この記事を読むと、次のことが分かります。
・生活指導員の役割
・生活指導員になるための要件
・生活指導員講習を受けるメリット
生活指導員とは、技能実習生の日本での生活全般を管理・指導する職員です。技能実習を行わせる体制に関する要件として、事業所ごとに生活指導員を選任することが主務省令で定められています。
生活指導員には、技能実習生の相談に乗り生活をサポートすることで、未然にトラブルを防ぐという重要な役割があります。
本稿では、生活指導員に関する基礎知識や講習などについて解説します。技能実習を円滑に行うために、技能実習生の受入れを検討中または準備中の方はご一読ください。
1. 生活指導員とは?技能実習生の生活サポーター
この章では、生活指導員の役割や、技能実習において生活指導員が必要な理由について解説します。
1-1. 生活指導員とは
生活指導員とは、技能実習生の日本での生活全般を管理・指導する職員です。
技能実習を行わせる体制に関する要件として、技能実習責任者、技能実習指導員とともに、生活指導員を選任することが主務省令で定められています(外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律施行規則[技能実習法施行規則]第12条第1項第3号)。
生活指導員の役割は、技能実習生の生活上の相談に乗りサポートすることで、技能実習を円滑に進めることです。サポート内容は日常生活に必要な情報の提供、技能実習生の生活状況の確認、人間関係の悩みを聞くなど多岐にわたります。
配置人数は、各事業所に1人以上です。
コラム:技能実習指導員・技能実習責任者とは
実習実施者は生活指導員の他に、技能実習指導員と技能実習責任者も選任する必要があります。ここでは、技能実習指導員・技能実習責任者の役割や要件を紹介します。
・技能実習指導員
技能実習指導員は仕事に関する指導を行います。技能実習の現場で直接指導する必要があるため、技能実習生に習得させる技能について5年以上経験のある常勤の役職員で、技能実習を行う事業所に所属していることが要件です。
また、介護の現場では、技能実習指導員のうち少なくとも1人は介護福祉士・実務者研修修了・看護師・准看護師のいずれかの資格を持っていることが求められます。
・技能実習責任者
技能実習責任者は、技能実習全体を管理し、技能実施指導員や生活指導員などの技能実習に関わる職員を監督します。過去3年以内に技能実習責任者講習を受講したことがあり、技能実習に関与する職員を監督できる立場の常勤役職員がなることができます。
1-2. 生活指導員が必要な理由
技能実習生の多くは、 日本に来るのが初めてで 、日本語も流ちょうに話せません。実習期間は母国とは異なる環境下に置かれ、ストレスを抱え込むことがあります。そのような状態を放置していると、技能実習生がトラブルを起こしたり、最悪の場合失踪してしまったりすることもあります。
2021年の技能実習生の失踪者は7,167人[1]でした。同年の技能実習生の総数は35万1,788人[2]なので、約2%の技能実習生が失踪していることになります。
また、失踪にまで至らなくても、悩みを解消できなければ、技能実習の途中で帰国してしまう可能性もあります。このような展開は、技能実習生本人にとっても、実習実施者にとっても、本意ではないでしょう。
生活指導員は日頃から技能実習生の相談に乗り 、このようなトラブルを未然に防ぐ ために選任することが定められています。
2. 生活指導員には誰でもなれる?
この章では、生活指導員になるための要件などについて解説します。
2-1. 生活指導員になるための要件
生活指導員になるための要件は以下の通りです(技能実習法施行規則12条1項3号)[3]。
申請者又はその常勤の役員若しくは職員のうち、技能実習を行わせる事業所に所属する者
申請者とは、技能実習計画認定申請をする者、つまり実習実施者のことです。また、技能実習を行わせる事業所とは、技能実習計画および実習実施予定表に記載した事業所を指します。この条件を満たしていれば、特に資格などは必要ありません。
しかし、以下に該当する人は生活指導員になることはできません(技能実習法施行規則第12条第1項第2号、同項第3号)[4]。
・欠格事由に該当する者
・過去5年以内に出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をした者
・未成年者
「欠格事由に該当する者」とは、禁錮以上の刑に処せられ、その執行を終えた日から5年を経過していない者などです。
また、要件ではありませんが、生活相談員は技能実習生のさまざまな悩みを聞くことが多いため、技能実習生と意思疎通ができる言語が話せるとよいでしょう。もし、言語面で技能実習生とのやりとりが難しいと感じる場合は、動画の教材を補助的に使用するという方法もあります。
例えば、ライトワークスが提供するeラーニング「日本で暮らす・働くシリーズ」の「暮らし編」では、日本で生活するために役に立つ情報を動画で分かりやすく紹介しています。動画には日本語版の他、技能実習生に多いベトナム出身者がより理解しやすいベトナム語版もあります。ぜひ、活用を検討してみてください。
参考) ライトワークス|eラーニング【日本で暮らす・働くシリーズ】「暮らし編・電車やバスの使い方」 https://www.youtube.com/watch?v=3iUKYEl_EG8
2-2. 生活指導員、補助者を付けたり兼任したりはできる?
生活指導員は、技能実習生の生活指導を行うに当たって補助者を付けることが可能です。技能実習生の人数が多くて生活指導員だけでは対応が難しい場合、技能実習生と年齢が近い人や同性が相談に乗った方が良い場合など、状況に合わせて補助者を付け、柔軟に対応しましょう。
また、技能実習責任者、技能実習指導員、生活指導員は、各々に求められる要件を備えた上であれば、兼任することが可能です。
3. 生活指導員講習の受講はマスト?
この章では、生活指導員講習の概要や受講するメリットについて解説します。
3-1. 生活指導員講習の内容
生活指導員には、任意で受ける講習があります。講習の概要は以下の通りです。
表)生活指導員講習の概要
講習内容 | ・外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法) ・労働基準法および労働関係法令 ・労働災害防止 ・労働災害時対応 ・技能実習生との向き合い方 |
講習時間 | 4.5時間 |
講習費用 | 約1万円(講習実施機関によって異なる) |
講習の流れ | 1. 講義 2. 理解度テストの実施・採点 3. 受講証明書交付(理解度テスト合格者のみ) |
公益社団法人全国労働基準関係団体連合会「技能実習責任者等講習」を基にライトワークスにて作成,https://www.zenkiren.com/seminar/ginoujissyu001/ginousekinin001.html(閲覧日:2023年3月2日)
講義後に受ける理解度テストで70点以上取得できれば合格となり、受講証明書が交付されます。受講証明書は後ほど解説する「優良な実習実施者」の認定において加点を得るために必要になるので、大切に保管しておきましょう。
なお、講習を実施している機関は厚生労働省のホームページで確認できます。実施機関が近くになくても、オンラインで受講することができます。
参考) 厚生労働省|外国人技能実習制度における養成講習についてはこちら https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000158734.html
3-2. 生活指導員講習を受けるとメリットあり!
生活指導員養成講習の受講は義務ではありませんが、受講することで優良な実習実施者の認定要件で加点対象になるというメリットがあります。
ただし、加点されるには生活指導員全員の受講証明書の写しを外国人技能実習機構(OTIT)へ提出する必要があり、そのためには理解度テストに合格しなければなりません。ただ受講するだけでは加点対象にならないので、注意してください。
優良な実習実施者とは、以下のように規定されています(技能実習法第9条第10号)[5]。
実習実施者について、技能等の修得等をさせる能力につき高い水準を満たすものとして主務省令で定める基準に適合していること
優良な実習実施者に認定されると、技能実習3号の受入れが可能になり、技能実習生の受入れ人数も拡大します。技能実習3号は、既に日本で3年間実習を行った技能実習生が引き続き実習を受けるために取得する在留資格です。これを持つ技能実習生は、より熟達した技術を持っているといえるでしょう。
このように、生活指導員講習を受講すると、技能実習生の生活をサポートするための知識を得られるだけでなく、優良な実習実施者の認定を受けやすくなるというメリットもあります。一度受講を検討してみてはいかがでしょうか。
優良な実習実施者について、詳しくはこちらをご覧ください。
コラム:優良な実習実施者の認定要件
優良な実習実施者の認定要件には以下のような項目があり、認定されるには規定の点数を取得する必要があります。
表)優良な実習実施者の要件
要件 | 点数 |
技能などの習得などに係る実績 | 70点 |
技能実習を行わせる体制 | 10点 |
技能実習生の待遇 | 10点 |
法令違反・問題の発生状況 | 5点 |
相談・支援体制 | 45点 |
地域社会との共生 | 10点 |
出入国在留管理庁・厚生労働省「技能実習制度 運用要領 ~ 関係者の皆さまへ ~」,2023年4月公表,p107-109を基にライトワークスにて作成,https://www.moj.go.jp/isa/content/930005219.pdf(閲覧日:2023年3月2日)
生活指導員全員が講習を受け、理解度テストに合格している場合、上記要件のうち「技能を行わせる体制」の項目で加点が得られます。配点は5点です。
満点150点のうち90点以上を取得すれば、優良な実習実施者に認定されます。要件をみると、技能実習生が着実に技能を習得できるよう実習環境の総合的な整備が求められていることが分かります。
4. まとめ
生活指導員とは、技能実習生の日本での生活全般を管理・指導する職員です。技能実習を行わせる体制に関する要件として、各事業所に1人以上選任することが主務省令で定められています。
生活指導員の役割は、技能実習生の生活上の相談に乗りサポートすることで、技能実習を円滑に進め、失踪などのトラブルを未然に防ぐことです。
生活指導員になるための要件は「実習実施者または、常勤の役員・職員であり、技能実習を行う事業所に所属する者」です。
しかし、以下に該当する人は生活指導員になることはできません。
・欠格事由に該当する者
・過去5年以内に出入国または労働に関する法令に関し不正または著しく不当な行為をした者
・未成年者
また、生活指導員は補助者を付けることが可能であり、技能実習指導員や技能実習責任者と兼任することもできます。
生活指導員講習の受講は任意ですが、生活指導員全員が受講し、受講証明書を取得することで優良な実習実施者の認定において加点されるというメリットがあります。優良な実習実施者に認定されると、技能実習3号の受入れが可能になり、技能実習生の受入れ人数も拡大します。
生活指導員講習の概要は以下の通りです。
表)生活指導員講習の概要
講習内容 | ・外国人の技能実習の適正な実施および技能実習生の保護に関する法律 ・労働基準法および労働関係法令について ・労働災害防止 ・労働災害時対応 ・技能実習生との向き合い方 |
講習時間 | 4.5時間 |
講習費用 | 約1万円(講習実施機関によって異なる) |
講習の流れ | 1. 講義 2. 理解度テストの実施・採点 3. 受講証明書交付(理解度テスト合格者のみ) |
公益社団法人全国労働基準関係団体連合会「技能実習責任者等講習」を基にライトワークスにて作成,https://www.zenkiren.com/seminar/ginoujissyu001/ginousekinin001.html(閲覧日:2023年3月2日)
理解度テストで70点以上取得できれば合格となり、受講証明書が交付されます。受講証明書は、優良な実習実施者の認定要件で加点を得るために必要です。なお、講習を実施している機関は厚生労働省のホームページで確認できます。
生活指導員は、技能実習生の生活サポーターです。技能実習生が日本の生活に慣れ、技能習得に集中できるよう適切に選任しましょう。
[1] 出入国在留管理庁「技能実習生の失踪者の推移(平成25年~令和4年上半期)」,https://www.moj.go.jp/isa/content/001362001.pdf(閲覧日:2023年3月3日)
[2] 厚生労働省「「外国人雇用状況」の届出状況表一覧(令和3年10月末現在)」,https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/000887555.pdf(閲覧日:2023年3月3日)
[3] e-GOV「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律施行規則」,https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=428M60000110003(閲覧日:2023年3月2日)
[4] 出入国在留管理庁・厚生労働省「技能実習制度 運用要領 ~ 関係者の皆さまへ ~」,2023年4月公表,p83,https://www.moj.go.jp/isa/content/930005219.pdf(閲覧日:2023年3月2日)
[5] 出入国在留管理庁・厚生労働省「外国人技能実習制度について」,2023年3月31日公表,p13,https://www.moj.go.jp/isa/content/930005177.pdf(閲覧日:2023年3月2日)
参考)
公益財団法人国際人材協力機構,「外国人技能実習制度とは」,https://www.jitco.or.jp/ja/regulation/(閲覧日:2023年3月2日)
公益財団法人国際人材協力機構,「養成講習とは」,https://www.jitco.or.jp/ja/regulation/training.html(閲覧日:2023年3月2日)
OTIT外国人技能実習機構,「よくある御質問(技能実習計画の認定申請関係)」,https://www.otit.go.jp/files/user/docs/info_jissyu_06.pdf(閲覧日:2023年3月2日)
出入国在留管理庁・厚生労働省「外国人技能実習制度について」,2023年3月31日公表,https://www.moj.go.jp/isa/content/930005177.pdf(閲覧日:2023年3月2日)
出入国在留管理庁・厚生労働省「技能実習制度 運用要領 ~ 関係者の皆さまへ ~」,2023年4月公表,https://www.moj.go.jp/isa/content/930005219.pdf(閲覧日:2023年3月2日)
公益社団法人全国労働基準関係団体連合会「オンライン生活指導員講習の申込フォーム」,https://www.zenkiren.com/seminar/onlineginousekinin001/onlineseikatsushidoin-form.html(閲覧日:2023年3月2日)