「ダイバーシティ推進というのは、結局のところ『人と人』の話だな」
企業のダイバーシティ推進の現場で仕事をされている方には、このような実感があるのではないでしょうか。
新たな人材の採用や評価制度の構築、働き方改革など、ダイバーシティ推進で扱うテーマは多岐にわたりますが、中でも、人と人、すなわち人間関係やコミュニケーションに関する問題は、ダイバーシティを進めていく上で避けては通れない部分です。
サンリオエンターテイメントの小巻社長は、第23回日経フォーラム「世界経営者会議」で、企業が従業員らのダイバーシティを促すには「社員間のコミュニケーションで否定しない文化が必要だ」 [1]と語っています。
では「否定しない文化」を創るために必要なコミュニケーションとは、どのようなものなのでしょうか。
本稿では、ダイバーシティ推進におけるコミュニケーションの重要性と、コミュニケーションを改善するための具体的な施策をご紹介していきます。
ぜひ、参考にしてください。
[1] 株式会社日本経済新聞社「サンリオエンタ社長「否定しない文化が多様性促す」」,『日本経済新聞 電子版』より一部抜粋 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC08CQA0Y1A101C2000000/
目次
1. コミュニケーションはダイバーシティ推進のカギ
まずは、ダイバーシティ推進においてなぜコミュニケーションが重要なのか、その理由を見ていきましょう。
1-1. 表層的なダイバーシティと深層的なダイバーシティ
ダイバーシティには、表層的なダイバーシティと深層的なダイバーシティの2種類があります。
表層的なダイバーシティは、性別、年齢、人種、身体的特徴など、外見で識別できるものをいいます。深層的なダイバーシティは、パーソナリティ、考え方、価値観、仕事観、文化的背景といったその人の内側にあるもので、外見だけでは判断しにくいものです。[2]
どちらもダイバーシティを推進する上では欠かせない要素ですが、特に、深層的なダイバーシティは、ダイバーシティ推進の成果を左右するとても重要な要素です。なぜなら、組織がダイバーシティに取り組む大きなメリットの1つであるイノベーションは、見た目の違いによってではなく、様々な人の見方、考え方が交わることで生まれるからです。
しかし、実際のダイバーシティ推進においては、ぱっと見て分かりやすい表層的なダイバーシティに、つい意識が向きがちです。例えば、その場に様々な年齢、国籍の人がいれば、ただそれだけでも、一見するとその組織のダイバーシティが進んでいるように感じられます。
表面的な多様性ばかりが増えると、次のような問題さえ起こり得ます。
・あつれきや対立
・ミスコミュニケーション
・生産性の低下
・ハラスメント
外壁ばかり厚くしても、土台造りで手を抜けば、建物は自然と瓦解します。同じように、いくら表層的なダイバーシティを手厚くしても、深層的なダイバーシティがおざなりなままでは、組織は混乱とともに内部から崩壊していきます。
違いを認め受容し合いながら、お互いの深層にある意見や価値観をいかに活かしていけるかで、組織のダイバーシティ推進の成否は大きく変わってくるのです。
1-2. 良いコミュニケーションが深層的なダイバーシティを活性化させる
では、組織に存在する深層的なダイバーシティを活性化させるには、どうすれば良いのでしょうか。その答えの1つが、コミュニケーションです。
コミュニケーションが深層的なダイバーシティの活性化に必要な理由は、3つあります。
1つ目は、良いコミュニケーションは必要な相手への配慮につながるということです。多様な人材の中には、障がい者や時間的制約のある従業員など、前提条件として配慮が必要な人材が多くいます。配慮にも様々なものがありますが、例えば、外国人材に日本語で話しかける場合、理解しやすいように短い文章を使って、はっきりと最後まで言うこと(ハサミの法則[3])も、相手への配慮の1つです。こうした小さな配慮があるかないかで、その人が発揮できる力の大きさも変わってきます。
2つ目は、良いコミュニケーションは組織の心理的安全性を高めるということです。心理的安全性とは、「チームメンバーに非難される不安を感じることなく、安心して自身の意見を伝えることができる状態」をいいます。心理的安全性が高まれば、様々な人がもっと自由に発言できるようになり、結果、組織内で多様なアイデアがあふれるようになるのです。
3つ目は、良いコミュニケーションはコンフリクトを昇華させるということです。人材の多様性が高まる増えれば増えるほど価値観も多様になり、意見の対立が起こりやすくなります。意見の対立が続けば、お互いに疲弊し人間関係も悪化してしまいます。しかし、コミュニケーション次第では、意見の相違を活かし、より良いアイデアへと昇華させることもできます。
以上のように、従来のコミュニケーションに一工夫することで、多様な従業員からより多くの意見を引き出し、より良いアイデアへブラッシュアップさせることにつながり、深層的なダイバーシティを活性化させることができるのです。
1-3. ダイバーシティ推進で着目すべき4つのコミュニケーション
ただし、一口にコミュニケーションといっても、組織には様々なコミュニケーションが存在します。そして、コミュニケーションの種類によって、気を付けるべきポイントや対応策は異なります。
ダイバーシティ推進で注目すべきコミュニケーションは、以下の4パターンに整理することができます。
・ マイノリティ×マイノリティ
・ マイノリティ×マジョリティ
・ 従業員×従業員
・ 従業員×組織
次章より、詳しい内容や具体策について、ご紹介していきましょう。
[2] 荒金雅子『多様性を活かすダイバーシティ経営』,一般財団法人日本規格協会,2013,P21.
[3] ハサミの法則は、外国人に伝わりやすい「やさしい日本語」を話すための基本の心得とされています。(参考:電通報「やさしい日本語の基本は、『ハサミの法則』」https://dentsu-ho.com/articles/7829(閲覧日:2021/11/24))
2. ダイバーシティ・コミュニケーション「マイノリティ×マイノリティ」の施策例
マイノリティ×マイノリティのコミュニケーションでは、まずは、コミュニティ作りが大切です。というのも、マイノリティはマジョリティに比べ、安心して悩みを打ち明けられる場所や必要な情報を得られる機会が少なくなりがちだからです。
例えば、妊娠・子育て中の従業員を集めた座談会もコミュニティ作りの1つです。パパママ同士、仕事と育児の両立に関する悩みを共有し合ったり、使える制度について情報交換したりすることで、不安や孤独感を解消し、復帰後の活躍を後押しすることができます。
また、当事者であるマイノリティだけでなく、支援者となるマジョリティも加われば、徐々にネットワークの輪を広げ活動を全社へ展開してくことができます。
2-1. 【事例】マイノリティをつなぐ、Googleの草の根活動
Googleでは、社会的弱者に属する従業員を支援するため、ERGs(Employee Resource Groups)と呼ばれる草の根活動を、世界250カ所以上の支部で展開しています。
ERGsには、様々なグループがあり、それぞれ、コミュニティ作りやプロフェッショナルとしての能力開発の支援、社員を巻き込んだイベントの開催、制度整備に向けた組織への働きかけなどを行っています。また、ERGsの活動は、勤務時間内に行うことが可能です。
(表1) Support grassroots employee communities[4]
グループ | 活動内容 |
Women@Google | 女性従業員のネットワークやメンタリング、専門的な能力開発、コミュニティの提供など |
Greyglers | 一定の年齢を重ねた従業員のグループ。知見の共有、同世代の従業員や顧客のニーズの代弁、Googleのポリシー変更の提案、年齢の多様性に関する啓発、従業員のキャリアのサポートなど |
Disability Alliance | 自分自身や子ども、親戚、友人などに何らかの障がいがある従業員のグループ。アドバイスの共有や啓蒙、革新的でインクルーシブな職場、製品作りのサポートなど |
PRIDE at Google | LGBTQ+の従業員およびそのアライ(協力者)のグループ。LGBTQ+の従業員のサポート、組織のインクルージョンに向けた活動など |
Trans at Google | トランスジェンダー、トランスセクシャル、ジェンダークィア、ジェンダーフルイド、アジェンダー、ジェンダーバリアント、インターセックス、ノンバイナリー、クエスチョニングの従業員のための支援活動 |
Inter Belief Network | 仏教徒、キリスト教徒、ユダヤ人、イスラム教徒など、様々な宗教・信念を持つ従業員のグループ。様々な宗教・信念を持つコミュニティの声が、Googleの製品に反映されることを目指す。組織のインクルージョンに向けた活動など |
Mixed Googlers | 混血民族、混血人種の従業員のためのグループ。交流会や講演会の開催など |
Asian Googlers Network | アジア人従業員のグループ。アジア系コミュニティの専門性向上とコミュニティへの働きかけの推進。旧正月やアジア・太平洋諸島系米国人の文化遺産継承月間、秋月祭など、年間を通じて多くのイベントを開催。毎年数百人のメンバーを支援するメンターシッププログラムを提供 |
Black Googlers Network | コミュニティの支援、Google 社内外の黒人リーダーの育成、黒人歴史月間の活動、メンタリング、ボランティア活動など |
Africans@ Google | Black Googlers Networkの一環として、アフリカ人従業員が自分の家のように感じられるコミュニティの構築、その他支援など |
Hispanic Googlers Network | ラテン系従業員のグループ。ラテン系コミュニティのサポート、ヒスパニック文化に関連したイベントの開催、メンターシップの機会の提供など |
Filipino Googler Network | フィリピン人従業員のグループ。帰属意識を高めるための社内イベントの開催、能力開発プログラムの作成、フィリピン人コミュニティとのつながりを深めるための機会の提供など |
Google Aboriginal & Indigenous Network | 先住民族・アボリジニの従業員のグループ。先住民族のコミュニティへのSTEM教育の促進、外部の先住民族の非営利団体やビジネスグループとのパートナーシップの構築など |
Iranian Googlers | イラン人従業員のグループ。エンパワーメント、メンターシップ、ネットワーキングのためのプラットフォームの提供、他の従業員との交流促進、コラボレーションの強化など |
Indus Google Network | 南アジアの文化に親しみを持つ人たちのための、仕事や社会活動のプラットフォームの構築、コミュニティサービス、アウトリーチプログラム、ディワリやホーリーなどの文化的なお祝いなど |
Google Veterans Network | 退役軍人や軍人の家族、その支援者のためのグループ。優秀な軍人の採用と定着、外部のパートナーと協力したネットワークの影響力の拡大など |
[4] Alphabet Inc.「Google Diversity,Equity&Inclusion」を元に、ライトワークスが作成https://diversity.google/commitments/
3. ダイバーシティ・コミュニケーション「マイノリティ×マジョリティ」の施策例
マイノリティ×マジョリティのコミュニケーションでは、対話会や異文化理解をテーマにした研修など、相互理解を促す施策が有効です。なぜなら、ダイバーシティ推進はマイノリティだけでなく、マジョリティの協力も必要だからです。
例えば、時間的制約のある従業員に対し、その他の従業員が主に業務負担の面で不平不満を抱くケースがあり得ます。たとえその制度が時間的制約のある従業員にとっては就労を継続し活躍するために必要なものだったとしても、周囲の理解が得られなければ、なかなか活用はされません。良い関係を築き協力し合いながら働いていくためにも、お互いについて知り合ったり、意見を交わし合ったりすることが必要です。
相互理解を深めることで、マイノリティが支援を必要とする理由やなぜ、どのような支援が必要なのかを理解し、手助けするサポーターやスポンサーを増やしていくことができます。
3-1. 【事例】相互理解を深めるジョンソンエンドジョンソンのYou Belong
ジョンソンエンドジョンソンでは、相互理解を深めインクルージョンについて考えることを目的に、You Belongと呼ばれるイベントを開催しました。
全6回、延べ1,600名以上の社員が参加したこのイベントでは、まず、会社が推進するD&Iとは何かについて、説明が行われました。
そしてその後、「ロケーションによるダイバーシティ」、「国籍の違いによるダイバーシティとインクルージョン」、「居場所があると感じることとはどういうことか」など、各回で設定されたテーマに沿って、「インクルージョンを感じた瞬間」について当事者が直接話をしました。
例えば、日本で働く外国人材であれば、「日本のこんなところに驚いたけれども、こんなとき自分が受け入れられたと感じた」です。この他、育休を3回取得したワーキングマザーや、障がい者、入社以降コロナの影響で1度も出社せずに業務をしている新卒社員など、様々な立場の社員が自分の経験と想いを共有しました。
そして最後に、参加者全員で「私にとってのインクルージョンとは何か」について話し合い、イベントは終了しました。
アンケートの結果、「当事者の話に感銘を受けた」「マインドセットに変化があった」「明日からインクルージョンにつながる活動に取り組みたい」など、回答者の99%から前向きな回答を得ることができました。
このように、You Belongを開催したことで、多くの社員が様々なバックグラウンドを持った人がいることを知り、インクルーシブな文化を創るために自分ができることについて主体的に考え、行動を起こす第一歩へとつなげることができました。
3-2. 【事例】相手の「困った」を知る、小松製作所の業務日誌
建設機械・車両などの製造メーカーとして世界各地で事業を展開する小松製作所では、知的・発達障がいを持つ従業員と指導員のコミュニケーションの一環として、業務日誌の交換を行っています。
知的・発達障がいを持つ従業員は、業務日誌に思ったことを率直に書いていきます。指導員はそれを読み、相手が今何に興味があるのか、何に困っているのか、生活の状況や職場の人間関係などを把握していきます。
もし指示の出し方に問題があれば指導方法を工夫する、人間関係でトラブルがあれば阻害要因を取り除くなど、状況に応じて改善・サポートをします。そうすることで、障がい者の就労継続、活躍の支援へとつなげています。
3-3. 【事例】語学から入る異文化理解―本多機工の英語教室
産業用特殊ポンプ製造の本多機工では、日本人社員向けの英語教室を開催し、その際の講師を外国人社員に依頼しています。日本人社員は英語を学びつつ、教室内での交流を通じてお互いの文化やバックグラウンドについて理解を深めていくことができます。語学力が向上したことで海外事業への挑戦意欲を示すなど、日本人社員への刺激にもつながっています。
なお、この英語教室は終業後に開催され、講師にも参加者にも残業代が支給されています。
4. ダイバーシティ・コミュニケーション「従業員×従業員」の施策例
マイノリティ、マジョリティを問わず、従業員×従業員のコミュニケーションでは、アサーティブ・コミュニケーションやファシリテーション、コンフリクトマネジメントといった、実践的なコミュニケーションスキルを高める施策が有効です。なぜなら、1-2で述べた通り、組織に多様な人材が増えれば増えるほど、意見の対立が生まれやすくなり、合意形成が難しくなるからです。
ただし、意見の対立そのものは悪いものではありません。うまくマネジメントができれば、組織の大きな力となります。そのためにも、違いを恐れずに意見を出し合い、異なる意見も認めつつ、1つにまとめていくためのコミュニケーションスキルを身に付けることが大切です。
4-1. 【施策例】自分も相手も尊重する、アサーティブ・コミュニケーション研修
アサーティブ・コミュニケーションとは、相手を尊重しつつ自分の主張を伝えていくことで、相手とWin-Winの合意形成をするためのスキルです。様々な価値観がある中で、単に相手に合わせるのでもなく、また相手を否定するのでもなく、お互いを理解し協働していくために必要な表現方法や考え方を知り、身に付けていきます。
(表2)アサーティブ・コミュニケーション研修のカリキュラム例
1. アサーティブ・コミュニケーションの基礎 | ・アサーティブ・コミュニケーションとは何か ・アサーティブ・コミュニケーションのメリット ・アサーティブ・コミュニケーションに必要なマインド ・アサーティブ・コミュニケーションで必要なスキル ・セルフチェック |
2. アサーティブな聴き方 | ・アサーティブ・コミュニケーションにおける傾聴 ・積極的傾聴(アクティブリスニング) ・相手の信頼を得るには ・ワーク1 |
3. アサーティブな伝え方 | ・なぜ「伝える力」が重要か ・DESC(デスク)法 ・Iメッセージ ・ワーク |
4. アサーティブ・コミュニケーションの実践 | ・配慮が欲しいとき ・過度な要求への対応 ・感情的な攻撃への対応 ・不愉快な行為への対応 ・内に秘めた不満への対応 |
4-2. 【施策例】個の違いを力に変える、コンフリクトマネジメント研修
コンフリクトマネジメントとは、組織内でおこる従業員同士の衝突や葛藤をポジティブに受け止め、問題解決を図っていくためのスキルです。通常、コンフリクトはそのままだと、非難の応酬や感情的な対立、先延ばしなど、非生産的なコミュニケーションへとつながります。
しかし、コンフリクトをうまくマネジメントできれば、勝ち負けや正しい・正しくないなど表面的な利害にとらわれることなく、相手の立場に立って冷静に話を進めていくことができるようになります。そうして、生じたコンフリクトを健全なコンフリクトへと変えられると、組織に次のようなメリットをもたらすことができます。
・違いを活かし、新しいアイデアを生み出すことができる
・集団思考から抜け出し、意思決定の質が高まる
・win-winとなる方法を模索する中で相互理解が深まり、人間関係が強固になる
・健全なコンフリクトによって従業員間に適度な緊張感が生まれる etc.
(表3)コンフリクトマネジメント研修のカリキュラム例[5]
1. オリエンテーション | ・コンフリクトの具体的事象 ・コンフリクト/コンフリクトマネジメントとは何か? ・コンフリクトマネジメントの方法 ・コンフリクトマネジメントのプロセス |
2.アプローチ段階 | ・率直な意見を出し合うための空間を作る ・自身の心理的な環境を作る ・アプローチ段階のまとめ |
3.ソリューション段階 | ・ステップ1:情報を共有する ・ステップ2:問題を再焦点化する ・ステップ3:解決のアイデア出しをする ・ソリューション段階のまとめ |
4.クロージング段階 | ・合意と合意形成の違い ・解決策を絞り込む方法 ・解決策を検証する際の観点 ・クロージング段階のまとめ |
5.部門間コンフリクトの対処法 | ・部門間コンフリクトとは ・部門間コンフリクトを防止するポイント ・まとめ |
[5] 学校法人産業能率大学 総合研究所 「対立から協調へ コンフリクト・マネジメント研修 」を元にライトワークスが作成 https://www.hj.sanno.ac.jp/cp/public-seminar/course/3435.html
5. ダイバーシティ・コミュニケーション「組織×従業員」の施策例
組織×従業員のコミュニケーションでは、社内報やイントラネットなどで、組織から全従業員に向けて小まめに情報発信をしていくことが大切です。なぜなら、ダイバーシティ推進は成果を実感するまでに時間がかかる上、時には働き方やライフスタイルを問い直すこともあるため、従業員の中には抵抗感がある人もいるからです。
例えば、定期的に活動の進捗状況や成果を周知したり、社内の好事例を表彰したり特集したりすることで、従業員の関心を高め、活動への理解・協力へとつなげていくことができます。
5-1. 【事例】”ダイバーシティ推進”を”推進”する、JTBのダイバーシティINDEX
全世界172社からなるJTBでは、グループ全体の足並みをそろえるため、ダイバーシティ INDEXという指標を独自に策定し、各社のダイバーシティの推進状況の見える化に取り組んでいます。
ダイバーシティINDEXは、「Ⅰ. 経営者の意思と行動」、「Ⅱ. 中長期目標」、「Ⅲ. ポジショニング指標」の3部構成です。(詳細は表4参照)。その内、「Ⅰ. 経営者の意思と行動」の結果はグループ全体の経営会議で発表し、上位20社については、社内報を通じて従業員全体にも公表します。
このように、進捗状況を数値で見える化し、グループ内で結果を比較・公表することで、グループ各社の自律的な取り組みを促しています。
(表4)「ダイバーシティ INDEX」[6]
指標 | 内容 |
Ⅰ . 経営者の意志と行動 | グループ共通。「経営者による『意志と行動』が具現化されている状態」を目指すものであり、指標としては、年に1度グループ全体で実施される全社員を対象とした働き方に関する意識調査(以下「意識調査」)の一部結果(「社長の掲げる目標を知っているか」「社長はそれに対しコミットしているか」についての社員の回答)が用いられている |
Ⅱ . 中長期目標 | 各社別。各社が今後3年間で取り組むべきテーマを独自に設定するもので、例えば、社員意識調査の“働きがい”に関する若手社員の数値や、残業時間数、女性管理職比率といった数量化できるものを各社個別に掲げて毎年結果を明示する仕組み。この部分を自社の実態に即して設定できる自由度を設けることで、グループ内一律でなく、それぞれの業種業態に合わせて取り組みを進めてもらうための枠組みが成立している |
Ⅲ . ポジショニング指標 | 参考指標。「人財情報」、「社員意識」(前述の意識調査結果)、「施策事例実施状況」(両立支援制度などの実施状況)の3つの側面から指標を網羅的に提示し、「Ⅱ . 中長期目標」を設定する際の参考や、自社の達成できていないテーマの抽出などに活用できるようにしている |
[6] 経済産業省「株式会社ジェイティービー」,『ダイバーシティ100選2015』を元に、ライトワークスが作成 https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/practice/h26_pdf/44_jtb.pdf
6. まとめ
いかがでしたでしょうか。
ダイバーシティには、表層的なダイバーシティと深層的なダイバーシティの2種類があります。
ダイバーシティ推進では表層的なダイバーシティについ意識が向きがちですが、深層的なダイバーシティがおざなりになると、組織は混乱とともに内部から崩壊していきます。
深層的なダイバーシティは、コミュニケーションを改善することで活性化します。
理由は、次の3つです。
・必要な相手への配慮につながる
・組織の心理的安全性を高める
・コンフリクトを昇華させる
ダイバーシティ推進で注目すべきコミュニケーションは、以下の4つです。
・ マイノリティ×マイノリティ
・ マイノリティ×マジョリティ
・ 従業員×従業員
・ 従業員×組織
マイノリティ×マイノリティのコミュニケーションでは、まずは、コミュニティ作りが大切です。当事者であるマイノリティだけでなく、支援者となるマジョリティも加われば、徐々にネットワークの輪を広げ活動を全社へ展開してくことができます。
マイノリティ×マジョリティのコミュニケーションでは、対話会や異文化理解をテーマにした研修など、相互理解を促す施策が有効です。相互理解を深めることで、マイノリティが支援を必要とする理由や、どのような支援が必要なのかを理解し、手助けするサポーターやスポンサーを増やしていくことができます。
マイノリティ、マジョリティを問わず、従業員×従業員のコミュニケーションでは、アサーティブ・コミュニケーションやファシリテーション、コンフリクトマネジメントといった、実践的なコミュニケーションスキルを高める施策が有効です。うまくマネジメントができれば、組織の大きな力となります。
組織×従業員とのコミュニケーションでは、社内報やイントラネットなどで、組織から全従業員に向けて小まめに情報発信をしていくことが大切です。例えば、定期的に活動の進捗状況や成果を周知したり、社内の好事例を表彰したり特集したりすることで、従業員の関心を高め、活動への理解・協力へとつなげていくことができます。
良いコミュニケーションは、深層的なダイバーシティを活性化させ、やがて組織内に様々なメリットをもたらします。本稿が、貴社のダイバーシティ推進におけるコミュニケーション改善の一助となりましたら幸いです。
参考)
Alphabet Inc.「Google Diversity,Equity&Inclusion」, https://diversity.google/commitments/
(閲覧日2021年11月17日)
キャリアハック「 “多様性”は組織に何をもたらすか?Googleが描く、ダイバーシティを実現する方法。」, https://careerhack.en-japan.com/report/detail/210 (閲覧日2021年11月17日)
株式会社主婦と生活社 「社員の「居場所感を作る」ジョンソン・エンド・ジョンソンの戦略」,『CHANTO WEB』, https://chanto.jp.net/work/working/218619/(閲覧日2021年11月17日)
株式会社小松製作所「ダイバーシティへの取り組み」 https://komatsu.disclosure.site/ja/themes/88#anc04
(閲覧日2021年11月17日)
株式会社FVP「下村健一のクロストーク」 ,https://www.fvp.co.jp/atarimaeproject/atarimae_shimomuratalk/talk-5/ (閲覧日2021年11月17日)
厚生労働省『外国人の採用や雇用管理を考える事業主・人事担当者の方々へ 外国人の活用好事例集~外国人と上手く協働していくために~』,平成29年 https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11655000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu-Gaikokujinkoyoutaisakuka/741015kkf0920.pdf(閲覧日2021年11月17日)
内閣府 仕事と生活の調和推進室,『社内におけるワーク・ライフ・バランス 浸透・定着に向けた ポイント・好事例集』, http://wwwa.cao.go.jp/wlb/research/wlb_h2703/chapter4.pdf
(閲覧日2021年11月17日)
JTB「JTBグループの人財戦略」, https://www.jtbcorp.jp/jp/job_offer/challenged/action/human_development.asp
(閲覧日2021年11月17日)
経済産業省「株式会社ジェイティービー」,『ダイバーシティ100選2015』, https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/diversity/kigyo100sen/practice/h26_pdf/44_jtb.pdf(閲覧日2021年11月17日)
株式会社リカレント 「アサーティブコミュニケーション研修【良好な人間関係を実現する】」,https://www.recurrent.jp/listings/communication-assertive-assertive-open (閲覧日2021年11月22日)
学校法人産業能率大学 総合研究所 「対立から協調へ コンフリクト・マネジメント研修 」 https://www.hj.sanno.ac.jp/cp/public-seminar/course/3435.html(閲覧日2021年11月22日)
株式会社日本経済新聞社「サンリオエンタ社長「否定しない文化が多様性促す」」,『日本経済新聞 電子版』,https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC08CQA0Y1A101C2000000/(閲覧日2021年11月22日)
荒金雅子,『多様性を活かすダイバーシティ経営 基礎編』,一般財団法人日本規格協会, 2013年
荒金雅子,『多様性を活かすダイバーシティ経営 実践編』, 一般財団法人日本規格協会,2014年
リクルート HCソリューショングループ,『実践ダイバーシティマネジメント 何をめざし、何をすべきか』,英治出版,2008年
株式会社ライトワークス eラーニング教材「自分も相手も大切にする「アサーティブコミュニケーション」」