外国人労働者の教育 コミュニケーション改善のために企業ができること

「外国人従業員の能力を最大限に引き出す方法は?」

外国人従業員の能力開発に悩む企業は多いのではないでしょうか。文化も母語も日本語のレベルも違う外国人の従業員に、何をどう教えればよいか、答えは一つではなさそうです。

そこで、外国人従業員特有の課題に注目してみましょう。株式会社日本総合研究所の調査によると、外国人労働者の雇用比率が相対的に高い主要産業449社のうち、7割近くが外国人労働者とのコミュニケーションに課題を感じています[1]

グラフ)外国人労働者の活用上の課題

株式会社日本総合研究所「「人手不足と外国人採用に関するアンケート調査」結果 ―受け入れ拡大に多くが賛成。制度の改善・国内人材の活用支援の要望も―」,2019年4月17日公表,p13を基にライトワークスにて作成,https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchreport/pdf/11052.pdf(閲覧日:2022/10/11)

コミュニケーションは人間関係や業務の推進を支える土台ですから、「すぐに離職する」や「日本人社員との関係がうまくいかない」といった問題の原因になっている可能性もあります。

つまり、外国人従業員に必要な教育を考える時、コミュニケーション改善というテーマは大きな可能性を秘めているということになります。

これは、外国人従業員の日本語レベルだけの問題ではありません。日本の企業で日本人と一緒に仕事をするためには、日本の文化やマナービジネスの慣行などについても知る必要があります。仕事をしながら徐々に覚えていく部分も多くありますが、教育という形で基礎固めをすることができれば、自社で働く外国人労働者間に「共通認識」や「共通文化」が生まれ、個人差を減らすことができます。その分、その後の現場教育やOJTもスムーズに進むでしょう。

また、日本人従業員の方にも、外国人従業員と働くためのコミュニケーション上の工夫をしてもらう必要があります。

そこで本稿では、一般的に行われている外国人労働者への教育とありがちな課題をご紹介するとともに、外国人と日本人のコミュニケーションを改善するために双方に必要な教育施策をご提案します。ぜひ参考にしてください。

[1] 株式会社日本総合研究所「「人手不足と外国人採用に関するアンケート調査」結果 ―受け入れ拡大に多くが賛成。制度の改善・国内人材の活用支援の要望も―」,2019年4月17日公表,p13,https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchreport/pdf/11052.pdf(閲覧日:2022年10月11日)

1.一般的に行われている外国人労働者向けの教育は?

外国人労働者の活動は在留資格に規定されるため、教育の在り方もそれぞれ異なります。

例えば技能実習生であれば、入国の前後に日本語や日本の生活に関する知識、技能実習生の法的保護に必要な情報に関する法定講習を受けます[2] 。入国前講習を受けると入国後講習の期間が2カ月から1カ月に短縮されるため、入国前講習を受けてから入国するのが一般的です。

そもそも技能実習制度の目的は「技能、技術又は知識の開発途上地域等への移転」ですから、実習自体が教育であると言えるでしょう。一方で、就労開始後の日本語の学習は必須ではないため、日本語がほとんど話せない技能実習生も多く存在します。

特定技能の場合は、各産業分野で就業するために、2年10カ月以上の技能実習を良好に修了するか(技能実習ルート)、特定技能試験に合格する必要があり(試験ルート)、その際にN4レベルの日本語と、一定レベルの専門知識を習得しています。就業後は、第1号特定技能支援制度に基づき日本語教室や日本語教育機関に関する情報提供や入学手続きの補助、同じく日本語の自主学習やオンライン日本語講座の教材利用の補助などの教育支援[3]を受けます。

技能・人文知識・国際業務(技人国)の場合は、法定の研修は特になく、基本的に日本人の従業員と同等の研修を受けることになります。ただし、技人国の在留資格では産業・サービスの現場で働くことが認められていません。このため、育成目的のジョブローテーションであっても、専ら工場勤務や接客サービスに従事する形をとると、不法就労になってしまいます。日本人の新人教育の一環として行われるのと同等の短期的な実地研修なら問題のない場合もあります[4]入社時のOJTについては出入国管理局からガイドライン[5]が出ていますので、確認しましょう。

また、企業によっては外国人労働者に向けて独自に日本語学習支援を行っているところもあります。外部講師を招いて業務に必要な日本語教育を行うほか、日本語学校や研修ベンダーへの委託も一般的に行われています。

外国人労働者向けの教育として重要視されている科目として、安全衛生教育が挙げられます。安全衛生教育は、労働者を労働災害から守るために行われる教育です。特に建設業や製造業など現場での危険な作業を伴う職種においては、しっかりとした安全衛生教育が必要です。

外国人労働者の場合、技能実習生や特定技能外国人がこうした分野に従事し得ますが、技能実習生や特定技能外国人の日本語能力は高くないため、学習にはサポートが必要です。そこで、厚生労働省は労働災害発生率が高い製造業・商業・産業廃棄物処理業・警備業について、公式ホームページで言語別の視聴覚教材を配布している[6]他、溶接職種や建設作業、農業等に携わる技能実習生の安全衛生マニュアルも配布しています[7]

このように、外国人労働者に向けてはその在留資格や業種、また企業独自のニーズからさまざまな教育が行われています。「就労」ということに注目した場合、その教育が安全衛生や業務教育、すなわち「仕事の遂行に必要と思われる実用的な教育」に向かうのは当然と言えます。

しかし、実は外国人労働者が抱える課題はもっと前段に潜んでおり、ここに力点を置くことで全体がより良い方向に流れ出す可能性があります。それが、冒頭でお伝えしたコミュニケーションを巡るトピックです。次章で詳しく確認しましょう。

[2] 行政書士みなと国際事務所「入国後講習」(閲覧日:2022年11月15日)
[3] 出入国在留管理庁「1号特定技能外国人支援に関する運用要領」, https://www.moj.go.jp/isa/content/930004553.pdf(閲覧日:2022年11月15日)
[4] コンチネンタル国際行政書士事務所「技術・人文知識・国際業務の在留資格で許容される(現場)実務研修」, https://continental-immigration.com/employ/training/(閲覧日:2022年11月15日)
[5] 出入国在留管理庁「就労資格の在留諸申請に関連してお問い合わせの多い事項について(Q&A)」, https://www.moj.go.jp/isa/content/001344550.pdf(閲覧日:2022年11月15日)
[6] 厚生労働省「未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル」, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000118557.html(閲覧日:2022年11月14日)
[7] 厚生労働省「技能実習生向け 安全衛生マニュアル一覧」, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000199369.html(閲覧日:2022年11月15日)

2.外国人労働者向けの教育で注目すべき課題

コミュニケーションは生活、就労、全ての土台と言えますが、多くの外国人労働者はここに課題を抱えています。具体的には日本語や日本文化、マナーなどが挙げられます。順番に見ていきましょう。

2-1. 日常会話レベルの日本語では不足

まずは言語の問題です。一口に外国人労働者といっても、日本語のレベルはさまざまです。

外国人の日本語能力を測るための代表的な試験に日本語能力試験(JLPT)があります。JLPTにはN5からN1までのレベルが設定されており、外国人留学生を採用する企業の約8割が、N1またはN2の合格を入社基準としています[8]。一方、特定技能の在留資格取得に必須とされている日本語能力は、N4以上とされています。

グラフ)日本語能力試験(JLPT)の各レベル認定の目安

レベル認定の目安
N1幅広い場面で使われる日本語を理解できる
読む:論理的にやや複雑な文章や、抽象度の高い文章(新聞の論説、評論など)が理解できる
聞く:自然なスピードの、まとまりのある会話やニュースが理解できる
N2幅広い場面で使われる日本語をある程度理解できる
読む:論旨の明快な文章(新聞や雑誌の記事・解説、平易な評論など)が理解できる
聞く:自然に近いスピードの、まとまりのある会話やニュースが理解できる
N3日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる
読む:日常的な話題について書かれた文章が理解できる(難易度が高い文章も、言い換え表現があれば理解できる)。新聞の見出しから概要をつかむことができる。
聞く:やや自然に近いスピードの、日常的な会話がほぼ理解できる
N4基本的な日本語を理解できる
読む:基本的な語彙や漢字を使って書かれた、身近な話題の文章が理解できる
聞く:ややゆっくりと話される、日常的な会話がほぼ理解できる
N5基本的な日本語をある程度理解できる
読む:ひらがなやカタカナ、基本的な漢字を使って書かれた、定型的な語句や文が理解できる
聞く:ゆっくりと話される、短い日常会話から、必要な情報を聞き取ることができる

国際交流基金,日本国際教育支援協会「N1~N5:認定の目安」,『日本語能力試験 JLPT』を基にライトワークスにて作成,https://www.jlpt.jp/about/levelsummary.html(閲覧日:2022年10月7日)

こちらの表で分かるように、N4で求められる日本語レベルは「基本的な日本語を理解できる」程度です。

基本的な日本語を理解できるなら、カタコトでもなんとか意思疎通できるだろうと思うかもしれません。しかし、仕事となると程度の差はあれ専門性が出てきますので、そう簡単には行きません。

また、JLPTも万能ではないという事情もあります。JLPTの試験内容は文字や語彙、文法などの言語知識、読解、リスニングで構成されており、自分の意思を会話で伝えるスピーキングは取り入れられていません[9]

そのため、外国人によってはたとえJLPTでN1に合格していても、日本語で会話することが難しい場合があります。会話が専門的な業務内容の伝達であれば、さらに難易度は上がるでしょう。

ちなみに、「日本語で日本語を教える」ことができるようになるのはN3レベルあたりから、と言われています。N4レベルでは「日本語を母語で教えないと理解できない」ので、相手の言語を話すことができない日本人従業員は大いにジェスチャーに頼ることになるでしょう。こうなると業務内容の伝達は非常に厳しいと言えます。

日本人が考えている以上に、日本企業で働くための日本語は難しいのです。

2-2. 日本文化やマナーの教育も重要

言語の次は、文化です。日本で働く外国人が日本語を使う現場は、日本の社会や企業です。そこにいる日本人は、共通の文化的背景(コンテクスト)で結ばれています。日本はハイコンテクスト文化、すなわちコミュニケーションを取る際に共通の文化的背景に基づく言語以外の要素に頼る傾向が強い国だと言われています。「阿吽の呼吸」、「空気を読む」、「行間を読む」といわれるものです。

仮に私たちが外国人にこうした習慣を強制するつもりがなくても、私たちの社会そのものがこうしたコンテクストの上に成り立っている以上、日本で暮らす外国人は一定程度の日本文化を理解した方が暮らしよい・働きやすいということが言えるでしょう。

日本文化の特徴は「和」にあると言われます。人との関わりでいえば、それは協調を重んじる文化であり、職場においても協調・チームワークが重視されます。

しかし、コンテクスト共有していない外国人労働者がこうした習慣を理解できず、指導内容をうまくくみ取れないケースは多々あります。例えば、日本では当たり前の時間厳守や報・連・相の文化は多くの外国人労働者にとってはなじみがないので、遅刻や無断欠勤を巡って職場とトラブルになってしまうことがあります。

こうしたトラブルは当然外国人労働者にとってもストレスです。ある調査によると、外国人労働者の早期離職の原因の第1位は「上司のマネジメント・指導に対する不満」(複数回答可で41%が選択)でした。これに「業務内容のミスマッチ」(同34%)、「給料が安い、残業代が支払われない」(同31%)、「職場の人間関係に対する不満」(同31%)が続きます[10]

上司のマネジメント・指導や人間関係への不満は、正にコミュニケーションを巡る問題と言えるでしょう。業務内容や給与についても、元をたどれば就労前または就労中の説明不足やケア不足に起因する可能性があります。

外国人労働者にパフォーマンスを発揮してもらうためには、日本語だけでなく、日本の職場の文化やマナーについても知ってもらい、共通のコンテクストを増やしていく企業側の努力が求められます。

【コラム】「外国人労働者の子供にも日本文化教育を」

外国人労働者が増加している日本では、外国人労働者の子供も同じように増えています。外国にルーツを持つ子供たちが日本語や文化になじむことができず、日本社会で孤立するケースは少なくありません

日本語教育が必要な公立高校生のうち、2017年度は9.61%が中退しています[11]

中退した子供たちは、日本語が分からないためにその後も苦難の道をたどる場合が多いでしょう。このような子供たちをより多く救うには、日本語や日本文化教育が必要です。

愛知教育大学では、外国にルーツを持つ子供たちやその保護者、指導者などに向けて日本語や日本文化の指導に必要な教材・ガイドブックを提供しています[12]

このような取り組みが、日本社会全体で必要といえるでしょう。

[8] 株式会社ディスコ「外国人留学生の就職活動状況」,2020年8月,https://www.disc.co.jp/wp/wp-content/uploads/2020/08/fs_2020-08_chosa.pdf(閲覧日:2022年10月28日)
[9] 日本語能力試験(JLPT)「試験科目と問題の構成」,https://www.jlpt.jp/guideline/testsections.html(閲覧日:2022年10月11日)
[10] 株式会社エイムソウル、ヒューマングローバルタレント株式会社、リフト株式会社「日本で働く外国籍人材の離職とモチベーションダウンに関する調査」,2021年11月26日公表,https://www.daijob.com/uploads/pdfs/a4ebf7-7d94-4f3ea.pdf(閲覧日:2022年10月18日
[11] 朝日新聞デジタル「日本語教育必要な生徒、1割弱中退 公立高平均の7倍超」,2018年9月30日,https://www.asahi.com/articles/ASL9W4DYZL9WUTIL00Z.html(閲覧日:2022年10月11日)
[12] 愛知教育大学外国人児童生活支援 リソースルーム「教材一覧」,https://resource-room.nihongo.aichi-edu.ac.jp/about/(閲覧日:2022年10月11日)

3.外国人労働者向けの教育、どうあるべきか?

ここまで見てきたように、外国人労働者には日本語・日本文化に関する教育支援が必要です。そのうえで業務教育を行うのが理想と言えるでしょう。

これは実際にはとても難しいことですが、せめて初期の業務教育において外国人労働者に大きなハンデがあることを知っておくことは大切です。このことを社内の関係者の共通認識とし、現場で必要なケアやフォローができる体制を作りましょう。そして、業務と並行して、徐々にでもそのハンデを埋めていく努力を続けていくことが大切です。

ここでは、(1)日本語、(2)日本の文化やビジネスマナー、(3)業務、3つの教育分野について、目的別の方法や進め方を解説していきます。

3-1. 日本語教育の進め方

企業が外国人従業員の日本語学習を支援する方法には、主に次の3つがあります。

・日本語学校に通ってもらう
・外部講師を招く
・eラーニングを活用する

1つずつ見ていきましょう。

・日本語学校に通ってもらう

これは最もシンプルな方法と言えます。日本語学校にはきちんとしたカリキュラムがありますし、既に就労している外国人労働者に向けたコースを用意しているところもあります。例えば、業務連絡や電話対応の仕方などです。

プロの日本語教師に日本語を習いながら、同じ外国籍の仲間ができることも、日本語学校のメリットです。異文化の社会で友達を作るのは大変です。会社以外のところで社会的な関係が築ければ、精神的にも大きな支えになるでしょう。

・外部講師を招く

外国人従業員の数が多い場合、外部講師を招くのも良い方法です。日本語学校の場合と同じようにプロの授業を受けられますし、自社の業界や仕事の内容に応じて必要な日本語を重点的に教えてもらうことも可能です。

また、外国人従業員が学習している様子を直にみられることも、メリットの一つです。コミュニケーションが難しいと、人格や個性を把握するのも難しくなります。これを機に、1人ひとりの姿勢や言動を観察し、その後の育成やチームビルディングに活かすというのも良いでしょう。

・eラーニングを活用する

eラーニングはインターネットを利用して、パソコンやスマホで学習する手法です。いつでも・どこでも学習できること、全員に一括して同じプログラムを提供できること、学習の進捗状況や成績をシステムで一元管理できること、などがメリットです。

アニメーションや動画を使った学習教材やテスト教材と別に、オンラインで日本語授業を行っている研修ベンダーもあります。プログラムの組み合わせ方によって、スピーキングも含めたさまざまな日本語能力を伸ばすことができるでしょう。

3-2. 日本の文化やビジネスマナー

「外国人」×「日本文化」と聞くと、着物や和食などの伝統文化が思い浮かぶかもしれません。しかし、外国人労働者に必要なのは「今」日本で暮らす・働くのに役立つ現代の文化です。

買い物の仕方や列にきちんと並ぶこと、駅の利用方法、職場での挨拶やマナーなど、生活や仕事に直結したテーマがよいでしょう。

こうした情報共有系の教育は、eラーニングが得意とするところです。「こういう情報なら日本人の同僚でも教えられる」と思われるかもしれません。しかし、言語の壁がある中、外国人の視点で役に立つ情報を、体系的に整理して伝えるのは決して簡単ではありません。担当者によって教える内容や説明の仕方にムラが出るのも問題です。

eラーニングなら、これらの問題を解消できます。ライトワークスでも、外国人労働者の「暮らす・働く」に役立つeラーニング教材を提供していますので、必要とあらばぜひお問い合わせください。ゴミの出し方から給与明細の見方、災害対策、コロナ対策、病院の受診の仕方など、豊富なラインアップを取りそろえております。

文化やマナーになじめず孤立してしまうこともある外国人労働者にとって、こうした情報提供はとても重要です。外国人従業員が気持ち良く日本で生活できるよう、サポートしましょう。

3-3. 業務教育

業務教育については各社に独自の手法が用意されていることと思います。専門知識自社・業界特有の表現が入ってくるため、汎用的なサービスを使うのが難しいジャンルです。

外国人労働者にとっては、言語面で苦労が多く、特に初期のうちはインプットにかかりきりになるでしょう。小売業界の企業に新卒で就職したある技人国の在留資格の方は、最初のうちはひたすら商品リストをノートに書き写し、日本語の商品名を覚えたそうです。

また、IT企業に中途で入社したやはり技人国の在留資格の方は、N1レベルの日本語能力を持っていましたが、早口で飛び交うIT用語和製英語、その会社独自の言い回しを理解するのに相当苦労したと言います。1対1で具体的な業務の説明を受ければ大方理解できても、プレゼンテーションや全体会議での報告など一方的に話されるだけの概念的・抽象的な話になると、難易度が急に高くなるとのことでした。

この例で言えばOJTの効果は高いと言えますが、そこで具体の業務理解が進んでも、部門や会社の方針などより上位の情報のインプットが足りていなければ、モチベーションが維持できなくなるリスクがあります。

外国人従業員に対しては、仮に一定の日本語能力を持っているとしても、定期的に業務内容や事業についての理解度を確認し、適宜フォローしていく体制が必要と言えるでしょう。

また、1章で触れたように、危険な作業を伴う職種では、安全衛生教育が特に重要になります。怪我のリスク、あるいは命の危険があるような場合には、危険を回避し、身を守るための対策を教える必要があります。

ここでも、やはりカギを握るのは言語です。特に重要な言葉やフレーズは、母語でその意味を確認してもらい、該当する日本語を丸暗記してもらうといった対策が必要です。例えば、「危ない」「逃げろ」「よけろ」「触るな」などの言葉です。このような、緊急度の高いシーンで使われる強い言葉は、必ず日本語で覚え、また咄嗟の場面で発声できるよう、徹底した指導が必要です。

外国人労働者向けの業務教育では、eラーニング、特に動画効果を発揮します。映像と音があることで文字情報よりも理解しやすく、必要な時に何度でも再生して確認できるからです。

最近はeラーニングを内製する企業も増えていますので、ぜひ自社で用意することを検討してみてください。スマホで撮影した短い動画でも、充分教材になります。難しい用語については分かりやすい日本語か母語で書かれた説明資料を配布するなど、従業員の日本語能力レベルに合わせたフォローを行いましょう。

このように、外国人労働者にとって、業務教育は日本人が受ける場合とは次元の異なる苦労があります。ここをクリアしなければ、本人は十分なパフォーマンスが発揮できません。雇用側はそのことをよく理解し、きめ細かな支援を行っていく必要があります。

4.日本人従業員が「やさしい日本語」を使うことで、コミュニケーションはもっと円滑に

ここまで紹介したのは外国人労働者に向けて行う教育や支援です。特に言語教育は、他の教育の土台となるため、重要といえるでしょう。しかし、いくら熱意があっても、外国で外国語を使って働くのはやはり大変なことです。ましてや日本語は世界の中でも難しい言語とされています。

そこで、日本人従業員の側からも歩み寄る風土・習慣を作りましょう。そう言われると、「ダイバーシティ教育」や「異文化理解」といった概念的なテーマが思い浮かぶかもしれません。もちろん、これらも大変重要です。でも、これとは別に、ある意味もっと具体的即効的で実利的な対策があるのです。それが、「やさしい日本語」です。

「やさしい日本語」は、「外国人にとって分かりやすい日本語」です。日本語独特の曖昧かつ婉曲な言い回しを捨て、シンプルな言葉を使い、明快かつ直接的な表現で、相手に言いたいことを伝えます。遅まきながら日本でもグローバル化が進む中、なるべく平易な語彙と表現で意思疎通を図る、いわば外国人と日本人の共通言語として発案されたものです。

例えば、「おっしゃる」「申し上げる」「述べる」などは「言う」という言葉に統一します。尊敬語や謙譲語の要素を省き、目的だけを見据えた表現と言えるでしょう。

和製英語・カタカナ語も大敵です。「コストダウン」「スピードアップ」「マンツーマン」といった言葉は、英語ネイティブ表現には存在しません。「アポ」「コスパ」「オンスケ」などはもはや英語ですらなく、単なるカタカナ語です。

企業独自の言葉や表現が使われている例もよくあり、日本人であっても、転職先ではまずその会社でよく使われる用語や独特の表現を確認するところから始めるくらいです。

「ドキドキする」「モタモタする」「コツコツと」といったオノマトペも、外国人にはなかなか伝わりません。

たったこれだけの例を見るだけでも、日本語の難しさが分かるのではないでしょうか。ぜひ、日本人従業員に「やさしい日本語」を学習する機会を設けましょう。

職場で「やさしい日本語」が活用されるようになれば、外国人労働者とのコミュニケーション格段に取りやすくなるでしょう。このことは、業務の理解にとどまらず、同僚との関係構築エンゲージメント強化、ひいては組織全体のパフォーマンス向上につながっていきます。

「やさしい日本語」が生まれた背景実践のコツなどについて、詳しくは以下の記事をご参照ください。「ハサミの法則」「ワセダ式」といった、やさしい日本語で話すときに必要な原則論も紹介しています。

5.まとめ

外国人労働者の活動は在留資格に規定されるため、教育の在り方もそれぞれ異なります。外国人労働者に向けてはその在留資格や業種、また企業独自のニーズからさまざまな教育が行われています。

しかし、多くの外国人労働者はコミュニケーションに課題を抱えています。日本人が考えている以上に、日本企業で働くための日本語は難しいのです。

また、日本で暮らす外国人は一定程度の日本文化を理解した方が暮らしよい・働きやすいと言えますが、外国人労働者がこうした習慣文化を理解できず、指導内容をうまく汲み取れないケースが多々あります。

外国人労働者には業務教育の前にある程度の日本語・日本文化に関する教育支援が必要です。そのうえで業務教育を行うのが理想と言えるでしょう。

日本語教育の進め方としては、次の3つの方法があります。

・日本語学校に通ってもらう
・外部講師を招く
・eラーニングを活用する

業務教育でも、eラーニングは効果を発揮します。特に動画が効果的です。映像と音があることで文字情報よりも理解しやすく、必要な時に何度でも再生して確認できるからです。

日本人従業員の側からも歩み寄る風土・習慣作りも大切です。

「やさしい日本語」は、外国人にとって分かりやすく、シンプルで明快かつ直接的な表現を用います。日本人従業員に「やさしい日本語」を学習する機会を設けましょう。

外国人労働者は、働きたいという意志を持って来日してくれています。安心して業務に携われるように、生活面も含めて支援を欠かさない意識が大切です。

参考)
株式会社日本総合研究所「第2章 「人手不足と外国人採用に関するアンケート調査」結果─受け入れ拡大に多くが賛成も、制度の改善・国内人材の活用支援の要望─」,https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/jrireview/pdf/11443.pdf(閲覧日:2022年10月11日)
厚生労働省「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針(平成十九年厚生労働省告示第二百七十六号)」,https://www.mhlw.go.jp/content/000601382.pdf(閲覧日:2022年10月7日)
厚生労働省「外国人の活用好事例集~外国人と上手く協働していくために~」, 2017年3月公開,https://www.mhlw.go.jp/content/000541696.pdf(閲覧日:2022年10月13日)
厚生労働省「未熟練労働者に対する安全衛生教育マニュアル」, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000118557.html(閲覧日:2022年11月14日)
厚生労働省「技能実習生向け 安全衛生マニュアル一覧」, https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000199369.html(閲覧日:2022年11月15日)
出入国在留管理庁「1号特定技能外国人支援に関する運用要領」, https://www.moj.go.jp/isa/content/930004553.pdf(閲覧日:2022年11月15日)
出入国在留管理庁「就労資格の在留諸申請に関連してお問い合わせの多い事項について(Q&A)」, https://www.moj.go.jp/isa/content/001344550.pdf(閲覧日:2022年11月15日)
行政書士みなと国際事務所「入国後講習」(閲覧日:2022年11月15日)
コンチネンタル国際行政書士事務所「技術・人文知識・国際業務の在留資格で許容される(現場)実務研修」, https://continental-immigration.com/employ/training/(閲覧日:2022年11月15日)
日本語能力試験(JLPT)「N1~N5:認定の目安」, https://www.jlpt.jp/about/levelsummary.html(閲覧日:2022年10月11日)
日本語能力試験(JLPT)「試験科目と問題の構成」,https://www.jlpt.jp/guideline/testsections.html(閲覧日:2022年10月11日)
朝日新聞デジタル「日本語教育必要な生徒、1割弱中退 公立高平均の7倍超」,2018年9月30日,https://www.asahi.com/articles/ASL9W4DYZL9WUTIL00Z.html(閲覧日:2022年10月11日)
愛知教育大学外国人児童生活支援 リソースルーム「教材一覧」,https://resource-room.nihongo.aichi-edu.ac.jp/about/(閲覧日:2022年10月11日)
ヒューマンアカデミー日本語学校「ビジネス日本語講座(通学)」,http://hajl.athuman.com/course/special.html(閲覧日:2022年10月11日)
株式会社エイムソウル、ヒューマングローバルタレント株式会社、リフト株式会社「日本で働く外国籍人材の離職とモチベーションダウンに関する調査」,2021年11月26日公表,https://www.daijob.com/uploads/pdfs/a4ebf7-7d94-4f3ea.pdf(閲覧日:2022年10月18日)
株式会社ディスコ「外国人留学生の就職活動状況」,2020年8月公表, https://www.disc.co.jp/wp/wp-content/uploads/2020/08/fs_2020-08_chosa.pdf(閲覧日:2022年10月28日)
次世代採用ナビ「外国人社員への異文化理解-知っておくべき3つのポイント|【5分で分かる基礎知識】」,https://gnavi.yoiwork.com/whattoknowforrecruiting-vietnam-ja/(閲覧日:2022年10月28日)

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