ビジネスに必要な日本語とは?企業向けに解説【外国人従業員理解のために】

この記事を読むと、次のことが分かります。

・ビジネス日本語とはどのようなものか
・ビジネス日本語の特徴、難しさ
・ビジネス日本語が必要な理由
・ビジネス日本語の代表的な習得方法
・BJTビジネス日本語テストとは何か
・企業が外国人従業員にできる支援
・「やさしい日本語」とは何か
・「やさしい日本語」の学習方法

外国人を雇用する際、特に気になるのは、その人の日本語能力でしょう。実際に、外国人従業員を雇用した後、コミュニケーションについて悩む企業は多いようです。株式会社日本総合研究所の調査によると、7割近くの企業が外国人従業員とのコミュニケーションに課題を感じています。

図表)株式会社日本総合研究所「人手不足と外国人採用に関するアンケート調査」

株式会社日本総合研究所「「人手不足と外国人採用に関するアンケート調査」結果」,2019年4月17日公表,https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchreport/pdf/11052.pdf(閲覧日:2023年7月23日)

また、ワークスモバイルジャパン株式会社の調査によると、外国人従業員と直接業務上のやりとりをしたことがある従業員の55%が「意思疎通が十分でない」と回答しています。

図表)外国人労働者との意思疎通ができているか

PR TIMES「【外国人労働者とのコミュニケーション実態に関する調査】一緒に働いたことがある会社員の55%が「意思疎通が十分でない」と回答」,2023年5月30日を基にライトワークスにて作成,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000349.000020202.html(閲覧日:2023年7月23日)

このような中、ビジネス日本語が注目されています。ビジネス日本語は、日常会話とは少々毛色の違う、仕事の場面で使われる日本語です。

外国人従業員を雇用する企業では、このビジネス日本語の特徴を押さえ、必要な支援ができる環境を整えておくことが理想と言えます。こうした取り組みは、日本の労働人口が減少の一途をたどる中、優秀な外国人材に「選ばれる」企業になるための一助となるでしょう。

本稿では、ビジネス日本語とその特徴、習得の仕方、習得のために企業ができる支援などについて解説します。外国人従業員とのコミュニケーションに役立つ「やさしい日本語」も紹介します。ぜひ参考にしてください。

1. ビジネス日本語とは 「勉強」だけでは学べない実践性がハードル

はじめに、ビジネス日本語とはどのような日本語なのかを理解しましょう。

1-1. ビジネス日本語とは 日常会話とは異なる独特の日本語

ビジネス日本語とは、一般的に仕事の場面(ビジネス場面)で使われる日本語を指します。したがって、日常で使われる日本語とは使われる場面や伝える内容、コミュニケーションの相手が異なります。

ビジネス日本語が使われるビジネス場面は多岐にわたり、対面コミュニケーションはもちろん、文書や電話でのやりとりなどもあります。内容の例を挙げると、ビジネス上の依頼をする、指示を受ける、報告をする、催促をする、クレーム対応、引継ぎ、アポ取りなどです。

また、ビジネスでは、部下、同僚、上司、顧客、取引先の担当者など、いろいろな人と接する機会があります。そのため、ビジネス日本語では、相手との人間関係に応じて、その都度言葉遣いを変える必要があります。

ビジネス日本語の特徴については2章で述べますが、ビジネス日本語で用いられる言葉や表現には、日本人の考え方や日本社会の特徴、商習慣などが反映されたものも少なくありません。

「それはよその国でも同じでは?」と思われるかもしれませんが、日本は、そもそも世界の中でもハイコンテクストの国といわれています。日本は他国と比べ、相手の発話、文面を解釈するときに、コンテクスト(背景・文脈)に頼る度合いが高い文化なのです。

例えば、上司が部下に「明日朝一で提出して」と指示をしたとします。「朝一」に対する認識が同じであれば、この会話は成立します。しかし、「朝一」が何時ごろなのか、時間に置き換えられるものなのか、この言葉に含まれている優先度に関するニュアンスなど、その辺りは実はかなりあいまいです。

日本人なら、状況によっては明日を待たずに当日中に提出しよう、という判断をするかもしれません。

この場合、上司は部下にこういった細かな判断を任せていることになります。ハイコンテクストの国である日本のビジネス会話には、話す側も、聞き手の文脈理解に依存して、対立などを避けるためにあえてハッキリ言わないといった特徴があるのです。

また、日本社会の特徴を表す概念に「ウチ・ソト」があります。聞き手や話題の人が自分と同じ集団に属するのか(ウチの関係)、そうでないのか(ソトの関係)を判断しながら、尊敬語を使ったり、謙譲語を使ったりしています(2章、3章で詳しく解説します)。

1-2. ビジネス日本語が注目されている背景

日本は高齢社会で、総人口は2008年をピークに減少傾向が続いています。それに伴い、地域経済を支える人材が不足しています。そうした中、国は、外国人材の活躍推進を成長戦略の一つに挙げています。

一方で、企業などが外国人材を受入れる上で、障壁となるのがビジネスでの日本語能力です。日本の大学や専門学校に在学する留学生が在学中に学ぶ日本語は、日常会話やアカデミックジャパニーズ中心で、ビジネス日本語を学習する機会は限られています

また、就職活動の際に日本語能力を証明する資格として、多くの留学生が日本語能力試験(JLPT)の結果を提示します。実際企業側も採用の際、日本語能力の目安としています。

しかし、JLPTにはビジネス日本語の要素はないため、JLPTで最も難しいレベルであるN1の合格者でも、ビジネス日本語力を測定するBJTビジネス日本語テスト(BJT)では高いスコアが取れないこともあります。

日本の企業で外国人従業員が働いていくためには、ビジネスに特化した日本語学習が必要です。こうした背景があり、近年ビジネス日本語が注目されているといえるでしょう。

2. 日本人にはなかなか見えない、ビジネス日本語の特徴

ここでは、ビジネス日本語の特徴について解説します。取り上げるのは以下の5つです。

・専門用語が多い
・決まり文句が多い
・相手や場面に応じた使い分けが必要
・配慮表現の適切な使用が求められる
・間接的な表現が使用される
・意図の把握が求められる

1つずつ見ていきましょう。

・専門用語が多い

日常会話でも多くの外来語が使われていますが、インセンティブ、クライアント、マネジメント、アジェンダ、コミットメントなど、ビジネス場面で特徴的に使われる外来語もあります。また、金融業、建設業、通信業、宿泊業といった業種ごとにも専門用語があり、これらを新たに覚えなければなりません。

中には、一般的な辞書には載っていない用語もあります。

・決まり文句が多い

ビジネスの場面では、いろいろな決まり文句があります。

例えば、あいさつでは「お疲れさまです」「お世話になっております」「お邪魔します」など、電話では「あいにく席を外しております」「ご伝言を承ります」「折り返しお電話をさせていただきます」などです。

これらは、単にフレーズを覚えるだけではなく、どのような場面で使うのが適切なのかも理解する必要があります。

・相手や場面に応じた使い分けが必要

前述したように、日本社会の特徴を表すものとして、ウチ・ソトという概念があります。その概念は言葉遣いにも表れています。

例えば、社内の会話で「田中さん」について話すときは、「田中さん」と言いますが、社外の人から田中さんについて聞かれたときなどは「さん」を付けずに「田中」と言います。

もう1つ、例を見てみましょう。社内であなたが、社長から「部長は何時ごろ来ますか?」と聞かれたとしたら、「部長は2時ごろいらっしゃいます」のように答えるでしょう。部長は自分の上司に当たるので、尊敬語の「いらっしゃる」を使います。

しかし、取引先から部長宛てに電話があり、「部長はいらっしゃいますか」と聞かれた場合は、「部長は2時ごろ参ります」と言うでしょう。この場合、部長はウチ(身内)の人なので、ソト(取引先)の人に対しては謙譲語を使うことになります。

・配慮表現の適切な使用が求められる

日常会話でも「悪いけど」「できたら」などといった表現が前置きとして使われることはありますが、ビジネス場面において特徴的な配慮表現もあります。

お願いするときは「お手数をおかけしますが」「お忙しいところ恐れ入りますが」「お手隙の際に」といった表現を使います。相手が答えにくいような質問をするときは、「差し支えなければ」と前置きの言葉を入れます。

これらを使うことによって、相手の気持ちに配慮していることを伝えることができます。逆に、いきなり本題に入ると、失礼な印象を与えてしまうことがあります。

・間接的な表現が使用される

申し受ける」という動詞がありますが、ビジネス場面では、「キャンセル料を申し受けます」「手数料を申し受けます」などのように金銭を請求する際に使われます。

日常会話では「払っていただきます」という直接的な表現になりますが、相手が支払わなければならない内容を婉曲的に伝えるために、「申し受けます」という間接的な表現を用います。

・意図の把握が求められる

「あの仕事、どうなった?」と上司に尋ねられたとします。上司は、単に進捗を聞いている場合もありますが、聞き手にも催促のニュアンスが伝わるだろうと期待して、この表現を使っている可能性もあります。

その状況で、単に進捗を答えただけで作業に手を付けなかったら、後で問題が生じることも考えられるでしょう。

また、「この部屋、寒くない?」と言われたら、単に自分の感じ方を聞かれているわけではないことがよくあります。この場合、「エアコン消しましょうか」など、相手の表情や態度、発話から察して、一歩進んだ配慮ある返答が求められている可能性があります。

3. ビジネス日本語の例

前章で確認した特徴を踏まえて、ビジネス日本語の具体的な表現の例を見ていきましょう。

3-1. あいさつで使うフレーズ

・お疲れさまです
・お世話になっております

ごくシンプルなあいさつですが、日本特有の表現です。「お疲れさまです」は社内、「お世話になっております」は社外の人に対して使うのが普通ですが、関係性によっては営業担当者がお客さまに「お疲れさまです」と声をかけることもあるでしょう。距離感によって例外があるということです。

また、「お世話になっております」は基本的にはすでに相手と何らかの関係がある前提で発される言葉ですが、担当者同士が初対面でも、企業同士の関係を踏まえて使用されることがあります。

話をする側が、個人の立場で話すのか、企業の立場で話すのか、そのときどきに応じて使用します。

3-2. 感謝を伝えるときのフレーズ

・恐れ入ります
・おかげさまで
・先日はありがとうございました

日本語の感謝の表現は、「ありがとうございます」「すみません」以外にもいろいろあります。

「恐れ入ります」は、前置き表現として、相手へ申し訳ないという気持ちを含める際に、「恐れ入りますが…」の形でも使われますが、これとは別に、単独で使う「恐れ入ります」もあります。

こちらは、目上の人へ感謝の気持ちを伝えるものです。目上の人に褒められたときや、何かをもらったときなどに使います。

おかげさまで」は、「おかげさまで~できました」という形で使われることが多い表現です。自分だけの力ではなく、あなたの助けや支えがあったからうまくいったという気持ちを伝えることができます。

また、日本では、受けた厚意に対して後日改めてお礼を言う習慣があります。上司にごちそうになったときなど、食後にはもちろんお礼を言うでしょう。加えて、次に会ったときも「先日はごちそうさまでした/ありがとうございました」とお礼を言ったり、翌日にメールでお礼を伝えたりすることがあります。

このようなお礼は日本では一般的ですが、受けた厚意に対して後日改めてお礼を言う習慣がない国もあります。

3-3. 謝るときのフレーズ

・すみません
・申し訳ございません
・お待たせいたしました

これらは謝罪の表現ですが、それほど大きな問題になっていないときでも、このような表現が使われます。対人関係において潤滑油のような働きを持ちます。なお、英語圏では「本当に自分が悪いと思い、責任を負う覚悟があるとき」に謝罪をします。

お待たせいたしました」は飲食店などでよく使われるフレーズですが、ビジネス場面でも使われます。

例えば、打ち合わせ中に、別件対応が急に入って席を外し、戻ってきたとしましょう。数分で戻ってきたとしても、多くの場合「お待たせいたしました」「お待たせして申し訳ございません」と言います。「お待たせしました」という表現は、英語圏ではあまり使われないようです。

3-4. 断るときのフレーズ

・せっかくですが
・ありがたいお話ですが
・できかねます、いたしかねます

上司や取引先などから、仕事のオファーを受けることがありますが、さまざまな事情から断らざるをえないときもあります。相手は「あなたなら」と思って声をかけているわけですから、断るのは心苦しいものです。

そんなときに、「せっかくですが」「ありがたいお話ですが」と一言添えます。このような配慮表現がないと、聞き手は失礼な印象を受けるかもしれません。

できかねます・いたしかねます」は、相手の要望に沿えないときに使う表現です。意味は「できない」ですが、「状況的に難しい」というニュアンスが含まれます。たとえば、「海外への発送はできかねます」「理由についてはご説明いたしかねます」「その件についてはお答えしかねます」などのように使われます。

ちなみに、この表現は不可能を表しますが、「~ない」という否定の形は含まれていません。そのため、外国人が言われた場合、一瞬「できる」のか「できない」のか分からないこともあり得ます。

日本のビジネスパーソンのコミュニケーションがいかに文化的なコンテクストに依存しているか、なんとなくお分かりいただけたのではないかと思います。このような環境で仕事をする外国人従業員に対し、企業は十分な理解を示すとともに、支援を検討しましょう。

4. ビジネス日本語を習得する方法は?

3章で挙げたようなビジネス日本語の使い分けやフレーズは、ビジネス日本語を学んだことがない外国人にとってはハードルが高いものです。JLPTのN1合格者でも、ビジネス日本語力を測定するBJTでは、高いスコアを取れない場合もあります。

外国人がビジネス日本語を習得するには、やはりビジネス日本語に特化した学習が必要です。とはいえ、単にフレーズを覚えるだけではなく、相手や場面に応じた使い分けなども理解できなければならないのが難しいところです。

実際、外国人材の日本語学習機会については「 OJT の機会を得る以外、高度な日本語コミュニケーション力を修得する機会はほとんどない[1]」という指摘もあります。OJTに任せきりになっていては、なかなか上達は望めないでしょう。

では、どのようにビジネス日本語の能力を身に付けていけばよいのでしょうか。次はビジネス日本語の習得法を見ていきましょう。

4-1. やっぱり実践が近道

ビジネス日本語を習得するには、教室内だけの学習では不十分です。やはり、実際にビジネスが行われている現場を学習の場として活用する方法が効果的でしょう。

ビジネス日本語教育のカリキュラム設計においても、教室外の地域社会、企業、行政など周りのリソースを活用するなど、積極的に教室外の実践的な活動をカリキュラムに盛り込むことが推奨されています。企業側が開催する、インターンシップや見学会、展示会などはビジネス日本語を身に付けるリソースになるというわけです。

入社後は全てがリソースになり得るわけですが、実践からより多くを学べるよう、教材や資格試験を有効的に使うとよいでしょう。企業側も、ビジネス日本語教材を見ることによって、どのような点が外国人材にとって難しいかが見えてきますので、相互理解にもつながります。

4-2. 教材を活用する

市販のテキストの活用も一つの方法です。いくつか教材を紹介します。

日本漢字能力検定協会『にっぽんのカイシャ~ビジネス日本語を実践する~』

この教材は、日本のビジネス現場読みやすいマンガで描いています。日本の企業での出来事や場面を取り上げており、教材を通して日本のビジネス現場に触れることができます。

金子広幸  『新にほんご敬語トレーニング』アスク出版

「お願いする」「スピーチをする」などの機能・場面別に実践的な敬語表現が学習できます。

上記の他、実際のやりとりに近い設定の中で、ロールプレイを通して学べる教材もあります。

村野節子他『タスクで学ぶ日本語ビジネスメール・ビジネス文書 適切にメッセージを伝える力の養成をめざして』スリーエーネットワーク

「受注する」「クレームを受ける」「報告書・始末書を書く」など、6つの場面で必要なメールや文書の書き方を学習します

村野節子他『初中級レベル ロールプレイで学ぶビジネス日本語-場面に合わせて適切に話そう-』スリーエーネットワーク

初級修了者向けの教材です。職場で仕事をする上で必要最小限のビジネス日本語を学び、相手に失礼のないコミュニケーションが取れることを目指します。

村野節子他『中級レベル ロールプレイで学ぶビジネス日本語―就活から入社まで―』スリーエーネットワーク

中級~中上級レベルの日本語学習者向け教材です。日本での就活や新入社員としての職業生活に有用な基礎日本語力の養成を目指します。ビジネス場面でよく使用されるフレーズ・表現や、就活を含む日本の企業文化についての知識も学べます。

村野節子他『ロールプレイで学ぶビジネス日本語 グローバル企業でのキャリア構築をめざして』スリーエーネットワーク

新入社員が業務を任されるようになるまでのストーリーで、実務に生かせる日本語会話と基本的な仕事の流れを学びます。後半では、日本の企業文化を理解し、その中で起こる問題に適切に対処していく力を養います。

最後の1冊は、日本語だけでなく企業文化についても学べる構成になっています。

4-3. 資格試験を活用する(BJTビジネス日本語テストとは)

BJTの勉強を通じて、ビジネス日本語を身に付けていく方法もあります。BJTは、ビジネス場面で必要とされる日本語のコミュニケーション能力を測定する試験です。公益財団法人日本漢字能力検定協会が運営しています。

その試験結果は、企業や教育機関においても広く活用されています。企業では、採用・配属時の日本語能力チェックや、手当支給・昇給・昇格の条件として活用するケースが多く見られます。

試験はCBT方式で、国内外の各テストセンターでコンピュータを使って解答します。受験後は、すぐに結果が交付されます。合格・不合格の判定はなく、0~800点のスコアを基に、レベル(J1+・J1・J2・J3・J4・J5の6段階)で評価します。

BJTのホームページでサンプル問題を見ることができますし、「BJTビジネス日本語能力テスト公式模擬テスト&ガイド」といった教材もあります。こうしたツールを使って試験対策を進めていくことで、ビジネス日本語を身に付けていくことができます。

参考)
公益財団法人日本漢字能力検定協会|BJTビジネス日本語テストのサンプル問題はこちら https://www.kanken.or.jp/bjt/about/level_sample.html
公益財団法人日本漢字能力検定協会|「BJTビジネス日本語能力テスト公式模擬テスト&ガイド」についてはこちら https://www.kanken.or.jp/bjt/book/

日本語がある程度上達すると、それ以降は自分の伸びを実感するのが難しくなってきます。BJTを毎年受験すれば、自分の伸びを数値で確認することができ、学習の動機付けにもなるでしょう。

5. ビジネス日本語について、企業ができる支援とは

外国人従業員が効果的にビジネス日本語を習得するには、企業側の理解やサポートが欠かせません。ここからは、企業の支援として何ができるのか見ていきましょう。

5-1. 日本語学習の支援

日本語でのコミュニケーションがうまくいかないと、実務上、さまざまな問題が起きかねません。また離職率が高くなってしまうことが予想されます。長く働いてもらうためにも、日本語学習の支援が必要です。

日本語学習の機会を提供するために、自社で日本語教育スタッフを採用する事例もありますが、日本語学校などの日本語教育機関へ依頼する方法もあります。その場合、外国人従業員が日本語学校へ通うこともあれば、学校側から講師を派遣してもらうこともあります。

外部に依頼する際は、全て丸投げするのではなく、社内で担当者を決め、日本語教育担当者・機関にしっかりと要望を伝えるようにしましょう。

加えて、外国人従業員に学習の様子を聞き、必要に応じて日本語教育担当者と目標設定やスケジュールなどの見直しを行うことも重要です。企業側の担当者がレッスン後に学習内容をヒアリングすることは、外国人従業員にとって復習の機会にもなります。

5-2. 受入れ体制の整備

外国人従業員にとっての分からない点、困っている点などを企業側がきちんと聞き取り、必要な支援を実施するには、さまざまな取り組みを行い、体制を整えることが不可欠です。

一例として、メンター制度を導入している企業もあります。メンターとは、相談相手、助言者のことです。

働き始めた外国人従業員にとって、分からないことは多いはずですが、質問したくても、周りに気を使ってためらってしまう可能性もあります。そうしたことに対応する企業の仕組みとして、困ったときに何でも相談できる人がいれば心強いでしょう。

また、日本人従業員と外国人従業員とのディスカッションの場を設けて、専門用語への理解を深めるなどの方法もあります。これは、外国人従業員とのコミュニケーションにおいて何が難しいのか、日本人従業員が知る機会にもなります。

例えばチームラボ株式会社では、週1回、日本人従業員と外国人従業員で、IT用語の日本語能力向上のため、日本語ディスカッション講座を実施しています。

経済産業省などによる「外国人留学生の採用や入社後の活躍に向けたハンドブック~実践企業に学ぶ12の秘訣~」では、受入れ体制の具体的な事例が複数紹介されています。これらを参考にして、より多くの企業が受入れ体制の整備を進めていくことが期待されています。

参考)
文部科学省・厚生労働省・経済産業省|「外国人留学生の採用や入社後の活躍に向けたハンドブック~実践企業に学ぶ12の秘訣~」 はこちら https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/ryugakusei_katsuyaku_pt/pdf/20200228_01.pdf

5-3. 日本人側の伝え方の見直し

日本では、「なるべく早く」「朝一で」といったあいまい・抽象的な表現が使われることがあります。しかし、「なるべく早く」「朝一」の意味するものが、聞き手と話し手の双方で一致するとは限りません

あいまい・抽象的な表現は、相手に伝わりづらかったり、誤解を与えてしまったりする可能性があるので注意が必要です。簡単・明確な言葉で相手に伝えるように工夫しましょう。

6. 日本人従業員には「やさしい日本語」の教育を

外国人従業員との円滑なコミュニケーションのためには、日本人従業員が「やさしい日本語」を使えるようになることも有効です。ここからは「やさしい日本語」とは何か、また「やさしい日本語」の学習方法について解説します。

6-1. 「やさしい日本語」とは

やさしい日本語」とは、「日本語の理解やコミュニケーションに関して何らかの困難を抱えている人のために配慮した日本語」を指します。つまり、簡単・明確で外国人にも伝わりやすい日本語のことです。難度はJLPTのN5~N3に相当します。

日本人従業員が「やさしい日本語」を使えるようになると、企業にとってもメリットが期待できます。

例えば、「やさしい日本語」を使って、会議などの話し合いを行うと、外国人従業員はより多くの内容を理解でき、自分の考えを発信することが可能になります。議論が活発になれば、新たなイノベーションにつながる可能性もあります。

また、日本人従業員にとっても「やさしい日本語」で話すことで、伝える力の向上が期待できます。

なぜなら、「やさしい日本語」を使うときには、外国人従業員が理解できるよう、結論を先に述べる文にするという工夫が必要です。また、外国人従業員が理解しやすい言葉になっているか、考えながら話す必要もあります。

このような工夫を通して、自分の考えを相手に分かりやすく伝える力と、論理的に説明する力が身に付き、商談や企画のプレゼンテーションなどに生かすことができるのです。

6-2. 「やさしい日本語」の学習方法

「やさしい日本語」を話すときにまず、「ハサミの法則」を心がけましょう。これは、「はっきり言う」「さいごまで言う」「みじかく言う」の頭文字を取ったものです。

また、一文を短くするために参考になる方法が、「ワセダ式」です。これは、「分けて言う」「整理して言う」「大胆に言う」の頭文字を取ったものです。

その他の心がけるポイントについてはこちらで紹介していますので、参考にしてみてください。

「やさしい日本語」について詳しく知るには、以下で紹介するホームページや各種ツール、書籍を利用することも有効です。

・チュウ太の道具箱

外国人にとって難しい文章かどうかを、漢字と語彙の点から判断します。難易度はJLPTの語彙レベルに基づいて表示されます。作った文面が「やさしい日本語」になっているかなどを確認したいときにおすすめです。

参考)
日本語読解学習支援システム   リーディング チュウ太|「チュウ太の道具箱」はこちら https://chuta.cegloc.tsukuba.ac.jp/tools.html

・出入国在留管理庁・文化庁「別冊 やさしい日本語書き換え例」

生活や仕事で用いられる難しい用語を集め「やさしい日本語」に書き換えています。就労における手続きを説明する専門用語や難解な用語を、分かりやすく説明する際に便利です。

参考)
出入国在留管理庁・文化庁|「別冊 やさしい日本語書き換え例」はこちら https://www.bunka.go.jp/seisaku/kokugo_nihongo/kyoiku/pdf/92484001_02.pd

・吉開章『入門・やさしい日本語 外国人と日本語で話そう』アスク出版

「やさしい日本語」の歴史や「やさしい日本語」を作成するときのコツ練習問題が掲載されています。

7. まとめ

日本では人口減少が進んでおり、外国人材の採用は今後、ますます活発になっていくことが予想されます。そうした状況の中、外国人とのコミュニケーションを円滑に行い、共に企業を発展させていくためのキー要素として、ビジネス日本語が注目されています。

ビジネス日本語とは、ビジネスの場面で使われる日本語のことです。

外国人従業員を雇用する企業ならば、このビジネス日本語の特徴を押さえ、必要な支援ができる環境を整えておく必要があります。それは、今後日本の労働人口が減少の一途をたどるとされる中、外国人に「選ばれる」企業になることが、企業の成長や存続のために重要だからです。

ビジネス日本語は、留学生が日本語の授業で学ぶ日本語とは異なり、以下のような特徴があります。

専門用語が多い
決まり文句が多い
・相手や場面に応じた使い分けが必要
配慮表現の適切な使用が求められる
間接的な表現が使用される
意図の把握が求められる

外国人がこのようなビジネス日本語を習得するには、ビジネス日本語に特化した日本語学習が必要になります。ビジネス日本語の習得法には以下のようなものがあります。

教材を活用する
・資格試験(BJTビジネス日本語能力テスト)を活用する

これらで学んだことを、職場で実践したり、周りの従業員に質問したりしてみるのもよいでしょう。

ビジネス日本語を学んでいる、または学びたいと考えている外国人従業員に対して、企業側ができる支援は以下の通りです。

日本語学習機会の提供
・相談窓口や交流の機会をつくるなど、受入れ体制の整備
・日本人側からの伝え方の見直し

外国人従業員との円滑なコミュニケーションのためには、日本人従業員が「やさしい日本語」を使うようにすることも効果的です。

「やさしい日本語」とは、「日本語の理解やコミュニケーションに関して何らかの困難を抱えている人のために配慮した日本語」を指します。つまり、簡単・明確で外国人にも伝わりやすい日本語のことです。

「やさしい日本語」を話すポイントは、ハサミの法則ワセダ式を心がけることです。

ハサミの法則は、「はっきり言う」「さいごまで言う」「みじかく言う」の頭文字を取ったものです。

ワセダ式は、「分けて言う」「整理して言う」「大胆に言う」の頭文字を取ったものです。一文を短くするための方法として参考にしてみてください。

最後に、より詳しく「やさしい日本語」を知ることができる、以下のホームページや各種ツール、書籍を紹介しました。

・チュウ太の道具箱
・出入国在留管理庁・文化庁「別冊 やさしい日本語書き換え集」
・吉開章『入門・やさしい日本語 外国人と日本語で話そう』アスク出版

外国人材が日本の企業で活躍するには、日常生活で使う日本語だけでなく、ビジネス日本語の習得も必要です。企業側は、外国人従業員が「仕事に必要な日本語」を学べるよう、積極的に支援していきましょう。

[1] 田中祐輔「メディアアーカイブを用いたビジネス日本語教育の実践」,『青山スタンダード論集 第18号』 ,p4,https://www.agulin.aoyama.ac.jp/repo/repository/1000/22612/(閲覧日:2023年7月23日)

参考)
株式会社日本総合研究所「『人手不足と外国人採用に関するアンケート調査』結果」,2019年4月17日公表,https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchreport/pdf/11052.pdf(閲覧日:2023年7月23日)
PR TIMES「【日本で働く外国人社員アンケート】日本の『雇用の安定』を評価(約50%)する一方で、『役割の曖昧さ』『人事評価の基準』には不満(各約30%)も!」,2021年5月13日,https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000015.000045936.html(閲覧日:2023年7月23日)
小池生夫(編) 『応用言語学事典』,研究社,2003.
首相官邸「外国人材の活躍推進」,『成長戦略ポータルサイト』,https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/portal/foreign_talent/index.html(閲覧日:2023年7月28日)
田中祐輔「メディアアーカイブを用いたビジネス日本語教育の実践」,『青山スタンダード論集第18号』,https://www.agulin.aoyama.ac.jp/repo/repository/1000/22612/(閲覧日:2023年7月28日)
公益財団法人日本漢字能力検定協会「日本語能力試験(JLPT)との比較」,『BJTビジネス日本語テスト』,https://www.kanken.or.jp/bjt/leader/feature.html(閲覧日:2023年7月28日)
林千賀「『察する』とは何か、その発話解釈のメカニズムを探る―関連性理論からの試み― 」,『城西国際大学紀要』 第26巻(第2号),2018年3月, https://www.jiu.ac.jp/files/user/education/books/pdf/840-010.pdf(閲覧日:2023年7月28日)
TOPランゲージ『新装版実用ビジネス日本語』,アルク,2014.
フォーンクルック幹治 『ネイティブが感動する英語にない日本語 : 日本ならではの「いい言葉」を知っていますか?』,河出書房新社,2017.
経済産業省「教育機関のための外国人留学生ビジネス日本語教育ガイド」,2011年8月公表,https://issn.or.jp/pdf/studybusinessjapaneseguide.pdf(閲覧日:2023年7月28日)
日本漢字能力検定協会「担当者の皆様へ」,『BJTビジネス日本語テスト』,https://www.kanken.or.jp/bjt/brochure/data/2304_tantousya.pdf(閲覧日:2023年7月28日)
文部科学省・厚生労働省・経済産業省「外国人留学生の採用や入社後の活躍に向けたハンドブック~実践企業に学ぶ12の秘訣~」,2020年2月公表,https://www.meti.go.jp/shingikai/economy/ryugakusei_katsuyaku_pt/pdf/20200228_01.pdf(閲覧日:2023年7月28日)

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