実習制度が始まった1993年当時、技能実習生は「研修」という在留資格で入国していため、労働者として扱われませんでした。労働関係の法律の対象者と見なされず、日本人と同じ仕事をしているのに不当に賃金が低い、といった問題が多発したのです。技能実習法はこれらの問題に対処するために制定されました。
1-3. 技能実習法が定める技能実習制度とは
技能実習制度は、不足している労働力を補うものではありません。外国人が母国では習得できない技術や技能・知識を日本で得て、母国に持ち帰るために作られた「人づくり」のための制度です。
外国人技能実習生の在留資格は、1号、2号、3号に分別されます。1号は入国1年目まで、2号は入国3年目まで、3号は入国5年目まで日本に在留することができます。
2号、3号に切り替えるためには学科試験・実技試験などの試験を受ける必要があり、これらの試験に合格することで在留資格を変更することができます。
また、3号を受け入れることができるのは「優良な監理団体・実習実施者」と認められた監理団体・実習実施者のみです。
1993年に制度化された技能実習制度も、技能実習法も、国際協力の基本理念を柱として成り立っています。決して安価な労働力として外国人技能実習生を活用しよう、と考えてはいけません。
【コラム】 「そもそも在留資格制度とは?」
在留資格制度は「日本でどのような活動が許可されているか」を判断するための制度です。外国人在留者は、出入国在留管理庁から発行される在留カードを所持することを求められます。このカードに就労制限の有無が書かれています。
例えば、技能実習1号または2号、3号なら技能実習生としてのみ働くことが可能です。
また、技術・人文知識・国際業務(技人国)の在留資格を持っていれば、プログラマーや機械エンジニア(技術)、コンサルティング(人文知識)、語学教師(国際業務)などの職業に就くことができます。
日本で働く外国人は、どんな在留資格でも日本人と同じように労働基準法などの労働関係法令が適用されるので、評価や賃金も、同じ業務に携わっている日本人と同様に行わなくてはいけません。
2019年には「特定技能」の在留資格が追加されました。これにより、労働力が不足している介護などの分野で外国人が特定技能として働くことができるようになりました。
1-4. 技能実習法に基づいた活動を行う外国人技能実習機構(OTIT)
外国人技能実習機構(OTIT)は、技能実習法の制定に基づいて設立された国の機関です。その主な業務は以下の七つです[1]。
・技能実習計画の認定
・実習実施者・監理団体への報告要求、実地検査
・実習実施者の届出の受理
・監理団体の許可に関する調査
・技能実習生に対する相談・援助
・技能実習生に対する転籍の支援
・技能実習に関する調査・研究
これらの業務のうち、特に実習実施者に関わりが深いのはこの三つです。
・技能実習計画の認定
・実習実施者・監理団体への報告要求、実地検査
・実習実施者の届出の受理
一つずつ見ていきましょう。
・技能実習計画の認定
実習実施者は、技能実習生に何をどんなふうにどの時期にやってもらうか、技能実習計画を立てなければいけません。この技能実習計画を審査し認定を出すのが外国人技能実習機構の役割です。
・実習実施者・監理団体への報告要求、実地検査
実習実施者には3年に1回程度、監理団体には1年に1回程度の頻度で定期検査を行います。関係者から情報提供や相談があった場合、臨時検査を行う場合もあります。検査の主な内容は、実習実施場所への立ち入りや技能実習生との面談、技能実習生の宿泊施設が適切であるかどうか確認するものです。
・実習実施者の届出の受理
初めて技能実習計画の認定を受けた実習実施者は、外国人技能実習機構に実習実施者届出書を提出しなければいけません。届け出が受理されると、「実習実施者届出受理書」が交付されます。
2. 技能実習法の違反に注意!
技能実習法に違反すると、さまざまな罰則があります。具体的に見ていきましょう。
2-1. 技能実習法違反行為はどんな行為?
技能実習法の違反行為には、大きく分けて「監理団体による違反行為」と「実習実施者による違反行為」があります。本稿では、「実習実施者に関するもの」についてご説明します。
令和3年度の実習実施者による違反行為の発生状況を見てみましょう。
【実習実施者における主な違反指摘内容別件数】
技能実習の実施に関するもの | 3,968件 |
技能実習を実施する体制・設備に関するもの | 1,408件 |
技能実習生の待遇に関するもの | 4,350件 |
帳簿書類の作成・備付けに関するもの | 1,195件 |
届け出・報告に関するもの | 2,614件 |
技能実習生の保護に関するもの | 42件 |
合計 | 13,577件 |
外国人技能実習機構「実習実施者における主な違反指摘内容別件数(6-2)」を基にライトワークスにて作成,https://www.otit.go.jp/files/user/docs/PDF6-2%20.pdf(閲覧日:2022年12月20日)
上記の表から分かる通り、最も違反行為として多いのは技能実習生の待遇に関するものです。具体的には、「宿泊施設の不備(私有物の収納設備や消化設備の不備)」や「実習計画通りの報酬が支払われていない」ことです。
また技能実習の実施に関するものとして「実習内容が計画と異なっていたもの」「技能実習を実施する体制・設備に関するもの」「帳簿書類の作成・備付けに関するもの」も挙げられます。
実習実施者が行ってしまうことが多い例として、技能実習生のパスポートを自社で保管しておく行為があります。たとえ善意で保管していたとしても違反行為です。
技能実習計画に沿っていない実習をさせていた場合、技能実習法違反として扱われます。技能実習計画とは違う実習を行いたいときは、適宜変更手続きをしましょう。
2-2. 技能実習法に違反した場合の罰則
実習実施者が技能実習法に違反した場合、罰則が科せられます。
もし技能実習法の違反行為をしてしまったら、技能実習計画の認定取り消しなどの行政処分を受けることになります。行政処分の対象になった監理団体や実習実施者は厚生労働省・出入国在留管理庁のウェブサイトで団体名または事業者名を公開されます。
多くは30万円以下の罰金が科せられます。「暴力や脅迫、監禁による技能実習の強制」や「技能実習契約の違約金の強制」、「技能実習生のパスポートや在留カードの保管」や「解雇など不利益を掲げ、携帯電話を取り上げるなどして技能実習生を孤立させる」などの悪質な行為は懲役刑が科せられることもあります。
2-3. 技能実習法の違反例をチェック!
2018年から2023年1月現在、約360もの実習実施者が技能実習計画の認定を取り消されています。このうち、技能実習法で代表的な違反事由に該当するものが約150件です。
よく見られる技能実習法の違反事由は、以下の三つです。
・実習計画に従わない実習をさせる(またはさせない)
例1:技能実習計画に記載されていた実習予定時間を大幅に超過して実習を行わせていた。
例2:技能実習計画通りに必須業務である半自動溶接作業を行わせていなかった。
・認定計画に従った賃金を支払わない
例1:認定計画に従った賃金を支払わなかった。
例2:賃金の不払いについて不正または著しく不当な行為が認められた。
・実習生のパスポートを保管する
例:技能実習生の旅券(パスポート)を保管していた。
この他によくある認定取り消し事由として、技能実習生の残業代の不払いが挙げられます。これは、労働基準法違反です。また、労働安全衛生法違反も認定取り消し事由になります。
意図せずとも、技能実習担当者の知識不足がこのようなトラブルを招く場合もあるので、注意が必要です。担当者は技能実習法のみならず、技能実習に関連した知識を身に付けることが求められます。
3. 技能実習法の基本を社内に周知しよう
技能実習法は「知らずに違反行為をしてしまった」というケースも多い法律です。「これから技能実習生を受け入れよう」という企業は、社内関係者の法令順守の意識を持つことが必要だといえます。
また技能実習制度は労働基準法違反が非常に多く、労働基準法にも知見を広める必要があります。しかし、企業内だけで技能実習法・労働関係の法律を体系的に学ぶには、多大な時間と手間がかかります。
そのような手間を省き、技能実習制度について社内関係者に学んでもらうためには、株式会社ライトワークスの外国人材採用企業向け教材の利用をおすすめします。
技能実習制度の概要から仕組み、全体像などをオンラインで学習することが可能です。
ライトワークスのeラーニング教材:外国人材採用企業向け 入門編
4. まとめ
技能実習法は2017年に施行された法律で、外国人技能実習制度を規定した法律です。
技能実習制度が始まった1993年当時、技能実習生は在留資格「研修」として入国するため、労働者と扱われませんでした。そのため労働関係の法律の対象者と見なされず、日本人と同じ仕事をしているのに不当に賃金が低い、といった問題が多発していたのです 。
これらの問題に対処すべく、技能実習法が施行されました。
構成は、技能実習制度の適正化、技能実習制度の拡充の2つに分けられます。具体的には技能実習計画の認定や監理団体の許可制などを定めています。
技能実習制度は、不足している労働力を補うものではありません。
外国人技能実習生の在留資格は1号、2号、3号に分別されます。
2号、3号に切り替えるためには学科試験・実技試験などの試験を受ける必要があり、これらの試験に合格することで在留資格を変更することができます。
また、3号を受け入れることができるのは、「優良な監理団体・実習実施者」と認められた場合だけです。
外国人技能実習機構(OTIT)は、技能実習法の制定に基づいて設立された国の機関です。
外国人技能実習機構の業務のうち、実習実施者(技能実習の受け入れ企業)に関わりが深いのは以下の三つです。
・技能実習計画の認定
・実習実施者・監理団体への報告要求、実地検査
・実習実施者の届出の受理
技能実習法に違反すると、さまざまな罰則が科せられます。
違反行為として最も多いのが技能実習生の待遇に関するものです。
具体的には、「宿泊施設の不備(私有物の収納設備や消化設備の不備)」や「実習計画通りの報酬が支払われていない」ことが挙げられます。
実習実施者が技能実習法に違反した場合、基本的に罰金が科せられます。場合によっては懲役刑を科せられることもあります。
また技能実習法に基づいて、技能実習計画の認定取り消しなどの行政処分が行われることもあります。
技能実習法違反の違反例として、以下の行為があります。
・実習計画に従わない実習をさせる(またはさせない)
・認定計画に従った賃金を支払わない
・実習生のパスポートを保管する
技能実習法は「知らずに違反行為をしてしまった」というケースも多い法律です。技能実習は労働基準法違反が非常に多く、労働基準法にも知見を広める必要があります。
技能実習制度について学ぶために、株式会社ライトワークスの外国人材採用企業向け教材をおすすめします。
技能実習制度の概要から仕組み、全体像などをオンラインで学習することが可能です。
ライトワークスのeラーニング教材:外国人材採用企業向け 入門編
技能実習生に気持ち良く実習を行ってもらうためには、技能実習法に関する勉強は欠かせません。本稿がその助けになれば幸いです。
[1] 外国人技能実習機構「外国人技能実習機構とは」,https://www.otit.go.jp/about/(閲覧日:2023年2月10日)
参考)
厚生労働省「技能実習生の実習実施者に対する監督指導、送検等の状況(令和3年)」,https://www.mhlw.go.jp/content/11202000/000969254.pdf(閲覧日:2022年12月19日)
法務省 出入国在留管理庁,厚生労働省 人材開発統括官「外国人技能実習制度について」,https://www.otit.go.jp/files/user/%E5%A4%96%E5%9B%BD%E4%BA%BA%E6%8A%80%E8%83%BD%E5%AE%9F%E7%BF%
92%E5%88%B6%E5%BA%A6%E3%81%AB%E3%81%A4%E3%81%84%E3%81%A6.pdf(閲覧日:2023年2月10日)
厚生労働省「技能実習制度 運用要領 第10章 罰則」, https://www.mhlw.go.jp/content/000622699.pdf(閲覧日:2022年12月20日)
厚生労働省「技能実習制度 運用要領 第6章 技能実習生の保護」,https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11800000-Shokugyounouryokukaihatsukyoku/0000211274.pdf(閲覧日:2023年1月19日)
公益財団法人 国際人材協力機構「外国人技能実習制度とは」,https://www.jitco.or.jp/ja/regulation/(閲覧日:2023年2月20日)
外国人技能実習機構「技能実習計画の認定申請」,https://www.otit.go.jp/jissyu_shinsei/(閲覧日:2022年12月20日)
外国人技能実習機構「実習実施者の届出」,https://www.otit.go.jp/jissyu_todokede/(閲覧日:2022年12月20日)
外国人技能実習機構「実習実施者における主な違反指摘内容別件数(6-2)」,https://www.otit.go.jp/files/user/docs/PDF6-2%20.pdf(閲覧日:2022年12月20日)
出入国在留管理庁「公表情報(監理団体一覧、行政処分等、失踪者数ほか)」,https://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/nyuukokukanri07_00138.html(閲覧日:2023年2月20日)
田村穂「技能実習制度の返還-これまでの課題とこれからの課題-」,https://www.econ.kobe-u.ac.jp/activity/graduate/pdf/331.pdf(閲覧日:2023年1月17日)