技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第11回)その1

2023年10月4日、技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(座長・田中明彦国際協力機構理事長)の第11回会合が開かれました。中間報告書公表後4回目の開催となるこの会議では、同年秋に予定されている最終報告書の取りまとめに向けて、有識者会議の委員から出た意見の全体像(要約)や関係者へのヒアリング調査結果などが示されました。この記事では、有識者会議の論点として設定された9つのポイントのうち論点(1)~(5)について、有識者会議委員から出た意見の概要とヒアリングの概要を紹介します。

参考)
出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第11回)」
https://www.moj.go.jp/isa/policies/conference/03_00074.html

1. (論点1)新たな制度及び特定技能制度の位置付けと両制度の関係性等【総論】

有識者会議の論点1については、下記のような項目がありました。

(1)新たな制度の位置付け(目的、基本的枠組み)
(2)特定技能制度の位置付け(変更の適否を含む。)
(3)新たな制度と特定技能制度の関係性(技能水準、家族帯同の在り方等両制度の在留資格制度全体における位置付けを含む。)
(4)企業単独型技能実習等の取扱い

技能実習制度は発展途上国への技能移転という目的を掲げながらも、実習現場においては労働力不足の補てんという色彩が強く、本来の目的と運用実態の乖離が指摘されてきました。そこで、中間報告では、人材育成だけでなく人材確保も制度目的に加え、技能実習制度に代わる新たな制度を創設することが打ち出されました。この論点に関する有識者会議での主な意見を紹介します。

1-1. 新たな制度の位置付けについて

新たな制度の位置付けについては、「人材不足に直面する日本の事業者・産業界の、労働力を確保したいという要望に制度を合わせることが主目的であり、これにより目的と実態が整合し、必要な分野や業種の拡大、受入れ人数を正面から検討することが可能になる」と、制度目的の追加を肯定評価する意見がありました。

ただし、「現在の技能実習制度は、実習生側から見ると、なぜこの試験があるのか、なぜ計画が認定されないと在留資格が変更できないのかなどが分かりにくい。新制度の下では、育成の目的とそのために必要な制度を再度整理する必要がある。また、能力を向上させた者については、在留資格の更新手続の簡素化や家族帯同を許可するなどモチベーションを上げる仕組みが必要である」という意見や「職種によっては、前職要件は不要なので撤廃すべき」という意見など、技能実習制度の問題点を改善する提案がいくつかありました。

前職要件については、「前職の証明書を必要とすることで、1つのビジネス(前職を偽装するビジネス)ができあがり、手数料を取る人が現れる。来日前教育で安全教育や業界・仕事の内容についてある程度教育できるのであれば、前職要件はなくしてもよいのではないか」とする踏み込んだ意見もありました。さらに、技能実習制度は1人につき一つの職種に限定していますが、「1人で複数種類の技術習得を可能とする制度に変更する方が受入れ企業にも外国人本人にも有益だ」という趣旨の指摘もありました。

また、「現行の技能実習制度が副次的に担ってきた地方の中・小規模事業者における人材確保の機能をより一層高め、人手不足の企業が必要な人材を確保できるような制度設計とすべき」とし、技能実習制度が結果として担ってきた、地方での人材定着に果たす役割を維持すべきとする主張がありました。

制度設計としては、「新しい制度から特定技能へしっかりと進める仕組みにすべきである。その際、実務経験や技能だけでなく、日本語能力も含め、総合的な就労・生活能力を段階的に高めていく仕組みを設ける必要がある。3年間程度で特定技能に上がるのが望ましく、現行の技能実習3号の枠組みは不要ではないか」といった意見がありました。

1-2. 特定技能制度の位置付けについて

特定技能制度の位置付けについては、「特定技能制度は、生産性向上支援策や人材確保支援策を講じてもなお人手不足の産業に人材を確保するという目的は堅持すべき。また、特定技能への移行については、検定の合格、日本語能力試験のN4以上の取得、生活態度・勤務態度が良好である優良な者だけが移行できる制度としてもよいのではないか」など、特定技能外国人になるためのハードルを高く設定する意見がありました。

一方、「新しい制度からキャリアアップしていく場合、特定技能2号になるまでは一律に家族を呼び寄せることができないとすれば、外国人にとって魅力に欠ける。留学などの在留資格でも家族帯同を認めているので、経済的な条件を満たす場合は、家族帯同を可能とすべき」とし、特定技能外国人になることへのインセンティブを高めるための提案もありました。

1-3. 新たな制度と特定技能制度の関係性について

両制度の関係については、「基本的に特定技能に分野・業種をそろえてキャリアアップしていくことが可能なものとして、連続的に捉える方向性でよい」とする意見などがありました。

1-4. 企業単独型技能実習等の取り扱いについて

技能実習制度の企業単独型については、「同様の仕組みを存続させるべき」という趣旨の意見が数件ありました。例えば、「企業単独型では、不適正な事例は大変少ないことや技術移転等に寄与していることから、技能実習制度が発展的に解消される際にも、同様の仕組みは維持されるべき」といった意見や「企業単独型はこれまで企業のグローバルな生産拠点の形成や発展に貢献してきた。労働力確保というよりは技能移転や人材育成の仕組みとして今後も活用されたいという面もある」という意見がありました。

1-5. ヒアリング結果

有識者会議は各論点について関係者にヒアリングをしました。ヒアリング対象は次の通りです。

・Myanmar And Worldwide Services Co. , Ltd Aye Aye Nyunt 代表、Myanmar And Worldwide Services 日本法人 谷口裕子責任者・副校長
・一般社団法人大日本水産会 木上参与、松本事業部長、茅野業務課長、甲斐業務課係長
・特定技能外国人(インドネシア国籍(男性)・特定技能1号(建設業))
・ILO駐日事務所
・日本行政書士会連合会 田村副会長、国際・企業経営業務部水野部長ほか
・株式会社成田空港ビジネス

新たな制度及び特定技能制度の位置付けと両制度の関係性等について、ヒアリング対象者からは次のような意見が出ました。

〈日本行政書士会連合会〉
・人材育成やキャリアパスを考えるに当たり、外国人を雇用する現場では、「技能実習」や「特定技能」に限らず、「技術・人文知識・国際業務」等の別の在留資格もあるので、就労資格全体で考えていくべきではないか。「技能実習」や「特定技能」だけで考えると、キャリアアップを行う際の選択肢を狭めてしまう可能性がある。キャリアパスを考えていく上で様々な選択肢があることを伝えていくことが、日本で働く魅力付けになるのではないか。

〈株式会社成田空港ビジネス〉
・技能実習制度の制度趣旨である国際貢献は、新たな制度では人材確保や人材育成を目的にすることで労働者として扱うことになると受け止めており、実態に即した制度になるのではないか。

2. (論点2)人材育成機能や職種・分野等の在り方

論点2については、下記のような項目がありました。

(1)新たな制度における人材育成の在り方
(2)職種・分野の在り方
(3)新たな制度における技能評価の在り方(時期、具体的方策(試験等))
(4)技能評価を踏まえた活用方策
(5)人材育成機能の担保のためのその他の方策(処遇等適切かつ効率的な育成のための体制等の整備、職場への定着のインセンティブ付与等)

技能実習制度の対象職種は産業分野を限定せず87職種・159作業ありますが、特定技能制度は12分野・14業種にしか認められていません。中間報告では、新たな制度と特定技能とで職種・分野を一致させる方向を打ち出しました。これが実現すると、外国人が技能実習修了後に同じ職種で特定技能に移行する中長期的なキャリアパスが現状より広範な職種で可能になります。

2-1. 新たな制度における人材育成の在り方について

新たな制度における人材育成の在り方については、まず、技能実習制度の実習計画に関する手続きの改善を求める意見が複数ありました。例えば、「現行の技能実習制度のように非常に細かく作業区分を分け、細かく実習計画を立案するのではなく、特定技能制度への移行を見すえて体系的な能力を身につける観点から育成を考えるべきだ。初期教育を受けた後は、労働者自らの努力で研さんを積んでキャリアアップできるようにすることが労使双方にとって有益」とする意見や「現行の日単位の実習計画や細かいものは不要であり、手続きのための手続きといった部分や実効性がなく負担が大きい部分については不要だ」といった意見がありました。

そして、実効的な人材育成やモチベーション向上につながる手法として、「単に日常業務を遂行することで身につくスキルということではなく、より積極的な人材育成を講じる必要がある」という意見や「産業分野別のキャリアアップシステムや標準カリキュラムを作り、受入れ企業がそれに沿って上手に育成ができるような仕組みを作るべき」、「キャリアパスの明確化による人材育成や人材確保、受入れ企業等の生産性向上を図る観点から、産業分野ごとにキャリアアップシステムを創設することも有効」など、産業別の育成カリキュラムやキャリアパスの策定を提案する意見が複数ありました。

また、「受入れ企業は特定技能1号の要件を満たすための実習プログラムを1年単位で3年分用意し、求職者に提案する仕組みにしてはどうか。その際、1年単位の雇用契約とし、転籍は原則として契約を更新する1年目、2年目の切り替えの時のみ可能とし、かつ同分野内で転籍する場合のみ、1年目、2年目の実習実績を特定技能に上がる際のポイントとして累積可能とするのが妥当」とし、習得した技能を試験で評価するのではなく、プログラムを完了したことで単位認定するという提案もありました。

2-2. 職種・分野の在り方について

新たな制度での職種・分野の在り方については、「基本的には特定技能の分野のように広めの分け方にする必要がある。また、有識者会議の中間報告が提出されてから、繊維業界や運輸業界などから(特定技能の産業分野への)追加を検討してほしいとの要望があった。新たな制度と特定技能制度の対象分野に組み込めるか検討する必要がある」という趣旨の意見が複数ありました。

2-3. 新たな制度における技能評価の在り方、技能評価を踏まえた活用方策について

技能評価の在り方については、「軸となる技術に関して、技能検定やそれに準拠する試験を行い、その合格をもってプログラム修了の要件とすることが望ましい」として現行の検定制度に準じた方法を推す意見がある一方、「現行の技能検定制度では、実際の業務での作業内容と試験内容とにそごがあり、技能実習生を受け入れたいがために、事業所で実際にやっていないことを偽装して技能実習計画の認定を受ける企業もある。試験内容を現状に即して大幅に見直す必要がある」という意見もありました。

2-4. 人材育成機能の担保のためのその他の方策について

人材育成機能に実効性を持たせるために、外国人の労働者のスキルアップとそれに見合った適正な賃金・処遇をセットで考えることが重要とする意見が複数ありました。

2-5. ヒアリング結果

人材育成機能や職種・分野等の在り方について、ヒアリング対象者からは次のような意見がありました。

〈一般社団法人大日本水産会〉
・技能実習制度の仕組みについて、初年度の技能評価をすることは重要だが、適切なタイミングで試験が実施されているかどうかについては疑問がある。
・技能実習制度に替わる新たな制度は、特定技能制度の対象職種や分野と一致する方向で検討されているため、間口が広がり、人数が増加することが想定される。その場合、職種・作業の細かい技能を評価するよりも、入国後、一定期間経過後に安全管理に関する技能を評価するなどの対応が現実的で効果もあると考える。また、漁業の周辺業務で人手が足りないとの話も現場からはあり、新たな制度で対応可能な業務範囲等を整理する必要がある。

〈特定技能外国人〉
・当初、技能実習生として来日する際に、母国で建設業の経験はなく、特に希望もしていなかった。このことを送出機関に伝えたが、送出機関からは建設業を勧められたため、建設業で働くことになった。もし、自分で仕事を選べていたら、漁業をやりたかった。
・特定技能は技能実習と違って自由に転職でき、賃金が技能実習よりやや高いことから、特定技能で来日する方が魅力的である。

3. (論点3)受入れ見込数の設定等の在り方

論点3については、下記のような項目がありました。

(1)新たな制度における受入れ見込数の設定の在り方(設定の可否を含む。)
(2)両制度における受入れ見込数の設定及び対象分野の設定(人手不足状況、労働市場への影響、人手不足への取組状況の確認、技能評価を含む。)における透明性や予見可能性のあるプロセスの在り方(制度の運用上の透明性確保を含む。)

特定技能制度では、日本人の雇用機会の喪失や処遇の低下を防ぐといった観点から、分野ごとに人材不足の見込数と比べて過大でない範囲で向こう5年間の受入れ見込数が設定され、それがその分野の特定技能外国人の受入れ上限として運用されています。生産性向上や国内人材確保のための取組を行っていることや、そうした取組を行ってもなお人手不足が深刻であることを具体的に示した上で、各分野の所管省庁が受入れ見込数を提案し、制度所管省庁(法務省・外務省・厚生労働省、国家公安委員会)のチェックを経て閣議で決定されています。

また、技能実習制度で職種を追加する際には、業界団体による提案、専門家会議の開催とパブリックコメントの実施、認定申請書の提出、技能実習法施行規則の改正等といったプロセスがとられています。

有識者会議はこのような現行制度を踏まえながら、技能実習に代わる新たな制度における受入れ見込数の設定方法や、新制度と特定技能制度における受入れ見込数や対象分野の設定方法について議論してきました。委員から出た主な意見を紹介していきます。

3-1. 新たな制度における受入れ見込数の設定の在り方について

新たな制度での受入れ見込み数の設定については、複数の委員が「特定技能制度の分野ごとの不足人数や受入れ人数、現状の技能実習制度の企業ごとの受入れ可能人数の両面で受入れをすべき」という現状維持路線を提案しています。背景には、大都市や周辺だけに外国人労働者が集中するのではなく、地方の中小企業が引き続き人材を確保できるようにというニーズがあります。

「新制度で受入れ見込数を設定することについては議論が必要だ。新制度においては、現行の技能実習制度と同様に、企業ごとの受入れ人数の制限を残し、優良な受入れ企業に対してはその上限を引き上げ、そうでない企業に対しては上限を引き下げるという仕組みにする必要がある」という意見もあり、これも現状の技能実習制度の企業ごとの受入れ可能人数は確保してほしいという思いを反映しています。

3-2. 両制度における受入れ見込数の設定及び対象分野の設定における透明性や予見可能性のあるプロセスの在り方について

受入れ見込み数の設定プロセスについては、「公労使で構成される審議会等で決定した上で、定期的に状況を監視していくべき」という意見や「特定技能制度においては、建設や介護のように事業所単位で上限がある分野もあるので、他の分野においても労働者の専門性、技術性をより高めるために、一定の規制を導入するべき」とか「各分野で受け入れる人数枠の算出根拠や、業界・分野からの要請などの実態が分かりにくいので、公労使を交え、業界・分野ごとのヒアリングや会合を設け、様々な関係者の意見やエビデンスを踏まえつつ判断すべき」といった意見がありました。

それ以外に、「エビデンスに基づく政策立案が肝要であり、透明性と予見可能性が担保された制度とすべき」とか「各指標や取組内容の評価基準を明確にすることで透明性を担保し、適正化していくことが必要」といった意見もありました。

4. (論点4)転籍の在り方

論点4については、下記のような項目がありました。

(1)転籍の在り方(具体的方策(要件、時期、回数等))
(2)受入れ企業等が負担する来日時のコストや人材育成コストへの対応方策
(3)人権侵害や法違反等があった場合の救済の仕組み(事前把握方策等)
(4)転籍先を速やかに確保する方策(公私の機関(業所管省庁、ハローワーク等)の関与の在り方を含む。)

中間報告では、新たな制度でも「人材育成」の趣旨を残すため一定の転籍制限は残すとしたものの、「人材確保」という実態に即した目的も加わるため、制度趣旨と外国人保護の観点から、転籍要件を緩和する方向性が示されました。

技能実習制度のもとでも法令違反があった場合など実習継続が困難なケースでは技能実習生の転籍(実習先変更)が認められていますが、十分に機能していないと指摘されています。

一方、技能実習では、各技能実習生を受け入れる際に受入れ企業等が最初に負担するコストがあります。転籍要件を緩和する場合、企業等が負担する来日時のコストや人材育成コストについて、転籍時にどのように取り扱うかについても考えなければなりません。

これらの課題に対する有識者会議委員からの主な意見を紹介します。

4-1. 転籍の在り方について

まず、「新しい制度に人材育成の目的を残すからといって、必ずしも転籍制限がセットになるわけではない」といった趣旨の意見が複数あり、「入国から一定期間後に転籍制限を撤廃することも考えられる」という提案もありました。

また、転籍制限の緩和を前提としつつも、下記のように、転籍の実効性確保や転籍制限縮小を求める意見が多数ありました。

・転籍の自由をどこまで認めるかが、新制度を単なる技能実習制度の看板の付け替えだとする批判に耐えるための試金石になる。
・転籍の実効性の確保が大事(数件)。
・労働法制に照らして転籍制限の期間は1年が相当(数件)。
・在留資格変更手続きの審査が厳格過ぎることが転籍を阻害している。

現行の技能実習制度では、転籍に向けた取組は基本的に監理団体が行うこととなっています。「監理団体に問題がある場合、技能実習生本人が外国人技能実習機構に届け出ても、すぐには動いてもらえない。転籍手続きが長期化すると、本人が生活に困窮し、最終的に失踪に至るのが実態ではないか。人権侵害があった場合の転籍の実効性を確保してほしい」という意見もありました。また、技能実習生のほとんどが日本の携帯電話のSIMを持っていないことやSNSを好むことから、「機構にSNSで相談ができるよう、予算措置をしてほしい」という要望もありました。

一方、転籍制限の緩和によって地方の中小企業での人材定着に影響が出ることを心配し、考慮を求める声もありました。下記に紹介します。

・現行の技能実習制度が副次的に機能してきた地方の中小企業の人材確保を阻害しないよう、地方への影響を十分に考慮して転籍要件等を決定していく必要がある。
・技能実習生が特定技能への移行時に県をまたぐ移動が想像以上に多い。相当な人数が地方から都市部、都市部周辺へ流入している。新たな制度で転籍要件を緩和し過ぎると、地方の人材確保が難しくなり、人材確保という目的を果たせなくなる可能性が大いにある。

4-2. 受入れ企業等が負担する来日時のコストや人材育成コストへの対応方策について

転籍の際、従来の受入れ企業が負担したイニシャルコストや育成コストをどうするかについては、下記のような意見がありました。

・転籍の際、従来の受入れ機関が入国等に関して負担したイニシャルコストについては、送出機関からの請求書等を添付して新たな受入れ企業に請求し、負担させるべきだ。人材育成に要した経費の負担についても検討する必要がある。
・受入れ時のイニシャルコストの負担については、優秀な人材を受け入れるために一生懸命取り組んでいる監理団体や受入れ企業のモチベーションを下げるようなことがないように制度を考える必要がある。
・入国の際の旅費等の費用を次に受け入れた事業者が支払うというルールを国が整備し、基準を定めていくことが必要ではないか。

4-3. 人権侵害や法違反等があった場合の救済の仕組みについて

救済の仕組みについては、「失踪してしまった外国人労働者にも復帰の道を作り、早めに正規の就労に戻すのがよい」という意見がありました。また、「現行の技能実習制度でも、やむを得ない事由があれば実習先の変更は可能であることをもっと周知し、変更事由の立証方法を工夫するという実務的な対応も考えられる」という指摘もありました。

4-4. 転籍先を速やかに確保する方策について

転籍先確保の方法としては、ハローワークなどの公的機関の積極関与を求める意見が多数ありました。いくつか要約を例示します。

・転籍にあたっては、外国人技能実習機構に仲介・マッチング機能を持たせ、営利企業が参入できないようにする。
・転籍にあたっては、外国人が監理団体経由か機構やハローワークといった公的機関経由かを選択できる仕組みも考えられる。
・ハローワークのような公的機関に外国人部門を設けて予算をつけ、マッチングを行うのがよい。
・ハローワーク等の公的機関が転籍をあっせんする制度にすれば、転籍要件をより柔軟に設定することも可能。

公的機関の積極関与を望む理由としては、転籍仲介で不当に利益を得ようとする悪質業者が介在すると、外国人労働者の適正なキャリア形成や企業での人材定着に悪影響を与えることへの懸念が背景にあります。委員の意見には「悪質な転籍あっせん業者の介在を防ぎたい」という趣旨の意見が複数ありました。また、公的機関関与のほかの理由として、「監理団体にすべての責任を負わせることには無理がある」とか「従来の監理団体が転職希望の外国人に適正に対応することは難しい」、「転籍あっせん後も帰国するまで責任を持ってフォローできる事業者があっせんしないと、送出国との関係が悪くなる」という意見(説明)もありました。

4-5. ヒアリング結果

転籍の在り方について、ヒアリング対象者からは次のような意見がありました。

〈Myanmar And Worldwide Services〉
・転籍の条件について、3年未満で転籍する場合は必ず監理団体を通すことを義務づけるなど、悪質なブローカーが絡まないような仕組みをつくってほしい。

〈一般社団法人大日本水産会〉
・ある程度の期間は、一定の地域で過ごして仕事を覚えることも本人のためにもなる。
・最初の受入れ先が時間や労力をかけて外国人材を育成することを考えると、転籍時には転籍先が費用を負担するべきものと考える。

〈特定技能外国人〉
・自分自身、前の会社から転籍をするときに苦労したので、転籍はいつでもできるようにしてほしい。転籍できずに困っている人はたくさんいると思う。
・新たな実習先を見つけるまでの間の生活費を友人から借りた経験がある。新たに稼働を開始できるまでの時間を短くしてほしい。また、転籍先を探している期間中も働けるようにしてほしい。

〈ILO駐日事務所〉
・転籍の制限緩和には賛成。転籍の制限は特定の雇用主への依存関係を助長し、移民労働者(外国人労働者)の権利交渉を間接的に制限することにつながると、ILO専門家委員会から指摘されている。
・転籍を制限する期間は、内国民(日本人)との雇用機会均等の観点から、国内で適用されている民法及び労働法の規定との整合性を考慮して、最長1年間とし、やむを得ない事由がある場合には期間内でも契約を解除できるとすることについて、一定の合理性があるのではないか。
・技能実習生の来日時のコストや人材育成に要したコストは、日本人の場合であっても、転籍先の企業にこれまでのコストを請求できるものではない。そのため、仮に一定の転籍制限がある場合には、最初の受入れ企業がコスト負担について甘受すべき問題とも言える。
・国内法制に基づいて制度を運用していると考えていても、諸外国において人権侵害行為だと認識されることもある。強制労働を限定的に捉えている面もあることから、解釈例規などを示して国際規範と国内法令の関係性をもっと広く認識する必要があるのではないか。

5. (論点5)監理・支援・保護の在り方

論点5については、下記のような項目がありました。

(1)新たな制度における監理団体の要件(監理・支援・保護の要件の在り方見直し)
(2)受入れ企業等の要件(適格性要件の見直し)
(3)優良な団体等(受入れ企業等、監理団体)へのインセンティブ付与方策(事業評価の公表を含む。)
(4)悪質な団体等への対応方策
(5)外国人技能実習機構の役割に応じた体制の整備等
(6)国、自治体、法テラス、弁護士会、NGO等の支援及び相談への関与の在り方(外国人技能実習機構との連携の在り方を含む。)

技能実習の監理団体による受入れ企業等に対する指導監督が不十分なケースが多いと指摘されています。中間報告は、人権侵害や不適切な就労を防止・是正できない監理団体は適正化・排除する必要があると指摘しています。

監理団体は、技能実習生を受け入れる企業等と技能実習生との間の雇用関係の成立をあっせんし、その後、受入れ企業等が技能実習を適正に実施できるように監査(3カ月に1回以上)や臨時監査を行います。また、技能実習生のさまざまな相談に対応するほか、やむを得ない事情で技能実習継続が困難となった場合に円滑に転籍(違う受入れ企業等に移ること)できるよう支援しなければなりません。しかし、このような監理業務や転籍支援業務を適切に実施できない監理団体も多く、技能実習制度の悪評や技能実習生の失踪を助長していると指摘されてきました。このため、中間報告は監理団体の監理・支援・保護の体制・能力などの要件の厳格化を提示しています。

これらについて、有識者会議の委員から出た主な意見は次の通りでした。

5-1. 新たな制度における監理団体の要件、受入れ企業等の要件について

新たな制度における監理団体の要件については、「受入れ企業数が1社の監理団体が増えているが、転籍を想定した場合の対応面の課題を踏まえれば、受入れ企業が複数あるか否かも検討する必要がある」とか「受入れ企業が1社だけの監理団体や、財務状況が3年以上連続で債務超過や赤字に陥っている監理団体などは休止などの措置をとることも必要」として、監理団体の事業規模等を要件に盛り込むべきとする意見が複数ありました。

一方で、「多くの監理団体は、抱えている実習実施者が少数だが、監理団体が実費のみしか徴収しかできず、非営利で活動するという状況は、事業拡大を厳しいものにしている。基準を厳格化して淘汰するという『むち』の部分と事業拡大につながる『あめ』の部分を設ける必要がある。同じ非営利であってもNPOのようにある程度内部留保等を認め、事業拡大ができるような建て付けもあるのではないか」という小規模監理団体への擁護論もありました。

このほか、「ハラスメントを含めた法令違反、賃金の支払状況のチェックをこれまで以上に詳細かつ厳格に行う必要がある」とか、「関係各方面に掛け合って問題解決を促したり、失踪者に寄り添い、復帰の道を模索したりする役割をより良く果たすには、相応の専門的な知識や技術が必要である。当局がその資格を認定し、監理団体や登録支援機関に事業規模に応じた資格者を配置させることが考えられる」という意見・提案もありました。

受入れ企業の要件については、「契約内容の明確化と待遇の説明は労働法制の現在のトレンドであることから、人材育成目的や実習計画の骨子を契約に盛り込むような形を促進し、それを本人に明示し、合意したという書類を作成・保存してはどうか」という提案がありました。

5-2. 優良な団体等(受入れ企業等、監理団体)へのインセンティブと悪質な団体等への対応策について

優良な監理団体や受入れ企業へのインセンティブとして、実習計画認定時の提出資料の簡素化や審査期間の短縮化、実習開始後の監査回数の縮減や監査項目の簡素化などを提案する意見が数件ありました。また、優良認定の評価については、「受け入れている外国人の日本語や技能の修得状況、最低賃金とのかい離率等を指標にすることも考えられる」とする提案がありました。

悪質な団体等に対する対処については、「即刻の資格停止が望ましい」とか「監理団体や実習実施者を今よりさらに厳しく指導することが必要。例えば、賃金不払いや最低賃金違反等の労働関係法違反、決算書や証拠書類の偽造、改ざん等を行った場合は、関わった監理団体を公表し、許可を取り消すことをより迅速に行ってほしい」など、強い対応を求める意見が複数ありました。

5-3. 外国人技能実習機構の役割に応じた体制の整備等について

外国人技能実習機構(OTIT)の体制整備については、「機構の予算・人員を増強し、新たな制度における監理団体だけでなく特定技能制度の登録支援機関の指導・監督や特定技能外国人の支援・保護も担ってほしい」という趣旨の意見がいくつかありました。

ただし、外国人技能実習機構(OTIT)の現在の関わり方については、「技能実習制度では、詳細な技能実習計画の認定審査作業に多くの時間と労力が割かれており、指導や支援、保護に十分な人員・労力を割けていない」というような指摘が複数あり、「それよりも、処遇・待遇等で問題のある案件等に踏み込んだ指導・監督・保護に業務の重点を移してほしい」と注文がありました。

5-4. 国、自治体、法テラス、弁護士会、NGO等の支援及び相談への関与の在り方について

国、自治体、法テラス、弁護士会、NGO等の支援及び相談への関与の在り方については、外国人技能実習機構(OTIT)だけでなくハローワークや労働基準監督署などの管理・監督体制を拡大し、外国人労働に関するチェックや施策を担当させるべき(そのための予算措置も求める)とする意見が複数ありました。

また、支援・保護について、「監理団体や外国人技能実習機構に委ねるだけではなく、身近なところで相談できる場所が必要。各自治体に設置されている一元的相談窓口を国の支援も増やして充実させ、労働関係についても相談できる場を作ることが支援・保護のもう一つの方向性だ」とする提案がありました。

このほか、「技能実習生は日本の電話番号を持っていない場合が多いので、SNSやアプリなどで通報できるシステムを作ってほしい。彼らはどこに行けば正しい情報を取れるか分からないことが多いので、技能実習生や特定技能外国人などの未熟練労働者が自分でアクセスし、ここに行けば必ず正しい情報が得られるというアプリ等を作れるとよい」という提案や「行政現場では、深刻な問題を抱える対象者ほど向こうからは相談にやって来られず、行政がいくらサービスメニューをそろえて窓口で待っていても手が届かないことが多い。出前サービス的に支援や調整の任に当たる担当者を制度化してほしい」というリクエストがありました。

5-5. ヒアリング結果

監理・支援・保護の在り方について、ヒアリング対象者からは次のような意見がありました。

〈特定技能外国人〉
・(技能実習生だったとき)通訳が監理団体のスタッフであったため、会社で困ったことがあっても対処してくれなかった。通訳が中立な立場の人であるとよかった。
・監理団体にはもっと中立的な立場になってほしい。

〈ILO駐日事務所〉
・技能実習生は脆弱な立場に置かれることがほとんどであるため、監理団体や実習実施機関に対して、人権侵害の抑止と救済手段を具体的に記載したモデル契約書やモデル就業規則を作成して提示することも考えられる。
・外国人労働者の就労環境に問題があって声をあげたいときに、民間団体や労働組合など救済が可能となる場にアクセスできる環境があることが重要である。救済アクセスを阻害するものとして、SNS上に不法行為への誘引など違法な情報が掲載され、外国人労働者がその情報に触れ、労働者としての正規性を失ってしまうことは大変問題であり、国際的にも非常に批判が大きい。
・SNSには不正確な情報や不法行為への誘引も含まれており、これらを排除する必要がある。

〈日本行政書士会連合会〉
・技能実習制度で起きている問題の多くは、監理団体の監理スキルが不足していることが原因。監理団体の許可時だけでなく、一定期間ごとに監理スキルを把握する制度があるとよい。
・行政書士や社労士が監理団体の外部監査人になることがあるが、外部監査人が自身の役割をしっかり認識しないまま、外部監査を行っているケースが見受けられる。そこで、外部監査人のための講習を新たに設け、その受講を義務化するべき。

〈株式会社成田空港ビジネス〉
・外国人労働者に対する管理や支援を行う体制は必要だ。ただし、新たな制度においては、受入れ企業が自ら管理や支援ができる場合には、特定技能制度での登録支援機関のように任意による契約を可能とすることでより選択肢が広がるのではないか。

6. まとめ

この記事では、有識者会議の論点(1)~(5)について、委員から出た意見や関係者へのヒアリング結果をまとめて紹介しました。

(論点1)新たな制度及び特定技能制度の位置付けと両制度の関係性等【総論】
新たな制度の位置付けについては、「前職要件をなくすべき」とする意見や「地方での人材定着に配慮してほしい」といった意見がありました。特定技能制度の位置付けについては、特定技能外国人になるための要件を厳しくする意見がある一方、特定技能1号でも家族帯同を認め、外国人から見て魅力ある制度にすべきとする意見もありました。

(論点2)人材育成機能や職種・分野等の在り方
新たな制度における人材育成の在り方については、「現行の日単位の実習計画や細かいものは不要であり、手続きのための手続きといった部分や実効性がなく負担が大きい部分については不要だ」など、技能実習制度の実習計画に関する手続きの改善を求める意見が複数ありました。

そして、実効的な人材育成やモチベーション向上につながる手法として、産業別の育成カリキュラムやキャリアパスの策定を提案する意見が複数ありました。

技能評価の在り方については、「現行の技能検定制度では、実際の業務での作業内容と試験内容とにそごがある」と指摘し、試験内容の見直しを促す意見もありました。

(論点3)受入れ見込数の設定等の在り方
新たな制度での受入れ見込み数の設定については、「現状の技能実習制度の企業ごとの受入れ可能人数は確保してほしい」という趣旨の意見がいくつかありました。また、受入れ見込み数の設定プロセスについては、広範な関係者の意見を取り入れることや透明性担保を求める声がありました。

(論点4)転籍の在り方
転籍の在り方については多数の意見が出ていました。

まず、「転籍の自由をどこまで認めるかが、新制度を単なる技能実習制度の看板の付け替えだとする批判に耐えるための試金石になる」や「転籍の実効性の確保が大事(数件)」など、転籍の要件緩和だけでなく実効性の確保を求める声が多数ありました。

一方、「現行の技能実習制度が副次的に機能してきた地方の中小企業の人材確保を阻害しないよう、地方への影響を十分に考慮して転籍要件等を決定していく必要がある」として、地方での人材定着機能を残してほしいとする意見も複数ありました。

転籍の際、入国時や育成に要した費用をどうするかについては、新しい受入れ企業にも分担させるべきとする意見が複数ありました。

また、転籍先の確保については、仲介ブローカーを排除する趣旨等から、ハローワークなどの公的機関の関与・主導を求める声がいくつかありました。

(論点5)監理・支援・保護の在り方
新たな制度における監理団体の要件については、監理団体に一定の事業規模を求める意見がある一方、現在は非営利が原則となっている監理団体に限定的に内部留保を認め、事業拡大の機会を与えるべきとする意見もありました。

優良な監理団体や受入れ企業へのインセンティブとしては、実習計画の手続き簡素化や実習開始後の監査の緩和を提案する意見が複数ありました。逆に、法違反を行った団体については、団体名の公表や許可取り消しを迅速に行うべしとする声がありました。

外国人技能実習機構(OTIT)については、「技能実習制度では、詳細な技能実習計画の認定審査作業に多くの時間と労力が割かれており、指導や支援、保護に十分な人員・労力を割けていない」という指摘が複数あり、「それよりも、処遇・待遇等で問題のある案件等に踏み込んだ指導・監督・保護に業務の重点を移してほしい」という注文が出ていました。

また、技能実習経験者から「通訳が監理団体のスタッフであったため、会社で困ったことがあっても対処してくれなかった。通訳が中立な立場の人であるとよかった」という訴えがありました。

技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第11回)の論点(6)~(9)については、こちらをご覧ください。

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