技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第12回)

技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(座長・田中明彦国際協力機構理事長)の事務局が2023年10月18日、最終報告書(たたき台)を発表しました。たたき台は、既に中間報告で示されたように、現行の技能実習制度を発展的に解消し、制度目的に人材確保も加えた新たな制度を創設することを掲げています。たたき台では、新制度の目的を人手不足分野における特定技能1号への移行に向けた人材育成とし、3年間で特定技能1号の水準の人材に育てることを目指す方向が明示されました。

新たな制度では、現行の技能実習制度のように受入れ企業側の原因・事情など「やむを得ない事情」がある場合に加え、本人の希望だけでも、一定条件のもとで同じ分野の中で他社等に転籍できることが盛り込まれました。また、監理団体の許可要件を厳格化することや外国人技能実習機構(OTIT)の監督指導・支援保護機能を強化することによって、新たな制度で受け入れる外国人に対する支援・保護の在り方を技能実習制度より改善する方向性が示されました。特定技能外国人についても、外国人技能実習機構(OTIT)の相談援助の対象に含めることや登録支援機関の登録要件を厳格化することによって支援を強化することが盛り込まれました。

参考)
出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第12回)」
https://www.moj.go.jp/isa/policies/policies/03_00001.html

1. 最終報告書たたき台の概要

「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」事務局が作成した最終報告書たたき台の概要は次の通りです。

1-1. 新制度及び特定技能制度の位置付けと関係性等

・現行の技能実習制度を発展的に解消し、人材確保と人材育成を目的とする新たな制度を創設。
・基本的に3年の育成期間で、特定技能1号の水準の人材に育成。
特定技能制度は、適正化を図った上で現行制度を存続
 ※現行の企業単独型技能実習のうち、新制度の趣旨・目的に沿わないものは、新制度とは別の枠組みでの受入れを検討。

1-2. 新制度の受入れ対象分野や人材育成機能の在り方

受入れ対象分野は、特定技能制度における「特定産業分野」の設定分野に限定。
 ※国内における就労を通じた人材育成になじまない分野は対象外。
・従事できる業務の範囲は、特定技能の業務区分と同一とし「主たる技能」 を定めて育成・評価 (技能検定、特定技能評価試験等)。
・試験不合格となった者には再受験のための最長1年の在留継続を認める。

1-3. 受入れ見込数の設定等の在り方

・特定技能制度の考え方と同様、新制度でも受入れ分野ごとに受入れ見込数を設定 (受入れの上限数として運用)。
・受入れ見込数や対象分野は経済情勢等の変化に応じて柔軟に変更、有識者等で構成する会議体の意見を踏まえ政府が判断。

1-4. 新制度での転籍の在り方

「やむを得ない場合」 の転籍の範囲を拡大 明確化し、手続を柔軟化
・これに加え、以下を条件に本人の意向による転籍も認める。
 ➢ 人材育成等の観点から、一定要件(同一企業での就労が1年超/技能検定基礎級合格、日本語能力A1相当以上のレベル(日本語能力試験N5合格など))を設け、同一分野内に限る
 ➢ 転籍前企業の初期費用負担につき、 不平等が生じないための措置を講じる。
・監理団体・ハローワーク・技能実習機構等による転籍支援を実施。
・育成終了前に帰国した者につき、新制度による再度の入国を認める
 ➢ それまでの新制度による滞在が2年までの者に限る。
 ➢ 前回育成時と異なる分野を選択可能

1-5. 監理・支援・保護の在り方

技能実習機構の監督指導・支援保護機能を強化し、特定技能外国人への相談援助業務を追加。
監理団体の許可要件厳格化
 ➢ 監理団体と受入れ企業の役職員の兼職に係る制限又は外部監視の強化、受入れ企業数等に応じた職員の配置、相談対応体制の強化等。 
 ※優良監理団体については、手続簡素化といった優遇措置。
受入れ企業につき、育成・支援体制等に係る要件を整備。

1-6. 特定技能制度の適正化方策

・新制度から特定技能1号への移行は、以下を条件。
 ①技能検定3級等又は特定技能1号評価試験合格
 ②日本語能力A2相当以上のレベル(日本語能力試験N4合格など)
 ※当分の間は相当講習受講も可
・登録支援機関の登録要件支援業務委託の要件を厳格化。

1-7. 国・自治体の役割

・入管、機構、労基署等が連携し、不適正な受入れ・雇用を排除。
・送出国と連携し、不適正な送出機関を排除。
・業所管省庁と業界団体の連携による受入れ環境整備のための取組。
・日本語教育機関を適正化し、 日本語学習の質を向上。
・自治体において、生活相談等を受ける相談窓口の整備を推進。

1-8. 送出機関及び送出しの在り方

・二国間取決め (MOC) により送出機関の取締りを強化。
・手数料等の透明性を高め、 送出国間の競争を促進。
受入れ企業が一定の来日前手数料を負担するなどの仕組みを導入。

1-9. 日本語能力の向上方策

継続的な学習による段階的な日本語能力向上。
 ※就労開始前にA1相当以上のレベル (N5合格など)又は相当講習受講
  特定技能1号移行時にA2相当以上のレベル(N4合格など) ※当分の間は相当講習受講も可
  特定技能2号移行時にB1相当以上のレベル(N3合格など)
・日本語教育機関認定法の仕組みを活用し、教育の質の向上を図る。

2. 最終報告書たたき台に関する論点ごとの解説

有識者会議事務局が作成したたたき台(提言)を詳しく紹介し、ポイントを説明します。

1 新たな制度及び特定技能制度の位置付けと両制度の関係性等【総論】
① 現行の技能実習制度を発展的に解消し、我が国社会の人手不足分野(注)における人材確保と人材育成を目的とする新たな制度(以下「新たな制度」という。)を創設する。
② 新たな制度は、未熟練労働者として受け入れた外国人を、基本的に3年間の就労を通じた育成期間で特定技能1号の技能水準の人材に育成することを目指すものとする。
③ 特定技能制度は、人手不足分野において即戦力となる外国人を受け入れるという現行制度の目的を維持しつつ、制度の適正化を図った上で引き続き存続させる。
④ 家族帯同については、現行制度と同様、新たな制度及び特定技能制度(特定技能1号に限る。)においては認めない。
⑤ 現行の技能実習制度で行われている企業単独型の技能実習の中には、必ずしも新たな制度の趣旨・目的に沿わないものの、引き続き実施する意義があるものもあり、これらについては、既存の在留資格の対象拡大等により、新たな制度とは別の枠組みで受け入れることを検討する。

(注)生産性向上や国内人材確保のための取組を行ってもなお人材を確保することが困難な状況にあるため、外国人の受入れにより不足する人材の確保を図るべき産業上の分野をいう。

〈ポイント〉
技能実習制度は発展途上国への技能移転という目的に限定した制度でありながら、実習現場では労働力不足の補てんという色彩が強く、本来の目的と運用実態の乖離が指摘されてきました。新たな制度では、人材育成に加えて人材確保も制度目的に加え、実態に近付けることになります。そして、新たな制度での基本的な就労期間は、現行の技能実習制度でも多い3年間(技能実習1号と2号を合わせた年数)と同じ3年間とし、この期間で特定技能1号に向けて人材育成を行うことが示されました。現行の技能実習制度には1号(1年)、2号(2年)、3号(2年)があり、最長5年間ですが、新制度では最長3年間となり、現在の技能実習3号に対応する期間がなくなります。現在は、同じ職場で2号から3号に移行する技能実習生も多く、離職か勤務継続かを決める最大の節目を迎えるまでに最長5年間の猶予がありますが、新たな制度では最長3年間に短縮されることになります。

また、特定技能制度については、基本的には現行通りとしつつ、登録支援機関の在り方や特定技能外国人の保護など、批判されている部分の適正化をうたっています。有識者会議の中でも意見が分かれていた家族帯同については、新たな制度や特定技能1号では引き続き認めないことが示されました。

2 新たな制度の受入れ対象分野や人材育成機能の在り方
(受入れ対象分野)
① 新たな制度の受入れ対象分野については、現行の技能実習制度の職種等を当然に引き継ぐのではなく、新たな制度の趣旨等を踏まえ、新たに設定するものとする。その際、新たな制度が人手不足分野における特定技能1号への移行に向けた人材育成を目的とするものであることから、新たな制度の受入れ対象分野は、特定技能制度における「特定産業分野」が設定される分野に限ることとし、我が国内における就労を通じた人材育成になじまない分野については、新たな制度の対象とせず、特定技能制度でのみ受け入れることとする。
(人材育成・技能評価)
② 新たな制度は特定技能1号への移行を目指すものであるため、外国人が従事できる業務の範囲については、外国人が現行の技能実習よりも幅広く体系的な能力を修得できるよう、特定技能の業務区分(注)と同一としつつ、人材育成の観点から、当該業務区分の中で修得すべき主たる技能を定めて育成・評価を行うものとする。その際、技能の評価については、現行の技能実習制度において活用している技能検定等のほか、特定技能1号評価試験により行うことも認める。
③ 新たな制度で育成を受けたが、特定技能1号への移行に必要な試験等に不合格となった者については、同一の受入れ企業等での就労を継続する場合に限り、再受験に必要な範囲で最長1年の在留継続を認める。

(注)農業分野の「耕種農業全般」「畜産農業全般」等、特定技能外国人が従事することになる業務の区分をいい、各業務には、当該業務に従事する日本人が通常従事することとなる関連業務も含まれる。

〈ポイント〉
技能実習制度の対象職種は産業分野を限定せず、移行対象職種は88職種・161作業ありますが、特定技能制度は12分野にしか認められていません。たたき台では、新たな制度は特定技能1号に移行できる人材を育成する制度と位置付けるため、受入れ対象分野を特定技能の産業分野に限定し、業務の範囲は特定技能の業務区分と一致させることが示されました。これによって、新たな制度と特定技能を連続的にとらえた中長期的なキャリアパスが今よりも明確に描けることになります。

ただ、繊維・衣服関係など現行の技能実習制度にはあって特定技能制度の対象分野にはない業種については、特定技能の対象分野を拡大しない限り、新制度からはなくなることになります。また、「我が国内における就労を通じた人材育成になじまない分野については、新たな制度の対象とせず、特定技能制度でのみ受け入れることとする」とあることから、新制度の受入れ対象分野は特定技能より狭い範囲となることが予想されます。特定技能の対象分野は拡大されるのか、新制度の受入れ対象分野はどのていど限定されるのか、今後の議論や対応が注目されます。

新たな制度での技能評価については、現行の技能検定等に加え、特定技能1号評価試験も認める方向性が示されました。

3 受入れ見込数の設定等の在り方
① 新たな制度は人手不足分野の人材確保を目的とするものであるため、日本人の雇用機会の喪失や処遇の低下等を防ぐ観点及び外国人の安定的かつ円滑な在留活動を可能とする観点から、現行の特定技能制度の考え方にのっとり、受入れ分野ごとに受入れ見込数を設定し、これを受入れの上限数として運用する。
② 新たな制度及び特定技能制度における受入れ見込数や受入れ対象分野は、国内労働市場の動向等に的確に対応する観点から、経済情勢等の変化に応じて柔軟に変更できる運用とする。
③ 新たな制度及び特定技能制度における受入れ見込数の設定、受入れ対象分野の設定、技能評価試験の作成等については、有識者・関係団体等で構成する新たな会議体の意見を踏まえ政府が判断するものとする。

〈ポイント〉
有識者会議では、新たな制度でも、規模や受入れ実績等に応じた現行の受入れ企業等ごとの受入れ数を維持した上で産業ごとの受入れ見込数を設けるべきという意見が複数ありましたが、たたき台では、特定技能制度と同様、産業分野ごとに上限を設けることが示され、また、その上限については経済情勢等の変化に応じて柔軟に変更できるとしています。

また、新たな制度や特定技能での受入れ見込数(上限)の設定や対象分野の設定、技能評価試験の作成等については、有識者・関係団体等で構成する新たな会議体の意見を踏まえて政府が判断することとしており、受入れ見込数や対象分野の設定に透明性を持たせ、公正性を高めようという意図が見られます。

技能実習制度では、技能実習生が1号から2号、または2号から3号に移行する際に、技能検定または技能実習評価試験を受検し、合格しなければなりません。不合格の場合や学科試験・実技試験の片方にしか合格しなかった場合、いずれも1回だけ再受験できます。しかし、再試験でも不合格になった場合は次の号に移行できず、帰国しなければなりません。特に技能実習生が1号から2号に移行できない場合、1年しか働いていないので、来日のために送出機関に支払った費用等を回収できないとして、改善を求める声がありました。そして、技能検定(国家検定)がない職種については、業界団体が技能実習評価試験を作成・実施していましたが、実施団体のそのときの方針によっては、学科試験の合格率が他業種より著しく低い場合があるほか、再受検する際の受検料も高額なので、関係者間に不満がありました。技能実習評価試験の作成プロセスについても見直す方針が盛り込まれ、状況の改善が期待できます。

4 新たな制度における転籍の在り方
(基本的な考え方)
① 新たな制度における転籍については、まず、現行の技能実習制度において認められている「やむを得ない事情がある場合」の転籍の範囲を拡大かつ明確化する。また、人材育成の実効性を確保するための一定の転籍制限は残しつつも、人材確保も目的とする新たな制度の趣旨を踏まえ、外国人の労働者としての権利性をより高める観点から、一定の要件の下での本人の意向による転籍も認める。
(「やむを得ない事情がある場合」の転籍)
② 「やむを得ない事情がある場合」の転籍については、その範囲を拡大・明確化し、手続を柔軟化する。その上で、転籍が認められる範囲やそのための手続について、関係者に対する周知を徹底する。
(本人の意向による転籍)
③ 上記②の場合に加え、人材育成の観点に基づく以下の条件をいずれも満たす場合には、本人の意向による転籍も認める。
 ○ 同一の受入れ企業等において就労した期間が1年を超えていること
 ○ 技能検定(基礎級)等及び日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)に合格していること
(本人の意向による転籍に伴う費用分担)
④ 本人の意向により転籍を行う場合、転籍前の受入れ企業等が負担した初期費用のうち、転籍後の受入れ企業等にも負担させるべき費用については、両者の不平等が生じないよう、転籍前後における各受入れ企業等が外国人の在籍期間に応じてそれぞれ分担することとするなど、その対象や負担割合を明確にした上で、転籍後の受入れ企業等にも負担させるなどの措置をとることとする。
(転籍支援)
⑤ 転籍支援については、受入れ企業等、送出機関及び外国人の間の調整が必要であることに鑑み、新たな制度の下での監理団体(後記5参照)が中心となって行うこととしつつ、ハローワークも、外国人技能実習機構に相当する新たな機構(後記5参照)等と連携するなどして転籍支援を行うこととする。
(転籍の範囲)
⑥ 転籍の範囲は、人手不足分野における人材の確保及び人材育成という制度目的に照らし、現に就労している分野と同一分野内に限るものとする。
(育成途中で帰国した者への対応)
⑦ 育成を終了する前に帰国した者については、新たな制度でのこれまでの我が国での滞在期間が通算2年以下の場合に限り、新たな制度により、それまでとは異なる分野での育成を目的とした再度の入国を認めることとする。

〈ポイント〉
たたき台では、新たな制度でも「人材育成」の趣旨を残すため一定の転籍制限は残すとしたものの、「人材確保」という制度目的も加わるため、制度趣旨と外国人保護の観点から、転籍要件を緩和する方向性が示されました。現行の技能実習制度でも転籍できる場合がありますが、転籍の範囲・要件が明確ではないことや、技能実習生が転籍を希望しても監理団体が対応しない場合も多いと指摘され、転籍制度の実効性が不十分だとされていました。そこで、新たな制度については、「やむを得ない転籍」の範囲拡大と明確化、その手続きの柔軟化、制度内容の周知徹底を打ち出しました。

さらに、一定条件のもとで本人の希望による転籍も認めることとし、その可能時期については、同一企業で1年を超えて勤務した後と具体的に示しました。有識者会議で労働基準法との関係などで転籍制限を1年以内とする意見が多数出たことを反映した形です。また、新制度には現行の技能実習と同じ「人材育成」という制度目的も残るため、2年目以降も一定の転籍制限を残す方向性を示しました。具体的には、日本語能力や技能試験等への合格も転籍要件に加え、転籍先はもとの就労分野と同じ分野に限定しました。

新たな制度における外国人労働者を最初に受け入れる企業等が負担する来日時のコストや初期の人材育成コストについて、転籍時にどのように取り扱うかも注目されていましたが、新しい受入れ企業等にも一部を負担させる方向性が打ち出されました。その具体的な方法については、これから議論されることになります。

ただし、地方の中小企業にとっては、苦労して採用し育成した外国人労働者が簡単に流出してしまいかねない懸念は残り、技能実習制度が副次的に担ってきた「地方での人材定着」という機能が大きく損なわれてしまう可能性があります。また、送出機関のビジネスモデルの変化による初期費用の増加や、季節性の労働の可能性等、新たな制度における転籍の在り方は、今後様々な影響を及ぼすことが考えられます。

転籍先の確保は引き続き監理団体が中心に行うこととなり、ブローカーの介在を防ぐ目的もあって、外国人技能実習機構(OTIT)に加えてハローワークも転籍先探しを支援することが示されました。ただし、外国人技能実習機構(OTIT)による転籍先探しの実績は十分とは言えない上、ハローワークにもこれまで技能実習生の転籍支援の経験がないため、これらの行政組織が具体的な転籍支援(特に転籍先確保)のノウハウをどうやって確立していくかが、新たな制度における転籍制度に実効性を持たせるためのポイントになりそうです。

また、現在、技能実習生の転籍を巡っては、細かい業種区分がネックになり、同じ業種での転籍先を見つけることが物理的に難しいという事情もあります。新たな制度でこの問題にどう対応するのかは、今回明示されておらず、今後の議論や対応が注目されます。

5 監理・支援・保護の在り方
 新たな制度及び特定技能制度が円滑かつ適切に運用され、また、外国人に対する支援や保護が適切に行われるよう、以下のとおり、両制度に関わる各機関等による監理・支援・保護体制を強化する。
(外国人技能実習機構)
① 外国人技能実習機構を改組(改組後の組織について、以下「新たな機構」という。)の上、受入れ企業等に対する監督指導や外国人に対する支援・保護機能を強化するとともに、特定技能外国人への相談援助業務(母国語相談等)を行わせることとする。
② 労働基準監督署との間での相互通報の取組を強化し、重大な労働法令違反事案に対して厳格に対応する。
(監理団体)
③ 新たな制度の下での監理団体については、監理団体と受入れ企業等の役職員の兼職に係る制限の強化又は外部者による監視の強化などによる独立性・中立性要件の強化や、受入れ企業数等に応じた職員の配置や外国語による相談応需体制の強化など、その許可要件を厳格化した上、新たに許可を受けるべきものとする。その際、監理団体に対しては、新たな許可要件にのっとり、厳格に審査を行うものとする。
④ より良い監理支援のインセンティブとなるよう、優良事例の公表、優良な監理団体に対する各種申請書類の簡素化や届出の頻度軽減などといった優遇措置を講じる。
(受入れ企業等)
⑤ 新たな制度における受入れ企業等については、外国人の前職要件等、現行の技能実習制度の国際貢献目的に由来する要件をなくす方向で見直した上、現行の特定技能制度における要件も参照し、受入れ企業等としての適正性及び育成・支援体制等に係る要件を設ける。
⑥ より良い受入れのインセンティブとなるよう、優良事例の公表、優良な受入れ企業等に対する各種申請書類の簡素化や届出の頻度軽減などといった優遇措置を講じる。

〈ポイント〉
・外国人技能実習機構(OTIT):
外国人技能実習機構(OTIT)については、組織改正をした上で受入れ企業等に対する監督指導や外国人に対する支援・保護機能を強化し、労働法令違反事案への対処も厳しくすることが示されたうえ、新たに特定技能外国人への相談業務も担うことが提言されました。特定技能外国人への支援を強化する狙いです。

・監理団体:
技能実習の監理団体による受入れ企業等に対する監督指導や外国人に対する支援・保護が不十分なケースが多いと指摘されていることから、たたき台では、監理団体の許可要件の厳格化を打ち出しました。ただし、監督指導や支援・保護が不十分なのは、監理団体の規模や人的資源の多寡だけが原因ではないので、各団体の意識・ノウハウの向上が求められます。

また、実習実施計画の審査手続きなど監理団体が負担している事務手続きが膨大であることが指摘されていますが、たたき台は優良な監理団体にはこうした手続きの簡素化や事例公表などのインセンティブを与えることを提起しており、新たな機構による監督指導強化と合わせて効果が期待されます。

なお、規模の小さな監理団体の中には人的資源等の関係で監督指導や支援・保護機能を十分に果たせていない団体もあり、現状を改善できない場合は、新しい許可要件を満たせず許可取消となる可能性があります。

・受入れ企業等:
優良な受入れ企業を増やすため、監理団体に対するのと同様、優良事例の公表や事務手続き簡素化などのインセンティブを与えることが提案され、効果が期待されます。

6 特定技能制度の適正化方策
① 新たな制度において育成がなされた外国人の特定技能1号への移行については、技能検定3級等以上又は特定技能1号評価試験への合格に加え、日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)への合格を条件とする。ただし、日本語能力試験の条件については、当分の間は、当該試験合格に代えて、認定日本語教育機関等における相当の講習を受講した場合も、その条件を満たすものとする。
② 特定技能外国人に対する支援業務が適切になされるよう、登録支援機関の支援責任者等に対する講習受講の義務付け等、登録要件を厳格化するとともに、支援業務の委託先を登録支援機関に限ることとする。
③ より良い受入れのインセンティブとなるよう、優良事例の公表、優良な受入れ企業等に対する各種申請書類の簡素化や届出の頻度軽減などといった優遇措置を講じる。

〈ポイント〉
新たな制度を修了した外国人が特定技能1号に移行する際には、技能検定3級等または特定技能1号評価試験への合格に加え、日本語能力試験N4等への合格が条件となりました。現行の技能実習制度では、技能実習2号までを良好に修了した技能実習生が特定技能外国人になる際は、日本語試験が免除されていますが、新たな制度からはそのような要件の免除はなくなりました。ただし、認定日本語教育機関等における相当の講習を受講することを当分の間の代替措置としており、状況を見ながら代替措置の適用期間を決めていくものと見られます。

特定技能外国人への支援強化については、登録支援機関の登録要件を厳格化することや、受入れ企業等へのインセンティブとして優良事例の公表や各種申請書類の簡素化や届出の頻度軽減などの優遇措置を講じることが、提言されました。

7 国・自治体の役割
① 地方出入国在留管理局、新たな機構、労働基準監督署、ハローワーク等の関係機関が連携し、外国人の不適正な受入れ・雇用を厳格に排除し、的確な転籍支援等を行う。
② 制度所管省庁は、送出国との連携を強化し、不適正な送出機関を新たな制度及び特定技能制度から確実に排除する。
③ 業所管省庁は、業界団体と連携し、受入れ対象分野の受入れガイドラインを策定するなどして業界全体で受入れの適正化を促進するほか、業界特有の事情に係る相談窓口の設置、優良受入れ企業等に対する支援等の優遇措置等を講じるなど、外国人の受入れ環境の整備等に資する取組を行う。
④ 文部科学省は、厚生労働省及び出入国在留管理庁と連携し、日本語教育機関の適正化を図り、日本語学習の質の向上を図る。
⑤ 各地方自治体は、外国人受入環境整備交付金を活用するなどして、外国人から生活相談等を受ける相談窓口の整備を推進する。

〈ポイント〉
新たな制度の目玉となる転籍要件の緩和に実効性を持たせるため、たたき台は地方出入国在留管理局と新たな機構、労働基準監督署、ハローワーク等が連携して外国人の不適正な受入れ・雇用に対して厳しく対処し、転籍の支援も連携して行うことが枠組みとして示されました。ただし、新たな機構やハローワーク等が転籍先探しを実際に有効に行えるかどうかは今後のノウハウ構築にかかっており、具体的な取り組みの内容が注目されます。

また、たたき台は各産業を所管する省庁に、業界団体と連携して受入れガイドラインを策定したり、業界特有の事情に関する相談窓口を設けたり、優良な受入れ企業等に対する支援を行ったりすることも求めています。

さらに、文部科学省には、厚生労働省や出入国在留管理庁と連携した日本語教育機関の適正化を、地方自治体には、外国人受入環境整備交付金の活用などによる外国人からの生活相談窓口の整備を、それぞれ促しました。外国人が多く集まる都市ではここ数年、自治体による外国人サポートが急速に進んでいますが、サポート体制に地域格差があり、外国人受入環境整備交付金などの活用で格差是正が進むことが期待されます。

8 送出機関及び送出しの在り方
① 政府は、送出国政府との間での二国間取決め(MOC)を新たに作成し、これにより送出機関の取締りを強化するなどして、悪質な送出機関の排除の実効性を高める。
② 政府は、各送出機関が徴収する手数料等の情報の公開を求めるなど、送出機関に係る情報の透明性を高め、監理団体等がより質の高い送出機関を選択できるようにするとともに、MOCに基づく協議等の際に、相手国に対して他国の送出制度の実情等に関する情報提供を行うなどして、送出国間の競争を促進する。
③ 上記②の情報の公開等を通じて、外国人が来日前に負担する手数料の透明化を図るとともに、受入れ企業等が一定の来日前手数料を負担するなどの仕組みを導入し、外国人の負担の軽減を図る。

〈ポイント〉
たたき台は、送出機関による過大な手数料徴収の防止や悪質な送出機関の排除等に向けて、送出国政府との間で実効的な二国間取決めを作成するなど、国際的な取り組みを強化すべきとしています。日本はこれまでにも送出国政府に送出機関適正化への協力を求めてきましたが、今後、その流れを加速させることになりそうです。また、送出機関の手数料等は送出国によって大きな違いがあるため、たたき台は政府に、送出国政府に対し他国の状況を知らせることも促しています。さらに、監理団体がどの送出機関を選んだらよいか分かるよう、送出国政府に、各送出機関が徴収する手数料等の情報の公開を求めるなどの取り組みも提言しています。

一方、外国人が来日前に送出機関に支払う手数料等の全部または一部を日本の受入れ企業等が負担する取り組みが一部で進んでいますが、たたき台は、企業等による手数料負担を制度化することも提言しています。これは、日本が外国人から選ばれ続ける国になるために有効な制度となる可能性があります。ただし、転籍要件の緩和による定着率の低下など受入れ企業等によっては外国人を受け入れる動機が一定程度低下することが予想される中、来日前の手数料負担も加わるとなると、受入れ企業が減ることも予想されます。

9 日本語能力の向上方策
① 新たな制度及び特定技能制度においては、以下の試験への合格等を就労開始や特定技能1号、2号への移行の要件とすることで、受入れ企業等による支援を促進し、継続的な学習による段階的な日本語能力の向上を図る。
 ○ 就労開始前(新たな制度)
   日本語能力A1相当以上の試験(日本語能力試験N5等)への合格又は入国直後の認定日本語教育機関等における相当の日本語講習の受講(後者の場合、1年目終了時に試験合格を確認する。)
 ○ 特定技能1号移行時:日本語能力A2相当以上の試験(日本語能力試験N4等)への合格(ただし、当分の間は、当該試験合格に代えて、認定日本語教育機関等における相当な講習の受講をした場合も、その要件を満たすものとする。)
 ○ 特定技能2号移行時:日本語能力B1相当以上の試験(日本語能力試験N3等)への合格
② 日本語教育の適正かつ確実な実施を図るための日本語教育機関の認定等に関する法律の施行状況を踏まえつつ、同法の仕組み(認定日本語教育機関や登録日本語教師)を活用し、外国人に対する日本語教育の質の向上を図る。

〈ポイント〉
有識者会議は、外国人労働者が日本での就労前に一定水準の日本語能力を持てるよう、日本語能力の要件化や来日後も日本語能力が段階的に向上するような仕組み作りについて検討してきました。たたき台は、就労開始前に日本語能力試験N5相当以上の日本語力を身につけることを新たな制度の要件として提案しました。この要件は、ある程度勉強すればクリアできる外国人が多いとされ、新たな制度で来日する外国人に最低限の学習努力を求める内容と評価できます。

また、たたき台は、特定技能1号に移行する際には、日本語能力試験N4相当の日本語力を求める方針を示しました。これは、特定技能1号の日本語要件と同じです。。ただし、現行では、技能実習2号を良好に修了して特定技能に移行する場合には日本語要件が免除されていました。しかし、新たな制度では、そのような免除がなくなるため、特定技能外国人になりたい場合には、日本語学習にある程度力を入れて取り組まなければなりません。日本語教育のための企業の費用負担が増える可能性はありますが、日本語力の向上は外国人が日本で働く上で大切なことであり、外国人労働者がある程度の日本語力を身につけることは外国人労働者自身が日本で快適に仕事や生活をする上でも役立ちます。

10 その他(新たな制度に向けて)
 政府は、現行の技能実習制度から新たな制度への移行に当たっては、現行の技能実習制度が長年にわたって活用されてきたという経緯や、現在も多くの技能実習生が受け入れられているという実態に留意し、移行期間を十分に確保すべきである。また、政府は、丁寧な事前広報を行い、技能実習生、監理団体、受入れ企業、外国人技能実習機構等の制度関係者の間に無用な混乱や問題が生じないよう、また、不当な不利益や悪影響を被る者が生じないよう配慮する。
 加えて、関係省庁は、新制度の施行後も、同制度が制度趣旨・目的に照らして円滑かつ適切に運用されているか否かにつき、不断の検証と必要な見直しを行う。

〈ポイント〉
たたき台では、技能実習制度から新たな制度への移行について十分な期間を設け、事前広報も徹底し、混乱が生じないように提言しています。また、新制度導入後の検証と見直しにも言及し、新たな制度のもとで生じる問題や狙い通りに課題が解決できない場合にも適切に対処するよう促しています。

3. まとめ

たたき台では、新たな制度における転籍要件の緩和を中心に、監理団体の要件厳格化や、受入れ企業等の不適切な雇用に対する新たな機構や労働基準監督署の対応強化など、外国人労働者の支援・保護を強化し労働環境の改善を促進するための方策を多数盛り込みました。監理団体の要件を厳格化することや、送出国政府と連携して送出機関の適正化を図ることは、この制度による外国人受入れを長く継続していくために欠かせない改善点です。

ただし、新たな制度の導入によって問題が一気に解決するとは言い切れず、転籍における最大の課題である転籍先探しを新たな機構やハローワークが具体的にどう実現していくかということや、外国人の転籍希望に対して監理団体が適切に対応しない事例を新たな機構がどうやって把握し救済できるかなど、制度改革に実効性を持たせるための具体的な取り組みが重要です。

また、特定技能外国人の支援についても、新たな機構の相談援助の対象に含めたり、登録支援機関の登録要件を厳格化したりすることで、改善を図ろうとしていますが、特定技能外国人が登録支援機関等の支援を十分に受けられなかった場合については、相談対応以外の救済方法が十分に示されたとは言えません。特定技能外国人を巡る諸問題が今の技能実習生問題のように大きな社会問題に発展していくことがないよう、状況把握と改善に継続的に取り組むことが求められます。

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