入管法の【基本を解説】2019年の改正で新設された特定技能もざくっと

この記事を読むと、次のことが分かります。

・入管法(正式名称「出入国管理及び難民認定法」)の概要
・入管法の改正で変わったことと、メリット・デメリット
・特定技能について
・特定技能外国人を雇用する場合の注意点

入管法(正式名称「出入国管理及び難民認定法」)は、日本へ入国・出国する全ての人の公正な管理や、難民の認定手続きなどの整備を目的として定められた法律です。

2019年の改正では、外国人の受入れを促進するため特定技能という在留資格が追加されました。入管法は外国人雇用の申請手続きや労務管理において、必ず関わる重要な法律です。外国人の雇用を検討している企業の方は、必ず押さえておきましょう。

1. 入管法とは?入管法改正で変わっていく外国人の雇用

まずは、入管法が定めている内容を解説します。

1-1. 入管法とは「出入国管理及び難民認定法」のこと

入管法とは、「出入国管理及び難民認定法」のことであり、日本に入国あるいは日本から出国する全ての人の出入国を公正に管理するとともに、難民の認定手続きを整備することを目的にした法律です。

1-2. 入管法に定められている内容とは

入管法には、外国人の在留資格の変更や在留期間の更新手続き、在留カードの交付手続き、住居地や氏名などの変更の届け出の他、在留資格の取り消しや不法在留している人に関する通報、退去強制手続きに関することが定められています。

入管法上、住居地の変更を届け出なければ在留資格取り消しの対象になります。しかし、
外国人が経済的困窮によって新たな住居地を決められない場合や、配偶者から暴力を受けている場合など、正当な理由がある際には在留資格の取り消しを行わないといった慎重な対応をしています。

入管法は、社会情勢や世論の影響を受け、改正を重ねながら段階を追って進化し続けています。

2. 2019年の入管法改正が話題!改正の背景と注目ポイントとは

次に、2019年に行われた入管法改正が話題になった理由を解説します。

2-1. 入管法の改正に伴い、外国人の雇用は拡大

2019年の改正内容を見る前に、入管法はそれ以前にどのような改正をしてきたのかを見てみましょう。

2009年の改正では、在留カードの交付といった中長期在留者に対する新たな在留管理制度の開始が決定し、2012年から実施されています。また、2014年の改正では、経済のグローバル化に伴い外国人の受入れを促進するため、高度なスキルを有する高度外国人材の新たな在留資格「高度専門職」が創設されました。

そして2016年の改正では、介護福祉士の資格を有する外国人が、介護職に従事するための在留資格が設置されています。

外国人の受入れが進む一方で、不正に雇用証明書を提出して在留資格を得るなどの偽装滞在者の存在も問題視され始めたことから、罰則の整備や在留資格取り消し制度の強化がなされました。

2-2. 2019年の入管法改正の背景とは

2019年の改正は、日本の生産年齢人口(15~64歳の人口)が減少することで人手不足が生じ、経済の成長が阻害され得ることが背景にあります。

総務省によると、少子高齢化の進展により、2017年の時点で7,596万人(総人口のうち60%)だった生産年齢人口が、2040年には5,978万人(53.9%)まで減少すると推計されています。

この傾向を受け、国内の人手不足を解消する手立てとしてより多くの外国人を受入れる取り組みが推進されました。

また、技能実習生は、あくまでも外国人に日本の技能を学んでもらい、母国で活躍することを目的としているにもかかわらず、望ましくない労働環境で労働力として活用するケースが増加したことも改正の背景とされています。

2-3. 2019年の入管法改正での注目ポイントとは

国内で人手不足が懸念される産業において、相当の知識または経験を有する外国人に向けた在留資格「特定技能」が創設されました。

日本人と同等以上の報酬額であることや、支援計画に基づいた支援を実施することなど、受入れるための規定を満たせば即戦力となる外国人を雇用できるため、人手不足の解消につながると期待されています。

3. 2021年の入管法改正案は取り下げ!その理由と今後の動向は

2021年2月国会に提出された入管法改正案は、同年5月に取り下げとなりました。その理由を見ながら、今後の外国人受入れの動向を予測していきます。

3-1. 2021年入管法改正案の内容と問題点

2021年の改正案では、不法残留者の増加を抑制する対策が主となりました。主な内容は、以下の通りです。

・在留を認めるべき外国人かどうかを適切に判別すること
・在留が認められない外国人は速やかに退去させること
・退去を拒む外国人の収容に代わる監理措置制度の設置

特に、この中の2番目と3番目が問題視されました。

2番目の「在留が認められない外国人は速やかに退去させること」では、外国人の難民申請が3回目以降の場合、出入国在留管理庁の判断で送還することができるとしています。これは、難民申請を繰り返すことで意図的に在留期間を延ばそうとする外国人がいることから出た案です。

しかし、難民申請者は送還先で危険な目に遭ってしまうこともあり得るため、難民保護の観点が欠けているとして問題視されました。

また、3番目の「退去を拒む外国人の収容に代わる監理措置制度の設置」では、収容施設での長期収容問題を解消するため、監理人による監理を受けていれば施設外で生活してもよいとする措置制度を盛り込みました。

これにより長期収容の問題は解消しますが、監理人に該当する支援者や弁護士が退去強制拒否罪の共犯とされ、罰則の対象となってしまうリスクがあります。それでは、支援者や弁護士が正当に活動しにくいという問題が生じるため、多くの反対意見が挙げられました。

さらに、2021年3月6日、名古屋出入国在留管理庁局収容施設に収容されていたスリランカ国籍の女性が死亡する事案が生じました。このことにより、日本弁護士連合会が改正案に対して改めて反対声明を発するなど、批判の声が多く挙がり、改正案は取り下げとなりました。

3-2. 近年の入管法改正と外国人受入れの動向について 

今後、入管法はますます専門スキルを有する外国人の受入れを積極的に進め、技能実習生や留学生へのフォロー体制をより強化する形に改正していくと予測されます。

例えば、2012年に開始された高度人材ポイント制は、2019年に特別加算の対象となる大学を拡大しています。このことから、今後も高度外国人材の受入れを促進していくと予想できます。

また、2019年の入管法改正では特定技能制度が新設され、日本国内で人手不足が懸念される業界において、積極的に外国人を受入れる取り組みが進んでいます。

そして技能実習生に関しては、実習実施者側の不適正な取り扱いや、経済的な事情により失踪してしまう可能性のある技能実習生をフォローするため、2019年に「失踪技能実習生を減少させるための施策」を講じています。

この施策では、失踪者を出した送り出し機関や監理団体、実習実施者に対し新規の技能実習生受入れを停止し、失踪技能実習生を雇用した企業を刑事告発および公表するといった内容が含まれています。

また、新型コロナウイルス感染症の影響で解雇され、実習が困難になった技能実習生などに対し、一定の要件において在留資格「特定活動」を付与するといった支援も行っています。

そして、2019年には留学生の在籍管理の徹底に関する新たな対応方針が公表され、外国人留学生の在籍管理を徹底し、彼らが不法滞在や不法就労につながる事態を抑制しています。

これらのことから、今後も入管法は改正を重ねて優秀な外国人の受入れを促進し、技能実習生や外国人留学生のフォロー体制を強化していくと予想できるでしょう。

3-3. 入管法改正によるメリットとデメリット、そして今後の課題とは

入管法改正によって外国人が増加することで、日本の労働市場企業にはどのような影響があるのでしょうか。また、入管法が今後解消すべき課題についても考察してみましょう。

・入管法改正がもたらすメリット
・入管法改正がもたらすデメリットと今後の課題

・入管法改正がもたらすメリット

入管法改正によって外国人の受入れが増加することで、労働力不足が改善されるとともに生産性の向上が期待できます。

例えば、特定技能外国人が増えることで特定分野での人手不足が解消され、国内産業の活性化が促進されます。また、過疎化した地方に外国人が加わることで地域創生にもつながります。

さらに、高度なスキルを持つ外国人を採用することで、彼らの新たな発想が刺激となり、生産性向上につながると考えられるでしょう。

・入管法改正がもたらすデメリットと今後の課題

外国人が増えることで、外国人の雇用環境問題が増加したり、日本人の雇用機会に何らかの影響が生じたりする可能性があります。

賃金などの不払いといった理由で失踪する技能実習生に関する問題はいまだ解決されていないため、外国人が増えることでその問題がさらに増加するという可能性は拭い切れません。

また、特定技能外国人についても、特定技能1号は在留期間が最長5年間と限定されており、基本的に家族の帯同が許されない点を考慮すると不安定な立場といえます。

そして、能力の高い外国人を日本人と同等の賃金で雇う機会が増えれば、日本人の雇用機会を奪ってしまうことにもなり得ます。このような懸念が広がれば日本人の反発が予想されるため、対策を講じる必要が生じてくるでしょう。

その他、不法残留者の増加収容の長期化も依然として解決されるべき課題として残っています。

このように、入管法改正によって労働市場や企業にメリットがある一方、外国人の労働環境の整備や雇用機会の問題、そして不法残留者の扱い方においては課題が残っています。

4. 2019年入管法改正で新設された「特定技能」など在留資格の概要を知る 

2019年の入管法改正で新設された特定技能はどのような在留資格でしょうか。この章では、特定技能の他、入管法で定められている在留資格について解説します。

4-1. 入管法に定められている在留資格とは

在留資格とは、外国人が日本で活動するために必要な資格を指し、出入国在留管理庁によって管理されています。在留資格は、主に就労が認められるもの、身分・地位に基づくもの、就労の可否は指定される活動によるもの、そして就労が認められないものの4つに分類されます。

そして、外国人の雇用を検討している企業が知っておくべき在留資格には次の5つが挙げられます。

・高度専門職
・技術・人文知識・国際業務
・技能実習
・特定技能
・留学

各在留資格の詳細は、以下の記事で詳しく解説しているので、ぜひ確認してみてください。

4-2. 入管法改正で新設された特定技能とは

特定技能とは、介護や農業、漁業のような労働力不足が深刻な12の産業において、一定の専門知識と技術を有する外国人を雇用することを目的に創設された在留資格です。この在留資格では、産業・サービスの現場での業務で外国人を雇用することができます。

特定技能の詳細や、技能実習との違いについては以下の記事で詳しく解説しているので、確認してみてください。

4-3. 入管法違反になるかも?!特定技能外国人を雇用する場合の注意点

企業が特定技能外国人を雇用する場合は、報酬において日本人と同等以上であることが求められます。また、1号特定技能外国人が円滑に業務を行えるように支援計画を作成し、必要に応じて登録支援機関と委託契約を結んで支援することも定められています。

出入国在留管理庁への届け出を怠ったり、適切な体制を確保せずに雇用したりした場合は入管法違反に該当することがあります。その他、企業は常識通りに対応しているつもりでも、いつの間にか違反事例に該当してしまう場合もあります。

詳しい法令違反事例や、外国人を雇用するプロセスと手続きについては以下の記事で解説しています。ぜひ確認してみてください。

外国人の雇用時に活用!入管法について質問できる機関
入管法や外国人の雇用に関して質問や相談をしたいと思ったときに活用できる機関があります。企業と在留外国人それぞれの質問を受け付ける機関もあるので、ぜひ活用してみてください。

・外国人を雇用したい企業、在留外国人が相談できる機関
「外国人在留総合インフォメーションセンター」
「外国人在留支援センター(FRESC/フレスク)」

・在留外国人が相談できる機関
生活に関する相談や情報提供を受けるなら「ワンストップ型相談センター」
仕事を探しているなら「外国人雇用サービスセンター」

詳細は以下のホームページで確認できます。
出入国在留管理庁「外国人在留総合インフォメーションセンター等」https://www.moj.go.jp/isa/consultation/center/index.html
出入国在留管理庁「外国人在留支援センター」https://www.moj.go.jp/isa/support/fresc/fresc01.html
厚生労働省「外国人雇用サービスセンター一覧(Employment Service for foreigners)」https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12638.html

5. まとめ

本稿では、入管法の概要と改正で変わったことやその影響、2019年の改正で新設された特定技能の概要や特定技能外国人を雇用する場合の注意点について解説しました。

入管法とは「出入国管理及び難民認定法」のことであり、日本に出入国する全ての人の公正な管理や難民の認定手続きなどの整備を目的に定められた法律です。

入管法は在留資格に関する事柄の他、不法残留者の手続きなどについて定めており、社会情勢や世論の影響を受けて改正を重ね、進化を続けています。

特に、2019年の改正では外国人の受入れを促進し、国内の労働力不足を解消するため特定技能が新設されたことが話題となりました。

2021年にも改正案が提出されましたが、難民保護の観点に欠けるなどで取り下げとなり、いまだ不法残留者の増加収容期間の長期化といった問題は解消されていません。

入管法改正で外国人が増えると、国内産業の活性化や、過疎化したエリアでの地域創生が期待できる点や、企業での生産性向上にもつながる点がメリットといえます。一方で、外国人の雇用環境問題が増加したり、日本人の雇用機会に何らかの影響が生じたりする可能性も考えられます。

入管法にはさまざまな在留資格が定められていますが、2019年に新設された特定技能は労働力不足が懸念される12の産業において貴重な労働力になるとして期待されています。

企業が特定技能外国人を雇用するときには、労働時間や報酬などの労働条件、支援計画書といった各種届け出などにおいて、入管法違反にならないように注意が必要です。入管法に関することや外国人雇用の申請について質問・相談できる機関もあるので、必要に応じて活用してみてください。

外国人雇用を検討している企業にとって、入管法は必ず関わる重要な法律です。外国人雇用を検討する際には、本稿を役立てていただければ幸いです。

参考)
男女共同参画局「出入国管理及び難民認定法」,https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/law/16.html(閲覧日:2022年12月18日)
法務省入国管理局「住居地の届出を行わないことに正当な理由がある場合等在留資格の取消しを行わない具体例について」,2012年7月,https://www.gender.go.jp/policy/no_violence/e-vaw/law/pdf/2407_224189.pdf(閲覧日:2022年12月18日)
出入国在留管理庁「最近の入管法改正」, https://www.moj.go.jp/isa/laws/kaisei_index.html(閲覧日:2022年12月18日)
出入国在留管理庁「新しい在留管理制度がスタート!」,https://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/newimmiact_1_index.html(閲覧日:2022年12月18日)
出入国在留管理庁「新しい在留管理制度がスタート!」,https://www.moj.go.jp/isa/laws/nyukan2015_index.html(閲覧日:2022年12月18日)
総務省「第1部 特集 人口減少時代のICTによる持続的成長」,『平成30年版 情報通信白書のポイント』,https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h30/html/nd101100.html(閲覧日:2022年12月18日)
出入国在留管理庁「そこが知りたい!入管法改正案」,https://www.moj.go.jp/isa/laws/bill/05_00003.html(閲覧日:2022年12月18日)
出入国在留管理庁「名古屋出入国在留管理局被収容者死亡事案に関する調査報告について」,2021年8月,https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/01_00156.html(閲覧日:2022年12月18日)
日本弁護士連合会「入管法改正案(政府提出)に改めて反対する会長声明」,2021年5月,https://www.nichibenren.or.jp/document/statement/year/2021/210514.html(閲覧日:2022年12月18日)
出入国在留管理庁「高度人材ポイント制とは?」,https://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/newimmiact_3_system_index.html(閲覧日:2022年12月18日)
出入国在留管理庁「高度人材ポイント制の特別加算対象大学の拡大」,https://www.moj.go.jp/isa/content/930001662.pdf(閲覧日:2022年12月18日)
出入国在留管理庁「失踪技能実習生を減少させるための施策」,https://www.moj.go.jp/isa/content/001350543.pdf(閲覧日:2022年12月18日)
出入国在留管理庁「留学生の在籍管理の徹底に関する新たな対応方針」,2019年6月,https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/__icsFiles/afieldfile/2019/06/11/1417927_2.pdf(閲覧日:2022年12月18日)

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