技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第15回)

技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(座長・田中明彦国際協力機構理事長)の第15回会合が2023年11月15日に開かれ、最終報告書(たたき台)の再々改訂版が議論されました。新しいたたき台では、技能実習に代わる新たな制度で働く外国人が自分の意向で転籍できる時期について、「育成開始から1年経過後」としていた従来案から、産業分野によっては「育成開始から最長2年後」に設定できる修正案が示されました。また、15日は、新たな制度の名称について、「人材確保と人材育成」という制度目的を踏まえて「育成就労」(仮称)とする案が示され、おおむね賛同が得られました。

有識者会議では10月18日に最初のたたき台が示され、その後、会議での議論や外部の意見を踏まえて10月27日と11月8日に修正案が示されており、今回が3回目の修正案です。今回の修正の大きなポイントは、外国人本人の意向による転籍が可能になる時期を育成開始から最長2年後にできる可能性を示したことです。これについて委員の1人から反対の意見書も出されました。最終の次回会合に向けて、たたき台がどのように調整されるのか注目されます。

参考)
出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第15回)」
https://www.moj.go.jp/isa/policies/conference/03_00079.html

「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」事務局が作成した最終報告書たたき台(11月15日版)のうち、転籍に関する概要と提言は次の通りです。修正・追加の箇所を太字で示しました。

1. 論点4「新制度での転籍の在り方」の概要

「やむを得ない場合」 の転籍の範囲を拡大・明確化し、手続を柔軟化
・これに加え、以下を条件に本人の意向による転籍も認める。
 ➢ 計画的な人材育成等の観点から、一定要件(同一機関での就労が1年超(※1)/技能検定試験基礎級・日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)合格(※2)/転籍先機関の適正性(転籍者数等)【P】を設け、同一業務区分に限る
 ※1人材育成の観点から必要があること/1年経過後の待遇向上等を義務付けることを要件として、当分の間、各分野において、2年を超えない範囲とすることを可能とする(3の会議体の意見を踏まえて政府が判断)。
 ※2 日本語能力につき、各分野でより高い水準の試験の合格を要件とすることを可能とする(6、9で同じ)。
・転籍前機関の初期費用負担につき、正当な補填が受けられるよう措置を講じる。
・監理団体・ハローワーク・技能実習機構等による転籍支援を実施。
・育成終了前に帰国した者につき、それまでの新制度による滞在が2年以下の場合、前回育成時と異なる分野・業務区分での再入国を認める
・試験合格率等を受入れ機関・監理団体の許可・優良認定の指標に。

2. 論点4「新制度での転籍の在り方」に関する提言

(基本的な考え方)
① 新たな制度における転籍については、まず、現行の技能実習制度において認められている「やむを得ない事情がある場合」の転籍の範囲を拡大かつ明確化する。また、人材育成の実効性を確保するための一定の転籍制限は残しつつも、人材確保も目的とする新たな制度の趣旨を踏まえ、外国人の労働者としての権利性をより高める観点から、一定の要件の下での本人の意向による転籍も認める。
(「やむを得ない事情がある場合」の転籍) 
② 「やむを得ない事情がある場合」の転籍については、例えば労働条件について契約時の内容と実態の間で一定の相違がある場合を対象とすることを明示するなど、その範囲を拡大・明確化し、例えば職場における暴力やハラスメント事案の確認等の手続を柔軟化する。その上で、転籍が認められる範囲やそのための手続について、関係者に対する周知を徹底する。
(本人の意向による転籍)
③ 上記②の場合以外は、計画的な人材育成の観点から、3年間を通じて一つの受入れ機関において継続的に就労を続けることが効果的と考えられるものの、以下の要件をいずれも満たす場合には、本人の意向による転籍も認める。
ア 同一の受入れ機関において就労した期間が1年を超えていること
  ただし、初回の転籍の場合における当該期間については、当分の間 (注1)、以下の要件をいずれも満たす場合には、各受入れ対象分野において、2年を超えない範囲で設定することを可能とする。
(ア)当該分野の業務内容に照らし、計画的な人材育成の観点から、1年を超える期間、同一の受入れ機関での育成を継続する必要があると認められること
(イ)受入れ機関に対し、就労開始後1年を経過した後には昇給その他待遇の向上等を義務付けること
   なお、当該期間の設定については、上記3の提言③に倣い、新たな会議体が業所管省庁や業界団体等からの説明等に基づき議論した上での意見を踏まえ、政府が判断する。
イ 技能検定試験基礎級等及び日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)に合格していること(注2)
ウ 転籍先となる受入れ機関が、例えば在籍している外国人のうち転籍してきた者の占める割合が一定以下であること、転籍に至るまでのあっせん・仲介状況等を確認できるようにしていることなど、転籍先として適切であると認められる一定の要件を満たすものであること【③全文についてP】
(本人の意向による転籍に伴う費用分担)
④ 本人の意向により転籍を行う場合、転籍前の受入れ機関が負担した初期費用等のうち、転籍後の受入れ機関にも負担させるべき費用については、転籍前の受入れ機関が正当な補填を受けられるよう、転籍前の在籍期間や転籍前の受入れ機関による当該外国人に対する初期の育成努力等を 勘案した分担とするなど、その対象や負担割合を明確にした上で、転籍後の受入れ機関にも負担させるなどの措置をとることとする。
(転籍支援)
⑤ 転籍支援については、受入れ機関、送出機関及び外国人の間の調整が必要であることに鑑み、新たな制度の下での監理団体(後記5参照)が中心となって行うこととしつつ、ハローワークも外国人技能実習機構に相当する新たな機構(後記5参照)等と連携するなどして転籍支援を行うこととする。また、悪質な民間職業紹介事業者等が関与することで外国人や受入れ機関が不利益を被ることがないよう、転籍の仲介状況等に係る情報の把握など、必要な取組を行う。
(転籍の範囲)
 ⑥ 転籍の範囲は、人手不足分野における人材の確保及び人材育成という制度目的に照らし、現に就労している業務区分と同一の業務区分内に限るものとする。
(育成途中で帰国した者への対応)
⑦ 育成を終了する前に帰国した者については、新たな制度でのこれまでの我が国での滞在期間が通算2年以下の場合(注3)、新たな制度により、それまでとは異なる分野・業務区分での育成を目的とした再度の入国を認めることとする。
(悪用防止及び適切な人材育成のための措置)
⑧ 上記の転籍等に係る制度の悪用防止や、適切な人材育成を促すため、上記2の提言③に係る試験の合格率等を、受入れ機関及び監理団体の許可等の要件や優良認定の指標とする。

(注新たな制度の運用開始後の状況を見て、継続の要否を検討する。
(注2)前記2の提言③(注2)のとおり、日本語能力に関しては、現行の技能実習制度における取扱いを踏まえ、各受入れ対象分野でより高い水準の試験の合格を要件とすることを可能とする。
(注3)新たな制度で複数回我が国に滞在した場合、その通算の滞在期間が2年以下であれば再度の入国が可能であり、再度の入国後の滞在を含めた新たな制度での滞在期間は、5年が上限となる(ただし、後記6の提言③により再受験に必要な範囲で最長1年の在留継続があり得る。)。

※③-アの中の「上記3の提言③」とは、「論点3・受入れ見込数の設定等の在り方」について、「新たな制度及び特定技能制度における受入れ見込数の設定、受入れ対象分野等の設定、特定技能評価試験等のレベルや内容の評価等については、有識者や労使団体などの様々な関係者等で構成する新たな会議体が業所管省庁や業界団体等からの説明、情報共有に基づき議論した上での意見を踏まえ、制度全体としての整合性に配慮しつつ、政府が判断するものとする」と提言したことを指します。

3. ポイント

3-1. 転籍制限の期間

③の「本人の意向による転籍」については、転籍を無制限に認めると、人材育成に支障があり、従前の受入れ機関が人材育成・確保のためにかけたコストも無駄になるため、転籍の時期・回数等について一定の制約を設けることが示されています。具体的には、前回までのたたき台では、民法や労働基準法で有期雇用契約の場合は1年を超えれば退職が可能であることなどから、育成開始から1年で自己都合転籍を可能にすることが提案されていました。

しかし、今回の修正案で、育成開始から1年を経過した後に昇給など待遇改善を行うこと等を条件に、その分野の業務内容に応じた計画的な人材育成の観点から、1年を超えても同じ受入れ機関で育成することが必要と認められた場合は、育成開始から最長2年まで転籍制限を設けることができるという「例外」が提案されました。

そして、1年を超える場合の転籍制限の期間設定については、有識者や労使団体などの様々な関係者等で構成する新たな会議体が業所管省庁や業界団体等からの説明等をもとに議論し、その意見を踏まえて政府が判断することが示されました。この会議体のメンバーが重要になりますが、理論や業界の状況、現場の実情などに広く深く通じた人材を選ぶことに困難が伴うことが想定されます。

ただし、この例外措置は「当分の間」とし、制度運用開始後の状況を見て継続の要否を検討するとしています。

3-2. コスト分担

外国人労働者を最初に受け入れる機関が負担する来日時のコストや初期の人材育成コストについて、転籍時に新しい受入れ機関も分担することが提言されています。これについて、従来のたたき台では、「転籍前の受入れ機関が負担した初期費用等のうち、転籍後の受入れ機関にも負担させるべき費用については、両者の不平等が生じないよう、転籍前後における各受入れ機関が外国人の在籍期間に応じてそれぞれ分担することとするなど・・・・転籍後の受入れ機関にも負担させるなどの措置をとることとする」とされていましたが、太字の部分が「転籍前の受入れ機関が正当な補填を受けられるよう、転籍前の在籍期間や転籍前の受入れ機関による当該外国人に対する初期の育成努力等を勘案した分担とするなど」に修正されました。

4. 自民党外国人労働者等特別委員会(外特委)での意見

11月8日の有識者会議で議論されたたたき台の転籍関係の記述を巡り、翌日の自民党外国人労働者等特別委員会(外特委)で出された主な意見を紹介します。

【鹿児島県の議員】地元の企業や監理団体から、転籍されてしまった場合は、新しい受入れ企業から初期費用の最低3分の2はもらいたいという意見や、転籍によって採用計画に狂いが出ないよう受入れ枠を増やしてほしいという意見がある。最初の受入れ機関(地方)の投資コスト回収に関しては、地方が損しないようにしてほしい。地方が都会への「人材供給基地」にならないようにしてほしいという声が非常に大きい。

【茨城県の議員】「不平等が生じない措置」の意味を教えてほしい。コストをかけて、育てて、何人か抜けた後の受入れ枠や、金銭の補填をどうするのか。

【茨城県の議員】(人材を)取る側の企業の負担を少し重たくするぐらいにしておかないと、転籍に歯止めがきかず、地方はすごく疲弊する。

【北海道の議員】3年しっかり仕事をしてもらえる育成計画を作り、給与も3年勤めたらこうなると示すなど、受入れ機関のプログラムを当初段階で示すことで、選んでもらえるようになっていくと思う。そういうフォローアップにも初期投資がかかる。転籍されないように、計画を立て、人を育てようと思っている企業が割りを食わないようにしてほしい。

5. 有識者会議委員からの反対意見

15日の有識者会議では、弁護士の市川正司委員から転籍制限の修正案に関する意見書が提出されました。その要点を紹介します。

・新たな制度では、労働者の保護が重要な柱であり、労働者の基本的権利である職場を移転する権利を禁止するのであれば、業務遂行能力を身に付けるために最低限必要な期間に限定されなければならない。しかし、これまでのヒアリングで、2年間就業しなければ業務遂行の基本的な能力も身につかないということを説得的に説明するものはなかった。

・日本の労働法制上、1年以上の有期の雇用契約を締結した場合でも、1年経過後はやむを得ない事由の有無にかかわらず転職が認められている。外国人に限って1年経過後も転職が認められないという法制度は均衡を失する。

・ILOは、労働者の自由な雇用終了の保証と転職にあたって雇い主の許可を条件としないことを求めている。転籍制限は特定の雇い主への依存関係を助長し、労働者の権利行使を間接的に制限することにつながるとも指摘している。

・新たな制度が、人権保護に関しては現状の微修正の改善にとどまるという印象を与えると、日本や日本企業への国際的評価を著しく低下させる。海外の外国人からも日本が選ばれなくなる。

・地方からの人材の流出を防ぐことを目的として転籍禁止の期間を延ばすという方法をとるべきという声も強いと報道されているが、その目的で個々の労働者の転職する権利を制限することは正当化されない。

・賃金だけでなく、職場のその他の労働環境の改善、良好な人間関係、育成に向けた企業の取組、自治体も一体となった共生のための生活環境改善、地域での日本語教育や行政の多言語化への取組などを総体的に進めることによって、地方でも人材を定着させることができる。

・「本人の意向による転籍に伴う費用分担」で、「両者の不平等が生じないよう在籍期間に応じてそれぞれ分担」が、「転籍前の在籍期間や転籍前の受入れ機関による当該外国人に対する初期の育成努力等を勘案した分担」に変更された。転籍前の受入れ機関の育成「努力」を勘案するという主観的な基準が設けられており、新しい受入れ企業に必要以上の負担を求め、転籍を機能させなくする条件となりかねない。

6. まとめ

技能実習制度に代わる新たな制度等に関する最終報告書のたたき台を巡って、有識者会議は11月15日、主に転籍制限の期間について議論しました。たたき台ではこれまで、新たな制度での外国人労働者が1年間就労すれば、自分の意向で別の職場に移れる(転籍できる)としていましたが、この日の修正案では、分野ごとの必要性に応じて、最長2年まで転籍制限を設けることができるとする「例外」を示しました。

10月に示された当初のたたき台やその後2回の修正案では、育成開始から1年経って、基礎的な技能試験や日本語試験にも合格すれば、新たな制度の外国人労働者は日本の労働法制に沿って同じ業種内で転籍できるとしていました。

しかし、これらのたたき台で示された緩和方針に対して、技能実習受入れ業界などから数多くの陳情があり、自民党内で異論が続出しました。転籍制限緩和によって、賃金水準が高く外国人仲間も多い大都市圏に地方の外国人労働者が大量に流出し、地方の産業を支える人材が確保できなくなるとの指摘や、最初に外国人労働者を受け入れた企業等の初期投資や育成コストを転籍先の新しい受入れ機関にどう分担させるのかという懸念が相次ぎました。

こうした意見や地方の実情も踏まえ、修正案では、各分野での実情に鑑みて人材育成のために必要があれば、例外措置として、最長2年まで転籍を制限できるとしました。ただし、例外措置は「当分の間」とし、例外措置を講じた分野の企業には、1年を超えた時点で外国人労働者の昇給などの待遇向上を義務付けました。

報道によると、今回の修正案に対し出席委員からは、「国民の不安に応える配慮が必要」という賛成意見と「多くの分野で転籍制限が2年になれば、新制度への国際的な信頼に影響が出る」という反対意見が出たとのことです。

失踪を最小限に食い止める努力をしている、まじめで良質な受入れ事業者もたくさんあります。また、企業と技能実習生の関係が非常に良好な場合でも、賃金格差に加え、大都市圏の利便性や大都市圏には同じ母国の仲間も多いといった事情を背景に、地方から大都市圏に移った技能実習生や元技能実習生は実際にたくさんいます。企業努力だけでは地方から大都市圏への人材流出の流れは食い止めきれないものがあり、地方の不安は深刻です。「人材育成」という制度目的を理由に残す外国人労働者の転籍制限に関して、有識者会議が当初目指した制限緩和の度合いが一定程度、後退することは、避けられないかも知れません。

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