この記事を読むと、次のことが分かります。
・不法就労助長罪とは
・不法就労助長罪の罰則と事例
・外国人を雇用するときの対策と注意点
・不法就労が判明したときに企業がとるべき対応
不法就労助長罪とは、日本で働くことが認められていない外国人を雇用したり、不法就労をあっせんしたりしたときに問われる罪です。
外国人を雇用するときに、不法就労となることに気が付かなかった場合や、外国人雇用に関して知識不足や確認不足であった場合も、罪に問われることがあります。法人や雇用主などに対して罰金や懲役が科され、事業に影響を与える可能性もあるので注意が必要です。
本稿では、不法就労助長罪に関する基礎知識や注意すべき点について解説します。外国人雇用にあたり、気付かないうちに不法就労の状況を許容してしまったり、つくってしまったりすることのないよう、人事担当者だけでなく現場の管理監督に当たる方もぜひご一読ください。
目次
1. 外国人の雇用を検討している企業は不法就労助長罪に注意
不法就労を助長する罪とはどのようなものでしょうか。ここではその基本的なところを解説します。
1-1. 不法就労助長罪とは
不法就労助長罪とは、就労できる在留資格を持っていない外国人を雇用したり、許可されている業務以外に就かせたりしたときに問われる罪です。また、不法就労をあっせんした場合も処罰の対象です。(入管法第73条の2)
不法就労とは、在留資格で認められていない仕事をすることです。在留資格は入管法に基づいて日本に中長期的に滞在する全ての外国人に付与されるもので、在留資格ごとに日本で行うことのできる活動内容が異なります。
仕事の内容も同様です。一口に外国人労働者といっても在留資格はさまざまで、それぞれの在留資格で認められた範囲内で仕事をしています。ここから逸脱した働き方をすると、それは不法就労活動となり、入管法違反となってしまうのです。
また、働いているうちに在留資格の期限が切れてしまったり、在留資格を持たない状態で就労したりした場合も同様です。
この状態の外国人を雇用すると、不法就労助長罪に問われる可能性があることを、しっかり認識しておきましょう。
1-2. 不法就労助長罪となる三つのケース
不法就労助長罪となるのは、大きく分けて次の三つケースがあります。
・不法滞在者を働かせた場合
・就労が許可されていない在留資格の外国人を働かせた場合
・在留資格で許可されていない業務をさせた場合
・不法滞在者を働かせた場合
日本に在留する資格のない人を働かせた場合です。例えば、密入国した人や在留期間の過ぎた人、退去強制されることが既に決まっている人を働かせた場合が該当します。
・就労が許可されていない在留資格の外国人を働かせた場合
在留資格には、就労できる資格とできない資格があります。就労できない在留資格を持つ外国人を働かせると、不法就労を助長していると判断されます。例えば、観光を目的として入国した外国人や、資格外活動の許可を受けていない留学生を働かせた場合です。
・在留資格で許可されていない業務をさせた場合
就労可能な在留資格を持つ外国人 を、認められた活動や時間の範囲を超えて働かせた場合です。
例えば、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持っている外国人を雇用し、ホテルで通訳を伴う受付の業務をさせたとします。これは問題ありません。しかし、人手が足りないといった理由で同じ外国人に客室清掃の仕事をさせると、不法就労助長罪に問われる可能性があります。
なぜなら、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格では、「産業・サービスの現場での業務」は許可されていないからです。受付は現場での業務といえますが、通訳を伴うので不法就労とはなりません。
逆に、技能実習生に通訳業務をさせた場合、また、留学生を許可された時間数を超えて働かせた場合は、不法就労に該当します。
このように、「何が不法就労か」は在留資格によって異なるため、現場の日本人の管理職にも、在留資格や不法就労助長罪について十分な理解が必要となります。
在留資格についてはこちら
2. 不法就労助長罪の罰則と処罰の対象
不法就労助長罪の罰則は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金です。場合によっては、懲役と罰則の両方が科されることもあります。
処罰の対象は、以下です。
・不法就労させた法人と個人
・不法就労させるために自己の支配下に置いた者
・不法就労をあっせんした者
・不法就労させた法人と個人
外国人を雇用、使用して不法就労させた者、およびその法人が該当します。また、外国人を派遣して不法就労させた者も含まれます。
最近は雇用形態が多様化しており、業務委託という形で業務を発注する場合もあります。直接雇用でなくとも、外国人に業務を委託して不法就労させた場合、不法就労助長罪に問われるリスクがあります。
・不法就労させるために自己の支配下に置いた者
不法就労させるために、外国人を自己の支配下に置いた者も処罰の対象です。「自己の支配下に置く」とは、例えば宿舎を提供したり、パスポートを預かったりすることで、心理的・物理的に離脱しにくい状況を作る行為が該当します。
・不法就労をあっせんした者
不法就労をあっせんした者も処罰の対象です。例えば、ブローカーやあっせん業者などが該当します。
注意すべきポイントは、企業が外国人雇用に関して知識不足であった場合、雇用した外国人が不法就労をしている事実を知らなかった場合、また、在留資格や在留期間の確認不足であった場合でも処罰の対象になり得るということです。
不法就労助長罪に問われないようにするためには、採用時にしっかりと在留資格や在留期間を確認する必要があります。確認する方法は、4章で解説します。
3. 不法就労助長罪について、事例を確認
ここでは、実際に不法就労助長罪で逮捕や書類送検された事例を、雇用形態別に紹介します。
3-1. 直接雇用して不法就労助長罪に問われた事例
最初に紹介するのは、外国人を直接雇用して不法就労させ、不法就労助長罪に問われたケースです。
【事例】
東京都内の飲食店Aは、「技術・ 人文知識・国際業務」の在留資格を持つベトナム人2名を、約半月の間店員として働かせていた。これが不法就労と見なされ、東京地方裁判所は飲食店Aを経営する株式会社Bに対し、罰金30万円の支払いを命じた。
3-2. 業務委託して不法就労助長罪に問われた事例
直接雇用ではなく業務委託契約で外国人を雇用して不法就労させた場合も、不法就労助長罪の適用対象となり得ます。
【事例】
料理宅配サービスの日本法人C社は、日本での在留期間が過ぎ、オーバーステイの状態だったベトナム人2名を雇用し、東京都内で配達に従事させていた。
C社に配達員として登録する際は、インターネットで身分証や写真を提出するが、ベトナム人2名はブローカーが他人名義の身分証や他人の写真を使って作成したアカウントを利用していた。C社は身分証の確認や本人との照合などを行っていなかった。
C社の代表は「直接報告を受けておらず知らなかった」と説明したが、警視庁は不法就労を助長したとして、C社とC社の代表らを書類送検した。
直接雇用していなくても、業務を委託する際は在留資格や在留期間の確認が必要です。
3-3. 人材派遣業において不法就労助長罪に問われた事例
人材派遣業界においても、不法就労助長罪に問われるケースが発生しています。
【事例】
埼玉県熊谷市の人材派遣会社D社は、就労できる在留資格を持っていないベトナム人男性2名を同市内のコンクリート製品製造会社E社に紹介し、不法に働かせていた。
埼玉県警はこれを不法就労の助長に当たると判断し、D社社長を出入国管理法違反(不法就労助長)の疑いで逮捕した。
人材派遣会社が起訴され有罪が確定すると、欠格事由となり労働者派遣事業の許可が取り消されます。
参考)
厚生労働省「労働者派遣事業および有料の職業紹介事業の許可を取り消しました」 ,https://www.mhlw.go.jp/content/11654000/000307196.pdf(閲覧日:2023年2月2日)
4. 不法就労を防止するには?採用時は在留カードに注意!
この章では、不法就労助長罪に問われないために採用時に注意する点を解説します。まず大切なのは、外国人の身分の確認を行うことです。身分は、在留カードやパスポートなどで確認できますが、今回は在留カードで確認する方法について紹介します。
4-1. 在留カードの見方
在留カードには、氏名、生年月日、性別、国籍・地域、住居地、在留資格、在留期間、就労の可否などが記載されています。採用時に確認するポイントは以下の項目です。
・在留カードが本人のものであるか
・日本で許可されている活動
・オーバーステイになっていないか
・カードは有効であるか
・就労不可でも働ける許可を得ているか
・在留カードが本人のものであるか
氏名と顔写真を見て確認します。
・日本で許可されている活動
「在留資格」の欄で種類を確認します。種類によって許可されている活動が違います。就労の可否は「就労制限の有無」の欄に記載されています。
就労可能な在留資格についてはこちら
・オーバーステイになっていないか
「在留期間」の欄を見て期限内であるか確認します。
・カードは有効であるか
在留カードには有効期限があります。期限はカードの下部分で確認します。在留カード番号でも失効していないか調べることができます。
参考)
出入国在留管理庁「在留カード等番号失効情報照会」,
https://lapse-immi.moj.go.jp/ZEC/appl/e0/ZEC2/pages/FZECST011.aspx(閲覧日:2023年2月2日)
・就労不可でも働ける許可を得ているか
就労不可の在留資格でも資格外活動の許可を受けていれば、条件付きで就労できます。資格外活動の可否と条件はカードの裏面で確認します。
表面
裏面
引用元)
出入国在留管理庁「在留カードとは?」,
https://www.moj.go.jp/isa/applications/guide/whatzairyu.html(閲覧日:2023年2月2日)
4-2. 偽造在留カードの見分け方
在留カードは偽造されていることもあるので、本物かどうか必ず確認しましょう。コピーでは偽造されたカードかどうか見抜けないので、確認する時は現物で行います。
在留カードには偽造できないよう、さまざまな仕掛けがあります。確認方法は以下の図の通りです。
引用元)出入国在留管理庁「「在留カード」及び「特別永住者証明書」の見方」,https://www.moj.go.jp/isa/content/930001733.pdf(閲覧日:2023年2月2日)
これらの在留カードの確認方法は、法務省が詳しく動画で公開しています。
法務省「不法就労防止対策のポイント~在留カード等の正しい見方」
また、出入国在留管理庁が無料で配布している「在留カード等読取アプリケーション」でも確認できます。このアプリを使うと、在留カードおよび特別永住者証明書のICチップの内容を読み取って、その情報が偽造・改ざんされたものでないか調べることができます。
参考)
出入国在留管理庁「在留カード等読取アプリケーション サポートページ」,
https://www.moj.go.jp/isa/policies/policies/rcc-support.html(閲覧日:2023年2月2日)
不法就労を防ぐためには、在留資格について正しい知識を持ち、在留カードなどの身分証をしっかり確認することが重要です。
しかし、これまで紹介した方法で確認を行っても、在留カードの真偽を判別することは難しい場合もあります。そのときは出入国在留管理局や外国人採用に詳しい専門家などに相談しましょう。
5. 就労中に不法就労が判明したときの対策
就労中の社員などが不法就労状態であると判明した場合の対策について、状況別に解説します。
・就労可能な在留資格を持っている人が不法就労となった場合
・在留や就労の資格がないことが判明した場合
・就労可能な在留資格を持っている人が不法就労となった場合
就労可能な在留資格を持っている外国人を雇用したとしても、資格の範囲外の業務に就かせたり、許可された労働時間を超えて働かせたりした場合、不法就労となってしまいます。
採用担当者が雇用する際に在留資格の範囲内の業務や労働時間を把握していても、現場で管理する立場の人に共通認識がないと、許可の範囲外の業務やオーバーワークをさせてしまう可能性があります。
このような不法就労状態を発見した場合は、その従業員を即時就労停止・自宅待機としてください。そして、対応の仕方を専門家に相談しましょう。是正で済むか、法的な措置が必要か、といった判断はケース・バイ・ケースです。
また、継続して外国人を雇用する際は、その社員の状況に合わせて在留期間の更新や在留資格の変更が必要になります。適切に手続きをしなければ不法就労状態になってしまうので、定期的に更新や変更の必要がないか確認しましょう。
・在留や就労の資格がないことが判明した場合
採用時に在留資格などの確認不足で不法就労の外国人を雇用してしまったことが判明した場合。きちんと確認してから雇用したにも関わらず、本人が提出した書類などが偽造されたものであることが判明した場合。このような場合は、そのまま雇用し続けると雇用主が不法就労助長罪に問われます。
この場合も、判明したら即時就労停止・自宅待機とし、専門家に相談しましょう。
なお、もし、本人が自ら出入国在留管理局へ出頭した場合、「出国命令制度」(入管法第24条の3)の適用があり得ます。
出国命令制度とは、自ら出頭した不法残留者が一定の条件をクリアしていれば身柄を拘束されることなく日本から出国できるという制度です。引き続き日本で生活を希望する場合も出頭した際に相談できます。
企業側には被雇用者の不法就労が判明した場合、出入国在留管理局へ情報を提供することが求められています。
6. 外国人雇用に関する知識を、企業全体で共有するには?
5章で述べたように、社内の一部の人にしか外国人雇用に関する知識が伝わっていない状態だと、どこかで不法就労が起きてしまうリスクがあります。
社員に注意喚起をし、上長から指導をしたり、個別に確認したりするよう促しても、なかなか全員が等しく正確な情報を得られるようにするのは難しいでしょう。
全社的に知識のレベルをそろえる方法として、eラーニングの活用があります。同じ内容を各自が都合の良い時間に学べるので、忙しいビジネスパーソンにはメリットの多い手法といえるでしょう。
ライトワークス では、外国人材を雇用する企業の従業員に必要なリテラシーを、eラーニングにして提供しています。ぜひ参考にしてください。
参考)
ライトワークス 「eラーニング教材 外国人材採用企業向けシリーズ」,
https://www.lightworks.co.jp/e-learning-cat/foreign-worker-recruitment
【サンプル】
ライトワークス社製「外国人材採用企業向けシリーズ 入門編」より
7. まとめ
不法就労助長罪とは、外国人に不法就労をさせたり、不法就労のあっせんをしたりしたときに 問われる罪 です。雇用した側が、不法就労者であることを知らなかった場合や、外国人雇用に関して知識がなかったとしても罪に問われることがあります。
この罪に問われるのは、不法滞在者を働かせた場合、就労が許可されていない人を働かせた場合、そして許可された範囲を超えて働かせた場合です。
就労が認められている在留資格を持っている人でも、在留資格の種類ごとに許可された活動範囲や労働時間が定められています。許可された範囲を超えて働かせることがないように、あらかじめ確認が必要です。
不法就労助長罪の罰則は、3年以下の懲役もしくは300万円以下の罰金です。場合によっては、懲役と罰則の両方が科されることもあります。処罰の対象は、不法就労させた法人と個人、不法就労させるために自己の支配下に置いた者、不法就労をあっせんした者です。直接雇用でなくとも処罰の対象になる場合があります。
不法就労助長罪に問われないためには、外国人の採用時に在留カードやパスポートなどで身分を確認することが大切です。提出された書類が本物であるか、在留資格、在留期間、身分証の有効期限などを確認しましょう。
もしも就労中に不法就労が判明したとき は、その従業員を即時就労停止・自宅待機とし、専門家に相談しましょう。
不法就労助長罪をはじめ、外国人雇用に関する知識は多岐に渡ります。社内で効率よく情報共有するために、eラーニング教材を取り入れてみてはいかがでしょうか。
参考)
e-Gov「出入国管理及び難民認定法」,https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326CO0000000319(閲覧日:2023年2月2日)
出入国在留管理庁「不法就労防止にご協力ください。」,https://www.moj.go.jp/isa/content/001349112.pdf(閲覧日:2023年4月26日)
独立行政法人労働政策研究・研修機構「(98)不法就労」,https://www.jil.go.jp/hanrei/conts/12/98.html(閲覧日:2023年2月2日)
厚生労働省 鹿児島労働局「Q7 不法就労者を雇用した場合、雇用主に罰則はありますか。また、その内容はどのようなものですか。」,https://jsite.mhlw.go.jp/kagoshima-roudoukyoku/yokuaru_goshitsumon/nennshougaikoku/0907.html(閲覧日:2023年4月14日)
警視庁「外国人の適正雇用について」,2022年6月23日,https://www.keishicho.metro.tokyo.lg.jp/kurashi/anzen/live_in_tokyo/tekiseikoyo.html(閲覧日:2023年2月2日)
弁護士法人i「不法就労が判明したときにとるべき対応」,https://osaka-immigration.com/huhousyurou-2/huhousyurou-taiou/(閲覧日:2023年2月2日)
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東京地方裁判所刑事第15部「令和4年7月5日 東京地方裁判所刑事第15部宣告 令和3年特(わ)第539号、同年刑(わ)第1527号 出入国管理及び難民認定法違反、詐欺各被告事件」,2022年7月5日,https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/412/091412_hanrei.pdf(閲覧日:2023年4月10日)
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https://www.sankei.com/article/20180607-WJKM2MCWQNIFVBBJFJSQHVPEXQ/(閲覧日:2023年2月2日)