「最近、在留資格に関係する違反で検挙される外国人労働者が多いようだ。企業として予防する方法はないだろうか」
2020年、警視庁によると在留資格が関係する入管法違反での検挙数は6,534人です。この数値は前年比で約10%の増加であり、看過できない状況です[1]。
特に来日人数が多い、中国人とベトナム人の検挙数が、全体の5割以上を占める状況が続いています。ベトナム人の場合 、不法残留を主とする入管法違反の検挙人員が5年間で約4.1倍に増加しています。
これらの状況を鑑みると、外国人労働者の雇用を検討している企業の担当者が注意すべき点としては、(1)法律違反に該当する外国人を雇用しない(2)法律違反に該当する方法で外国人を雇用しない、が挙げられます。
それらを可能にするためには、在留資格についての正確な知識を把握することが非常に重要です。在留資格の数は29種類あり、それぞれ取得方法や就労の可否・条件などが異なります。
在留資格制度は複雑な法制度なので、「大丈夫、たぶん問題ないだろう……」と、曖昧な理解のまま外国人を雇用すると、法律違反として罰則の対象になるかもしれません。
この記事では、企業の採用担当者の方に役立てていただけるように、在留資格の種類や確認方法、雇用できる在留資格、人材不足の解消に有効な在留資格などをご紹介します。
[1] 警視庁「令和2年における組織犯罪の情勢」,2021年4月,p70, 72,https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kikakubunseki/sotaikikaku09/R02sotaijyousei.pdf(閲覧日:2022年7月6日)
1. 在留資格とは?外国人労働者雇用の基本知識を解説
この章では、在留資格の基本知識ともいえる以下の点について解説します。
・在留資格とは
・在留資格とビザの違い
・在留資格の確認方法
1-1. 在留資格とは?
在留資格とは、外国人が日本に滞在して、何かの活動をするために必要な資格です。
例えば、外国人が日本の大学で「教授」の仕事をするとき、また「留学」するとき、さらに「技能実習生」として日本に入国するときには、それぞれに該当する在留資格が必要です。
2章で詳しく解説しますが、在留資格には就労できるものと、できないものがあります。また、在留資格を持っていても無制限で就労が許可されるわけではありません。
在留資格で許可されている以外の仕事をすると法律違反になり、企業にも罰則が科せられることがあります。
在留資格は一人、一つしか持つことができません。そのため、「留学」の在留資格を持つ外国人が、同時に「技術・人文知識・国際業務」といった他の在留資格を取得することはできません。
1-2. 在留資格とビザの違い
在留資格とビザ(査証)は似ているイメージですが、両者には別々の役割があります。
ビザとは、外国人が日本に入国する際に必要な推薦状といえます。パスポートが不適格とされた場合などは、ビザは発行されません。
ビザは入国先の国の大使館や領事館が発行します。例えば、ベトナム人が日本に入国する際は、ベトナムにある日本大使館や日本総領事館がビザを発行します。
在留資格とビザの違いをまとめると以下のようになります。
・在留資格:日本での滞在や活動を認めるもの
・ビザ:日本への入国を認めるもの
1-3. 在留資格の確認方法
在留資格は在留カードで確認するのが一般的です。
在留カードとは、3カ月以上日本に滞在する外国人に交付される免許証サイズのカードです。「在留資格」の欄にて在留資格の種類を確認できます。外国人は在留カードを常に携帯する必要があります。
在留カードには、在留資格の種類以外にも、氏名・生年月日・性別、在留期間・顔写真(16歳以上の場合)などが表示されています。
引用元)出入国在留管理庁「在留カードとは?」,https://www.moj.go.jp/isa/applications/guide/whatzairyu.html(閲覧日:2022年6月24日)
2. 雇用できる在留資格とできない在留資格
この章では、法務省の情報を基に在留資格の種類を解説します[2]。今回は以下の種類に分けて解説します。
(1) 雇用できる在留資格
(2) 雇用できない在留資格
(3) 労働力不足の解消に有効な在留資格
2-1. 雇用できる在留資格
雇用可能な在留資格は3つに分けることができます。
・就労が認められる在留資格
・身分・地位に基づく在留資格
・就労の可否は指定される活動によるもの
それぞれの特徴を表にまとめました。
表)雇用可能な在留資格
在留資格 | 特徴 | 在留資格の例 |
就労が認められる在留資格 | 決められた範囲内でのみ就労可能 | 高度専門職 |
経営・管理 | ||
法律・会計業務 | ||
技術・人文知識・国際業務 | ||
技能 | ||
技能実習 | ||
身分・地位に基づく在留資格 | 就労の活動制限なし | 永住者 |
日本人の配偶者等 | ||
永住者の配偶者等 | ||
定住者 | ||
就労の可否は指定される活動によるもの | 就労の可否は指定される活動による | 特定活動 |
企業が、高度専門職や技術・人文知識・国際業務などが含まれる「就労が認められる在留資格」の在留資格を持つ外国人を雇用することは可能です。しかし、決められた範囲内でのみでの雇用となります。
一方、「身分・地位に基づく在留資格」を持つ外国人の場合、就労において活動の制限がなく、日本人と同じく、どのような業種の仕事でも割り当てることができます。
「就労の可否は指定される活動によるもの」の在留資格には、特定活動が挙げられます。特定活動の在留資格にはさまざまな活動が含まれており、それらの中で就労が認められている活動に該当する場合のみ雇用できます。
2-2. 雇用できない在留資格
雇用が認められていない在留資格には以下のものがあります。
表)雇用が認められない在留資格
在留資格 | 在留資格の例 |
就労が認められない在留資格 | 文化活動 |
短期滞在 | |
留学 | |
研修 | |
家族滞在 |
上記の在留資格を持つ外国人は、原則就労できません。しかし、外国人が資格外活動の許可を得ている場合は、企業は一定の範囲内で雇用できます。
コラム:資格外活動とは?
資格外活動許可とは,持っている在留資格に該当しない、収入を伴う活動を行う際に必要な許可です。
例えば、「留学」の在留資格を持つ外国人を雇用することはできません。ただし、その外国人が資格外活動の許可を得ていると、原則週に28時間まで雇用が可能です。
例外として、在籍する教育機関が学則で定める長期休暇中には、週40時間まで認められています。
資格外活動の許可は、在留カードの裏面、またはパスポートに貼付される証印などで確認できます。
働く資格を持たない留学生を雇用した場合、不法就労助長罪が適用される可能性があります。
2-3. 労働力不足の解消に有効な在留資格
外国人労働者の雇用を検討している企業の中には、それにより労働力不足の解消を期待しているケースもあるでしょう。
この章では、労働力不足の解消に有効な在留資格を4つ解説します。
・技術・人文知識・国際業務
・高度専門職
・特定技能
・留学
技術・人文知識・国際業務
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を取得するには、4年制大学や短大、専門学校を卒業し、一定年数の実務経験を積む必要があります。
雇用できる業種としては、機械系技術、ITエンジニア、会計業務、通訳、翻訳などがあります。
注意点として、飲食店での接客や皿洗い、建設現場での肉体労働などで雇用することはできません。
高度専門職
「高度専門職」の在留資格は優秀な外国人材の受け入れを促進する目的で創設されました。高度人材と呼ばれることもあります。
高度専門職の在留資格には、高度専門職1号と高度専門職2号があります。
外国人が高度専門職の在留資格を取得するためには、学歴・職歴・年収などが関係する「高度人材ポイント制度」で70ポイント以上獲得しなければなりません。
特定技能
「特定技能」は人手不足を解消する目的で創設された在留資格です。特定技能1号と特定技能2号の在留資格があります。
特定技能1号では、介護・ビルクリーニング・自動車整備・農業など12の産業分野での雇用が可能です。
留学
原則として「留学」の在留資格を持つ外国人を雇用することはできません。しかし、その外国人が資格外活動の許可を取得していると雇用が可能です。
留学生が資格外活動の許可を得ている場合、アルバイトとして雇用することができます。しかし、風俗営業に該当するパチンコ店やキャバレー、ゲームセンターなどでは雇用することはできません。
この章でご紹介した、労働力不足の解消に有効な在留資格についてもっと詳しく知りたい方は以下の記事をご一読ください。在留資格に伴うQ&Aなどもご紹介しています。
[2] 法務省「在留資格一覧表」,https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Events/bdb/49facb9d51d120db/session_second_1.pdf(閲覧日:2022年7月6日)
3.【要注意】企業が関係しやすい在留資格の違反
外国人の雇用を検討している企業が注意すべき、在留資格に関係する法律違反には以下のものがあります。
・不法就労助長罪
・在留資格等不正取得罪
・営利目的在留資格等不正取得助長罪
それぞれを解説します。
・不法就労助長罪
企業が不法就労の外国人を雇用したり、就労が許可されている仕事以外で雇用したりすると、不法就労助長に該当します。その場合、3年以下の懲役・300万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
外国人を雇用する企業は採用する前に、在留カードで在留資格の種類を確認したり、割り当てるつもりの業務が在留資格に該当するか否かを確認したりしましょう。
・在留資格等不正取得罪
在留資格等不正取得罪は、不正な手段または虚偽の情報により在留資格を取得した場合に適用されます。
この罪に問われると、最長3年の懲役または禁錮・300万円以下の罰金が科せられる可能性があります。
・営利目的在留資格等不正取得助長罪
企業が金銭を受け取るといった営利目的で虚偽の申請をして在留資格取得の斡旋をした場合、営利目的在留資格等不正取得助長罪に該当します。
例えば、企業が営利目的で、実際には飲食店での接客業務をさせるにもかかわらず、翻訳や通訳の業務に従事するとした申告書類を作成した場合、営利目的在留資格等不正取得助長罪に問われる可能性があります。
その場合の罰則は、最長3年の懲役・300万円以下の罰金です。
4. まとめ
この記事では在留資格について解説しました。
在留資格とは、外国人が日本に滞在して、何かの活動をするために必要な資格です。
ビザとは、外国人が日本に入国する際に必要な推薦状といえます。
在留資格は在留カードで確認するのが一般的です。在留カードの「在留資格」の欄にて在留資格の種類を確認できます。
企業が雇用できる在留資格の種類は以下の通りです。
・就労が認められる在留資格
・身分・地位に基づく在留資格
・就労の可否は指定される活動によるもの
「就労が認められる在留資格」を持つ外国人を雇用する場合は、決められた範囲内でのみ可能です。
「身分・地位に基づく在留資格」を持つ外国人の場合、日本人と同じく、どのような業種の仕事でも割り当てることができます。
「就労の可否は指定される活動のよるもの」の在留資格には、特定活動が挙げられます。特定活動に含まれるさまざまな活動のうち、就労が認められている活動に該当する場合のみ雇用できます。
雇用できない在留資格の種類は以下の通りです。
・文化活動
・短期滞在
・留学
・研修
・家族滞在
上記の在留資格を持つ外国人は、原則就労できませんが、外国人が資格外活動の許可を得ている場合、企業は一定の範囲内で雇用できます。
労働力不足の解消に有効な在留資格としては以下のものがあります。
・技術・人文知識・国際業務
・高度専門職
・特定技能
・留学
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格では、飲食店での接客や皿洗い、建設現場での肉体労働などでは雇用できません。
「高度専門職」は優秀な外国人材の受け入れを促進する目的で創設され、高度人材と呼ばれることもあります。
「特定技能」は人手不足を解消する目的で創設された在留資格です。特定技能1号と特定技能2号の在留資格があります。
原則として「留学」の在留資格を持つ外国人を雇用することはできません。しかし、外国人が資格外活動の許可を取得していると雇用が可能です。
企業が関係しやすい在留資格の違反には以下のものがあります。
・不法就労助長罪
・在留資格等不正取得罪
・営利目的在留資格等不正取得助長罪
企業が不法就労の外国人を雇用したり、就労が許可されている仕事以外で雇用したりすると、不法就労助長に該当します。
不正な手段または虚偽の情報により在留資格を取得した場合、在留資格等不正取得罪に該当します。
企業が営利目的で虚偽の申請をして在留資格取得の斡旋をした場合、営利目的在留資格等不正取得助長罪に該当します。
外国人労働者の雇用と在留資格は密接に関係しており、理解が曖昧なまま採用を進めると法律違反になる可能性があります。
外国人労働者の雇用を検討している企業の担当者は、適切に採用を進められるよう、在留資格について十分に理解できているか、今一度確認してみてはいかがでしょうか。
参考)
法務省「在留資格一覧表」,https://www.jetro.go.jp/ext_images/_Events/bdb/49facb9d51d120db/session_second_1.pdf(閲覧日:2022年6月28日)
出入国在留管理庁「在留資格一覧」,https://www.moj.go.jp/isa/applications/guide/qaq5.html(閲覧日:2022年6月28日)
法務省「ポイント計算表」,https://www.moj.go.jp/isa/content/930001657.pdf(閲覧日:2022年6月28日)
JITCO「在留資格「特定技能」とは」,https://www.jitco.or.jp/ja/skill/(閲覧日:2022年6月28日)
出入国在留管理庁「在留カードとは?」,https://www.moj.go.jp/isa/applications/guide/whatzairyu.html(閲覧日:2022年6月28日)