2023年6月14日、技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(座長・田中明彦国際協力機構理事長)の第8回会合が法務省内の会議室で開かれました。中間報告書公表後、初の開催となるこの会議では、「特定技能2号の対象分野追加」と「外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策」に関する報告と、2023年秋の最終報告書の取りまとめに向けた論点の提案が行われました。
参考)
出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第8回)」
https://www.moj.go.jp/isa/policies/conference/03_00069.html
1. 特定技能2号の対象分野追加について(報告)
特定技能制度は、深刻化する人手不足への対応として、生産性向上や国内人材の確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な産業分野に限り、一定の専門性・技能を有し即戦力となる外国人を受け入れるための在留資格で、2019年4月から実施されています。
特定技能1号はその産業に関する一定の知識・経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人に与えられる在留資格で、2023年3月末現在、154,864人(速報値)がいます。特定技能1号の在留期間は通算5年までで、家族帯同は基本的に認められません。
特定技能2号は熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格で、2023年3月末現在、11人(速報値)しかいません。特定技能2号には在留期間の更新回数に上限はなく、要件を満たせば配偶者や子の帯同も可能です。
特定技能1号の受入れは現在、介護、ビルクリーニング、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の12分野で認められていますが、特定技能2号はこのうち建設と造船・舶用工業の2分野にしか認められていません。
これに関して、有識者会議の中間報告(2023年5月)では、日本の企業等が魅力ある働き先として選ばれるためのインセンティブ作りの一環として、技能実習に代わる新制度と特定技能1号で身に付けた技能等をさらに生かす場所を広げるために、特定技能2号の対象分野の拡大やその設定の在り方を検討すべきと指摘しました。中間発表翌月の6月、政府は特定技能2号の受入れ対象を現在の2分野から11分野に広げることを閣議決定しました。
特定技能2号の受入れが行われるのは、現行の2分野(建設、造船・舶用工業)に加え、ビルクリーニング、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の9分野となります。介護については、「介護」という在留資格があるため、特定技能2号の分野には追加されませんでした。
2. 最終報告に向けた論点
有識者会議が2023年秋に政府に提出する最終報告に向けた論点として下記のような内容が提案されました。
論点1 新たな制度及び特定技能制度の位置付けと両制度の関係性等【総論】 (1)新たな制度の位置付け(目的、基本的枠組み) (2)特定技能制度の位置付け(変更の適否を含む。) (3)新たな制度と特定技能制度の関係性(家族帯同の在り方等両制度の在留資格制度全体における位置付けを含む。) (4)企業単独型技能実習等の取扱い |
技能実習制度は発展途上国への技能移転という目的を掲げながらも、実習現場においては労働力不足の補てんという色彩が強く、本来の目的と運用実態の乖離が指摘されてきました。そこで、中間報告では、人材育成だけでなく人材確保も制度目的に加え、技能実習制度に代わる新たな制度を創設することが打ち出されました。有識者会議は今後、新たな制度に関するこのような制度目的や特定技能制度の位置付けについて確認を行っていくことになります。また、新制度修了後に特定技能1号に移行することが前提とされており、円滑な移行のあり方等についても議論が行われるものと予想されます。
論点2 人材育成機能や職種・分野等の在り方 (1)新たな制度における人材育成の在り方 (2)職種・分野の在り方 (3)新たな制度における技能評価の在り方(時期、具体的方策(試験等)) (4)技能評価を踏まえた活用方策 (5)人材育成機能の担保のためのその他の方策(処遇等適切かつ効率的な育成のための体制等の整備、職場への定着のインセンティブ付与等) |
技能実習制度の対象職種は産業分野を限定せず87職種・159作業ありますが、特定技能制度は12分野にしか認められていません。中間報告では、新たな制度と特定技能とで職種・分野を一致させる方向を打ち出しました。これが実現すると、外国人が技能実習修了後に同じ職種で特定技能に移行する中長期的なキャリアパスが現状より広範な職種で可能になります。有識者会議は最終報告に向けて、新制度と特定技能制度の対象となる職種・分野について具体的に議論を詰めていくことになります。
また、中間報告は、新制度のもとで特定技能への移行を前提に体系的な能力を身に付けるために適切な技能評価のあり方が必要としており、有識者会議は現行の技能検定や技能実習評価試験等の運用状況も踏まえながら、より適切な技能評価の手法について具体策を検討していきます。
さらに、中間報告は、日本の企業等が魅力ある働き先として選ばれるよう、外国人労働者の職場定着を促すインセンティブについても言及しています。具体的には、特定技能2号の対象分野を拡大するとともに、賃金等の待遇面の改善など受入れ企業の努力にも言及しており、有識者会議はそのようなインセンティブの具体的な方策について議論をしていきます。
論点3 受入れ見込数の設定等の在り方 (1)新たな制度における受入れ見込数の設定の在り方(設定の可否を含む。) (2)両制度における受入れ見込数の設定及び対象分野の設定(人手不足状況、労働市場への影響、人手不足への取組状況の確認、技能評価を含む。)における透明性や予見可能性のあるプロセスの在り方(制度の運用上の透明性確保を含む。) |
新たな制度や特定技能の対象職種や受入れ見込数については、業界からの要望や受入れの必要性、生産性向上や国内人材確保のための取組状況を踏まえた上で検討が行われます。有識者会議は対象分野や受入れ見込み数について関係者の意見やエビデンスをもとに透明性のあるプロセスで設定を行う方法を議論していきます。
論点4 転籍の在り方 (1)転籍の在り方(具体的方策(要件、時期、回数等)) (2)受入れ企業等が負担する来日時のコストや人材育成コストへの対応方策 (3)人権侵害や法違反等があった場合の救済の仕組み(事前把握方策等) (4)転籍先を速やかに確保する方策 |
中間報告では、新たな制度でも「人材育成」の趣旨を残すため一定の転籍制限は残すとしたものの、「人材確保」という実態に即した目的も加わるため、制度趣旨と外国人保護の観点から、転籍要件を緩和する方向性が示されました。有識者会議は今後、具体的な転籍の要件や転籍できる時期、転籍できる回数等について議論します。
また、最初に受け入れる企業等が負担する来日時のコストや人材育成コストについて、転籍時にどのように取り扱うか▽職場で人権侵害や法令違反等があった場合に外国人が利用しやすい救済システムをどうやって構築するか▽転籍先を速やかに確保するにはどうしたらよいか――などについても検討します。
論点5 監理・支援・保護の在り方 (1)新たな制度における監理団体による監理・支援・保護の在り方 (2)受入れ企業等の要件(適格性要件の見直し) (3)優良な団体等(受入れ企業等、監理団体)へのインセンティブ付与方策(事業評価の公表を含む。) (4)悪質な団体等への対応方策 (5)外国人技能実習機構の役割に応じた体制の整備等 |
技能実習の監理団体による受入れ企業等に対する指導監督が不十分なケースが多いと指摘されています。中間報告は、人権侵害や不適切な就労を防止・是正できない団体は厳しく適正化・排除する必要性があると指摘しました。有識者会議は、新たな制度での監理団体による監理・支援のあり方や外国人保護のあり方について議論していきます。同時に、優良な監理団体や受入れ企業へのインセンティブ、悪質な監理団体への対応についても検討するほか、監理団体や受入れ企業を指導・監督する外国人技能実習機構(OTIT)の体制整備等についても話し合います。
論点6 特定技能制度の適正化方策 (1)登録支援機関による支援の在り方(監理・保護機能を追加することの適否を含む。) (2)優良な登録支援機関へのインセンティブ付与方策(事業評価の公表を含む。) (3)悪質な登録支援機関への対応方策 (4)行政の指導監督体制の在り方 |
特定技能の登録支援機関による外国人支援が不十分なケースも多いと指摘されています。中間報告は、外国人に対する支援を適切に行えない登録支援機関についても厳しく適正化・排除する必要があると指摘しています。有識者会議は今後、登録支援機関による支援のあり方▽優良な支援機関へのインセンティブ▽悪質な登録支援機関への対応▽行政の指導監督体制のあり方――について議論します。
論点7 国・自治体の役割 (1)制度所管省庁の在り方・役割の見直し (2)業所管省庁の役割の見直し(より良い受入れを後押しする役割を担う方向での見直し方策) (3)自治体の役割(外国人が生活者として安心して暮らせる環境整備等) |
中間報告は、新たな制度に関して、各産業を所管する国の省庁も産業政策として、外国人労働者から日本が就労先として選んでもらえるように、業界団体と連携して業界内での受入れの適正化に寄与すべきだとしており、有識者会議は制度の適正化に向けた省庁の関与の仕方についても検討します。また、地方自治体についても、外国人が安心して働き暮らせる環境整備等の役割について議論します。
論点8 送出機関及び送出しの在り方 (1)送出機関の適正化等の在り方 (2)外国人の来日前の手数料負担を軽減させる方策 |
中間報告は、送出機関による過大な手数料徴収の防止や悪質な送出機関の排除等に向けて、新制度のもとでも送出国との間で実効的な二国間取決めを作成するなど、国際的な取り組みを強化すべきとしています。有識者会議は送出機関の適正化のあり方やそのための対策について検討するほか、外国人労働者の来日前の費用負担をできるだけ軽減させる方策についても議論します。
論点9 日本語能力の向上方策 (1)就労開始前の日本語能力担保方策(目的、具体的方策(試験、講習等)) (2)就労開始後の日本語能力向上の仕組み(目的、具体的方策(インセンティブ付与等)) (3)関係者の役割分担や負担費用の在り方 |
有識者会議は、外国人労働者が日本での就労前に一定水準の日本語能力を持てるよう、日本語能力の要件化や来日後も日本語能力が段階的に向上するような仕組み作りについて検討します。また、中間報告は、そのための費用は外国人労働者に負担させず、受入れ企業が負担しつつ、国や自治体が支援を行う方向性を提案しており、有識者会議で具体的な内容を議論します。
3. まとめ
中間報告後初の有識者会議では、特定技能2号の分野拡大などについて報告がなされたほか、中間報告が示した下記の論点を今後話し合っていくことが提案されました。今後、各項目に関する議論の行方が注目されます。
・新たな制度及び特定技能制度の位置付けと両制度の関係性等【総論】
・人材育成機能や職種・分野等の在り方
・受入れ見込数の設定等の在り方
・転籍の在り方
・監理・支援・保護の在り方
・特定技能制度の適正化方策
・国・自治体の役割
・送出機関及び送出しの在り方
・日本語能力の向上方策