現業職の労働力不足を解消するために2019年に導入された外国人労働者の受入れ制度「特定技能」に大きな変化が相次いでいます。無期限就労が可能な特定技能2号の対象分野が2023年に従来の2分野から11分野に拡大され、2024年2月には、特定技能1号の従来の12分野に加え、「自動車運送業」や「鉄道」など4分野を加える政府方針が示されました。さらに、2024年度以降5年間の受入れ見込み人数を最大82万人(2019年度からの5年間では34万5150人)とする政府試算を伝える報道もありました。特定技能制度の近況と今後の方向性についてまとめました。
1. 特定技能制度の対象分野
特定技能制度は、深刻化する人手不足への対応として、生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な産業分野に限り、一定の専門性・技能を有し即戦力となるような外国人を受け入れるための在留資格で、2019年4月から実施されています。
※2019年に「出入国管理及び難民認定法(入管法)」の改正法が施行され、新しい在留資格として「特定技能1号」と「特定技能2号」ができました。
特定技能1号はその産業に関する一定の知識・経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人に与えられる在留資格です。在留期間は通算5年までで、家族帯同は基本的に認められません。
特定技能2号は熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格で、在留期間の更新回数に上限はなく、要件を満たせば配偶者や子の帯同も可能です。
特定技能1号の受入れが認められている産業分野(特定産業分野)は2024年3月11日現在、下の表の12分野(もとは14分野)です。このうち、特定技能2号を受け入れられるのは従来は建設と造船・舶用工業の2分野のみでしたが、2023年に9分野が追加され、介護以外の11分野に拡大されました。
1号 | 2号 | |
介護 | 〇 | |
ビルクリーニング | 〇 | 〇 |
素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業(2022年に3分野を統合) | 〇 | 〇 |
建設 | 〇 | 〇 |
造船・舶用工業 | 〇 | 〇 |
自動車整備 | 〇 | 〇 |
航空 | 〇 | 〇 |
宿泊 | 〇 | 〇 |
農業 | 〇 | 〇 |
漁業 | 〇 | 〇 |
飲食料品製造業 | 〇 | 〇 |
外食業 | 〇 | 〇 |
特定技能2号の分野拡大を巡っては、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の中間報告(2023年5月)が「日本の企業等が魅力ある働き先として選ばれるためのインセンティブ作りの一環として、技能実習に代わる新制度と特定技能1号で身に付けた技能等をさらに生かす場所を広げるために、特定技能2号の対象分野の拡大やその設定の在り方を検討すべき」と指摘しました。政府は翌月、特定技能2号の受入れ対象を従来の2分野から11分野に広げることを閣議決定しました。また、介護分野では、もともと、介護福祉士の国家試験への合格を条件に「介護」という在留資格を取得でき、その在留資格で家族帯同や無期限就労が可能となっています。
2. 自動車運送業など4分野を追加へ
2-1. 自動車運送業や鉄道など4分野を追加へ
特定技能制度の特定産業分野について、政府は2024年2月22日、自民党の外国人労働者等特別委員会(外特委)で「自動車運送業」「鉄道」「林業」「木材産業」の4分野を追加する方針案を示し、同年3月29日、同方針を閣議決定しました。特定産業分野の追加は、2019年の制度創設以来初めてとなります。
追加が検討されている4分野はいずれも特定技能1号のみでスタートさせる方針です。各分野で想定されている業務内容の例は下記の通りです。
・自動車運送業:バス・タクシー・トラックの運転手
・鉄道:運転士、車掌、駅係員、電気設備の整備や車両製造を担当する技術者
・林業:育林業務
・木材産業:製材や木材加工
もっとも、実施までには決めなければならないことがたくさんあります。例えば、自動車運送業では、2024年4月に運転手の残業時間の上限が規制され、物流が滞る「2024年問題」が危惧され、即戦力の外国人労働者を求める声が強いものの、運転の安全性を確保するには、日本の道路交通事情や交通ルールへの理解が求められるため、特定技能の在留資格を得るための条件設定が大きな焦点になります。また、政府は、接客や運転指令があるバス・タクシーの運転手や鉄道の運転士・車掌・駅係員には他分野より高い日本語能力を課す方針です。
2-2. その他の職種の追加
2024年2月の政府方針案には、上記4分野の追加ほか、既存分野の「飲食料品製造業」にスーパーでのそう菜製造を含めることや、「工業製品製造業(分野名を「素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業分野」から変更)」に繊維や印刷などを含めることも盛り込まれ、これらも同年3月29日に閣議決定されました。
これらは現在の技能実習に含まれている職種ですが、特定技能には対応する分野がありません。しかし、技能実習制度を廃止した後に導入される育成就労制度の対象分野は特定技能の特定産業分野に含まれるものに限られるため、対応分野がない職種の業界からは分野拡大の要望が上がっていました。
3. 特定技能外国人の人数推移と今後
政府は2019年の特定技能制度導入時に5年間の受入れ見込み人数を最大34万5150人と設定しました。新型コロナウイルス感染拡大に伴う水際対策によって外国人の入国が著しく制限され、一時は伸び悩みましたが、特定技能外国人は2023年11月末現在、20万1307人に達しています。この中には、日本国内で技能実習生から在留資格を変更した人も多数含まれています。
一方、2024年3月上旬、政府が2024年度から5年間で最大82万人の受入れ見込み人数を試算しているとの報道がありました。これは2019年に設定した5年間の受入れ見込み人数の2倍以上となっています。
2024年度から5年間の受入れ見込み人数は、追加が検討されている4分野を含めた計16分野で各関係省庁が試算しました。試算の一部は下記の通りです。
・工業製品製造業:17万3300人(2023年度までは4万9750人)
・飲食料品製造業:13万9000人(同8万7200人)
・建設:8万人(同3万4000人)
・農業:7万8000人(同3万6500人)
・自動車運送業:2万4500人(新規追加方針)
・鉄道:3800人(新規追加方針)
参考)
出入国在留管理庁|特定技能制度の受入れ見込数についてはこちら
https://www.moj.go.jp/isa/content/001417998.pdf
4. 技能実習制度の改革と特定技能の位置付け
政府が今後の特定技能外国人の増加加速を見込む理由の一つは技能実習制度の制度改革の方向性にも影響されています。「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」は2023年11月の最終報告で下記のような方針を提言しました。
・現行の技能実習制度を実態に即して発展的に解消し、我が国社会の人手不足分野における人材確保と人材育成を目的とする新たな制度を創設する。
・新たな制度は、未熟練労働者として受け入れた外国人を、基本的に3年間の就労を通じた育成期間において計画的に特定技能1号の技能水準の人材に育成することを目指す。
・新たな制度の受入れ対象分野については、現行の技能実習制度の職種等を機械的に引き継ぐのではなく、新たな制度と技能実習制度の趣旨・目的の違いを踏まえ、新たに設定する。その際、新たな制度が人手不足分野における特定技能1号への移行に向けた人材育成を目指すものであることから、新たな制度の受入れ対象分野は、特定技能制度における「特定産業分野」が設定される分野に限る。
このように、最終報告は1993年に始まった技能実習を廃止し、未熟練外国人労働者を、即戦力の人材と位置付ける「特定技能1号」の水準まで3年で育てる「育成就労」に置き換えることを提案しました。そして、育成就労から特定技能1号を経て、より高度な技能が求められる「特定技能2号」の試験に合格すれば、家族を帯同でき無期限就労も可能になる、というキャリアプランを外国人に提供しようしています。
その際、育成就労は1号特定技能外国人の育成制度と位置付けられることから、対象職種は特定技能の特定産業分野の範囲内に限られます。最終報告は、分野によっては特定技能だけで受け入れるとも述べており、特定技能の方が受入れ範囲が広くなります。このため、制度改革後は、技能実習制度に代わって特定技能制度が未熟練外国人労働者受入れの中心制度になります。
さらに、育成就労では、他の職場に移る転籍を原則1年で可能とすることが検討されているため、受入れ企業の立場からは「3年間の職場定着が見込める」という技能実習制度の最大のメリットが失われることになり、育成就労より初期コストも安く行政への提出書類も少ない特定技能が選ばれるケースが増えるとも予想されています。
5. まとめ
特定技能1号の受入れが認められている産業分野(特定産業分野)は12分野ですが、政府は2024年2月、自民党の外国人労働者等特別委員会(外特委)で「自動車運送業」「鉄道」「林業」「木材産業」の4分野を追加する方針案を示し、同年3月29日に閣議決定しました。
また、特定技能2号を受け入れられるのは従来建設と造船・舶用工業の2分野のみでしたが、2023年6月の閣議決定で9分野が追加され、介護以外の11分野に拡大されました。
そして、政府は2024年度から5年間の特定技能外国人の受入れ見込み人数を最大82万人見込んでいるとする報道がありました。これは2019年度の制度導入時に見込んだ5年・34万5150人の2倍以上の人数となっています。
技能実習制度を廃止して導入される育成就労制度が1号特定技能外国人の養成制度と位置付けられ、育成就労の対象分野は特定技能の特定産業分野の範囲内に限定されることから、今後の外国人労働者の中心制度は現在の技能実習から特定技能に移行していくことが想定されます。こうして特定技能制度を現業分野の外国人労働者受入れの中心制度にすえるにあたり、制度拡充を着々と行っていると言えます。