技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第13回)

技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(座長・田中明彦国際協力機構理事長)の事務局が2023年10月27日、最終報告書(たたき台)の改訂版を発表しました。10月18日に示したたたき台に、各方面からの指摘等を踏まえて改訂を加えたものです。この記事では、新しいたたき台の内容を紹介し、予想される企業実務への影響等について説明します。

参考)
出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第13回)」
https://www.moj.go.jp/isa/policies/conference/03_00004.html

1. 最終報告書たたき台の概要

「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」事務局が作成した最終報告書たたき台(10月27日版)の概要は次の通りです。

1-1. 新制度及び特定技能制度の位置付けと関係性等

・現行の技能実習制度を発展的に解消し、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度を創設。
・基本的に3年の育成期間で、特定技能1号の水準の人材に育成。
特定技能制度は、適正化を図った上で現行制度を存続
 ※現行の企業単独型技能実習のうち、新制度の趣旨・目的に沿うものは適正化を図った上で引き続き実施し、沿わないものは、新制度とは別の枠組みでの受入れを検討。

1-2. 新制度の受入れ対象分野や人材育成機能の在り方

受入れ対象分野は、特定技能制度における「特定産業分野」の設定分野に限定。
 ※国内における就労を通じた人材育成になじまない分野は対象外。
・従事できる業務の範囲は、特定技能の業務区分と同一とし「主たる技能」 を定めて育成・評価 (1年経過・育成終了時までに試験を義務付け)。
・季節性のある分野等で、業務の実情に応じた受入れ・勤務形態を認める。【P】

1-3. 受入れ見込数の設定等の在り方

・特定技能制度の考え方と同様、新制度でも受入れ分野ごとに受入れ見込数を設定 (受入れの上限数として運用)。
・受入れ見込数や対象分野は経済情勢等の変化に応じて適時・適切に変更。試験レベルの評価等と合わせ、有識者等で構成する会議体の意見を踏まえ政府が判断。

1-4. 新制度での転籍の在り方

「やむを得ない場合」 の転籍の範囲を拡大・明確化し、手続を柔軟化
・これに加え、以下を条件に本人の意向による転籍も認める。
 ➢ 人材育成等の観点から、一定要件(同一機関での就労が1年超/技能検定基礎級合格・日本語能力A1相当以上(日本語能力試験N5合格等)/転籍先機関の転籍者数等)【P】を設け、同一業務区分内に限る
 ➢ 転籍前機関の初期費用負担につき、 不平等が生じないための措置を講じる。
・監理団体・ハローワーク・技能実習機構等による転籍支援を実施。
・育成終了前に帰国した者につき、それまでの新制度による滞在が2年以下の場合、前回育成時と異なる分野・業務区分での再入国を認める
・試験合格率等を受入れ機関・監理団体の許可・優良認定の指標に。

1-5. 監理・支援・保護の在り方

技能実習機構の監督指導・支援保護機能や労働基準監督署・出入国在留管理庁との連携等を強化し、特定技能外国人への相談援助業務を追加。
監理団体の許可要件厳格化。
 ➢ 監理団体と受入れ機関を兼職する役職員の関与の制限/外部監視の強化/職員の配置、財政基盤、相談対応体制等の厳格化。
 ※ 優良監理団体については、手続簡素化といった優遇措置。
受入れ企業につき、支援体制、分野別協議会への加入等、要件を適正化。

1-6. 特定技能制度の適正化方策

・新制度から特定技能1号への移行は、以下を条件。
 ①技能検定3級等又は特定技能1号評価試験合格
 ②日本語能力A2相当以上(日本語能力試験N4合格等)
 ※当分の間は相当講習受講も可
・試験不合格となった者には再受験のための最長1年の在留継続を認める。
・支援業務の委託先を登録支援機関に限定し、人員配置等の登録要件を厳格化/キャリア形成も支援。
・育成途中の特定技能1号への移行は本人意向の転籍要件と併せて検討。【P】

1-7. 国・自治体の役割

・入管、機構、労基署等が連携し、不適正な受入れ・雇用を排除。
・送出国と連携し、不適正な送出機関を排除。
・業所管省庁と業界団体が連携、受入れガイドライン・プログラム策定等。
・日本語教育機関を適正化し、 日本語学習の質を向上。
・自治体において、相談窓口の整備、生活環境整備の取組を推進。

1-8. 送出機関及び送出しの在り方

・二国間取決め (MOC) により送出機関の取締りを強化。
・送出機関・受入れ機関の情報の透明性を高め、送出国間の競争を促進。
支払手数料を抑え、外国人と受入れ機関が適切に分担する仕組みを導入。

1-9. 日本語能力の向上方策

継続的な学習による段階的な日本語能力向上。
 ※就労開始前にA1相当以上 (日本語能力試験N5合格等)又は相当講習受講
  特定技能1号移行時にA2相当以上(〃N4合格等) ※当分の間は相当講習受講も可
  特定技能2号移行時にB1相当以上(〃N3合格等)
・日本語支援に取り組んでいることを優良受入れ機関の認定要件に。
・日本語教育機関認定法の仕組みを活用し、教育の質の向上を図る。

2. 最終報告書たたき台に関する論点ごとの解説

有識者会議事務局が作成したたたき台(提言)を詳しく紹介し、ポイントを説明します。

1 新たな制度及び特定技能制度の位置付けと両制度の関係性等【総論】
① 現行の技能実習制度を実態に即して発展的に解消し、我が国社会の人手不足分野(注)における人材確保と人材育成を目的とする新たな制度(以下「新たな制度」という。)を創設する。人材確保に関しては、人権の保護を前提とした上で、地方における人材確保も図られるようにする。
② 新たな制度は、未熟練労働者として受け入れた外国人を、基本的に3年間の就労を通じた育成期間において計画的に特定技能1号の技能水準の人材に育成することを目指すものとする。
③ 特定技能制度は、人手不足分野において即戦力となる外国人を受け入れるという現行制度の目的を維持しつつ、制度の適正化を図った上で引き続き存続させる。
④ 家族帯同については、現行制度と同様、新たな制度及び特定技能制度(特定技能1号に限る。)においては認めないものとする。
⑤ 現行の技能実習制度で行われている企業単独型の技能実習のうち、新たな制度の趣旨・目的に沿うものについては、監理・支援手段等の適正化を図った上で新たな制度で引き続き実施することを可能とする。また、国際的に活動している企業における短期間の育成のような、新たな制度の趣旨・目的に沿わないものであっても、引き続き実施する意義があるものについては、適正性を確保するための手段を講じつつ、既存の在留資格の対象拡大等により、新たな制度とは別の枠組みで受け入れることを検討する。

(注)生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にあるため、外国人の受入れにより不足する人材の確保を図るべき産業上の分野をいう。

〈ポイント〉
① 「地方における人材確保も図られるようにする」という文言が盛り込まれました。外国人本人の希望による転籍が認められるようになるため、育成途中での地方から都市部への人材流出が懸念されています。現在の技能実習制度が結果的に担っている地方での人材確保という機能が新たな制度で具体的にどのように維持できるのか、注目されます。

② 新たな制度は特定技能1号外国人の育成制度と位置付けられ、就労期間は3年間と示されました。現行の技能実習3号(4~5年目)に対応する期間はなくなり、原則として最長3年間の制度となります。ただし、2年以内にやめて帰国した場合、再来日して別の業務区分で最長3年間受け入れる可能性も提言されており、最長5年のケースもありそうです。なお、現在の1号のみの技能実習に対応する制度は示されておらず、新たな制度のもとではなくなる可能性が高いと言えます。

③ 特定技能制度については、制度の適正化を図った上で存続させるとしています。

④ 有識者会議の中でも意見が分かれていた家族帯同については、新たな制度や特定技能1号では引き続き認めないことが示されました。

⑤ 企業単独型技能実習は、新たな制度の趣旨・目的に合うものは「新たな制度」として、合わないものは「企業内転勤」として制度化されることが検討されています。

2 新たな制度の受入れ対象分野や人材育成機能の在り方
(受入れ対象分野)
① 新たな制度の受入れ対象分野については、現行の技能実習制度の職種等を当然に引き継ぐのではなく、新たな制度と技能実習制度の趣旨・目的の違いを踏まえ、新たに設定するものとする。その際、新たな制度が人手不足分野における特定技能1号への移行に向けた人材育成を目的とするものであることから、新たな制度の受入れ対象分野は、特定技能制度における「特定産業分野」が設定される分野に限ることとし、我が国内における就労を通じた人材育成になじまない分野については、新たな制度の対象とせず、特定技能制度でのみ受け入れることを可能とする。
(人材育成・技能評価)
② 新たな制度は特定技能1号への移行を目指すものであるため、外国人が従事できる業務の範囲については、外国人が現行の技能実習よりも幅広く体系的な能力を修得できるよう、特定技能の業務区分(注)と同一としつつ、人材育成の観点から、当該業務区分の中で修得すべき主たる技能を定めて計画的に育成・評価を行うものとする。
③ 受入れ機関は、技能修得状況等を評価するため、外国人に対して、
 ○ 1年経過時までに、技能検定試験基礎級等及び日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)
 ○ 育成終了時までに、技能検定試験3級等又は特定技能1号評価試験及び日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)を受験させるものとする。
④ 従事させる業務の内容について、季節性のある分野において、その業務の実情に応じた受入れ・勤務形態も認めるものとする。【P】

(注)農業分野の「耕種農業全般」「畜産農業全般」等、特定技能外国人が従事することになる業務の区分をいい、各業務には、当該業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務も含まれる。

〈ポイント〉
①・② 新たな制度は特定技能1号への人材育成制度と位置付けるため、新たな制度の受入れ対象分野を特定技能の産業分野に限定し、業務区分も特定技能と一致させることが示されました。また、「就労を通じた人材育成になじまない分野については、新たな制度の対象とせず、特定技能制度でのみ受け入れることを可能とする」としており、新たな制度よりも特定技能制度の方が受入れ範囲が広くなります。このため、新たな制度を導入後の外国人受入れは特定技能を中心とする考え方に変わりそうです。
ただし、現在の技能実習制度の職種・作業に対応する特定技能の産業分野がない場合、現在も技能実習から特定技能への移行はできませんが、現状のままでは、新たな制度でも特定技能制度でも受入れはできません。新たな制度で受入れができるようにするためには、特定産業分野と新たな制度の新職種として追加する必要があります。繊維・衣服関係(13職種22作業)▽家具製作職種・家具手加工作業▽印刷職種・オフセット印刷作業、グラビア印刷作業▽製本職種・製本作業▽強化プラスチック成形職種・手積み積層成形作業――などがそれに該当します。このため、特定産業分野への追加を目指す分野は出てくるものと思われます。
技能実習は「職種・作業」によって受入れの可否が決まり、特定技能制度での受入れには「業務区分」と「特定産業分野」という2つの要件があります。新たな制度での受入れ対象分野は特定技能の分野に限定されるので、例えば、スーパーのバックヤードでの食品製造(スーパーが小売業なので、技能実習の食品製造職種には入るが、特定技能の飲食料品製造業には原則入らない)等は現状のままでは影響を受ける(新たな制度では受入れ不可になる)ことになります。

③ 技能評価については、1年経過時と育成終了時に試験を義務付けることが提言され、これに関する受入れ機関の負担は現行の技能実習と変わりません。

④ 季節性のある分野で業務の実情に応じた勤務形態を認めることが盛り込まれました。農業・漁業分野における変形労働制等の活用が増える可能性があります。

3 受入れ見込数の設定等の在り方
① 新たな制度は人手不足分野の人材確保を目的とするものであるため、日本人の雇用機会の喪失や処遇の低下等を防ぐ観点及び外国人の安定的かつ円滑な在留活動を可能とする観点から、現行の特定技能制度の考え方にのっとり、受入れ分野ごとに受入れ見込数を設定し、これを受入れの上限数として運用する。
② 新たな制度及び特定技能制度における受入れ見込数や受入れ対象分野は、国内労働市場の動向等に的確に対応する観点から、経済情勢等の変化に応じて柔軟に変更できる運用とする。
③ 新たな制度及び特定技能制度における受入れ見込数の設定、受入れ対象分野の設定、技能評価試験の作成等については、有識者・関係団体等で構成する新たな会議体の意見を踏まえ政府が判断するものとする。

〈ポイント〉
① 新たな制度でも特定技能制度と同じように受入れ分野ごとに受入れ見込数を設定し、受入れの上限として運用することが提言されました。

② 受入れ見込数や対象分野は経済情勢等の変化に応じて適宜・適切に変更するとしています。

③ 受入れ見込数や対象分野、特定技能評価試験等のレベルや内容について、様々な関係者で構成する会議の意見を踏まえるとしています。会議メンバーの人選等が重要になります。

4 新たな制度における転籍の在り方
(基本的な考え方)
① 新たな制度における転籍については、まず、現行の技能実習制度において認められている「やむを得ない事情がある場合」の転籍の範囲を拡大かつ明確化する。また、人材育成の実効性を確保するための一定の転籍制限は残しつつも、人材確保も目的とする新たな制度の趣旨を踏まえ、外国人の労働者としての権利性をより高める観点から、一定の要件の下での本人の意向による転籍も認める。
(「やむを得ない事情がある場合」の転籍)
② 「やむを得ない事情がある場合」の転籍については、例えば労働条件について契約時の内容と実態の間で一定の相違がある場合を対象とすることを明示するなど、その範囲を拡大・明確化し、手続を柔軟化する。その上で、転籍が認められる範囲やそのための手続について、関係者に対する周知を徹底する。
(本人の意向による転籍)
③ 上記②の場合以外は、人材育成の観点から、3年間を通じて一つの受入れ機関において就労を続けることが望ましいものの、以下の要件をいずれも満たす場合には、本人の意向による転籍も認める。
ア 同一の受入れ機関において就労した期間が1年を超えていること
イ 技能検定試験基礎級等及び日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)に合格していること
ウ 転籍先となる受入れ機関が、例えば受入れ中の外国人のうち転籍してきた者の占める割合が一定以下であることなど、一定の要件を満たす企業であること【③全文についてP】
(本人の意向による転籍に伴う費用分担)
④ 本人の意向により転籍を行う場合、転籍前の受入れ機関が負担した初期費用等のうち、転籍後の受入れ機関にも負担させるべき費用については、両者の不平等が生じないよう、転籍前後における各受入れ機関が外国人の在籍期間に応じてそれぞれ分担することとするなど、その対象や負担割合を明確にした上で、転籍後の受入れ機関にも負担させるなどの措置をとることとする。
(転籍支援)
⑤ 転籍支援については、受入れ機関、送出機関及び外国人の間の調整が必要であることに鑑み、新たな制度の下での監理団体(後記5参照)が中心となって行うこととしつつ、ハローワークも外国人技能実習機構に相当する新たな機構(後記5参照)等と連携するなどして転籍支援を行うこととし、悪質な民間職業紹介事業者等が関与することで外国人や受入れ機関が不利益を被ることがないよう、必要な取組を行う。
(転籍の範囲)
⑥ 転籍の範囲は、人手不足分野における人材の確保及び人材育成という制度目的に照らし、現に就労している業務区分と同一の業務区分内に限るものとする。
(育成途中で帰国した者への対応)
⑦ 育成を終了する前に帰国した者については、新たな制度でのこれまでの我が国での滞在期間が通算2年以下の場合(注)、新たな制度により、それまでとは異なる分野・業務区分での育成を目的とした再度の入国を認めることとする。
(悪用防止及び適切な人材育成のための措置)
⑧ 上記の転籍等に係る制度の悪用防止や、適切な人材育成を促すため、上記2の提言③に係る試験への合格率等を、受入れ機関及び監理団体の許可等の要件や優良認定の指標とする。

(注)新たな制度で複数回我が国に滞在した場合、その通算の滞在期間が2年以下であれば再度の入国が可能であり、再度の入国後の滞在を含めた新たな制度での滞在期間は、5年が上限となる(ただし、下記6の提言③により再受験に必要な範囲で最長1年の在留継続があり得る。)。

〈ポイント〉
新たな制度には「人材確保」という制度目的も加わるため、制度趣旨と外国人保護の観点から、転籍要件を緩和する方向性が示されました。新たな制度では、「やむを得ない転籍」の範囲拡大と明確化、その手続きの柔軟化、制度内容の周知徹底に加え、育成1年経過後で一定条件のもとで本人希望による転籍も認めることを提言しました。

・送出機関の対応:
送出機関はこれまで36カ月分の送出管理費(例:ベトナムなら平均で毎月約5,000円、3年で約18万円、フィリピンなら毎月約1万円、3年で36万円)を監理団体経由で受け取ってきましたが、転籍後に安定的に送出管理費を受け取れるか不安を感じる可能性があります。これによって、送出機関は「1年目の送出管理費を高くする」「3年分の送出管理費を入国時に一括徴収する」などの対策を取るかも知れません。その場合、受入れ機関の初期費用が増大します。

・地方での人材確保への影響:
転籍要件の緩和によって、人気のある地域(大都市圏)や職種、好条件で雇える大手企業等では大きな影響はないと予想されますが、それ以外の受入れ機関にとっては、人材採用や定着が困難になりそうです。労働者は便利な地域や給与の高い企業に行きたがるので、地方の中小企業等の場合、採用・定着に向けて待遇改善などかなりの努力が求められますが、企業ごとに体力の限界があり、こうした企業等での人材確保をどうするのかが課題になりそうです。

・受入れ機関減少の可能性:
1年で転籍するリスクがあるため、受入れ機関にとっては、新たな制度と特定技能1号の違いが入国時の日本語力以外に見つけにくくなり、現在の技能実習制度は特定技能より事務負担が大きいことも考えると、特定技能1号を中心にすえる企業が増える可能性があります。

・転籍への「歯止め」の実効性:
労働者は便利な地域やより待遇の良い会社に魅力を感じ、受入れ機関は、時間と費用がかかる海外からの受入れより転籍者の受入れにより大きなメリットを感じます。転籍者の受入れにはその機関の外国人労働者の中の転籍者割合など一定要件を設けることが提言されましたが、その「歯止め」がどの程度効果を持つか注目されます。

・新旧受入れ機関の間でのコスト分担:
外国人労働者を最初に受け入れる機関が負担する来日時のコストや初期の人材育成コストについて、転籍時に新しい受入れ機関も負担することが提言されました。ただし、その具体的な方法については、これから議論されることになります。従来の受入れ機関が新しい受入れ機関から確実に費用を受け取れるような仕組みが求められます。

・転籍先探し:
転籍先の確保は、引き続き監理団体が中心に行い、新たな機構やハローワークも転籍先探しを支援することが示されました。ただし、悪質な職業紹介業者への対策は講じつつ民間の職業紹介会社の転籍支援(職業紹介)を排除することはなく、民間も参入できる可能性が高そうです。

・育成途中で帰国した人の再チャレンジ:
新たな制度の外国人労働者が2年以内の滞在で帰国した場合、従来と異なる分野・業務区分での再入国を認めることが提言されました。再入国後の滞在は最長3年の方向で検討されています。

5 監理・支援・保護の在り方
 新たな制度及び特定技能制度が円滑かつ適切に運用され、また、外国人に対する支援や保護が適切に行われるよう、以下のとおり、両制度に関わる各 機関等による監理・支援・保護体制を強化する。
(外国人技能実習機構)
 ① 外国人技能実習機構を改組(改組後の組織について、以下「新たな機構」 という。)の上、受入れ機関に対する監督指導や外国人に対する支援・保護機能(転籍支援や相談援助業務を含む。)を強化するとともに、特定技能外国人への相談援助業務(母国語相談等)を行わせることとし、このような機能を適切に果たすため、必要な体制等を整備する。
② 労働基準監督署等との間での相互通報の取組を強化し、重大な労働法令違反事案に対して厳格に対応する。また、新制度で受け入れる外国人のみならず特定技能外国人の保護の観点からも、地方出入国在留管理局との連携を強化し、不適切な受入れ機関等に対して厳格に対応する。
(監理団体)
 ③ 新たな制度においても、就労を通じた人材育成の適正な実施の監理等を行う監理団体を設ける。新たな制度の下での監理団体については、監理団体と受入れ機関を兼職する役職員の監理への関与の制限や外部者による監視の強化などにより独立性・中立性を担保するとともに、受入れ機関数等に応じた職員の配置、財政基盤や外国語による相談対応体制の確保、送出機関からのキックバック、饗応の禁止厳格化などの許可要件を設け、新たに許可を受けるべきものとする。その際、監理団体に対しては、新たな許可要件にのっとり厳格に審査を行い、機能が十分に果たせない監理団体は厳しく適正化又は排除していくものとする。
 ④ 新たな制度の下での監理団体にとってより良い監理支援のインセンティブとなるよう、優良事例の公表、優良な監理団体に対する各種申請書類の簡素化や届出の頻度軽減などといった優遇措置を講じる。
 (受入れ機関)
 ⑤ 新たな制度の下での受入れ機関については、受入れ人数枠を含む受入れ支援体制等、人材育成の観点から必要な要件を適正化した上、現行の特定技能制度における要件を参照し、分野の協議会への加入等、人材確保目的を踏まえた要件を設ける。また、外国人の前職要件等、現行の技能実習制度の国際貢献目的に由来する要件については撤廃する。
⑥ 新たな制度の下での受入れ機関にとってより良い受入れのインセンティブとなるよう、優良事例の公表、優良な受入れ機関に対する各種申請書類の簡素化や届出の頻度軽減などといった優遇措置を講じる。

〈ポイント〉
・外国人技能実習機構(OTIT):
外国人技能実習機構(OTIT)については、組織改正をした上で受入れ機関に対する監督指導や外国人に対する支援・保護機能を強化するうえ、新たに特定技能外国人への相談業務も担うことが提言されました。また、新たな機構と労働基準監督署や地方出入国在留管理局との連携を強化し、新たな制度だけでなく特定技能についても法令に違反した受入れ機関への対応を強化するとされています。

・監理団体への影響:
監理団体の役職員と受入れ機関との兼職は禁止されませんが、兼職している役職員の監理への関与の制限や外部者による監視強化が提言されました。また、監理団体の許可要件として、受入れ機関数に応じた職員配置や財政基盤、外国語での相談体制、送出機関からのキックバックや接待の禁止などを示しています。新しい要件のもとで、監理団体は許可を取り直すことになります。監理団体が職員配置などの要件を満たすために監理費を増額し、受入れ機関の負担が増える可能性もあります。

・受入れ機関への影響:
受入れ機関にも分野の協議会への加入など受入れ要件が設けられ、人数枠も設けられることが提言されました。人数枠が現行と同じ規模になるかどうかはまだ分かりません。

6 特定技能制度の適正化方策
① 新たな制度において育成がなされた外国人の特定技能1号への移行については、従前の技能検定試験3級等以上又は特定技能1号評価試験への合格に加え、日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)への合格を要件とする。ただし、日本語能力試験の要件については、当分の間は、当該試験合格に代えて、認定日本語教育機関等における相当の講習を受講した場合も、その要件を満たすものとする。
② 新たな制度を経ない特定技能1号の在留資格取得については、従前のとおり、特定技能1号評価試験等及び日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)への合格を要件とする。新たな制度において育成途中の外国人がこれらの試験に合格した場合の特定技能1号への在留資格変更の在り方については、上記4の提言③の本人の意向による転籍の要件等も踏まえて検討するものとする。【P】
③【2から移動】新たな制度で育成を受けたものの、特定技能1号への移行に必要な試験等に不合格となった者については、同一の受入れ機関での就労を継続する場合に限り、再受験に必要な範囲で最長1年の在留継続を認める。
④ 特定技能外国人に対する支援については、支援業務を委託する場合には、その委託先を登録支援機関に限ることとした上、支援業務が適切になされるよう、登録支援機関の支援責任者等の講習受講や人員配置の要件を設け登録要件を厳格化するとともに、特定技能外国人のキャリア形成の支援も行わせることとする。
⑤ 特定技能外国人の受入れ機関にとってより良い受入れのインセンティブとなるよう、優良事例の公表、優良な受入れ機関に対する各種申請書類の簡素化や届出の頻度軽減などといった優遇措置を講じる。
⑥ 特定技能2号の在留資格取得については、従前の特定技能2号評価試験等への合格に加え、日本語能力B1相当以上の試験(日本語能力試験N3等)への合格を要件とする。

〈ポイント〉
① 新たな制度を修了した外国人が特定技能1号に移行する際には、技能検定等への合格に加え、日本語能力試験N4等への合格が条件となりました。現行の技能実習制度では、技能実習2号を良好に修了した技能実習生が同じ業種で特定技能外国人になる際は、試験合格の要件が免除されています(技能実習ルート)が、新たな制度から特定技能へ移行する際にはこのような要件の免除がなくなります。ただし、日本語の要件に関しては、認定日本語教育機関等における相当の講習を受講することを当分の間の代替措置としており、状況を見ながら代替措置の適用期間を決めていくものと見られます。認定日本語教育機関以外に相当講習を担当できるのがどこかはまだ示されていません。

② 「新たな制度」の途中で特定技能1号に移行する要件は、本人意向での転籍の要件を踏まえて検討することが示されました。育成途中でも転籍要件を満たせば、特定技能1号へ移行できる可能性があります。

③ 特定技能1号への移行に必要な試験に不合格になった労働者は同一の受入れ機関で勤務する場合は、試験に再チャレンジするために最長1年の滞在が認められることが提言されました。

④⑤ 特定技能外国人の支援を委託できる先は登録支援機関に限定されることが提言されました。登録支援機関の適正化に関しては、講習受講や人員配置など許可要件の厳格化やインセンティブの設定(事務手続き簡素化など)が示されましたが、許可制や手数料の上限規制は見送られる流れです。人員要件により、登録支援機関への支援委託費が少し増える可能性があります。

⑥ 特定技能1号から2号になる際に現在は日本語要件はありませんが、日本語能力試験N3等が義務付けられることになりました。

7 国・自治体の役割
① 地方出入国在留管理局、新たな機構、労働基準監督署、ハローワーク等の関係機関が連携し、外国人の不適正な受入れ・雇用を厳格に排除し、的確な転籍支援等を行う。
② 制度所管省庁は、送出国との連携を強化し、不適正な送出機関を新たな制度及び特定技能制度から確実に排除する。
③ 業所管省庁は、業界団体と連携し、受入れ対象分野の受入れガイドラインや育成・キャリア形成プログラム(新たな制度から特定技能1号への移行だけでなく、特定技能1号から特定技能2号への移行を含む。)を策定するなどして業界全体で受入れの適正化を促進するほか、業界特有の事情に係る相談窓口の設置、優良受入れ機関に対する支援等の優遇措置等を講じるなど、外国人の受入れ環境の整備等に資する取組を行う。
④ 文部科学省は、厚生労働省及び出入国在留管理庁と連携し、日本語教育機関における日本語教育の適正かつ確実な実施を図り、その水準の維持向上を図る。
⑤ 各地方自治体は、外国人受入環境整備交付金を活用するなどして、外国人から生活相談等を受ける相談窓口の整備や、外国人の生活環境等を整備するための取組等を推進する。
⑥ 政府は、日本で修得した技能が帰国後に活かされ、ひいては日本への送出しにもつながるよう、育成される技能の見える化等を推進する。

〈ポイント〉
① 新たな制度の目玉となる転籍要件の緩和に実効性を持たせるため、地方出入国在留管理局と新たな機構、労働基準監督署、ハローワーク等が連携して外国人の不適正な受入れ・雇用に対して厳しく対処し、転籍支援も連携して行うことが示されました。ただし、新たな機構やハローワーク等が転籍先探しを有効に行えるかどうかは今後のノウハウ構築にかかっており、具体的な取り組み内容が注目されます。

③ 各産業を所管する省庁に、業界団体と連携して受入れガイドラインを策定したり、業界特有の事情に関する相談窓口を設けたり、優良な受入れ企業等に対する支援を行ったりすることが求められています。業界団体の役割が増えそうです。

④⑤ たたき台はさらに、文部科学省には、厚生労働省や出入国在留管理庁と連携した日本語教育機関の適正化を、地方自治体には、外国人受入環境整備交付金の活用などによる外国人からの生活相談窓口の整備を、それぞれ促しました。外国人が多く集まる都市ではここ数年、自治体による外国人サポートが急速に進んでいますが、サポート体制に地域格差があり、格差是正が進むことが期待されます。相談窓口の受託業務や相談員の業務増加が見込まれます。

8 送出機関及び送出しの在り方
① 政府は、送出国政府との間での二国間取決め(MOC)を新たに作成し、これにより、不当に高額な手数料等の徴収、監理団体・受入れ機関への饗応やキックバック等を行う送出機関の取締りを強化するなどして、悪質な送出機関の排除の実効性を高める。
② 政府は、各送出機関が徴収する手数料等の情報の公開を求めるなどして送出機関に係る情報の透明性を高め、監理団体等がより質の高い送出機関を選択できるようにするとともに、受入れ機関に係る情報の透明性も高め、外国人が安心して働ける受入れ機関を選択できるようにする。
③ 政府は、MOCに基づく協議等の際に、相手国に対して他国の送出制度の実情等に関する情報提供を行うなどして、送出国間の競争を促進する。
④ 上記②の情報公開等の手段と併せ、外国人が送出機関に支払う手数料等が不当に高額とならないようにするとともに当該手数料等を受入れ機関と外国人が適切に分担するための仕組みを導入し、外国人の負担の軽減を図る。

〈ポイント〉
①② たたき台は、送出機関による過大な手数料徴収の防止や悪質な送出機関の排除等に向けて、送出国政府との間で実効的な二国間取決めを作成するなど、国際的な取り組みを強化すべきとしています。送出国に送出機関に関する情報の透明化も求めるとしています。費用に関する情報だけでなく訪日前の日本語教育の内容なども判断できる情報が望ましいと考えられます。

③ 送出手数料等は送出国によって大きな違いがあるため、たたき台は政府に、送出国政府に対し他国の状況を知らせるなどして送出国間の競争を促すとしています。「送出国間の競争の促進」というこれまでにない視点が加わりました。送出国間は既に競争関係にありますが、受入れ機関側に送出国の比較を促すという効果も見込まれます。

④ 外国人が来日前に送出機関に支払う手数料等を日本の受入れ機関が負担する取り組みが一部で進んでいますが、たたき台は、受入れ機関と外国人とが「適切に分担」する仕組みの導入を提言しました。受入れ機関のコスト増が予想されます。他方で、外国人に手数料を支払わせない仕組みの導入は見送られました。

9 日本語能力の向上方策
① 新たな制度及び特定技能制度においては、以下の試験への合格等を就労開始や特定技能1号、2号への移行の要件とすることで、継続的な学習による段階的な日本語能力の向上を図る。
 ○ 就労開始前(新たな制度)
   日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)への合格又は入国直後の認定日本語教育機関等における相当の日本語講習の受講(後者の場合、1年目終了時に試験合格を確認する。)
 ○ 特定技能1号移行時:日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)への合格(ただし、当分の間は、当該試験合格に代えて、認定日本語教育機関等における相当な講習の受講をした場合も、その要件を満たすものとする。)
 ○ 特定技能2号移行時:日本語能力B1相当以上の試験(日本語能力試験N3等)への合格
② 受入れ機関による支援のインセンティブとなるよう、受け入れた外国人の日本語能力試験等の合格率など日本語教育支援に積極的に取り組んでいること等を確認するような要件を、優良な受入れ機関の認定要件とする。
③ 政府は、日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律の施行状況を踏まえつつ、同法の仕組み(認定日本語教育機関や登録日本語教師)を活用し、外国人に対する日本語教育の質の向上を図る。また、政府は、外国人に十分な日本語能力試験等の受験機会を確保するなどの方策を検討する。

〈ポイント〉
① 外国人の日本語要件が引き上げられます。

・新たな制度で受け入れる外国人は日本語能力試験N5等:
就労開始前にN5等への合格か相当講習の受講が必要となります。仮にN5等に合格しており入国後の講習が不要ないし短期間で終わる場合、多くの受入れ機関は事前にN5等を合格している者から選ぶか、N5等への合格を入国前教育の条件とするようになると思われます。その場合、入国前の教育費は増加する可能性がありますが、もし入国後講習を短くできるのであれば、総コストは同じか削減されるものと思われます。

・特定技能1号に移行する際には、日本語能力試験N4等:
現行では、技能実習2号を良好に修了して特定技能1号に移行する場合には、日本語要件が免除されています。しかし、新たな制度では、そのような免除がなくなるため、特定技能外国人になりたい場合には、日本語学習にある程度力を入れて取り組まなければなりません。

② 就労開始後の日本語教育支援を受入れ機関の優良認定の要件に含めることが示されました。ただし、教育コストを受入れ機関が負担する場合、コストが増える可能性があります。

10 その他(新たな制度に向けて)
① 政府は、現行の技能実習制度から新たな制度への移行に当たっては、現行の技能実習制度が長年にわたって活用されてきたという経緯や、現在も多くの技能実習生が受け入れられているという実態に留意し、移行期間を十分に確保すべきである。また、政府は、丁寧な事前広報を行い、技能実習生、監理団体、受入れ機関、外国人技能実習機構等の制度関係者の間に無用な混乱や問題が生じないよう、また、不当な不利益や悪影響を被る者が生じないよう配慮する。
② 政府は、新たな制度及び特定技能制度について、制度の趣旨、内容等を適切に国内外に情報発信することにより、制度目的が着実に達成されるようにするとともに、制度に対する誤解等を招くことのないよう努める。
③ 関係省庁は、新たな制度の施行後も、他の外国人材の受入れ制度との整合性を含め、新たな制度が制度趣旨・目的に照らして円滑かつ適切に運用されているか否かにつき、不断の検証と必要な見直しを行う。

〈ポイント〉
たたき台では、技能実習制度から新たな制度への移行について十分な期間を設け、事前広報も徹底し、混乱が生じないように提言しています。また、新制度導入後の検証と見直しにも言及し、新たな制度のもとで生じる問題や狙い通りに課題が解決できない場合にも適切に対処するよう促しています。

3. まとめ

たたき台では、新たな制度における転籍要件の緩和を中心に、監理団体の要件厳格化や、受入れ企業等の不適切な雇用に対する機構や労働基準監督署の対応強化など、外国人労働者の支援・保護を強化し労働環境の改善を促進するための方策が多数盛り込まれました。監理団体の要件を厳格することや、送出国政府と連携して送出機関の適正化を図ることは、この制度による外国人受入れを長く継続していくために欠かせない改善点です。

ただし、監理団体の要件厳格化で監理費増加などのコスト増が予想され、大都市圏や・大手中堅企業への影響は比較的少ないものの、地方・中小零細企業への影響は大きいと予想されます。厳格化し過ぎると、制度が使われず、違法な経路への移動が促進され、ゆるすぎると、現状から大きな改善が期待できないので、バランスが重要となってきます。

日本の技能労働者の受入れ制度の中核は新たな制度施行後は「特定技能1号」になります。新たな制度が施行されるまでに、現在の技能実習での「職種・作業」での受入れから新制度での「産業分野・業務区分」での受入れに円滑に移行できるための準備が重要となります。

また、特定技能外国人の支援についても、新たな機構の相談援助の対象に含めたり、登録支援機関の登録要件を厳格化したりすることで、改善を図ろうとしています。さらに、新たな機構と労働基準監督署や地方出入国在留管理局が連携し、受入れ機関の違反に厳しく対処する方向性が示されました。特定技能外国人を巡る諸問題が今の技能実習生問題のように大きな社会問題に発展していくことがないよう、状況把握と改善に継続的に取り組むことが求められます。

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