外国人労働者が働きやすい労働環境の作り方 具体的なステップを解説

「キャリアパスが不明確」

これは、総務省が日本企業で働く外国人労働者に対して行ったヒアリングの結果、「就労環境の短所」の第一位に挙がった項目です[1]

「え?これって労働環境の話なの?」と感じた方は多いかもしれません。確かに、労働環境というとオフィスの環境や安全衛生管理、就労時間に関することを思い浮かべる方が多いと思います。

でも、それは日本人にとっての労働環境です。日本人は、日本の企業文化や雇用スタイルを前提として就職します。

一方外国人労働者は、異なる文化圏から異なる価値観を持って日本にやって来ます。

冒頭に挙げたようなキャリアに関する違和感は、海外ではジョブ型雇用が一般的であるのに対し、日本ではメンバーシップ型雇用が主流であることから来ています。

このように、外国人労働者にとって働きやすい労働環境を作るには、日本人の場合とは少々異なる視点や知識が必要です。

そこにはダイバーシティ&インクルージョンが深く関わってきます。ダイバーシティ推進の目的を改めて確認してみましょう。

それは、「多様な人材が最大限の能力を発揮すること」です。これを実現するために必要なのは、「条件の平等」ではなく「結果の平等」です。

多様な人材に同じ条件を適用するのではなく、彼らが結果的に同じだけのパフォーマンスを発揮できるよう、必要な支援を行っていく必要があるのです。


これは、外国人労働者を採用する企業には欠かせない視点と言えるでしょう。

具体的な取り組みとしては、採用の仕方や人事・評価制度の見直し、日本人従業員に対する教育などが挙げられます。

本稿では、これらの取り組みを実施する方法や考え方について詳しく解説します。ぜひ、外国人労働者が働きやすい労働環境作りの参考にしてください。

参考)日本の労働環境の短所と課題

短所と課題 回答人数(163人中)
キャリアパスが不明確45人(27.6%)
昇進、昇格、昇給の基準が不明確42人(25.8%)
職場の意思決定が遅い38人(23.3%)
英語や母国語で就労できる環境の整備が不十分37人(22.7%)
遠回しな言い方など仕事の指示が不明確37人(22.7%)
仕事以外の付き合いが希薄36人(22.1%)
能力・業績に応じた報酬が得られない35人(21.5%)
長時間残業がある32人(19.6%)
職場の研修制度が不十分28人(17.2%)
個性、能力、専門性がいかせる職場への配置が困難23人(14.1%)
メンター制度などの相談体制が不十分22人(13.5%)
飲み会など業務時間外の付き合いが多い13人(8.0%)
仕事の内容が不明確11人(6.7%)
長期雇用が保障されていない7人(4.3%)
仕事の内容がつまらない、やりがいがない6人(3.7%)
外国文化・宗教に対する理解が不十分4人(2.5%)
その他22人(13.5%)

※表は以下を参考にライトワークスが作成
総務省「高度外国人材の受入れに関する政策評価書」,令和元年6月,https://www.soumu.go.jp/main_content/000627731.pdf(閲覧日:2021年10月27日)

[1] 総務省「高度外国人材の受入れに関する政策評価書」,令和元年6月,https://www.soumu.go.jp/main_content/000627731.pdf(閲覧日:2021年10月27日)

1. 外国人労働者の労働環境を整えるメリット

まず、外国人労働者向けの労働環境を構築するメリットについて確認しましょう。以下のような点があります。

・優秀な人材を確保しやすくなる
・外国人労働者の離職率を抑えることができる
・イノベーション効果が期待できる

1つずつ見ていきましょう。

・優秀な人材を確保しやすくなる

労働環境の良さが有利に働くのは日本人向けの採用戦略と同じです。

今後、人材獲得競争はますます激化していくでしょう。

外国人労働者から見て働きやすいと思える環境を整え、それをアピールしていくことは、会社の業績に良い影響をもたらします。

技能実習生は制度上転職ができませんが、快適に実習を進められる環境を用意することは、失踪など技能実習生特有に言われている問題の未然防止につながり、企業のブランドイメージの向上に役立ちます。

・外国人労働者の離職率を抑えることができる

時間とコストをかけて外国人労働者を採用しても、適正な労働環境が構築されていないと離職につながってしまう恐れがあります。

これは採用コストに跳ね返り、悪循環が生まれてしまいます。

あなたの会社を、外国人従業員から「この会社でできるだけ長く働きたい」と思ってもらえる会社にすることが大切です。

・イノベーション効果が期待できる

外国人従業員と日本人従業員が協働できる環境を構築することで、これまでとは違う視点で物事を見る機会を作り出すことができます。

文化や風習、宗教や言語など様々な思考と価値観が混ざり合うことで、新しいアイデアが生まれやすくなり、業務の進め方や新製品の開発など、様々な分野でイノベーションの創出が期待できます。

2. 外国人労働者が働きやすい労働環境を構築する3つのステップ

外国人労働者が働きやすい労働環境を構築するために、大きく3つのステップがあります。

・ステップ1:募集から採用までの流れを把握する
・ステップ2:外国人労働者に適した社内制度を設計する
・ステップ3:外国人労働者に特有の問題を解決する

1つずつ見ていきましょう。

2-1. ステップ1:募集から採用までの流れを把握する

まず、外国人労働者の募集方法や採用時の注意点などを把握しましょう。

2-1-1. 外国人労働者の募集方法

外国人労働者を募集するには、ハローワークや外国人雇用サービスセンターを利用する方法があります。

ハローワークでは、就労が認められている外国人に対して職業紹介を行っており、外国人労働者の雇用を希望する企業との斡旋を行っています。

ハローワークで外国人労働者の求人申し込みを行うには、ハローワークで仮登録と本登録を行う方法と、インターネットで仮登録をした後にハローワークで本登録を完了させる方法があります。

外国人雇用サービスセンターでは、厚生労働省が管轄する外国人向けの就職支援を行っています。

企業に対して、留学生や高いスキルを持つ外国人材の紹介を行っており、東京、名古屋、大阪、福岡にセンターがあります。

外国人雇用サービスセンターで求人申し込みを行うには、事前に事業所管轄のハローワークにて事業所登録を行う必要があります。

ハローワークと外国人雇用サービスセンターでの申し込み方法は4章で詳しく解説します。

また、インターネット上に求人広告を出す方法も有効です。

求人広告の中には、外国人専用のサイトがあり、IT技術などの高い専門性を持った人材を募集することが可能です。

ある程度外国人の従業員が定着してきたら、リファラル採用も有効です。

日本で暮らす外国人は、国や地域ごとにコミュニティを作っているので、口コミや紹介で良い人材に巡り会えるかもしれません。

2-1-2. 採用時の注意点

外国人労働者を採用する際は、以下の点に注意が必要です。いずれも、就業の仕方に関わって来る内容です。

・業務内容を明確にする
・在留資格を確認する

・業務内容を明確にする

外国人労働者を採用するときは、日本と海外の雇用スタイルの違いを念頭に置いておく必要があります。

日本では仕事内容を明確に限定しない「メンバーシップ型雇用」が一般的ですが、海外では仕事内容が事前に決められている「ジョブ型雇用」が主流です。

企業が外国人労働者に対して、仕事内容やキャリアプランを明確にしないまま採用を進めると、ミスマッチによる早期離職やモチベーションの低下といった問題の発生が懸念されます。

これらを未然に防ぐため、外国人労働者を採用するときには、ジョブディスクリプションなどを活用して、職務内容や自社が期待する役割などを明確に提示しましょう。

・在留資格を確認する

外国人が就労するためには在留資格が必要であり、企業は在留資格で定められている範囲内の業務を割り当てる必要があります。

在留資格で許可されていない仕事に従事させた企業は、不法就労助長罪に問われます[2]。以下はその一例です。

・「技術・人文知識・国際業務」の在留資格を持つ外国人労働者に工事現場での単純労働や飲食店での皿洗いなどをさせる
・「技能実習」の在留資格を持つ外国人に通訳などの仕事をさせる

すでに在留資格を持っている人材を採用するときは、自社で従事させたい仕事ができる在留資格を持っているかどうか、しっかりと確認しましょう。

在留資格によっては、4年制大学の卒業など特定の学歴が必須の場合があります。

新しく海外から外国人材を採用する場合、採用後に従事させたい業務を遂行できる在留資格を取得できる学歴を持っているかを確認することが重要です。

2-2. ステップ2:外国人労働者に適した社内制度を設計する

外国人労働者を雇用するにあたっては、制度面の見直しや確認が必要です。以下がポイントとなります。

・コンプライアンスの遵守を意識する
・就業規則を外国人労働者の母語で用意する
・公正で明瞭な評価制度を構築する
・日本人従業員に対し、必要な指導を行う

1つずつ見ていきましょう。

・コンプライアンスの遵守を意識する

外国人労働者を雇用するとき、企業は日本人従業員を雇用するときと同じく、労働契約を締結し、記載内容を遵守する必要があります。

労働基準法も、日本人と全く同じものが適用されます。企業は最低賃金や労働時間、休憩、休日などの基準を順守しなければなりません。

他にも、外国人労働者に時間外労働を行わせる場合は36協定を締結する必要があり、そうしなかった場合6カ月以下の懲役また30万円以下の罰金になります[3]

企業の経営陣や人事担当者が、外国人労働者の雇用に関してコンプライアンスの徹底を図ることが適正な社内制度の構築の第一歩と言えます。

参考)ライトワークスのeラーニング教材「外国人材採用企業向けシリーズ 入門編」
https://www.lightworks.co.jp/e-learning/9371

・就業規則を外国人労働者の母語で用意する

労働基準法第89条には、「常時十人以上の労働者を使用する使用者は、就業規則を作成しなければならない(一部抜粋)」と規定されています[4]

これには外国人労働者も含まれ、企業は労働時間、遅刻、欠勤、基本給、手当などの規則を彼らに明示する必要があります。

法律では、就業規則を外国人の母語で用意するようにとは定めていません。しかし、給与や休日などのルールを随時確認できるように、分かりやすい形にしておくことは、雇用者としての義務と言えるでしょう。

これにより、外国人従業員も安心して働くことができますし、労使間の無用なトラブルを防ぐことにもつながります。

厚生労働省のホームページには、雇用管理に役立つ用語集が、英語、ベトナム語、中国語、タガログ語などの言語で用意されています。

「基本給」「給与明細」「始業」「就業」などの用語を例文付きで見ることができ、外国人の従業員に就業規則を示す際に活用できます。

参考)厚生労働省「雇用管理に役立つ多言語用語集」,https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/tagengoyougosyu/vietnamese/index.html(閲覧日:2021年10月19日)

・公正で明瞭な評価制度を構築する

外国人労働者は、日本企業に対し、公平で分かりやすい評価制度を求めています。

冒頭でご紹介した総務省の調査結果でも、「キャリアパスが不明確」「昇進、昇格、昇給の基準が不明」が1位と2位を占めていました。

他社の調査結果においても、この傾向は明らかです。

外国人材の採用サポートを行っている株式会社オリジネーターは、2021年3月に自社が運営するサイト登録者のうち、日本で働いている(または働いたことがある)外国人社員に対してインターネット調査を行い、129件の有効な回答を得ました[5]

「日本で働いてみて、不満に思ったこと・がっかりしたことは?(複数選択)」という問いに対して、以下の回答が上位を占めています。

・求められている役割や仕事内容が明確でない(28.7%)
・人事評価の基準が明確でなく、外国人だと昇給・昇進できない(28.7%)
・やりたい仕事に関われない(21.7%)

また、約半数が「転職を考えている(55.8%)」と回答しており、その理由の第一位は「より成長できる環境を求めて(63.9%)」となっています。

この調査結果から、外国人労働者の中には日本の評価制度に不満を持っており、自分のスキルを最大限に活かすことができていないと感じている人がいることが分かります。

よって、外国人労働者を雇用する企業は、以下の点に取り組むと良いでしょう。

・外国人労働者に対して評価制度を明確にする
・外国人労働者がスキルを活かせる部署に配属にする
・外国人労働者が成長できていると感じられる職場環境を作る

例えば、外国人労働者を含む全従業員の評価基準を見直し、昇給や昇進の条件を分かりやすくします。

人事の評価内容について、外国人労働者との食い違いをなくすために、英訳した評価シートを用意するといった対策も有効です。

また、外国人労働者には生涯雇用という概念がないため、短期間でキャリアアップできる制度構築も必要です。

入社数年であっても評価基準に達してる外国人労働者には、現場の責任者や管理職のポジションを与えるなどの人事設計を行うことで、従業員のモチベーションの維持が期待できます。

・日本人従業員に対し、必要な指導を行う

外国人労働者の雇用に向けた社内制度の改革には、経営・マネジャー層だけでなく日本人従業員の協力と理解も必要です。

日本人従業員に対して「なぜ外国人労働者が必要なのか」「外国人労働者とどのように協働するのか」「外国人労働者の雇用がどのようにプラスになるのか」などを教育して、彼らに対する正しい見方を醸成してきましょう。

社内で外国人労働者に対する健全な見方を育成していくことで、いじめや暴力、パワーハラスメントなどの問題を防ぐことが可能になります。

2-3. ステップ3:外国人労働者特有の問題に取り組む

制度だけではフォローできない部分については、個別の取り組みが必要です。

制度周りをハードとすると、これはソフト面からのアプローチと言えるでしょう。具体的な例としては以下が挙げられます。

・外国人労働者とのコミュニケーション問題の解決
・外国人労働者の悩み相談 メンター制度の導入

1つずつ見ていきましょう。

・外国人労働者とのコミュニケーション問題の解決

日本語は世界の中でも難しい言語と言われます。そのうえ、日本人のコミュニケーションの仕方は独特です。

敢えて結論を言わなかったり、言いにくいことを婉曲的に表現したりする習慣があり、これがビジネスシーンでもよく見られます。

日本人同士であれば難なく文脈を読んだり意図をくんだりすることができる内容でも、外国人にはそうはいきません。

日々のコミュニケーションがうまくいかないと、お互いにストレスがたまるばかりでなく、組織としてのパフォーマンスにも悪影響が生じかねません。

日本人の従業員と外国人の従業員のコミュニケーションを円滑化するためには、まず「日本語の会話はとても難しい」という前提に立ち、日本人の従業員がなるべく分かりやすい日本語を話すよう、指導していく必要があるでしょう。

ここでご紹介したいのが、「やさしい日本語」です。「やさしい日本語」とは、外国人にも分かりやすい日本語のことです。

実践にあたっては、「ハサミの法則」が参考になるでしょう。「ハ」は「はっきり話す」、「サ」は「最後まで話す」、「ミ」は「短く話す」です。

例えば、「安全確認は?」という質問には、聞きたいことを示す肝心のパートがありません。「安全確認をしましたか?」の方が正確に伝わります。

日本人同士の会話では、このように「最後まで言わない」表現が非常に多く見られます。この欠落パートを推測することは、外国人にとっては大変難しいことです。

また、「この機械は危険だから必ず安全確認をしてください」よりも、「この機械は危険です。必ず安全確認をしてください。」と一文を短くしたほうが、外国人にはしっかり伝わります。

「分かりやすい日本」と「ハサミの法則」の具体例は以下の動画からご覧いただけます。ぜひ参考にしてみてください。

・分かりやすい日本語動画
東京都生活文化局,「【外国人おもてなしフォーラム】「やさしい日本語」とコミュニケーション10のポイント」,https://tokyodouga.jp/3myjp-ggyvm.html(閲覧日:2021年11月1日) ・ハサミの法則の紹介動画
やさしい日本語落語普及委員会「桂かい枝 入門・やさしい日本語『ハサミの法則』」,https://www.youtube.com/watch?v=d2bFW6jKOPM&t=258s(閲覧日:2021年11月1日)

大切ことを確実に伝えたいときは、翻訳アプリを使うという方法もあります。

以前は翻訳アプリと言えば、「Google翻訳」が主流でしたが、最近ではより自然な翻訳が期待できる「DeepL翻訳」が注目されています。

・外国人労働者の悩み相談 メンター制度の導入

住み慣れた国を離れ、言葉や文化、習慣の違う国で働くのは簡単なことではありません。

外国人労働者は彼ら特有の悩みや不安を抱えています。企業が彼らのメンタル面に支援の手を差し伸べることは重要です。

この点でメンター制度の導入は効果的です。外国人労働者が気軽に相談できるメンターを選任することで、彼らが抱える仕事上の悩みやプライベートのストレスを軽減することができます。

メンターには、メンティーである外国人労働者の母語で相談に応じることができる人材をアサインするのがベストです。

難しい場合はメンティーにとっての第2言語や、「やさしい日本語」で対応できる人材を当てましょう。

[2] 法令検索「第73条の2」,『出入国管理及び難民認定法』,https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326CO0000000319(閲覧日:2021年10月22日)
[3] 法令検索「労働基準法」,https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049(閲覧日:2021年10月20日)
[4] 法令検索「労働基準法」,https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049(閲覧日:2021年10月20日)
[5] 株式会社 PR TIMES「【日本で働く外国人社員アンケート】日本の「雇用の安定」を評価(約50%)する一方で、「役割の曖昧さ」「人事評価の基準」には不満(各約30%)も!」,『PRTIMES』,2021年5月13日,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000045936.html(閲覧日:2021年10月19日)

3. 【プラスαでもう一歩】外国人労働者のサポート体制

外国人労働者が快適に暮らし、仕事に集中できる環境を作るために、企業にできることは色々あります。ここでは以下の2点をご紹介します。

・外国人労働者の日本語学習をサポートする
・外国人労働者の生活を手厚く支援する

1つずつ見ていきましょう。

3-1. 外国人労働者の日本語学習をサポートする

日本語力の上達はパフォーマンスに直結します。

業務推進に関する会話やメールはもちろん、日本人のメンバーとの雑談を交えたおしゃべりも、チームビルディングの観点から重要な意味を持っています。

企業ができる支援の一つとしては、日本語能力試験(JLPT)の資格取得をサポートすることが挙げられます。

日本語能力試験はN5~N1にレベル分けされており、N5は基本的な日本語を理解できるレベル、N1は幅広い場面で使われる日本語を理解できるレベルになっています。

職種にもよりますが、日本語でコミュニケーションしながら働く場合、N2かN1は欲しいところです。

具体的な支援の方法としては、教材受験費用の補助といった費用面の施策が考えられます。

また、合格者を表彰する、評価制度と連動させるといったインセンティブ施策により、外国人労働者のモチベーションアップを図るといった施策も有効です。

外国人労働者の日本語学習を支援する取り組みは、組織のパフォーマンスアップに向けた先行投資と考えましょう。

参考)日本語能力試験JLPTのサイト
https://www.jlpt.jp/

3-2. 外国人労働者の生活を手厚く支援する

日本に住み慣れていない外国人は、生活の様々な面で発生する各種の手続きや、病院の受診などに大変苦労しています。

ここでは、企業がどのように支援の手を差し伸べることができるか、見ていきましょう。

・各種手続きのサポート
・買い物や通院などをサポート
・外国人労働者が地域社会に馴染めるようにサポート

・各種手続きのサポート

外国人労働者にとって、役所での住民票などの手続き、携帯電話の契約、銀行口座の開設などはとても難しい手続きです。

日本語の問題だけでなく、手続きに必要な書類をそろえたり、役所や銀行の場所を探すのにも苦労する場合があります。

そのため、日本人の従業員が手続きに必要な書類を事前に説明したり、各種手続きに同行するといった実際的な支援が有効です。

さらに、外国人労働者の中には住むアパートを見つけることができず苦労する人もいます。不動産屋や大家によっては「外国人だから」という理由で入居を断る場合もあるからです。

また、外国人がアパートを契約する場合、日本人の連帯保証人が必須の場合があります。

企業が不動産屋や大家と交渉したり、連帯保証人になるといった協力をすることで、外国人労働者が生活基盤を築くサポートをすることできます。(※最近は保証会社の活用もみられます)

・買い物や通院などをサポート

買い物や通院は、会社の仕事とは直結しませんが、健康的な生活を維持するために必要な行為です。

特に、日本語力に自信がない方にとっては、日常生活の中に大きな不安が付きまといます。日本語学習の支援と合わせて、こうした生活面のサポートを行うことも、大変意義のあることです。

・生活必需品はどこで買えるのか
・病気になったら/怪我をしたら、どうやって病院に行けばいいのか
・薬はどこで買えるのか

こういった情報を事前にまとめて共有してあげるなどの取り組みが考えられます。

病院やドラッグストア、スーパーマーケットやホームセンターなどの場所を掲載した地図を配布するのも効果的な方法です。

・外国人労働者が地域社会に馴染めるようにサポート

地域によっては、外国人に馴染みがなく、地元の住民と外国人従業員の間に交流が生まれにくい状況があり得ます。

企業は、こうした状況を見越して、地域のイベントに外国人従業員を伴って参加するといった工夫をすると良いでしょう。

外国人従業員に地域でのCSR活動に参加してもらうと、外国人に対する無意識の偏見(アンコンシャス・バイアス)を取り払う機会となるだけでなく、企業のブランドイメージの向上にも役立ちます。

また、日本人従業員が外国人従業員を伴って近隣の住民にあいさつに行くといった取り組みも有効です。

日本人は基本的にシャイですが、カタコトの日本語であっても、最初に笑顔で自己紹介ができれば、かなり印象が変わるでしょう。

4. 外国人労働者の雇用に関する相談先

ここでは、外国人労働者の労働環境について疑問や悩みが出てきたときに、活用できる制度や相談窓口をご紹介します。

・外国人雇用管理アドバイザー制度

外国人雇用管理アドバイザー制度は、外国人労働者の適正な雇用管理や労働条件の推進を目的として、厚生労働省によって管轄されています。

外国人雇用管理アドバイザーが、外国人労働者の雇用に伴う問題や改善点などの相談に応じてくれます。

相談の申し込みはハローワークで受け付けており、相談料は無料です。

外国人労働者を初めて雇用する企業担当者、すでに外国人を雇用しているが最適な労働環境の構築について相談したい方は利用してみると良いでしょう。

・外国人雇用管理アドバイザー制度について
厚生労働省「外国人雇用管理アドバイザー」,https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/anteikyoku/koyoukanri/index.htm(閲覧日:2021年10月19日)

・ハローワークと外国人雇用サービスセンター

2章でご紹介したように、外国人労働者の求人をしたい場合は、ハローワークか外国人雇用サービスセンターに相談してみましょう。

ハローワークの所在地は厚生労働省のホームページから確認できます。

・全国のハローワークの所在について
厚生労働省「全国ハローワークの所在案内」,https://www.mhlw.go.jp/kyujin/hwmap.html(閲覧日:2021年10月19日)

また、外国人雇用サービスセンターの問い合わせ先は以下の通りです。

・東京外国人雇用サービスセンター
ホームページ:https://jsite.mhlw.go.jp/tokyo-foreigner/home.html
住所:〒160-0004 東京都新宿区四谷1-6-1 四谷タワー13階
電話:0570-011000

・名古屋外国人雇用サービスセンター
ホームページ:https://jsite.mhlw.go.jp/aichi-foreigner/
住所:〒460-8640 愛知県名古屋市中区錦2-14-25 あい★彡ワーク8階
電話:052-855-3770

・大阪外国人雇用サービスセンター
ホームページ:https://jsite.mhlw.go.jp/osaka-foreigner/home.html
住所:530-0017 大阪市北区角田町8-47 阪急グランドビル16階
電話:06-7709-9465

・福岡外国人雇用サービスセンター
ホームページ:https://jsite.mhlw.go.jp/fukuoka-roudoukyoku/hw/fuzoku_kikan/gaisen.html
住所:810-0001 福岡県福岡市中央区天神1-4-2 エルガーラ12階
電話:092-716-8608 参照:厚生労働省「外国人雇用サービスセンター一覧(Employment Service for foreigners)」,https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12638.html(閲覧日:2021年10月19日)

5. 企業事例

ここでは、外国人労働者向けの労働環境の構築に成功している企業事例をご紹介します。

これまでに解説した内容を実践している企業例ですので、参考にしてみてください。

5-1. カシオ計算機株式会社:職種別採用を導入、高いモチベーション維持に効果

従業員2,768人、外国人数29名の電子機器製造販売業のカシオ計算機株式会社では、外国人労働者が入社後のキャリアプランをイメージしやすいよう、職種別採用を導入した[7]

結果、高い専門性を持った人材の獲得や入社後のミスマッチによる早期離職の防止に役立っている。

キャリアプランが明確になっているため、外国人労働者が高いモチベーションを維持しやすく、キャリアアップ志向が強い外国人材の獲得に効果的であると感じている。

また、外国人労働者が日本語能力を向上できるよう、ビジネス・コミュニケーション能力の水準を測るテスト費用を企業が補助している。

これは、外国人労働者の日本語学習の意欲を高めることに役立っている。

5-2. 日本特殊陶業株式会社:「バディ制度」で人労働者のコミュニケーション問題を解決

スパープラグとニューセラミックの製造・販売を手掛ける日本特殊陶業株式会社は、従業員5,719人を抱えており、そのうち29人が高度外国人材である[8]

日本語や日本の文化に馴染みのない外国人労働者が企業に早く馴染めるようにするため、日本人の新入社員がサポート役を務める「バディ制度」を導入。

外国人労働者が座学研修などの際に理解できないことがあったときなどには、日本人の従業員が分かりやすく説明する。

この仕組みは外国人労働者が抱えるコミュニケーション問題の解消につながっており、バディ制度を導入した2017年以降の離職者は0人となっている。

[7] 厚生労働省「外国人の活用好事例集」,https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11655000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu-Gaikokujinkoyoutaisakuka/741015kkf0920.pdf(閲覧日:2021年10月21日)
[8] 厚生労働省「高度外国人材にとって魅力ある就労環境を整備するために」,https://www.mhlw.go.jp/content/000541599.pdf(閲覧日:2021年10月21日) 外国人材の採用についてeラーニングで社員教育

6. まとめ

いかがでしたか?本稿では外国人労働者が働きやすい労働環境を構築するための取り組みや考え方について解説しました。

まず、外国人労働者の労働環境を構築するメリットには以下のものがあります。

・優秀な人材を確保しやすくなる
・外国人労働者の離職率を抑えることができる
・イノベーション効果が期待できる

外国人労働者が働きやすい労働環境を構築するために、3つのステップが重要です。

ステップ1:募集から採用までの流れを把握する
採用にはハローワークや外国人雇用サービスセンターを活用する方法や、インターネットの求人サイトを活用する方法があります。採用に当たっては以下の点に注意しましょう。

・業務内容を明確にする
・在留資格を確認する

外国人労働者を在留資格で許可されていない仕事に従事させると不法就労助長罪に問われるので、特に注意が必要です。ジョブディスクリプションの導入も有効でしょう。

ステップ2:外国人労働者に適した社内制度を設計する
社内制度の見直しでは以下の点がポイントとなります。

・コンプライアンスの遵守を意識する
・就業規則を外国人労働者の母語で用意する
・公正で明瞭な評価制度を構築する
・日本人従業員に対し、必要な指導を行う

海外ではジョブ型雇用が一般的なこともあり、日本企業でのキャリアの在り方に違和感や不満を抱く外国人労働者は多いようです。この点にも注意して見直しを行いましょう。

外国人労働者に適用される労働関係法令は日本人の場合と同じです。労働契約の締結、最低賃金の保証、36協定の順守など、怠ることのないよう注意しましょう。

ステップ3:外国人労働者に特有の問題を解決する
制度だけではフォローできない部分は個別の施策で解決しましょう。本稿では具体例として以下の2点をご紹介しました。

・外国人労働者とのコミュニケーション問題の解決
・外国人労働者の悩み相談 メンター制度の導入

日本人の従業員は「やさしい日本語」の利用を心掛けましょう。

さらに、生活面の支援を行うことで、外国人労働者の生活は安定し仕事に集中できる環境を作ることができます。具体的な例として以下の2点をご紹介しました。

・外国人労働者の日本語学習をサポートする
・外国人労働者の生活を手厚く支援する

外国人労働者の労働環境について相談したい場合は、以下の制度や窓口を活用しましょう。

・外国人雇用管理アドバイザー制度
・ハローワークと外国人雇用サービスセンター

外国人労働者向けの労働環境を構築するには、日本式の制度を大幅に見直す必要があるかもしれません。

一筋縄ではいかないことですが、これらの見直しは、多様な働き方の実現や、職場のダイバーシティの実現につながるものです。

その先には、組織のパフォーマンス向上や採用市場における優位性の確立といった具体的なメリットがあります。ぜひ積極的に取り組みましょう。

今回ご紹介した情報が、あなたの会社が外国人労働者にとって働きやすい労働環境を構築するための一助になれば幸いです。

参考)
総務省「高度外国人材の受入れに関する政策評価書」,令和元年6月,https://www.soumu.go.jp/main_content/000627731.pdf(閲覧日:2021年10月27日)
法令検索「第73条の2」,『出入国管理及び難民認定法』,https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=326CO0000000319(閲覧日:2021年10月22日)
厚生労働省「雇用管理に役立つ多言語用語集」,https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/tagengoyougosyu/vietnamese/index.html(閲覧日:2021年10月19日)
法令検索「労働基準法」,https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=322AC0000000049(閲覧日:2021年10月20日)
株式会社 PR TIMES「【日本で働く外国人社員アンケート】日本の「雇用の安定」を評価(約50%)する一方で、「役割の曖昧さ」「人事評価の基準」には不満(各約30%)も!」,『PRTIMES』,2021年5月13日,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000045936.html(閲覧日:2021年10月19日)
東京都生活文化局,「【外国人おもてなしフォーラム】「やさしい日本語」とコミュニケーション10のポイント」,https://tokyodouga.jp/3myjp-ggyvm.html(閲覧日:2021年11月1日)
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厚生労働省「外国人雇用管理アドバイザー」,https://www.mhlw.go.jp/www2/topics/seido/anteikyoku/koyoukanri/index.htm(閲覧日:2021年10月19日)
厚生労働省「全国ハローワークの所在案内」,https://www.mhlw.go.jp/kyujin/hwmap.html(閲覧日:2021年10月19日)
厚生労働省「外国人雇用サービスセンター一覧(Employment Service for foreigners)」,https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_12638.html(閲覧日:2021年10月19日)
厚生労働省「外国人の活用好事例集」,https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11655000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu-Gaikokujinkoyoutaisakuka/741015kkf0920.pdf(閲覧日:2021年10月21日)
厚生労働省「高度外国人材にとって魅力ある就労環境を整備するために」,https://www.mhlw.go.jp/content/000541599.pdf(閲覧日:2021年10月21日)
厚生労働省「外国人材が活躍できる環境の整備」,https://www.mhlw.go.jp/content/12602000/000391312.pdf(閲覧日:2021年11月3日)
厚生労働省「外国人雇用対策 Employment Policy for Foreign Workers」,https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/gaikokujin/index.html(閲覧日:2021年11月3日)

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