この記事を読むと、次のことが分かります。
・外国人雇用状況届出に関する基礎知識
・外国人雇用状況届出に必要な確認書類
・外国人雇用状況届出以外に必要な、外国人労働者ならではの入社・退社手続き
・外国人雇用状況届出など外国人雇用に関する相談、支援先
外国人雇用状況届出は外国人労働者の雇い入れ・離職時に必要になる手続きで、怠ると罰則の対象になります。他にも外国人労働者の入社・退社時には日本人にはない手続きが必要になるので、外国人雇用を検討中の方は併せて把握しておきましょう。
目次
1. 外国人雇用状況届出とは、外国人労働者の雇い入れ・離職時に提出する書類
外国人雇用状況届出とは、外国人労働者を雇用する企業が外国人労働者の雇い入れ・離職時にハローワークを通して厚生労働大臣に届け出る書類のことで、正式名称を「外国人雇用状況の届出」といいます。記載する内容は、外国人労働者の氏名、在留資格、在留期間などです。
1-1. 外国人雇用状況届出を提出する目的
外国人雇用状況届出を提出する主な目的は下記の通りです。
・不法就労を防止するため
・ハローワークが受入れ企業に助言や指導を行うため
・ハローワークが離職した外国人労働者へ再就職支援を行うため
・厚生労働省が外国人労働者の雇用状況を集計するため
・不法就労を防止するため
外国人雇用状況届出の作成に当たり、企業は雇い入れ時に外国人労働者の在留資格を確認する必要があるため、不法就労を防ぐことができます。
・ハローワークが受入れ企業に助言や指導を行うため
ハローワークでは外国人雇用状況届出を基に受入れ企業に対する助言や指導を行っており、外国人が働きやすいよう労働環境の改善を促しています。
・ハローワークが離職した外国人労働者へ再就職支援を行うため
ハローワークでは離職した外国人労働者への再就職支援も行っているため、外国人雇用状況届出の提出が外国人労働者の雇用の安定につながっているといえます。
・厚生労働省が外国人労働者の雇用状況を集計するため
厚生労働省では毎年10月末に外国人雇用状況届出の提出状況を集計し、翌年1月末に結果を公表しています。これにより受入れ企業の情報も含め、外国人労働者の雇用状況が明らかになるため、日本人と外国人労働者の処遇格差など、日本が抱える課題について考える材料ともなっています。
このように外国人雇用状況届出は、外国人が安定して働けるよう企業に対して外国人労働者の適正な受入れと就労環境の整備を促す効果があるといえるでしょう。
1-2. 外国人雇用状況届出の対象となる外国人労働者
外国人雇用状況届出の対象となるのは、日本国籍を持っていない人で在留資格「外交」「公用」以外の外国人労働者です。ただし、日本国籍を持っていない「特別永住者」の場合は、特別の法的地位が与えられているため外国人雇用状況届出を出す必要はありません。
特別永住者と間違えやすい「永住者」や「日本人の配偶者」といった身分に基づく在留資格の場合は、外国人雇用状況届出の対象となるのでご注意ください。
1-3. アルバイトや派遣の場合も外国人雇用状況届出が必要
外国人雇用状況届出は、外国人労働者の雇用形態がアルバイトや派遣の場合にも提出が必要です。アルバイト雇用では、在留資格によって「資格外活動許可」が必要な場合があるため、許可を受けているか確認しましょう。
資格外活動許可とは、現在所有する在留資格で認められた範囲外で、報酬を受ける活動を行う場合に必要となる許可のことです。永住者や日本人の配偶者、定住者など許可がなくてもアルバイトできる在留資格もありますが、留学生の場合は資格外活動許可を受けなければアルバイトができません。
留学生が資格外活動許可を受ければ、原則週に28時間までアルバイトができます。
派遣の場合は、「技術・人文知識・国際業務」、「高度専門職」といった高度外国人材、農業または漁業分野で働く「特定技能」などが対象となるのが一般的です。派遣の場合は直接の雇用主である派遣会社が外国人雇用状況届出を作成するため、派遣先である受入れ企業側が提出する必要はありません。
2. 外国人雇用状況届出を提出しないと罰則の対象になる
外国人雇用状況届出は下記法律で定められているため、提出しないと指導・勧告の対象になるとともに30万円以下の罰金の対象になります。
労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和四十一年法律第百三十二号)
(外国人雇用状況の届出等)
第二十八条
事業主は、新たに外国人を雇い入れた場合又はその雇用する外国人が離職した場合には、厚生労働省令で定めるところにより、その者の氏名、在留資格、在留期間その他厚生労働省令で定める事項について確認し、当該事項を厚生労働大臣に届け出なければならない。[1]
ただし、面接時に外国人労働者と判断できないまま採用し、外国人雇用状況届出の提出を怠ったなど、故意ではない場合は法令違反を問われないことがあります。万が一提出を怠ってしまったときは、早めにハローワークに問い合わせましょう。
[1] e-Gov法令検索「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」,https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=341AC0000000132(閲覧日:2022年11月28日)
3. 外国人雇用状況届出の出し方は2パターン
外国人雇用状況届出の出し方は、「ハローワークに提出する」「オンラインで提出する」の2パターンです。それぞれの提出方法を見ていきましょう。
3-1. ハローワークに提出
外国人労働者が雇用保険の被保険者に該当する場合は、雇用保険の適用を受けている事業所を管轄するハローワークに届け出ます。外国人労働者が雇用保険の被保険者に該当しない場合は、その外国人労働者が勤務する支店、店舗、工場などの住所を管轄するハローワークに届け出てください。
3-2. 「外国人雇用状況届出システム」からオンラインで提出
外国人雇用状況届出は、外国人労働者が雇用保険の被保険者の場合は「e-Gov」「マイナポータル」から、雇用保険の被保険者でない場合は「外国人雇用状況届出システム」からオンラインで提出できます。
いずれも原則いつでも申請でき、内容の確認や修正もオンラインでできるのでハローワークに行く手間を省けるのがメリットです。
ただし、外国人雇用状況届出システムは過去に一度でも様式第3号、様式第2号、様式第4号の外国人雇用状況届出をハローワークに提出している場合は、オンラインで新規ユーザー登録をすることができません。
今後オンラインでの届出を希望する場合は、過去に提出したハローワークに問い合わせ、オンラインでの提出に切り替えてもらいましょう。
4. 外国人雇用状況届出を提出する書式は「雇用保険の被保険者か」で決まる
外国人雇用状況届出の様式は、「雇用保険の被保険者かどうか」で下表のように異なります。
【雇用保険の被保険者とそうでない場合の外国人雇用状況届出について[2]】
外国人労働者が雇用保険の対象になる | 外国人労働者が雇用保険の対象にならない | |
様式 | 雇い入れ時:雇用保険被保険者資格取得届(様式第2号) 離職時:雇用保険被保険者資格喪失届(様式第4号) | 外国人雇用状況届出書(様式第3号) |
届出事項 | ・氏名 ・在留資格 ・在留期間 ・生年月日 ・性別 ・国籍、地域 ・資格外活動の有無(雇い入れ時のみ) ・在留カード番号 ・雇い入れまたは離職に係る事業所の名称および所在地など | ・氏名 ・在留資格 ・在留期間 ・生年月日 ・性別 ・国籍、地域 ・資格外活動許可の有無(雇い入れ時のみ) ・在留カード番号 ・雇い入れ日または離職年月日 ・雇い入れまたは離職に係る事業所の名称、所在地など |
届出方法 | ・雇用保険の適用を受けている事業所を管轄するハローワークに提出 ・e-Gov、マイナポータルからオンラインで提出 | ・当該外国人労働者が勤務する事業所施設の住所を管轄するハローワークに提出 ・外国人雇用状況届出システムからオンラインで提出 |
提出期限 | 雇い入れ時:雇い入れ日の翌月10日まで 離職時:離職した日の翌日から10日以内 | 翌月末日まで |
雇用保険の適用対象になるのは、「31日以上の雇用見込みがある」「1週間当たりの所定労働時間が20時間以上」の労働者で、要件を満たせば外国人労働者も加入する必要があります。
留学生アルバイトの場合は、通信教育課程や夜間部の学生などが雇用保険の適用対象です。昼間部の学生は「学業が本分」と見なされるため、31日以上の長期で1週間に20時間以上働いても雇用保険に加入することはできません。
ただし、卒業見込みがあり卒業後にアルバイト先に就職する予定があるなど、一定の条件を満たせば昼間部の学生でも雇用保険に加入できます。
4-1. 【雇い入れ時】外国人労働者が雇用保険に加入している場合
外国人労働者が雇用保険に加入する場合、雇用保険被保険者資格取得届(様式第2号)を提出します。雇用保険被保険者資格取得届1枚で外国人雇用状況届出も兼ねているため、別途書類を提出する必要はありません。
図)雇用保険被保険者資格取得届(様式第2号)
引用元)厚生労働省 都道府県労働局 ハローワーク「外国人雇用はルールを守って適正に」,2022年6月公表,p3,https://www.mhlw.go.jp/content/000603552.pdf(閲覧日:2022年11月28日)
また、2020年3月1日以降に雇い入れた外国人労働者については、下図のように表面に在留カード番号の記載が必要です。
図)在留カード番号の届出について
引用元)厚生労働省 都道府県労働局 ハローワーク「外国人雇用はルールを守って適正に」,2022年6月公表,p6,https://www.mhlw.go.jp/content/000603552.pdf(閲覧日:2022年11月28日)
在留カードとは?
在留カードとは、中長期滞在者と呼ばれる日本に3カ月を超えて滞在する外国人に対して交付される身分証明書のことです。在留カードを見れば、氏名や国籍、生年月日、住所などはもちろん、「何の在留資格を持っているか」「いつまで日本に在留できるか」なども分かります。
なお、中長期滞在者には「短期滞在」「外交」「公用」「特別永住者」「在留資格を持っていない人」は含まれません。
4-2. 【離職時】外国人労働者が雇用保険に加入している場合
雇用保険に加入している外国人労働者が離職する場合、雇用保険被保険者資格喪失届(様式第4号)を提出します。
図)雇用保険被保険者資格喪失届の様式(様式第4号)
引用元)厚生労働省 都道府県労働局 ハローワーク「外国人雇用はルールを守って適正に」,2022年6月公表,p4,https://www.mhlw.go.jp/content/000603552.pdf(閲覧日:2022年11月28日)
2020年3月1日以降に離職した外国人労働者については、裏面に在留カード番号も記載しましょう。
図)在留カード番号の届出について
引用元)厚生労働省 都道府県労働局 ハローワーク「外国人雇用はルールを守って適正に」,2022年6月公表,p6,https://www.mhlw.go.jp/content/000603552.pdf(閲覧日:2022年11月28日)
4-3. 【雇い入れ・離職時】外国人労働者が雇用保険に加入しない場合
外国人労働者が雇用保険に加入しない場合は、雇い入れ時・離職時に外国人雇用状況届出書(様式第3号)の提出が必要です。
図)外国人雇用状況届出書の様式(様式第3号)
引用元)厚生労働省 都道府県労働局 ハローワーク「外国人雇用はルールを守って適正に」,2022年6月公表,p5,https://www.mhlw.go.jp/content/000603552.pdf(閲覧日:2022年11月28日)
2020年3月1日以降に雇い入れ、離職した外国人労働者については、下図のように外国人雇用状況届出書において在留カード番号の記載が必要です。
図)在留カード番号について
引用元)厚生労働省 都道府県労働局 ハローワーク「外国人雇用はルールを守って適正に」,2022年6月公表,p6,https://www.mhlw.go.jp/content/000603552.pdf(閲覧日:2022年11月28日)
[2] 厚生労働省「外国人雇用はルールを守って適正に」,2022年6月,https://www.mhlw.go.jp/content/000603552.pdf(閲覧日:2022年11月28日)
厚生労働省「手続き一覧表」,https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/koyouhoken/tetsuduki_ichiran01.html(閲覧日:2022年11月28日)
5. 外国人雇用状況届出に必要な確認書類
外国人雇用状況届出の作成においては、下図いずれかの書類を使って必要事項を記入します。
図)確認のための書類(見本)
引用元)厚生労働省 都道府県労働局 ハローワーク「外国人雇用はルールを守って適正に」,2022年6月公表,p8,https://www.mhlw.go.jp/content/000603552.pdf(閲覧日:2022年11月28日)
上陸許可証印とは、外国人が上陸許可を受けた際にパスポートに貼られるシールのこと、指定書とは特定技能・特定活動・技能実習などの在留資格で上陸許可を受けた人のパスポートに貼り付けられた書類のことです。
外国人雇用状況届出においては通称ではなく本名を記載し、生年月日、性別、国籍・地域も在留カードまたはパスポートの記載通りに書いてください。在留資格・在留期間も在留カードまたはパスポートの上陸許可認印の通りに記載します。
留学生アルバイトの場合は、資格外活動許可を受けているか確認しましょう。許可を受けているかは在留カード裏面の資格外活動許可欄、パスポートの資格外活動許可証印、資格外活動許可書などから確認できます。
なお、確認書類のコピーなどを提出する必要はありません。
6. 外国人雇用状況届出以外に入社・退社で必要な手続き
外国人労働者の入社・退社手続きは、日本人の場合と基本的には変わりません。外国人労働者にも日本の法律が適用されるため、所得税や住民税が課税され、労働保険や社会保険に加入する必要があります。
ここでは、外国人雇用状況届出以外にどのような手続きが必要か、外国人労働者ならではの入社・退社手続きについて見ていきます。
6-1. 外国人雇用状況届出以外に必要な入社手続き
外国人労働者が日本に初めて居住地を決めたり、国内から引っ越してきたりした場合は、住居地の届出が必要です。住居地を決めた日から14日以内に、外国人労働者本人が在留カードもしくは「後日在留カードを交付する」旨が記載されたパスポートを持参し、市区町村の窓口に届け出ます。
併せて、日本人と同様に転入届や転出届といった住民基本台帳上の届出が求められますが、これらの身分証明書を提示すれば住居地の届出も一括で済ますことができます。住居地の届出は引っ越しの度に必要になるため、忘れないよう外国人労働者に教えておくとよいでしょう。
また、外国人労働者は在留資格によって在留期間が決まっているため、更新するには管轄の地方出入国在留管理官局で「在留資格更新許可申請」を行う必要があります。申請せずに在留期間を過ぎてしまうとオーバーステイとなり、日本で暮らすことが困難になってしまいます。
在留期間満了日のおおむね3カ月前から申請を受け付けているので、外国人労働者に早めの手続きを促すとよいでしょう。
6-2. 外国人雇用状況届出以外に必要な退社手続き
外国人労働者が退社した場合、在留資格の基礎となる社会的関係が変更になるため、本人が「所属機関等に関する届出」を管轄の地方出入国在留管理局に提出しなくてはなりません。
期限は離職した日から14日以内で、1日でも過ぎると入管法違反になってしまいます。違反すると外国人労働者本人が在留資格の変更や更新の際に不利益を被る可能性があるので、早めの手続きを促しましょう。
また、退職した外国人労働者が帰国する場合は、日本の年金制度への加入期間に応じて「厚生年金保険などの脱退一時金手続き」を行います。「退職所得の選択課税制度」を利用する場合は、その手続きも必要です。
脱退一時金制度とは、国民年金や厚生年金保険などに6カ月以上加入していた外国人労働者が、資格を喪失して出国した場合に納めた保険料の一部が還付される制度です。請求期限は日本を離れた日から2年以内で、本人が脱退一時金請求書を日本年金機構などに提出します。
一方、退職所得の選択課税制度とは、退職所得の課税ルールを退職者が選べる制度です。脱退一時金は退職所得と見なされ、日本の国内居住者と国外居住者で課税ルールが異なります。外国人労働者が退職後に帰国すると国外居住者の課税ルールが適用され、脱退一時金の約20%が源泉徴収されます。
本人の収入や勤続年数などによっては、国外住居者の課税ルールよりも国内居住者の課税ルールを適用した方が課税額が少ないことがあります。そのような場合、制度を利用することで還付を受けられる可能性があるでしょう。
いずれも日本を離れてから手続きするのが一般的ですが、海外にいながら日本国内にいる人に手続きを依頼し、納税管理人を立てなくてはいけません。外国人労働者本人には難しい手続きのため、企業側が外国人雇用に詳しい弁護士や税理士などを窓口として用意し、支援するとよいでしょう。
7. 外国人雇用状況届出に関する問い合わせ先
外国人雇用状況届出に関して不明点があるときは、最寄りの都道府県労働局またはハローワークに問い合わせましょう。他にも外国人雇用に関する相談・支援先はさまざまありますが、代表的なものとして下記が挙げられます。
・外国人雇用管理アドバイザー
・外国人在留総合インフォメーションセンター
・JETRO外国人材活躍支援パッケージ
・外国人雇用管理アドバイザー
外国人雇用管理アドバイザーとは、外国人労働者の雇用管理の改善や生活上の問題などについて、企業の実態に応じた指導やサポートを行う人です。アドバイザーは各都道府県のハローワークに配置されており、無料で相談できます。
相談を申し込むと、日程を調節の上、自社へ外国人雇用管理アドバイザーが派遣されます。また、ハローワーク内でアドバイザーに相談できる機会を設けていることもあります。気になる方は近くのハローワークに問い合わせてみましょう。
・外国人在留総合インフォメーションセンター
外国人在留総合インフォメーションセンターとは、各地方出入国在留管理局・支局に設置された相談窓口のことで、入国手続きや在留手続きなどに関する問い合わせに対応しています。北海道、東京都、大阪府、沖縄県など11都道府県に窓口があり、電話であれば全国どこからでも相談できます。
・JETRO 外国人材活躍支援パッケージ
JETROでは、海外展開を目指す中堅・中小企業に対して、高度外国人材の採用から定着までを「合同説明会」「育成・定着講習会」「専門家への相談」の3つのプログラムでサポートしています。
併せて、JETROのコーディネーターが企業の状況に応じて採用計画の策定から採用後の社内制度設計まで支援するため、初めて外国人労働者を採用する企業も適正に受入れられます。
支援を受けるには審査がありますが、採択企業の費用負担は原則無料のため、気になる方は応募をご検討ください。ちなみに、2022年度は約200社を募集しました。
8. まとめ
外国人雇用状況届出とは、外国人労働者を雇用する企業が外国人労働者の雇い入れ・離職時にハローワークを通して厚生労働大臣に届け出る書類です。正式名称は「外国人雇用状況の届出」といいます。
外国人雇用状況届出を提出する目的は下記の通りです。
・企業が雇い入れ時に在留資格を確認することで、不法就労を防止するため
・ハローワークが受入れ企業に助言や指導を行うため
・ハローワークが離職した外国人労働者へ再就職支援を行うため
・厚生労働省が外国人労働者の雇用状況を集計し、毎年1月に結果を公表するため
つまり外国人雇用状況届出を出すことで、外国人労働者の安定した雇用を促すだけでなく、受入れ企業の法令違反を防ぐ効果があるといえるでしょう。
外国人雇用状況届出の対象者は、日本国籍を持っていない人で在留資格「外交」「公用」以外の外国人労働者です。ただし、「特別永住者」の場合は出す必要はありません。
正社員だけでなくアルバイトや派遣の場合も外国人雇用状況届出が必要で、アルバイトの場合は資格外活動許可を受けているかどうかも確認しましょう。資格外活動許可とは、本来の在留資格で決められた範囲外で、報酬を受ける活動を行う場合に必要な許可です。
代表的な例が留学生アルバイトで、資格外活動許可を受ければ原則週に28時間までアルバイトができます。
派遣の場合は、「技術・人文知識・国際業務」「高度専門職」といった高度外国人材や、農業または漁業分野で働く「特定技能」などが対象となるのが一般的です。派遣の場合は直接の雇用主である派遣会社が外国人雇用状況届出を提出するため、受入れ企業側が手続きする必要はありません。
外国人雇用状況届出は法律で義務付けられているため、提出しないと指導・勧告の対象になるとともに30万円以下の罰金の対象になります。故意ではない場合は罰則の対象にならないことがあるので、提出し忘れたときは早めにハローワークに問い合わせましょう。
外国人雇用状況届出の提出方法は、ハローワークに提出もしくはオンラインで提出の2パターンです。提出する際の書式は、外国人労働者が雇用保険に加入するかどうかによって異なります。
外国人労働者が雇用保険に加入する場合は、雇い入れ時に雇用保険被保険者資格取得届(様式第2号)を提出します。これ1枚で外国人雇用状況届出も兼ねているので、別途書類を提出する必要はありません。
離職時には雇用保険被保険者資格喪失届(様式第4号)を提出しますが、こちらも別途外国人雇用状況届出を提出する必要はありません。
一方、外国人労働者が雇用保険に加入しない場合は、雇い入れ・離職時ともに外国人雇用状況届出書(様式第3号)の提出が必要です。
ちなみに、雇用保険の適用要件は「31日以上の雇用見込みがある」「1週間当たりの所定労働時間が20時間以上」で、該当すれば外国人労働者も加入が必要です。
ただし、留学生アルバイトの場合は通信教育課程や夜間部の学生などが加入対象です。昼間部の学生は「卒業見込みがあり卒業後にアルバイト先に就職予定」など、一定の条件をクリアしなければ雇用保険に加入できません。
外国人雇用状況届出書を作成する際は、外国人労働者に在留カードやパスポートを提示してもらい、必要事項を記入しましょう。留学生アルバイトの場合は、資格外活動許可を受けているかを在留カードの資格外活動許可欄、パスポートの資格外活動許可証印、資格外活動許可書などで確認します。
確認書類のコピーを提出する必要はありません。
外国人労働者には日本の法律が適用されるため、入社・退社手続きは基本的には日本人の場合と同じです。しかし、外国人雇用状況届出のように外国人労働者ならではの手続きもあります。
例えば、入社手続きでは住居地の届出が必要です。住居地の届出は外国人労働者が日本に住居地を決めた日から14日以内に本人が市区町村の窓口に提出します。引っ越しをする度に提出が必要なので、忘れないよう注意を促すとよいでしょう。
併せて、日本人と同様に転入届や転出届といった住民基本台帳上の届出が求められますが、在留カードまたは「後日在留カードを交付する」旨が記載されたパスポートを提示した場合は、住居地の届出は不要です。
また、外国人労働者は在留資格によって在留期間が決まっているため、更新するには地方出入国在留管理局で在留資格更新許可申請を行う必要があります。申請せずに在留期間が過ぎるとオーバーステイになってしまうので、企業から外国人労働者に早めの手続きを促しましょう。
退社手続きでは、外国人労働者本人が所属機関等に関する届出を地方出入国在留管理局に提出しなくてはなりません。離職した日から14日以内が提出期限で、遅れた場合は入管法違反になってしまいます。
外国人労働者が離職後に帰国する場合は、日本の年金制度への加入期間に応じて厚生年金保険などの脱退一時金手続きを行います。退職所得の選択課税制度を利用する場合は、その手続きも必要です。
脱退一時金制度とは、日本の公的年金に6カ月以上加入していた外国人労働者が、資格を喪失して出国した場合に納めた保険料の一部が還付される制度を指し、退職所得の選択課税制度とは退職所得の課税ルールを退職者が選べる制度を指します。
脱退一時金は退職所得と見なされ、日本の国内居住者と国外居住者で課税ルールが異なります。本人の年収や勤続年数によっては、国外居住者の課税ルールよりも国内居住者の課税ルールの方が課税額が少ないことがあります。そのような場合、制度を利用することで還付を受けられる可能性があるでしょう。
いずれも外国人労働者本人には難しい手続きのため、企業が社労士や弁護士を窓口として提供し、支援することをおすすめします。
なお、外国人雇用状況届出について分からないことは、最寄りの都道府県労働局またはハローワークに問い合わせましょう。その他外国人雇用に関する相談・支援先としては、主に下記が挙げられます。
・外国人雇用管理アドバイザー
・外国人在留総合インフォメーションセンター
・JETRO外国人材活躍支援パッケージ
外国人雇用は外国人雇用状況届出など外国人労働者ならではの手続きが必要ですが、相談・支援窓口を利用すれば適正な受入れに向けてサポートを受けることができます。
外国人雇用を検討している企業の方は、本稿を参考に入社・退社の流れを理解し、外国人労働者と日本人従業員の双方が個性を発揮して活躍できるよう、社内制度を見直されることをおすすめします。
参考)
厚生労働省 都道府県労働局 ハローワーク「外国人雇用はルールを守って適正に」,2022年6月公表,https://www.mhlw.go.jp/content/000603552.pdf(閲覧日:2022年11月28日)
町北朋洋「外国人雇用状況の届出」,https://www.jil.go.jp/institute/zassi/backnumber/2022/04/pdf/042-045.pdf(閲覧日:2022年11月30日)
厚生労働省「手続き一覧表」,https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyou/koyouhoken/tetsuduki_ichiran01.html(閲覧日:2022年11月30日)
厚生労働省「システムに関するお問い合わせ」,『外国人雇用状況届出システム』,https://gaikokujin.hellowork.mhlw.go.jp/report/001010.do?action=initDisp&screenId=001010(閲覧日:2022年11月30日)
厚生労働省 都道府県労働局 ハローワーク「外国人を雇用する事業主の皆様へ外国人雇用状況届出はインターネットで、いつでも申請できます!」,https://jsite.mhlw.go.jp/chiba-roudoukyoku/content/contents/000738206.pdf(閲覧日:2022年11月30日)
厚生労働省省「Q&A~事業主の皆様へ~」,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000140565.html(閲覧日:2022年11月30日)
厚生労働省「第4章 被保険者について」,https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/000637955.pdf(閲覧日:2022年11月30日)
東京労働局職業安定部 ハローワーク「事業主の皆様へ 外国人の雇用に関するQ&A」,2022年度,https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-roudoukyoku/content/contents/001163961.pdf(閲覧日:2022年11月30日)
外国人雇用相談室「外国人労働者の受入れ制度 採用担当者に必要な実践的な情報を解説」,https://ghrlab.com/article/foreign-worker-system(閲覧日:2022年11月30日)