技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議 中間報告のまとめと影響

2023年5月、技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(座長・田中明彦国際協力機構理事長)の中間報告が発表されました。中間報告では、「我が国の人手不足が深刻化する中、外国人が日本の経済社会の担い手となっている現状を踏まえ、外国人との共生社会の実現……を念頭に置き、その人権に配慮しつつ、外国人の適正な受入れを図ることにより……我が国の深刻な人手不足の緩和にも寄与するものとする必要がある」と指摘し、現行の技能実習制度と特定技能制度の課題を解決して国際的にも理解が得られる制度を目指す方針を述べています。

技能実習制度は日本で技術を学んで母国に持ち帰り、母国にその技術を移転して国際貢献を図るという目的で行われています。このため原則として転職(転籍)が不可能ですが、そのことがさまざまな人権侵害の原因になり、国際社会から「奴隷労働」と批判されるもとにもなってきました。中間発表では、技術を学ぶという人材育成に加え、労働力確保という実態も制度目的に加え、技能実習制度に代わる新たな制度を創設する方針を打ち出しました。これに伴い、その制度で働く外国人の転籍(転職)要件も現在の技能実習制度より緩和する方向です。それでは、中間報告の内容を解説します。

参考)
出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」https://www.moj.go.jp/isa/policies/policies/03_00033.html

1. 中間報告の概要(総論)

「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」は独立行政法人国際協力機構(JICA)理事長を座長とし、弁護士や学者、自治体首長、社団法人関係者など各方面からメンバーを集めています。2022年12月に第1回会合を行い、中間発表までに計7回の会議を重ねました。その間に、技能実習監理団体や外国人支援団体などからヒアリングも行いました。

中間報告書は日本の人口減少を踏まえ、技能実習制度について「外国人の適正な受入れを図ることにより、日本で働く外国人が能力を最大限に発揮できる多様性に富んだ活力ある社会を実現するとともに、我が国の深刻な人手不足の緩和にも寄与するものとする必要がある」と述べています。現行の技能実習制度は人材育成による国際貢献を目的に掲げていますが、運用実態は、労働者確保だけが目的の場合が多数あります。このため、中間報告は「技能実習制度の目的に人材育成を通じた国際貢献のみを掲げたままで労働者として受入れを続けることは望ましくない」と指摘し、人材確保と人材育成(未熟練労働者として受け入れた外国人を一定の専門性や技能を有するレベルまで育成)を目的とする新制度(実態に即した制度)の創設を検討すべきだと結論づけました。

これを受けて「技能実習制度廃止」と大きく報道されましたが、代わりにできる新しい制度も、未熟練労働者として受け入れた外国人を一定の専門性や技能を有するレベルまで育成するという大枠を残しつつ、現行の技能実習制度にさまざまな変更を加えた制度となりそうです。つまり、技能実習制度に近い新しい制度ができると予想されます。

中間報告で示されたそのほかの方向性として、転籍(転職)要件を緩和すること▽技能実習に代わる新制度と特定技能の分野・職種を一致させること▽監理団体の認定要件を厳格化すること▽外国人の日本語能力の要件化を検討すること――などがあります。これらを含めたポイントの概要を下記の一覧表にまとめました。各論点について次章で詳しく説明していきます。

2. 中間報告の内容と背景(各論)

2-1. 制度目的

技能実習制度の目的は「人材育成を通じた国際貢献」ですが、中間報告は「技能実習制度が人材育成に加え、事実上、人材確保の点において機能していることを直視し、このような実態に即した制度に抜本的に見直す必要がある」と指摘し、「現行の技能実習制度を廃止して人材確保及び人材育成を目的とする新たな制度の創設を検討すべきである」としています。

発展途上国への技能移転という目的を掲げながらも、技能実習の現場においては、労働力不足の補てんという色彩が強く、本来の目的と実態の乖離が指摘されてきました。そこで、中間報告では、技能実習制度の人材育成機能は維持するが、人材確保も制度目的に加え、現在の実習現場の実態に即した制度とする方向性が打ち出されました。

また、特定技能制度については、制度の適正化を図ったうえで引き続き活用する方向となりました。有識者会議では今後、技能実習制度に変わる新たな制度と特定技能制度との関係性に加え、両制度の受入見込数の設定や分野設定のあり方に加え、登録支援機関の役割の見直しや行政の指導監督体制などについても議論が行われます。

2-2. 対象職種(キャリアパスの構築)

技能実習制度の対象職種は産業分野を限定せず87職種・159作業あります。これに対し、特定技能制度は12の産業分野に属する業務に限り認められています。中間報告では、新しい制度と特定技能とで職種・分野を一致させる方向で検討することが打ち出されました。これによって、外国人が技能実習修了後に同じ職種で特定技能に移行する中長期的なキャリアパスが現状より広範な職種で可能になります。

対象職種については、業界からの要望や受け入れの必要性を踏まえ、生産性向上や国内人材確保のための取組状況を検証した上で検討するとしています。これについては、各分野で全国トータルの受入数を設定するのではなく、地域ごとに不足する人材に応じた受入数を、その地域の自治体と業界等が話し合った上で設けるべきではないかという議論もあります。

また、中間報告は、新制度のもとで特定技能への移行を前提に体系的な能力を身に付けるために、適切な技能評価のあり方が必要としており、現行の技能検定や技能実習評価試験等の運用状況も踏まえながら、より適切な技能評価の手法について検討していくとしています。

2-3. 職場定着へのインセンティブ

中間報告は、日本の企業等が魅力ある働き先として選ばれるよう、外国人労働者の職場定着を促すインセンティブについても言及しています。具体的には、新制度と特定技能1号で身に付けた技能等をさらに生かす場所を広げる取り組みとして、特定技能2号の対象分野の追加やその設定のあり方を検討すべきとしています。中間発表の翌月(2023年6月)、政府は特定技能2号の受け入れ対象を現在の2分野から11分野に広げることを閣議決定しました。

さらに、賃金等の待遇面や実効的な技能の修得を含め、日本の企業等が外国人から選ばれるようになるための対策についても、有識者会議で具体的に議論をしていくことになりました。

2-4. 転籍

技能実習制度では、転職ができないことが制度批判の最大の論拠の一つになっています。外国人技能実習機構(OTIT)の管理の下で同じ職種で別の職場に移る「転籍」が、実習生の人権保護など例外的なケースに限って認められていますが、要件が厳しいことや、技能実習生が転籍を求めても監理団体等が適切に対処しない例が多いのが実態です。このため、原則として転籍不可であることが、実習生が劣悪な労働環境に置かれた場合でもなかなか抜け出すことができないなど、さまざまな人権侵害の原因になっていると指摘されています。

中間報告では、新たな制度でも「人材育成」の趣旨を残すため一定の転籍制限は残すとしたものの、「人材確保」という実態に即した目的も加わるため、制度趣旨と外国人保護の観点から、転籍要件を緩和する方向性が示されました。今後、最終報告に向けて、具体的な転籍の要件や転籍できる時期、転籍できる回数等が議論されることになります。

また、最初に受け入れる企業等が負担する来日時のコストや人材育成コストについて、転籍時にどのように取り扱うか▽不人気の産業や地域での人材確保をどうするか▽職場で人権侵害や法令違反等があった場合に外国人が利用しやすい救済システムをどうやって構築するか▽転籍先を速やかに確保するにはどうしたらよいか――などについても有識者会議で議論していきます。

2-5. 新制度での管理監督や支援体制

技能実習の監理団体による受入企業等に対する指導監督が不十分なケースが多いと指摘されています。中間報告では、監理団体の機能は重要としつつも、人権侵害や不適切な就労を防止・是正できない団体は厳しく適正化・排除する必要性があると指摘し、監理団体の認定要件を厳格化することで監理・保護機能の向上を図る方向性が打ち出されました。

新制度のもとでは、監理団体に、受入企業からの独立性・中立性や監理・保護・支援に関する一定水準の能力・体制が求められます。有識者会議は今後、こうした要件の具体的内容や優良な監理団体へのインセンティブ(評価公表など)、悪質な団体への対応等を検討することに加え、受入企業等の適格性要件の見直しについても議論する方向です。

2-6. 特定技能制度の適正化

特定技能の登録支援機関による外国人支援が不十分なケースも多いと指摘されています。中間報告は、外国人に対する支援を適切に行えない登録支援機関についても厳しく適正化・排除する必要があると指摘し、登録支援機関の認定要件も厳格化する方向性を示しました。

有識者会議は今後、登録支援機関による支援のあり方▽優良な登録支援機関へのインセンティブ▽悪質な登録支援機関への対応▽行政の指導監督体制のあり方――などについて話し合っていきます。

2-7. 国・自治体の役割

中間報告は、監理団体や受入企業等を指導・監督する外国人技能実習機構(OTIT)の体制を整備したうえで引き続き活用する方向を示しました。また、特定技能については、登録支援機関による支援のあり方だけでなく行政の指導監督のあり方も検討すべきとしています。

中間報告は、新たな制度に関して、各産業を所管する国の省庁も産業政策として、外国人労働者から日本が就労先として選んでもらえるように、業界団体と連携して業界内での受け入れの適正化に寄与することを提示しています。また、特定技能についても、所管省庁の対応の強化が必要としています。さらに、地方自治体も外国人が安心して働き暮らせる環境整備等に取り組むべきとしており、有識者会議はこのような国・自治体の関与について議論を深めていきます。

2-8. 送出機関のあり方と本人の費用負担

技能実習制度では、悪質な送出機関の存在が問題視されています。送出機関は多くの場合、日本からの求人に応じてその国で人材を集めて企業面接を受けさせ、数カ月間の事前教育(主に日本語)を行ってから人材(実習候補者)を日本の監理団体に送り出します。その際、主に送出手数料と教育費用を多くの場合、実習候補者から受け取ります。

しかし、人材募集の際に仲介者(地方の有力者や行政関係者、教育関係者、技能実習経験者など=ブローカーと呼ばれる場合もあります)に高額謝礼を支払ったり、自社に過度の利益を取り込んだりする目的から、実習希望者に法外な手数料や教育費用を請求する場合があります。その場合、実習希望者と保護者は多額の借金をするため、彼らが来日後、借金返済を焦って目の前のもうけ話(不法就労)に飛びつくことも失踪原因の一つになっています。

中間報告は、過大な手数料の徴収の防止や悪質な送出機関の排除等に向けて、新制度のもとでも送出国との間で実効的な二国間取決めを作成するなど、国際的な取り組みを強化すべきとしています。また、外国人労働者の来日前の費用負担をできるだけ軽減させる方策について検討することも盛り込まれました。

2-9. 外国人の日本語能力

一部の職種以外技能実習制度には本人の日本語能力に関する要件がありません。そのことも手伝って、日本語教育の体制が不十分な送出機関が多く、高い費用だけ受け取って質の低い日本語教育しか行わないケースや、中には、企業面接の直前と訪日直前に数週間ずつ教育をするだけという悪質な送出機関もあります。このため日本語をほとんど話せない技能実習生がたくさんおり、最低限のコミュニケーションもできないため、職場でのトラブルや地域社会での孤立等につながり、失踪や技能実習制度の悪評を増大させる大きな要因の一つになっています。

そこで、中間報告では、一定水準の日本語能力を確保できるよう、就労前の日本語能力の要件化や来日後においても日本語能力が段階的に向上するような仕組み作りについて検討するとしています。また、そのための費用は外国人労働者に負担させず、受入企業が負担しつつ、国や自治体が支援を行う方向性を提案しています。

3. 関係者への影響

それでは、制度変更に伴う影響をいくつか例示します。

3-1. 対象職種の変更に伴う影響

新たな制度と特定技能とで対象職種や分野を一致させる方向性が打ち出されました。現行の技能実習制度では「技能実習の職種=特定技能の職種(分野)」ではないため、職種によっては、外国人が技能実習を修了した後に同じ職場で特定技能として雇用を継続することができない場合があります。新制度ではこうしたことがなくなるか大幅に減少すると予想されます。

また、技能実習制度に代わる新しい制度と特定技能制度の職種を合わせるため、今後、特定技能の対象分野(職種)が増える可能性もありますが、現状のままだと、特定技能に含まれない産業分野の受入企業、監理団体による受入れが困難となる(例:繊維、1号実習の自動車系産業)といった事態の発生が考えられます。また、これまでの技能実習においては、これまで「職種・作業」によって受入れ可否を判断していましたが、ここに「産業分野」という発想が入ること(又は変わること)で、受入れが困難となる受入企業が発生(スーパーのバックヤードにおける食品製造関係等)することが予想されます。

なお、現行の特定技能制度の対象は介護、ビルクリーニング、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業、建設、造船・舶用工業、自動車整備、航空、宿泊、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業の12分野です。

3-2. 転籍要件緩和による影響

受入企業への影響:現行の技能実習制度では転籍が原則不可なので、一度受入れた技能実習生はたいていの場合3年間は働いてくれるとの算段が立ちます。しかし、転籍要件が緩和されると転籍市場が形成され、人気のない産業や地域で働く外国人が人気産業や人気地域の企業等に流れる傾向が予想されます。企業にとっては、外国人が「給料が安い」「労働環境が悪い」と感じると転籍されるリスクがさらに高まるので、産業間競争力や地域間競争力が弱い受入企業・監理団体は人材確保が一層難しくなります。

働く外国人への影響:営利優先の転職あっせんによって無駄な転籍や不適切な転籍をしてしまい、キャリアが中断するケースも起こりえます。また、虚偽の雇用条件をうたって転籍をあっせんする悪質な業者の出現とそれによる外国人労働者の被害も予想されます。

送出機関への影響:技能実習生が3年間、同じ職場に在籍する間に、送出機関は人材を送り出した相手の監理団体を通じて毎月送り出し管理費を受け取ります。しかし、3年間の途中で転籍することが常態化すると、この収入は途中で途切れるので、日本に入国する前に3年分を一括徴収したり1年目の送出し管理費を高くしたりするなどの対応策が考えられます。

3-3. 監理団体の要件厳格化による影響

監理団体の認定要件が厳格化されることで、新しい制度のもとで働く外国人を支援・保護する機能は高まることが予想されます。しかし、外国人を支援・保護する十分な体制を持っていない監理団体は業務の継続が難しくなる場合もあります。

3-4. 日本語能力の要件化による影響

外国人に来日前に一定の日本語能力を課すことで、送出機関や受入企業の費用負担が増える場合、対応できる送出機関の減少によって新制度への応募者獲得が困難になったり、日本の受入企業がコスト増に対応できず受け入れをあきらめて求人が減ったりする可能性があります。

4. 今後の流れとまとめ

この記事では、「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議」の中間報告について紹介しました。

中間報告では技能実習制度を廃止して代わりの制度を設けることが掲げられ、その内容として、▽人材確保を制度目的に含める▽対象職種を特定技能制度と一致させる▽転籍の要件を緩和する▽監理団体や登録支援機関の支援・保護機能を厳格化する▽外国人の来日前の費用負担を軽くする▽外国人が日本で就労する前に一定の日本語能力を持つことを要件とする――といった内容が示されました。

有識者会議は中間報告をたたき台としてさらに議論を重ね、2023年秋に最終報告を政府に提出し、早ければ2024年の通常国会に新制度を創設するための関連法案が提出されることになります。

国際社会から「奴隷制度」と批判されてきた技能実習制度ですが、中間報告によると、技能実習制度廃止後の新制度では外国人保護の機能が強化されます。これは、日本が外国人から働き先として選び続けてもらうために不可欠の改正点です。受入企業としても、外国から日本に来てくれる外国人たちに「日本に来てよかった」と思ってもらえるような努力を一層推進し、必要な労働力の確保を実現していくことが大切です。

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