雇用する特定技能外国人や技能実習生などの人数が増えてくると、外国人労働者の国籍を分散させることを検討する段階に入ります。
採用初期は特定の国から集中的に受け入れる方が進めやすい場合もありますが、人数が増えると、国籍を分散させることにいくつかのメリットがあります。
まず、国ごとの人材輩出事情や、政策変更といった外部環境の変化に柔軟に対応できるようになります。
特定の国からの送り出し状況が悪化した場合でも、他国からの採用ルートがあれば、人材確保への影響を最小限に抑えることができます。
次に、日本語が職場の共通言語になりやすく、外国人労働者全体の日本語レベルを一定水準以上に保ちやすくなります。
特定の国籍に偏ると母国語中心のコミュニケーションになりがちですが、国籍が分かれていれば、日本語を使う機会が多くなります。
この記事では、外国人労働者の国籍を分散させることが企業にもたらす具体的なメリットについて説明します。
1. 外国人労働者を長期的に安定確保するための国籍分散
1-1.特定の国での日本の人気低下事例
2025年時点において日本で働く外国人の国籍別構成を見ると、最も多いのはベトナム人です。
特に技能実習制度においては、長年にわたりベトナム人が圧倒的なシェアを占めてきました。
日本の製造業や建設業、農業などの現場では、ベトナム人技能実習生が人手不足を支える重要な存在となってきたことは広く知られています。

厚生労働省『「外国人雇用状況」の届出状況まとめ【本文】(令和7年10月末時点)』, p.4を基に弁護士法人Global HR Strategyにて作成,https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001389442.pdf(閲覧日:2026年2月24日)
しかし、新型コロナウイルス感染症の収束以降、日本を就労先として希望するベトナム人は急速に減少しています。
近年の傾向としては、ベトナム人の東アジア地域での就労先として日本よりも韓国や台湾の人気が高まっており、日本の相対的な地位が低下している状況が見受けられます。
出入国管理統計によると、日本に新規で入国した技能実習1号のベトナム人は2019年には91,170人に達していましたが、その後は減少傾向が続いています。
コロナ禍による入国制限の影響もありましたが、制限解除後も回復は限定的で、2024年には57,956人まで減少しました。
この数字は、単なる一時的な落ち込みではなく、構造的な変化が起きていることを示唆しています。
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出入国在留管理庁「出入国管理統計 出入(帰)国者数 – 国籍・地域別 在留資格別 新規入国外国人」を基に弁護士法人Global HR Strategyにて作成,
出入国管理統計 出入(帰)国者数国籍・地域別 在留資格別 新規入国外国人 | 統計表・グラフ表示 | 政府統計の総合窓口(閲覧日:2026年2月24日)
その背景としてまず挙げられるのが、賃金水準の問題です。
日本の賃金が長年にわたり大きく上昇しなかった一方で、ベトナム国内の賃金水準は着実に上昇してきました。
また、韓国や台湾など他の東アジア諸国・地域でも賃金や待遇の改善が進んでいます。
これにより、「海外で働くことによる収入増」という動機が、日本に関しては相対的に弱くなっています。
さらに、近年の円安もその傾向を加速させています。
日本円で受け取る賃金を母国通貨に換算した際の実質的な価値が下がり、以前と比べて「日本で働いてどれだけ稼げるか」という経済的メリットが大幅に縮小しました。
結果として、同じ海外就労であれば、より高い賃金が期待できる国を選ぶという合理的な判断が広がっています。
実際に、日本への特定技能外国人や技能実習生の送り出しを中心に事業を展開してきたベトナムのある送出機関の経営者によると、日本向けの人材募集は年々難易度が上がっているといいます。
求人自体はあっても応募者が集まらず、やむを得ず案件をキャンセルするケースもあるとのことです。
この経営者は、「他社が扱っている韓国や台湾、欧州向けの求人には安定して応募者が集まっている。そのため、日本だけが人気を失っている状況だと言える」と分析しています。
今後、日本が外国人労働者から選ばれる国であり続けるためには、賃金水準や処遇の見直しに加え、キャリア形成や生活環境の面も含めた総合的な魅力向上が、これまで以上に求められていると言えるでしょう。
1-2.一国に頼ることのリスク
そこで近年、外国人労働者の供給源をベトナム一国に依存するのではなく、インドネシアやミャンマー、ネパールなど、他国へと分散させる動きが日本企業の間で広がっています。
特定の国に偏った採用体制はリスクが高いとの認識が進み、複数国からの人材確保を模索する企業が増えてきました。
しかし、代替先として注目されてきたインドネシアにおいても、課題が顕在化しつつあります。
日本向け人材の輩出が急増した結果、かつては比較的容易に日本語力の高い人材を確保できていた状況から一転し、現在では応募者数が求人数に追いつかないケースも出てきています。
そのため、質の高い人材を確保する難易度は以前と比べて確実に上がっています。
その背景には、インドネシア国内で日本向けの送出機関が急増した一方で、日本で働きたいと考えるインドネシア人の数や日本語をきちんと指導できる教育者が同じペースで増えたわけではないという事情があります。
結果として、送出機関ごとに人材募集力や日本語教育の質に大きな差が生じており、受入れ企業側が適切なパートナーを見極める重要性が高まっています。
また、ミャンマーについては、政府が2025年春から日本への人材輩出を制限し始めました。
この動きにより、日本側としては、ミャンマーから安定的かつ計画的に人材を受け入れることが難しくなっています。
制度変更や政府方針によって、人材供給が突発的に止まるリスクが現実のものとなりました。
このように、外国人労働者の受入れを特定の国だけに依存してしまうと、その国の経済状況や政策、社会情勢が変化した際に、受入れ企業としては大きな影響を受ける可能性があります。
人材確保の安定性を高めるためには、リスク分散の観点から、複数国籍に分けた採用戦略を構築していくことが重要です。
2. 外国人労働者の日本語レベルを保つための国籍分散
2-1.先輩頼みで日本語を使わない後輩の外国人労働者
特定技能や技能実習の外国人労働者を継続的に受け入れていくと、先に入社した先輩が後から来た後輩に仕事を教え、生活面の相談にも乗りながら、職場全体が円滑に回っていくケースも少なくありません。
現場に慣れた外国人労働者が新人を支える体制は、受入れ企業にとっても心強い仕組みです。
しかし、外国人労働者を一つの国籍に偏って増やしていくと、先輩と後輩の間のコミュニケーションはほぼすべて母国語で行われるようになります。
先輩たちが来日当初、日本語力がまだ不十分な中でも必死に日本語を使い、試行錯誤しながら職場や地域に適応してきたような状況は、後輩たちには生まれにくくなります。
日本語を使わなくても困らない環境では、後輩たちは分からないことがあればすぐに母国語で先輩に聞くことができ、仕事も生活も母国語中心で完結しがちになってしまいます。
そして、日本語学習の動機が弱まり、日本語力はなかなか伸びません。
実際、監理団体や登録支援機関で長年にわたり現場の外国人労働者を支援してきた人によると、「日本語を覚えようとせず、日本人とのやり取りをすべて先輩実習生に頼る後輩の外国人労働者は、どういうわけか、仕事の面でも自立が遅れがちだ」といいます。
指示を直接理解し、自分で考えて動く力が育ちにくくなる傾向があるのかも知れません。
このような職場では、中心的な役割を担っていた先輩が転職したり、在留期間満了で帰国したりした際に、現場運営が一気に不安定になるケースもあります。
特定の人材だけに依存した体制は企業にとって大きなリスクとなりがちです。
2-2.日本語が上達しないと本人にとっても不利益
日本で働いているのに日本語を使う機会が限られてしまうことは、外国人労働者本人にとっても大きな不利益です。
日本語が分からないままでは、仕事の幅が広がらず、日本での生活も必要最低限の範囲にとどまってしまいます。
本来は、先輩・後輩を問わず、一人ひとりの外国人労働者が日本で自立して働き、生活できる力を身に付け、将来の選択肢を広げていくことが望まれます。
そのためには、日本語学習に加え、日々の仕事や生活を通じて日本語を使い続け、日本語力を実践的に高めていく必要があります。
外国人労働者それぞれに人生設計があり、日本に在留する年数や一つの職場で働く期間もさまざまです。
しかし、日本語力を高めることができた人材は、日本での暮らしをより楽しめるようになり、言葉が分かることで日本社会への理解や愛着も深まります。
その結果、日本に長くとどまることを希望したり、帰国後も日本と関わる仕事に就いたりする傾向が強くなります。
受入れ企業にとっても、日本語力の高い外国人労働者は貴重な存在です。
将来的な管理職候補として育成することもできますし、外国人労働者同士や日本人社員との橋渡し役として活躍してもらうことも期待できます。
さらに、海外展開を行う際には、現地事情と日本の企業文化の両方を理解した協力者となる可能性もあります。
2-3.複数国籍配置で日本語を共通言語に
職場で受け入れる外国人労働者の国籍を複数に分散させると、外国人労働者同士の共通言語は自然と日本語になります。
母国語だけで先輩に頼ることができなくなり、職場で円滑にコミュニケーションを取るために、日本語を使わざるを得ない環境が生まれます。
このような環境では、日本語力の向上が早まり、より良い意思疎通を目指して、仕事終わりや休日に自主的に日本語学習に取り組む人材も増えていきます。
また、日本語が上達することで仕事への理解も深まり、職場全体の生産性向上にもつながります。
外国人労働者を一つの国から採用し続けるよりも、国籍を分散させることで、日本語力向上という観点では大きなメリットが得られます。
一度に多くの人数を採用できない中小事業所であっても、工夫は可能です。例えば、今年はベトナム人を4人新規採用した場合、翌年はインドネシア人を4人採用する、といった形で国籍を交互に切り替えていくことで、直近の先輩・後輩の間の共通言語が日本語になる可能性が高まります。
こうした小さな工夫が、外国人労働者の自立と職場の安定運営につながっていきます。
3. まとめ
特定の国での日本の人気低下事例
新型コロナ収束後、日本を就労先として選ぶベトナム人が減少しています。
その背景には、日本の賃金水準が伸び悩む一方、ベトナム国内や韓国・台湾など他国の賃金や待遇が向上したこと、さらに円安によって日本で働く経済的メリットが低下したことがあります。
今後、日本が選ばれ続けるためには、賃金や処遇だけでなく、総合的な魅力向上が求められます。
一国に頼ることのリスク
こうした状況を受け、受入れ企業の間では、ベトナム一国に依存せず他国にシフトする動きが広がっています。
しかし、インドネシアでも応募者不足や送出機関・教育水準のばらつきといった課題が表面化しています。
また、ミャンマーでは政府方針により、日本への人材輩出が制限され始めました。
このように、特定の国に依存すると、政策や社会情勢の変化によって人材確保が大きく左右されます。
安定的な人材確保のためには、複数国籍に分けた採用が得策です。
先輩頼みで日本語を使わない後輩の外国人労働者
外国人労働者を同一国籍で増やしていくと、先輩・後輩間のコミュニケーションが母国語中心となり、後輩が日本語を使わずに仕事や生活を回せる環境が生まれがちです。
その結果、日本語学習の意欲が低下し、日本人との直接的なやり取りや仕事面での自立も遅れやすくなります。
また、特定の先輩に依存した体制では、その人材の退職や帰国をきっかけに、現場運営が不安定になるリスクも高まります。
日本語が上達しないと本人にとっても不利益
日本語を使う機会が少ないままでは、外国人労働者本人の仕事の幅や生活の充実度が限定されてしまいます。
日本語力を高めることで、日本での生活への理解や愛着が深まり、長期就労や帰国後のキャリアの選択肢も広がります。
受入れ企業にとっても、日本語力の高い外国人労働者は、将来の管理職候補や社内外の橋渡し役として活躍が期待できる貴重な存在です。
複数国籍配置で日本語を共通言語に
外国人労働者の国籍を分散させることで、職場の共通言語が日本語となり、日本語を使う必要性が自然と高まります。
その結果、日本語力の向上が進み、仕事への理解や職場全体の生産性向上にもつながります。
中小事業所であっても、採用時期ごとに国籍を切り替えるなどの工夫が可能です。



