この記事を読むと、次のことが分かります。
・外国人労働者の受入れ制度の概要
・在留資格に関する基礎知識
・外国人労働者を雇用するプロセスと手続き
・外国人労働者の受入れに係る法令違反事例
実務上、個別具体のトピックで悩むことが多いと思いますが、実は一つの課題には多くの周辺事項が存在しています。周辺事項も含めてまとまった情報を理解する、あるいは参照する方が、結果的な業務効率はアップします。
本ブログでは、毎日多数の問い合わせに対応している実績を基に、企業の担当者が押さえておくとよい情報を、分かりやすくかつ網羅的にお届けします。
ぜひ参考にしてください。
実際外国人労働者の数は2013年以降右肩上がりに増加しており、2021年には過去最高を記録しました。
グラフ)在留資格別外国人労働者数の推移
これから外国人労働者の採用計画を立てるためには、在留資格や採用に関わる制度、受入れ手続きなどを網羅的に把握しておくことが必要です。正しい受入れ方を知っておかないと、知らないうちに法律違反を犯し企業イメージを落とす恐れもゼロではありません。
そこで本稿では、外国人労働者の雇用に関する制度や近年注目の在留資格、受入れの流れ、労働環境の整え方など採用担当者が知っておくべき情報を解説します。企業の法令違反事例も紹介するので、ぜひご一読ください。
目次
1. 外国人労働者の受入れ、どうやるの?制度の概要を説明
外国人労働者はそれぞれ在留資格を持っており、報酬を受ける活動は原則として在留資格ごとに決められた範囲内でしかできません(入管法19条)。そのため、受入れを検討する際は在留資格について大まかに理解しておくことが重要です。
ここでは、在留資格の基礎知識や近年注目の特定技能、技能実習と特定技能の違いを解説します。
1-1. まず必要、在留資格に関する基礎知識
在留資格は2019年4月に特定技能が追加され、現在29種類です。
【在留資格の種類】[1]
在留資格のグループ | 在留資格 | 該当する仕事の例 |
就労が認められる在留資格 (報酬を受ける活動の範囲は在留資格ごとに制限あり) | 外交 | 外国政府の大使、公使等およびその家族 |
公用 | 外国政府等の公務に従事する者およびその家族 | |
教授 | 大学教授等 | |
芸術 | 作曲家、画家、作家等 | |
宗教 | 外国の宗教団体から派遣される宣教師等 | |
報道 | 外国の報道機関の記者、カメラマン等 | |
高度専門職(1号・2号) | ポイント制による高度人材 | |
経営・管理 | 企業等の経営者、管理者等 | |
法律・会計業務 | 弁護士、公認会計士等 | |
医療 | 医師、歯科医師、看護師等 | |
研究 | 政府関係機関や企業等の研究者等 | |
教育 | 高等学校、中学校等の語学教師等 | |
技術・人文知識・国際業務 (技人国) | 機械工学等の技術者等、通訳、デザイナー、 語学講師等 | |
企業内転勤 | 外国の事務所からの転勤者 | |
介護 | 介護福祉士 | |
興行 | 俳優、歌手、プロスポーツ選手等 | |
技能 | 外国料理の調理人、スポーツ指導者等 | |
技能実習(1号・2号・3号) | 技能実習生 | |
特定技能(1号・2号) | 特定産業分野の従事者 (介護や農業、漁業、建設等) | |
身分・地位に基づく在留資格 (報酬を受ける活動の範囲に制限なし) | 永住者 | 永住許可を受けた者 |
日本人の配偶者等 | 日本人の配偶者・実子・特別養子 | |
永住者の配偶者等 | 永住者・特別永住者の配偶者、日本で出生し引き続き在留している実子 | |
定住者 | 日系3世、外国人配偶者の連れ子等 | |
就労の可否は指定される活動によるもの | 特定活動 | 外交官等の家事使用人、経済連携協定に基づく外国人看護師・介護福祉候補者、ワーキングホリデー、インターンシップ等 |
就労が原則として認められないもの | 文化活動 | 日本文化の研究者等 |
短期滞在 | 観光客、会議参加者等 | |
留学 | 大学、短期大学、高等専門学校、高等学校、 中学校および小学校等の学生・生徒 | |
研修 | 研修生 | |
家族滞在 | 在留外国人が扶養する配偶者・子 |
上記の中でも企業に雇用される人材の在留資格に多いのが、技術・人文知識・国際業務(技人国)、高度専門職、特定技能といった在留資格です。
まず、技人国はそれぞれ一定の学歴や専門性が求められ、技術はシステムエンジニアやゲーム開発といった理系の分野、人文知識は経理やマーケティング業務など人文科学の分野、国際業務は語学教師やデザイナーなど外国人ならではの思考や感受性が必要とされる分野の業務に従事します。
次に、高度専門職とは高度な知識や技術を持ち日本の経済発展に貢献する人材のことです。
図)就労が認められる在留資格の技能水準
外国人労働者の中には、技能実習や留学の在留資格で働く人も少なくありません。技能実習生の代表的な職種は建設業や農業、食品製造業などで、工場で加工食品を作る仕事も対象です。
留学生の場合はコンビニのレジや居酒屋の店員など、原則週28時間以内の範囲でアルバイトする人が一般的です。
原則として留学生には就労が認められていませんが、資格外活動の許可を得れば週28時間以内(在籍する教育機関が学則で定める長期休業期間中は、1日8時間以内)の範囲で就労が可能です(入管法施行規則19条5項1号)。
「特定技能」については次の項目で解説します。
1-2. 最近注目されている「特定技能」について
在留資格の中でも近年注目されているのが2019年に新設された特定技能です。特定技能は国内で人材確保が困難な産業(特定産業分野)において、一定の技能を有する外国人を受入れることを目的に新設されました。
いわば労働力不足解消のための在留資格で、これまでは認められていなかった産業・サービスの現場での就労を認めた在留資格です。
特定技能は特定技能1号、特定技能2号に分けられ、受入れ可能な産業は特定技能1号が介護、ビルクリーニング、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の12分野[2]です(2022年7月時点での情報)。
一方、特定技能2号の場合は建設、造船・船用工業の2分野のみに限定されています。それぞれの違いを下記で見ていきましょう。
【特定技能1号と特定技能2号の違い】[3]
特定技能1号 | 特定技能2号 | |
在留期間 | 1年、6カ月または4カ月ごとの更新、通算で上限5年まで | 3年、1年または6カ月ごとの更新 |
技能水準 | 試験等で確認(技能実習2号を修了した外国人は試験等免除) | 試験等で確認(技能検定1級の合格水準と同等) |
日本語能力水準 | 生活や業務に必要な日本語能力を試験等で確認(技能実習2号を修了した外国人は試験等免除) | 試験等での確認は不要 |
家族の帯同 | 基本的に認めない | 要件を満たせば可能(配偶者、子) |
受入れ機関または登録支援機関の支援 | 対象 | 対象外 |
特定技能の在留資格のうち、特に活用されているのが特定技能1号です。
特定技能1号の在留資格を得るためには、2つのルートがあります。1つは、技能実習を約3年間良好に行うことです。もう1つのルートは、一定の日本語試験および各特定産業分野の試験に合格することです。
このように特定技能制度は一定の日本語能力と産業分野の技能を有する人材を採用することができる制度なので、担い手不足の課題に直面する企業から注目を浴びているのです。
1-3. 「技能実習」と「特定技能」の違い
産業・サービスの現場で働くことができる在留資格として、技能実習と特定技能がありますが、両者は在留資格の目的がそもそも異なります。
技能実習が人材育成を通じ、日本の技術や知識などを開発途上国に移転することによる国際協力の推進を目的とする一方、特定技能は労働力の確保が目的です。
また、技能実習と特定技能では受入れ可能な産業や職種も異なります。
技能実習では、技能実習生が行う仕事の内容が一定の職種・作業に該当するかによって受入れの可否が判断されます。特に1年を超えて技能実習を行う場合には、合計86職種158作業に該当しなければなりません(2022年8月1日時点での情報)。
他方で、人手不足とされる12の産業分野において受入れが可能な特定技能では、指定された12の産業分野に該当しなければなりません。さらに、12の産業分野の中で、どのような仕事を行うことができるかも定められています。
その他の違いを下記で確認しておきましょう。
【技能実習と特定技能の制度比較(概要)】[4]
技能実習(団体監理型) | 特定技能(1号) | |
関係法令 | 外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律/出入国管理及び難民認定法 | 出入国管理及び難民認定法 |
在留資格 | 在留資格「技能実習」 | 在留資格「特定技能」 |
在留期間 | 技能実習1号:1年以内,技能実習2号:2年以内,技能実習3号:2年以内(合計で最長5年) | 通算5年 |
外国人の技能水準 | なし | 相当程度の知識又は経験が必要 |
入国時の試験 | なし (介護職種のみ入国時N4レベルの日本語能力要件あり) | 技能水準,日本語能力水準を試験等で確認 (技能実習2号を良好に修了した者は試験等免除) |
送出機関 | 外国政府の推薦又は認定を受けた機関 | なし |
監理団体 | あり (非営利の事業協同組合等が実習実施者への監査その他の監理事業を行う。主務大臣による許可制) | なし |
支援機関 | なし | あり (個人又は団体が受入れ機関からの委託を受けて特定技能外国人に住居の確保その他の支援を行う。出入国在留管理庁による登録制) |
外国人と受入れ機関のマッチング | 通常監理団体と送出機関を通して行われる | 受入れ機関が直接海外で採用活動を行い又は国内外のあっせん機関等を通じて採用することが可能 |
受入れ機関の人数枠 | 常勤職員の総数に応じた人数枠あり | 人数枠なし(介護分野,建設分野を除く) |
活動内容 | 技能実習計画に基づいて,講習を受け,及び技能等に係る業務に従事する活動(1号) 技能実習計画に基づいて技能等を要する業務に従事する活動(2号,3号)(非専門的・技術的分野) | 相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する活動 (専門的・技術的分野) |
転籍・転職 | 原則不可。ただし,実習実施者の倒産等やむを得ない場合や,2号から3号への移行時は転籍可能 | 同一の業務区分内又は試験によりその技能水準の共通性が確認されている業務区分間において転職可能 |
技能実習制度と特定技能制度は、そもそも目的の異なる別の制度です。そして、排他的にどちらかの制度を選ばなくてはならないものではなく、また、各制度を二項対立的にどちらの制度が良い悪いと判断できるものではありません。
自社が外国人労働者を採用する目的に応じ、最適な制度を選ぶことが望ましいでしょう。
[1] 出入国管理庁「新たな外国人労働者の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」,2022年7月,https://www.moj.go.jp/isa/content/001335263.pdf(閲覧日:2022年7月28日)
[2] 出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック~特定技能外国人の雇用を考えている事業者の方へ~」,https://www.moj.go.jp/isa/content/930006033.pdf(閲覧日:2022年7月29日)
[3] 出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック~特定技能外国人の雇用を考えている事業者の方へ~」,p1,https://www.moj.go.jp/isa/content/930006033.pdf(閲覧日:2022年8月4日)
[4] 出入国在留管理庁「新たな外国人労働者の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」,p10,https://www.moj.go.jp/isa/content/930004251.pdf(閲覧日:2022年8月4日)
2. 何からしたらよい?外国人労働者の受入れプロセス
ここでは、外国人労働者の一般的な受入れプロセスや労働条件で気を付けるべきポイント、労働環境の整え方について解説します。
2-1. 外国人労働者雇用の基本プロセス
外国人労働者を受入れる際は、「採用活動→在留資格取得の可否の確認→雇用契約の締結・内定→在留資格に関する申請→就労開始」の流れで行うのが一般的です。主に、必要な許可を有する事業者を通じて採用します。
外国人労働者を採用する際に気を付けるべきポイントは、自社で行ってほしい業務を明確にし、その業務に必要な在留資格を特定したうえで、それを取得できる人材を採用することです。
在留資格によって行うことができる業務が決まっているので、せっかく良い人材を採用できても自社で行なってほしい業務に対応する在留資格を取得できなければ、想定通りの活躍は期待できません。
そのため、日本人の採用よりも一層具体的に入社後の業務を特定したうえで採用活動を行う必要があります。
具体的に入社後の業務を検討すると、必要な在留資格が特定されます。その在留資格を取得できる人材か否か、在留資格の要件を参照しながら採用活動を行いましょう。業務に必要な在留資格を取得できそうであれば、正式に労働条件通知書兼承諾書や内定通知書を交付し、雇用契約を締結します。
日本以外の国では、内定という制度がなかったり、労働条件、賃金から控除される税金、社会保険の考え方などが異なっていたりすることも多々あります。入社後のトラブル防止のためにも、こういった制度の違いについて外国人労働者が理解しやすいように説明することが重要です。
雇用契約を締結したら、地方出入国在留管理局で在留資格の申請手続きを行います。海外から外国人労働者を呼び寄せる場合は「在留資格認定証明書交付申請」が、日本で働く外国人労働者の在留資格を変更する場合は「在留資格変更許可申請」が必要です。
既に外国人労働者が日本にいて、自社で働くことができる在留資格を持っている場合は、原則として在留資格に関する手続きは必要ありません。
ただし、高度専門職1号や特定技能のように働く法人が指定される在留資格については、既に在留資格を持っている人でも在留資格変更許可申請が必要です。また、働く法人が指定されない在留資格であっても、勤務先についての届出などが必要となる場合があるので注意してください。
処理にかかる期間は、在留資格認定証明書交付、在留資格変更とも一般的に1~2カ月ほどです。その間、原則として自社で働くことはできないので入社日が決まっている場合には、期日に間に合うようにスケジュールを考慮し手続きを行うことが重要です。
2-2. 外国人労働者の労働関係法令上の注意点
外国人労働者には労働基準法や労働契約法、労働安全衛生法、労働組合法、男女雇用機会均等法といった労働に関する法律(労働関係法令)が適用されます。ですが、日本人と同様の対応をすればよいことを必ずしも意味するものではありません。
例えば、労慟基準法106条の法令等の周知義務について、日本人従業員だけであれば日本語の就業規則だけで周知したことになるでしょう。
他方で、日本語を使用しない従業員が増えた状況において日本語のみの就業規則を周知した場合、それが労慟基準法106条のいう実質的周知として有効かについては現在定まった解釈はないようです。
また、外国人労働者の場合、社宅や寮を提供し、社宅等の費用を給与から控除することが考えられます。このとき、社宅等の費用を賃金から控除するには、労慟基準法24条に基づくいわゆる賃金控除に関する労使協定の締結が必要です。
このように外国人労働者を雇用する場合、労働関係法令は日本人を雇用する場合と同様に適用されますが、対応まで日本人の場合と全く同じというわけではありません。外国人労働者特有の論点や手続きがある点に注意してください。
2-3. 労働環境の整え方について
外国人労働者を受入れる前に、「社内の理解醸成」「規定・書式の見直し」「人事制度の見直し」を行いましょう。外国人労働者の雇用に関して、疑問や不安を覚える日本人従業員は少なくありません。
社内の理解を深めるためにも、在留資格や受入れに関する制度、自社の採用目的などを説明して、適正な受入れ方針を明確化することが大切です。受入れに成功している企業の事例を紹介して、前向きなイメージを持ってもらうのもよいでしょう。
「在留資格を失った」「入国できなかった」など、外国人労働者ならではの問題に対応できるよう、就業規則や労働条件通知書などの書式を見直すとともに、そういった事態が生じたときにどのような対応をとるかを検討し、相談できる弁護士や行政書士を確保しておくことが重要です。
採用方式に関しては、日本の場合、ポストを限定せず、また、職務の内容や勤務地なども決めずに採用する「メンバーシップ型雇用」が一般的です。しかし、海外の場合はポストが決まっており、そのポストに合わせて職務内容や勤務地などを明確にした「ジョブ型雇用」が主流です。
メンバーシップ型雇用の場合、企業の中心にいるのは職務の内容も場所も雇用期間も限定されていない無限定正社員であることがほとんどです。このように企業のメンバーシップの中心に無限定正社員がいる組織構造だと、職務に限定がある外国人労働者にとっては組織の中心に行くことが難しいと感じる可能性があります。
もちろん、メンバーシップ型雇用が必ずしも悪いわけではありません。特に、複雑化するサービス業では職務を限定することは困難でしょう。
ですが、企業の中心にいて上っていくことができる人材が限定されているような職場は、外国人労働者から見て魅力が少ないと映るかもしれません。そのため、さまざまなバックグラウンドを持った人がキャリアを構築していけるような組織と制度にすることが望ましいでしょう。
3. 外国人労働者の雇用に必要な届け出や手続きは?
外国人労働者には所得税や住民税といった税金が課税され、健康保険法などの社会保障関係法令が適用されます。ここでは、社会保険や脱退一時金など入退社に関する手続きについて解説します。
3-1. 入社手続き
1週間の所定労働時間が20時間以上など雇用保険の適用要件を満たしている場合は、「雇用保険被保険者資格取得届」を雇入れ日の翌月10日までにハローワークに提出しましょう。
受入れ企業には「雇用状況の届け出」の提出も義務付けられていますが、雇用保険の被保険者の場合には雇用保険の被保険者資格取得届が雇用状況の届け出も兼ねています。雇用保険の被保険者でない場合には、別に定められた様式で届け出を行ってください。
外国人労働者が初めて日本に住居地を決めたり、日本国内から住居地を変更したりした場合は、外国人本人が「住居地の届け出」を市区町村の窓口に提出する必要があります。居住地の届け出は引っ越しの度に必要になるので、外国人労働者に分かりやすく情報提供をするのが望ましいでしょう。
また、外国人労働者の在留期間は在留資格によって決められており、更新時期に「在留期間更新許可申請書」を地方入国管理局に提出する必要があります。在留期間を1日でも徒過してしまうといわゆるオーバーステイになり、働くことができないばかりか、その後日本にいることも困難になります。
採用している外国人労働者が在留資格を更新せず在留期間が徒過することがないよう、企業側も社内で十分な確認を行いましょう。
3-2. 退社手続き
外国人労働者が離職する場合は、日本人従業員が離職する際に必要な手続きに加えて、「外国人雇用状況の届出」の提出が義務付けられています。
さらに、離職から14日以内に外国人労働者本人が「所属機関等に関する届け出」を地方入国管理局に提出することが義務付けられているため注意しましょう。期限内に手続きしないと入管法違反になり、本人が不利益を被る可能性があります。
また、外国人労働者が退職後に帰国する場合は、厚生年金保険などの脱退一時金の手続きと、退職所得の選択課税制度の手続きを行うことができます。
脱退一時金制度とは、日本の年金制度に6カ月以上加入した外国人が帰国する際に、収めた保険料の一部が還付される制度のことで、請求期限は日本を離れてから2年以内です。
退職所得の選択課税制度とは、退職者本人が退職所得の課税ルールを選べる制度のことです。課税ルールは国内居住者と非居住者で異なり、退職後に帰国する非居住者の場合は脱退一時金の約20%が源泉徴収されます。
本人の収入や勤続年数などによっては国内居住者の課税ルールの方が非居住者よりも課税額が少なくなるので、制度を利用して課税ルールを変更することで還付を受けられる可能性があります。
これらの手続きは外国人労働者が日本を出国してから行うことが一般的なため、手続きを希望する際は日本国内に居住する人に依頼して納税管理人を立てなくてはなりません。外国人労働者本人には難しい手続きのため、企業側が弁護士や税理士などを窓口として提供し、環境を整備するとよいでしょう。
4. 外国人労働者の受入れ制度の問題点や課題は?
外国人労働者の受入れ制度の問題では、例えば技能実習制度の改廃や、技能実習制度と特定技能制度のどちらを選択するかなど、外国人労働者の受入れ国である日本の制度の改廃や選択を中心に話されることが多いです。
ですが、受入れ国の日本の制度を中心に見ていても、外国人労働者に生じている課題の本当の原因を把握することは困難です。
例えば、技能実習制度においては、実習実施者に対する監督指導から約70%の法令違反があると指摘されます。しかし、これは日本の中小企業における監督指導の結果と変わらず、技能実習制度が原因で法令違反が生じているとの結論をすぐに導けるものではありません。
外国人労働者を弱い立場に追いやる原因は受入れ国である日本の制度だけではなく、出身国から国境を越えて日本に来て就労し帰国する過程において生じるさまざまな困難も関係します。
外国人労働者を弱い立場に追いやる原因は、もちろん少なくできた方がよく、この脆弱性の原因を減らしていかなくてはなりません。ですが、外国人労働者を弱い立場に追いやる全ての原因を取り除くことはできません。
大切なのは、採用する企業が外国人労働者の弱い立場を利用しないことです。例えば、外国人労働者に対して「業務命令を聞かなければ帰国させる」と言い、弱い立場を利用するようなことをしてはならないし、させてもなりません。
5. 外国人労働者の受入れに見られる法令違反事例
外国人労働者の受入れ企業では、企業側が常識通りに対応をしているつもりでも違反事例になってしまうことが少なくありません。ここでは、企業の法令違反事例をご紹介します。
【非自発的離職者に関する違反事例】
A社は全国展開する総合ビルメンテナンス会社。オフィスビル管理部門において技能実習生20人、特定技能外国人15人を雇用している。オフィスビル管理を中心としていたため、2020年1月からの新型コロナウイルスの影響を大きく受けることはなかった。そんな中オフィスビル管理事業で雇用していた日本人従業員が就業規則に記載された普通解雇事由に該当する行為を行ったため、普通解雇を行った。結果としてA社は違反行為に該当し、特定技能所属機関の要件を欠くことになった。
特定技能外国人を受入れるためには企業側にいくつかの要件があり、その中の一つとして「特定技能外国人が従事する業務において、同じ業務に就く従業員を1年以内に非自発的に離職させていないこと」(特定技能雇用契約および一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令2条1項2号)が求められます。
企業側が雇用している従業員を非自発的に離職させ、その補填に特定技能外国人を受入れることは、人手不足に対応するための人材確保という本制度の目的に反するからです。
ただし、天候不順や自然災害、新型コロナウイルスなど感染症の影響で雇用が困難になり、人員整理を行った場合は非自発的離職者の発生に該当しません。A社の場合はそれらと関係なく普通解雇を行っているため、非自発的離職者の発生に該当します。
非自発的離職者を発生させた場合、特定技能1号の在留資格の該当性(入管法別表1の2)がなくなるため、特定技能外国人がそのまま働けば不法就労活動になりかねません。
このように、特定技能制度で認められている解雇の概念が労働関係法令で認められている解雇より狭くなるので、労働関係法令上問題がないと思った解雇でも違反になる恐れがあります。
特に、日本人従業員と外国人従業員で人事を所管する部門が社内で異なる場合、情報共有が不十分だと違反事例の発生につながりやすいので注意が必要です。
6. まとめ
外国人労働者の在留資格は29種類あり、入管法19条によりそれぞれ報酬を受ける活動の範囲が決まっています。
企業に雇用される人材に多いのは、技術・人文知識・国際業務、高度専門職、特定技能の在留資格です。特に近年注目されているのが特定技能で、人材確保が困難な産業において、これまでは認められていなかった産業・サービスの現場での就労が可能になったのが特徴です。
特定技能は特定技能1号と特定技能2号に分かれ、特に活用されているのが特定技能1号です。特定技能1号になるには「技能実習を約3年間良好に行う」「日本語能力試験、各特定産業分野の試験に合格する」という2つのルートがあり、一定の日本語能力と技能を有する必要があります。
産業・サービスの現場で働けるのは技能実習も同じですが、技能実習は人材育成を通じた国際協力のための制度、特定技能は労働力確保のための制度なので、目的が異なります。
外国人労働者の受入れプロセスは、「採用活動→在留資格取得の可否の確認→雇用契約の締結・内定→在留資格に関する申請→就労開始」の流れで行うのが一般的です。入社後の業務を特定した上で、業務に合った在留資格を取得できる、または取得できそうな外国人労働者を採用しましょう。
採用の際は労働条件通知書兼承諾書や内定通知書を交付したうえで、賃金から控除される税金、社会保険の考え方など、制度の違いについて説明しておくことが大切です。
契約を締結したら地方出入国在留管理局で在留資格の申請手続きを行います。申請から処理まで1~2カ月ほどかかるのが一般的なため、入社日に間に合うように手続きを済ませましょう。
また、外国人労働者には日本の労働関係法令が適用されますが、「社宅等の費用を賃金から控除するには、労働基準法24条に基づく賃金控除に関する労使協定の締結が必要」など、外国人ならではの論点や手続きがあるのでご注意ください。
受入れる前に「社内の理解醸成」「規定・書式の見直し」「人事制度の見直し」を行い、外国人労働者が働きやすい労働環境を整えることも求められます。
日本人従業員に自社の採用目的や適正な受入れ方針を説明し、外国人ならではの問題に対応できるよう就業規則や労働条件通知書などの書式を見直しましょう。トラブル時の対応策を検討したり、相談できる弁護士や行政書士を確保したりすることも重要です。
組織や制度を見直し、さまざまなバックグラウンドを持つ人材がキャリアを構築できる仕組みを整えることも求められます。
さらに、外国人労働者には日本人と同様に社会保障関係法令が適用されるので、入退社に関する手続きにも注意が必要です。
入社手続きでは、受入れ企業側がハローワークに「雇用保険被保険者資格取得届」や「雇用状況の届け出」を提出することが義務付けられています。外国人労働者が日本で初めて住居地を決めたり、日本国内から引っ越してきたりした場合は、本人が「住居地の届け出」を市区町村の窓口に提出しなくてはなりません。
各在留資格で定められた在留期間を1日でも過ぎるとオーバーステイになってしまうので、適切な時期に在留資格を更新するよう、企業側が外国人労働者に周知することも重要です。
退社手続きでは、日本人従業員の離職に必要な手続きに加えて「外国人雇用状況の届出」の提出が必須です。加えて14日以内に本人が「所属機関等に関する届け出」を地方入国管理局に提出することが義務付けられています。
外国人労働者が退職後に帰国する場合は、厚生年金保険などの脱退一時金の手続きと、退職所得の選択課税制度の手続きを行うこともできます。
脱退一時金制度とは、日本の年金制度に6カ月以上加入した外国人が帰国する際に、収めた税金の一部が還付される制度です。退職所得の選択課税制度とは、国内居住者か非居住者かで異なる課税ルールのどちらを適用するかを選べる制度を指します。
これらの手続きは外国人労働者が日本を出国してから行うことが一般的なため、手続きの際は納税管理人を立てなくてはなりません。外国人本人には難しい手続きのため、企業側が弁護士や税理士などを窓口として提供するとよいでしょう。
外国人労働者の受入れに関する課題については、技能実習制度の改廃や特定技能と技能実習のどちらを選択するかなど、日本側の制度や選択が指摘されることが大半です。
しかし、外国人労働者を弱い立場に追いやる原因は、受入れ国の日本の制度だけでなく、出身国を離れて日本で就労する過程で、さまざまな問題が起きる構造になっていることも関係しています。
全ての原因を取り除くことはできませんが、適正に受入れるためには採用する企業側が外国人労働者の弱い立場を利用せず、尊重することが求められます。
なお、受入れ企業の中には常識通りに対応しているつもりでも、知らないうちに違反行為に該当しているところが少なくありません。
よくある事例が非自発的離職者に関する違反事例です。特定技能外国人を受入れるためには、「特定技能外国人が従事する業務において、同じ業務に就く従業員を1年以内に非自発的に離職させていないこと」が求められます。
特定技能外国人を雇用する分野において従業員を普通解雇した場合、違反事例に該当し要件を欠いてしまうので要注意です。
これまで見たように、外国人労働者の採用は日本人とは異なるところがあり、気を付けなくてはならないポイントがあります。それらに、不安を感じることもあるかもしれません。
ですが、バックグラウンドの異なる多様な人材を採用し、組織をつくることは企業としての競争力を高め、また、従業員が楽しさを感じる職場をつくることにもつながります。ぜひ、外国人労働者を採用する最初の一歩を踏み出してみてください。
参考)
出入国在留管理庁「資格外活動許可について」,https://www.moj.go.jp/isa/applications/guide/nyuukokukanri07_00045.html(閲覧日:2022年7月29日)
出入国在留管理庁「特定技能ガイドブック~特定技能外国人の雇用を考えている事業者の方へ~」,https://www.moj.go.jp/isa/content/930006033.pdf(閲覧日:2022年8月4日)
出入国在留管理庁「新たな外国人労働者の受入れ及び共生社会実現に向けた取組」,2022年7月,p10,https://www.moj.go.jp/isa/content/001335263.pdf(閲覧日:2022年8月1日)
出入国在留管理庁「在留審査処理期間(日数)」,https://www.moj.go.jp/isa/content/930003625.pdf(閲覧日:2022年8月1日)
厚生労働省「外国人の採用や雇用管理を考える事業主・人事担当者の方々へ 外国人の活用好事例集~外国人と上手く協働していくために~」,https://www.mhlw.go.jp/content/000541696.pdf(閲覧日:2022年8月2日)
厚生労働省「外国人を雇用する事業主の皆さまへ 外国人労働者の雇用保険手続きをお忘れなく!」,https://jsite.mhlw.go.jp/shizuoka-roudoukyoku/content/contents/250318.pdf(閲覧日:2022年8月2日)
厚生労働省「「外国人雇用状況の届出」は、全ての事業主の義務であり、外国人の雇入れの場合はもちろん、離職の際にも必要です!」,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/todokede/index.html(閲覧日:2022年8月2日)