「高度人材を失敗なく効率的に採用する方法は?」
人材不足が深刻化する日本市場において、自社が求める人材を探し出し、採用するのは容易なことではありません。特に、会社の将来を見据えて優秀な人材を獲得するには、入念な採用戦略や人事戦略が必要になります。
しかし、国内の人材は枯渇しつつあります。そこで注目されているのが、海外の人材です。単に労働力を補填するためでなく、イノベーションや事業拡張を狙いとして優秀な外国人を採用したいと考えている企業もあるでしょう。
「高度人材」とは、高度なスキルと経験を持つ外国人材のことです。
2017年に閣議決定された「未来投資戦略2017」によると、「2020年末までに1万人の高度外国人材の認定を目指し、さらに2022年末までに2万人の高度外国人材の認定を目指す」としています[1]。このように日本政府も国を挙げて高度人材の招致に乗り出しています。
しかし、「高度人材」という在留資格があるわけではありません。高度人材の採用を検討する際は、まずはその定義と対応する在留資格について理解する必要があります。
本稿では、高度人材とは何か、高度人材が持つ代表的な在留資格、またその取得方法について、詳しく解説します。
[1] 首相官邸「未来投資戦略2017」,https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/miraitousi2017_t.pdf(閲覧日:2022年1月12日)
1. 高度人材の外国人が持つ在留資格とは?
この章では、高度人材とはどのような人材を指すのか、また、在留資格について解説します。
1-1. 高度人材の定義
内閣官房内閣広報室によると高度人材は以下のように定義されています。
高度人材とは、「国内の資本・労働とは補完関係にあり、代替することが出来ない良質な人材」であり、「我が国の産業にイノベーションをもたらすとともに、日本人との切磋琢磨を通じて専門的・技術的な労働市場の発展を促し、我が国労働市場の効率性を高めることが期待される人材」と定義付けることができる[2]。
つまり、高度人材とは、専門的な技術力と知識を有し、日本の発展に貢献する外国人のことです。
このような高度人材が持つ在留資格には、「研究」「経営・管理」「技術・人文知識・国際業務」「高度専門職」などがあります。
中でも、学歴や年収など高い基準をクリアした人材に付与される、「高度専門職」の在留資格を持つ外国人を「高度人材」と呼ぶことがあります。
「高度専門職」の在留資格を持つ外国人材は、専門的な知識と高いスキルを持つため、企業においても積極的に採用戦略に組み込む事例が見られます。
本稿では、高度人材を「高度専門職の在留資格を持つ外国人」と定義して解説します。
1-2. 高度専門職とは?
高度専門職とは、高度人材が持つ在留資格の一つです。高度専門職の在留資格は「高度専門職1号」と「高度専門職2号」に分類されます。そして、高度専門職1号は以下の3つに分類されます。
表)高度専門職1号の分類
在留資格 | 活動の内容 | 該当する人材 |
---|---|---|
高度専門職1号(イ) | 研究、研究の指導、または教育をする活動 | 研究者、または大学の教授など |
高度専門職1号(ロ) | 自然科学、または人文科学の分野に属する知識・技術を要する業務に従事する活動 | 化学や生物学の研究者、心理学や社会学の研究者など |
高度専門職1号(ハ) | 事業の経営、または管理に従事する活動 | 会社の経営者や役員クラスの人材など |
「高度専門職2号」を取得するには、高度専門職1号で3年以上の活動を行う必要があります。そのため、新しく入国した外国人を採用する場合、まずは高度専門職1号の在留資格を申請することになります。
[2] 内閣官房内閣広報室「外国高度人材受入政策の本格的展開を(報告書)」,『首相官邸』,平成21年5月29日,http://www.kantei.go.jp/jp/singi/jinzai/dai2/houkoku.pdf(閲覧日:2021年12月7日)
2. 企業が高度人材を採用するメリット
この章では、高度専門職の在留資格を持つ外国人を採用すると、どのようなメリットがあるのかを解説します。
・一律5年の在留期間が与えられる
・3年または1年で永住許可申請が可能
・一律5年の在留期間が与えられる
高度専門職の在留資格を取得する外国人には、最初から一律で5年の在留期間が与えられます。
技術・人文知識・国際業務の在留資格の場合、与えられる在留資格の期間は5年、3年、1年、3カ月ですが、最初から5年の在留資格を得るのは簡単ではありません。初めは1年または3年の在留期間であることが多く、その場合は1年または3年ごとに在留資格の更新を行う必要があります。
一方、高度専門職の在留資格では、最初から5年の在留期間が与えられるため、企業としても採用後の計画を立てる点で有利になるでしょう。
・3年または1年で永住許可申請が可能
通常、外国人が永住許可を申請するには、10年以上の在留期間が必要です。しかし、高度専門職の在留資格1号を持つ外国人の場合、3年間の在留期間で永住許可を申請できます。
さらに、高度専門職の在留資格を取得する際に必要となる「高度人材ポイント制」で、80ポイント以上を獲得すると、1年間の在留期間で永住許可を申請できます。(高度人材ポイント制については次の章で詳しく解説)
3. 高度専門職の在留資格の特徴
この章では、高度専門職の在留資格の特徴について、解説します。
・高度人材の判定はポイント制
・親の帯同が可能
・高度専門職の申請方法
それぞれを詳しく解説します。
3-1. 高度人材の判定はポイント制
高度専門職の在留資格を取得できるか否かの判断基準に、入国管理局が定める「高度人材ポイント制」があります。
高度人材ポイント制は、「高度学術研究分野」「高度専門・技術分野」「高度経営・管理分野」の3分野に分かれています。
そして、「学歴」「職歴」「年収」などの項目ごとに、獲得できるポイントが決められています。高度専門職の在留資格を取得するには、合計で70ポイント以上を獲得する必要があります。
高度人材ポイント制の計算表
高度人材ポイントは下表に基づいて計算されます。(付与されるボーナスポイントについては省略)
表)高度人材ポイントの内容
|
高度学術研究分野 |
高度専門・技術分野 |
高度経営・管理分野 |
学歴 |
博士号(専門職に係る学位を除く)取得者:30 |
博士号又は修士号取得者:20 |
|
修士号(専門職に係る博士号を含む)取得者:20 |
|||
大学を卒業し又はこれと同等以上の教育を受けたもの(博士号又は修士号を取得者を除く):10 |
|||
複数の分野において、博士号、修士号又は専門職学位を複数有している者:5 |
|||
職歴 |
|
10年~:20 |
10年~:25 |
7年~:15 |
7年~:15 |
7年~:20 |
|
5年~:10 |
5年~:10 |
5年~:15 |
|
3年~:5 |
3年~:5 |
3年~:10 |
|
年収 |
※表1を参照 |
3,000万~:50 |
|
2,500万~:40 |
|||
2,000万~:30 |
|||
1,500万~:20 |
|||
1,000万~:10 |
|||
年齢 |
~29歳:15 |
~29歳:15 |
|
~34歳:10 |
~34歳:10 |
||
~39歳:5 |
~39歳:5 |
※各項目の数値はポイントを表す
表1)年収配点表
~29歳 | ~34歳 | ~39歳 | 40歳〜 | |
---|---|---|---|---|
1,000万 | 40 | 40 | 40 | 40 |
900万 | 35 | 35 | 35 | 35 |
800万 | 30 | 30 | 30 | 30 |
700万 | 25 | 25 | 25 | |
600万 | 20 | 20 | 20 | |
500万 | 15 | 15 | ||
400万 | 10 |
※各項目の数値はポイントを表す
※上記の表は、以下を参考にライトワークスが作成
法務省「ポイント計算表」,『法務省』,https://www.moj.go.jp/isa/content/930001657.pdf(閲覧日:2021年12月14日)
実際に高度人材ポイントを計算してみましょう。
例)高度専門・技術分野の人材
・学歴:修士号(専門職に係る博士号を含む)を取得=20ポイント
・実務経験:8年=15ポイント
・年齢:28歳=15ポイント
・年収:600万円=20ポイント
合計:20+15+15+20=70ポイント
【高度専門職1号の在留資格を取得可能】
3-2. 親の帯同が可能
技術・人文知識・国際業務などの在留資格では、在留している外国人の親の帯同または、呼び寄せは認められていません。
対して、高度専門職の在留資格では、親の帯同または呼び寄せが認められています。ただし、それには以下の条件があります。
世帯収入が800万円以上
夫と妻の年収が800万円以上あることが条件です。この世帯年収には、配偶者以外の同居人や子どもの年収を含めることはできません。
夫または妻、どちらかの親のみ
高度人材または配偶者、どちらかの親しか呼ぶことができません。例えば、夫の親がすでに帯同している場合、妻の親を呼び寄せることはできません。
親は高度人材と同居すること
親は高度人材と同居する必要があります。仮に、夫が高度専門職の在留資格を持ち、妻の親を呼び寄せた場合、親は娘婿と同居することが条件です。
7歳未満の子どもを3カ月以上養育すること
高度人材、または配偶者の子どもを養育する目的であれば、親を呼び寄せることができます。親が日本の病院で治療を受けることや、親の介護を目的として呼び寄せることはできません。
高度人材または配偶者が妊娠している場合、生活支援を3カ月以上行うこと
高度人材または配偶者が妊娠している場合、生活に必要な支援を3カ月以上行うことを目的として親を呼び寄せることができます。出産後、継続して子どもの養育を目的とする場合、子どもが7歳になるまで親の在留が認められます。
3-3. 高度専門職の申請方法
高度専門職の在留資格を申請する方法は、外国人が新しく日本に入国する場合と、日本に在留している場合で異なります。以下で、それぞれの場合を詳しく解説します。
新しく日本に入国する高度人材の場合
新規で高度専門職の在留資格を取得する場合、以下の手順で進めていきます。
(1)地方出入国在留管理局での申請
・在留資格認定証明書交付申請を行う
・高度専門職1号(イ)(ロ)(ハ)のうち、該当する在留資格を申請する
・高度人材ポイント制に基づいて計算した、ポイント計算表またはポイントを立証する資料を提出する
(2)出入国在留管理庁での審査
・地方出入国在留管理局で提出した資料を出入国在留管理局が審査
・審査を通過すると在留資格認定証明書が交付される
(3)在留資格認定証明書交付
・審査を通過した外国人は、在外公館でビザ申請を行う。その際、在留資格認定証明書を提出する
・日本への上陸審査時に、在留資格認定証明書を持参する
日本に在留している高度人材の場合
高度専門職、または別の在留資格で日本に在留している高度人材の場合、以下の手順で進めていきます。
(1)地方出入国在留管理局での申請
・在留資格変更許可申請または在留期間更新許可申請を行う
・高度人材ポイント制に基づいて計算した、ポイント計算表またはポイントを立証する資料を提出する
(2)出入国在留管理局での審査
・高度人材ポイント計算で70ポイント以上あるか
・在留状況に問題がないか
(3)在留資格認定証明書交付
・高度専門職1号、または高度専門職2号の在留資格が付与される
4. 高度人材を採用する際の注意点
高度人材を採用する際、以下の点に注意しましょう。
・キャリアパスを明確にする
・在留資格変更許可申請が必要
詳しく解説します。
・キャリアパスを明確にする
総務省が実施したアンケートによると、キャリアパスや昇進・昇格・昇給について不満を感じている外国人が多いというデータがあります[3]。下表はそのアンケートの一部を抜粋したものです。
表)日本の労働環境の短所と課題
短所と課題 | 回答人数(163人中) |
---|---|
キャリアパスが不明確 | 45人(27.6%) |
昇進、昇格、昇給の基準が不明確 | 42人(25.8%) |
職場の意思決定が遅い | 38人(23.3%) |
英語や母国語で就労できる環境の整備が不十分 | 37人(22.7%) |
遠回しな言い方など仕事の指示が不明確 | 37人(22.7%) |
※表は以下を参考にライトワークスが作成
総務省「高度外国人材の受入れに関する政策評価書」,「総務省」,令和元年6月,https://www.soumu.go.jp/main_content/000627731.pdf(閲覧日:2021年10月27日)
上記の通り、「キャリアパスが不明瞭」「昇進、昇格、昇給の基準が不明瞭」が、上位に挙がっており、日本で働く外国人はキャリアパスに強い関心を持っていることが分かります。
外国人を採用する企業には、職務内容やキャリアパスを明確に提示する労働環境の構築が求められます。そうしないと、高度人材を採用してもモチベーションが低下して早期離職の原因になります。
高度人材を採用する際には、ジョブディスクリプションを使って職務内容を明確にすることも有効な手段です。
・在留資格変更許可申請が必要
すでに高度専門職の在留資格を持つ外国人を採用する場合、再度、「在留資格変更許可申請」を行い、許可を得る必要があります。
これには3章で解説した「高度人材ポイント制」が関係しています。ポイントの計算には、年齢や年収が関係しており、勤務先の変更や時間の経過によって、獲得できるポイントが変化する可能性があります。
そのため、再度、書類をそろえて、高度人材ポイントの計算やポイントを立証する資料の提出をする必要があります。
一方、技術・人文知識・国際業務といった就労可能な在留資格を持つ外国人を採用するときは、転職後も同じ在留資格で認められている業務を行う場合に限り、再度、在留資格変更許可申請を行う必要はありません。
雇用する外国人が持つ在留資格によって、対応方法が異なることを覚えておきましょう。
参考)ライトワークスのeラーニング教材「外国人材採用企業向けシリーズ 入門編」https://www.lightworks.co.jp/e-learning/9371
[3] 総務省「高度外国人材の受入れに関する政策評価書」,令和元年6月,https://www.soumu.go.jp/main_content/000627731.pdf(閲覧日:2021年10月27日)
5. まとめ
今回は高度人材の在留資格について解説しました。
高度人材とは、専門的な技術力と知識を有し、日本の発展に貢献する外国人です。高度人材が持つ在留資格には、「研究」「経営・管理」「技術・人文知識・国際業務」「高度専門職」などがあります。
本稿では、高度人材を「高度専門職の在留資格を持つ外国人」と定義して、解説しました。
企業が高度人材を採用するメリットには以下のものがあります。
・一律5年の在留期限が与えられる
・3年または1年で永住許可申請が可能
高度専門職の在留資格を持つ外国人には、最初から一律で5年の在留期間が与えられます。
通常、外国人が日本の永住許可を申請するには、10年以上の在留期間が必要です。しかし、高度専門職の在留資格1号の在留資格を持つ外国人の場合、3年間の在留期間で永住許可を申請できます。また、「高度人材ポイント制」で、80ポイント以上を取ると、1年間の在留期間で永住許可の申請が可能です。
高度専門職の在留資格の特徴には、以下のものがあります。
・高度人材の判定はポイント制
・親の帯同が可能
高度専門職の在留資格を取得するには、入国管理局が定める「高度人材ポイント制」で70ポイント以上が必要です。
技術・人文知識・国際業務といった在留資格では、在留している外国人の親の帯同や呼び寄せは認められていませんが、高度専門職の在留資格では、それが可能です。
高度人材を採用する際の注意点は以下の通りです。
・キャリアパスを明確にする
・在留資格変更許可申請が必要
外国人はキャリアパスや昇進・昇格・昇給に強い関心を持っています。キャリアパスや昇進・昇格・昇給の基準を明確にしないまま雇用すると、モチベーションが低下して早期離職の原因になります。
また、すでに高度専門職の在留資格を持つ外国人を採用する場合、再度、「在留資格変更許可申請」を行い、許可を得る必要があります。
高度人材は日本の発展に貢献する人材であり、企業にとってもイノベーションの創出や売り上げの向上に寄与する人材です。
高度人材の採用を企業の発展につなげるためには、高度人材について正しく理解して、在留資格の申請等をスムーズに処理する必要があります。
高度人材を採用する際に、今回の情報を参考にしていただけると幸いです。
参考)
法務省「高度専門職外国人等の親」,『法務省』https://www.moj.go.jp/isa/content/930001684.pdf(閲覧日:2022年1月4日)
内閣官房内閣広報室「外国高度人材受入政策の本格的展開を」,『首相官邸』http://www.kantei.go.jp/jp/singi/jinzai/dai2/houkoku.pdf(閲覧日:2021年12月7日)
法務省「ポイント計算表」,『法務省』https://www.moj.go.jp/isa/content/930001657.pdf(閲覧日:2021年12月14日)
総務省「高度外国人材の受入れに関する政策評価書」,『総務省』https://www.soumu.go.jp/main_content/000627731.pdf(閲覧日:2022年1月4日)