技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第9回)

2023年6月30日、技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(座長・田中明彦国際協力機構理事長)の第9回会合が開かれました。中間報告書公表後2回目の開催となるこの会議では、2023年秋の最終報告書の取りまとめに向けて第8回会合で示された9つの論点について若干の追加・修正が加えられるとともに、第1~4の論点について現状把握を深めるための資料等が配付されました。

参考)
出入国在留管理庁「技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第9回)」
https://www.moj.go.jp/isa/policies/policies/03_00071.html

1. 最終報告書の取りまとめに向けた論点

第9回会合では、最終報告の取りまとめに向けた論点を下記のように決定しました。

1 新たな制度及び特定技能制度の位置付けと両制度の関係性等【総論】

(1)新たな制度の位置付け(目的、基本的枠組み)
(2)特定技能制度の位置付け(変更の適否を含む。)
(3)新たな制度と特定技能制度の関係性(技能水準、家族帯同の在り方等両制度の在留資格制度全体における位置付けを含む。)
(4)企業単独型技能実習等の取扱い

2 人材育成機能や職種・分野等の在り方

(1)新たな制度における人材育成の在り方
(2)職種・分野の在り方
(3)新たな制度における技能評価の在り方(時期、具体的方策(試験等))
(4)技能評価を踏まえた活用方策
(5)人材育成機能の担保のためのその他の方策(処遇等適切かつ効率的な育成のための体制等の整備、職場への定着のインセンティブ付与等)

3 受入れ見込数の設定等の在り方

(1)新たな制度における受入れ見込数の設定の在り方(設定の可否を含む。)
(2)両制度における受入れ見込数の設定及び対象分野の設定(人手不足状況、労働市場への影響、人手不足への取組状況の確認、技能評価を含む。)における透明性や予見可能性のあるプロセスの在り方(制度の運用上の透明性確保を含む。)

4 転籍の在り方

(1)転籍の在り方(具体的方策(要件、時期、回数等))
(2)受入れ企業等が負担する来日時のコストや人材育成コストへの対応方策
(3)人権侵害や法違反等があった場合の救済の仕組み(事前把握方策等)
(4)転籍先を速やかに確保する方策(公私の機関(業所管省庁、ハローワーク等)の関与の在り方を含む。)

5 監理・支援・保護の在り方

(1)新たな制度における監理団体の要件(監理・支援・保護の要件の見直し)
(2)受入れ企業等の要件(適格性要件の見直し)
(3)優良な団体等(受入れ企業等、監理団体)へのインセンティブ付与方策(事業評価の公表を含む。)
(4)悪質な団体等への対応方策
(5)外国人技能実習機構の役割に応じた体制の整備等
(6)国、自治体、法テラス、弁護士会、NGO等の支援及び相談への関与の在り方(外国人技能実習機構との連携の在り方を含む。)

6 特定技能制度の適正化方策

(1)登録支援機関による支援の在り方(監理・保護機能を追加することの適否や登録制度であることの是非を含む。)
(2)優良な登録支援機関へのインセンティブ付与方策(事業評価の公表を含む。)
(3)悪質な登録支援機関への対応方策
(4)行政の指導監督体制の在り方

7 国・自治体の役割

(1)制度所管省庁の在り方・役割の見直し
(2)業所管省庁の役割の見直し(より良い受入れを後押しする役割を担う方向での見直し方策)
(3)自治体の役割(外国人が生活者として安心して暮らせるための相談体制を含めた環境整備等)

8 送出機関及び送出しの在り方

(1)送出機関の適正化等の在り方
(2)外国人の来日前の手数料負担を減少させる方策
(3)国際的なマッチング(職業紹介)機能の適正化方策(監理団体等の関与の在り方を含む。)

9 日本語能力の向上方策

(1)就労開始前の日本語能力担保方策(目的、具体的方策(試験、講習等))
(2)就労開始後の日本語能力向上の仕組み(目的、具体的方策(インセンティブ付与等)、日本語教育環境の整備)
(3)関係者の役割分担や負担費用の在り方

※ 留意点
上記の各論点を検討するに当たっては、現行制度から新たな制度に円滑に移行するための経過措置等の在り方についても併せて検討する。

この会議では、上記の論点を決定するとともに、下記の4つの論点について現状を確認するための資料が配付されました。

・論点1:新たな制度及び特定技能制度の位置付けと両制度の関係性等【総論】
・論点2:人材育成機能や職種・分野等の在り方
・論点3:受入れ見込数の設定等の在り方
・論点4:転籍の在り方

それでは、これら4つの論点と資料の概要について、以下で詳しく説明していきます。

2. 新たな制度及び特定技能制度の位置付けと両制度の関係性等【総論】

論点1 新たな制度及び特定技能制度の位置付けと両制度の関係性等【総論】
(1)新たな制度の位置付け(目的、基本的枠組み)
(2)特定技能制度の位置付け(変更の適否を含む。)
(3)新たな制度と特定技能制度の関係性(技能水準、家族帯同の在り方等両制度の在留資格制度全体における位置付けを含む。)
(4)企業単独型技能実習等の取扱い

技能実習制度は発展途上国への技能移転という目的を掲げながらも、実習現場においては労働力不足の補てんという色彩が強く、本来の目的と運用実態の乖離が指摘されてきました。そこで、中間報告では、人材育成だけでなく人材確保も制度目的に加え、技能実習制度に代わる新たな制度を創設することが打ち出されました。

第9回会合で示された資料によると、2022年末の技能実習生の数は324,940人で、人数の多い国はベトナム(54.3%)、インドネシア(14.1%)、フィリピン(9.0%)、中国(8.9%)などです。職種別で多いのは建設関係、食品製造関係、機械・金属関係などとなっています。

また、2023年5月末現在(速報値)の特定技能1号外国人は167,313人で、分野別では、多い順に飲食料品製造業(51,915人)、素形材・産業機械・電気電子情報関連製造業(34,735人)、介護(21,152人)、農業(20,274人)、建設(17,404人)などとなっています。特定技能2号の11人も加えた167,324人のうち人数の多い国はベトナム(57.0%)、インドネシア(14.2%)、フィリピン(10.1%)、中国(6.6%)などです。

家族帯同に関しては、就労可能な主な在留資格のうち「技術・人文知識・国際業務(技人国)」や特定技能2号では家族(配偶者、子)の帯同(「家族滞在」での在留)が認められていますが、技能実習(1~3号)と特定技能1号では認められていません。

家族帯同については、有識者会議によるこれまでのヒアリングで、「現状維持が望ましい」「家族と一緒にいられることは、労働者にとって魅力であり、労働者が滞在期間が長くなる場合のメンタル面でもメリットがあるので、日本で働く価値を上げるものになるのではないか」「5年経過後に日本社会においてある程度の資力を持っており、税金等をしっかりと払っている場合には認めてもいいのではないか」「日本語などのスキルを高めた上で、特に専門的・技術的分野とされる特定技能外国人には家族の帯同を認めるべき」といった意見が出されています。

3. 人材育成機能や職種・分野等の在り方

論点2 人材育成機能や職種・分野等の在り方
(1)新たな制度における人材育成の在り方
(2)職種・分野の在り方
(3)新たな制度における技能評価の在り方(時期、具体的方策(試験等))
(4)技能評価を踏まえた活用方策
(5)人材育成機能の担保のためのその他の方策(処遇等適切かつ効率的な育成のための体制等の整備、職場への定着のインセンティブ付与等)

技能実習制度の対象職種は産業分野を限定せず87職種・159作業ありますが、特定技能制度は12分野にしか認められていません。中間報告では、新たな制度と特定技能とで職種・分野を一致させる方向を打ち出しました。これが実現すると、外国人が技能実習修了後に同じ職種で特定技能に移行する中長期的なキャリアパスが現状より広範な職種で可能になります。

第9回会合で示された資料によると、技能実習2号の87職種・159作業のうち、対応する特定技能の産業分野がない(技能実習2号修了後に試験免除で特定技能に移行できない)職種・作業は約30%(27職種・47作業)です。また、自動車組立てやクリーニング、物流など1号だけの技能実習の職種・作業に対応する特定産業分野(特定技能の産業分野)はありません。さらに、特定産業分野のうち航空については、対応する技能実習2号の職種・作業がありません。有識者会議では、最終報告に向けて、このような技能実習と特定技能の職種・分野の不一致を解消するための議論を進めていきます。

また、中間報告は、新制度のもとで特定技能への移行を前提に体系的な能力を身に付けるために適切な技能評価のあり方が必要としており、有識者会議は現行の技能検定や技能実習評価試験等の運用状況も踏まえながら、より適切な技能評価の手法について具体策を検討していきます。第9回会合では、技能検定や技能実習評価試験の概要や受検状況、合格率などに関する資料が示されました。

さらに、中間報告は、日本の企業等が魅力ある働き先として選ばれるよう、外国人労働者の職場定着を促すインセンティブ(賃金水準など)についても言及しています。会議資料によると、2021年度の1号技能実習生への月平均賃金(全産業平均)は175,421円、2号は192,976円、3号は213,986円でした。また、2021年の特定技能外国人への月平均賃金(全分野平均)は231,979円で、分野別では建設285,339円、自動車整備249,481円などとなっています。

4. 受入れ見込数の設定等の在り方

論点3 受入れ見込数の設定等の在り方
(1)新たな制度における受入れ見込数の設定の在り方(設定の可否を含む。)
(2)両制度における受入れ見込数の設定及び対象分野の設定(人手不足状況、労働市場への影響、人手不足への取組状況の確認、技能評価を含む。)における透明性や予見可能性のあるプロセスの在り方(制度の運用上の透明性確保を含む。)

新たな制度や特定技能の対象職種や受入れ見込数については、業界からの要望や受入れの必要性、生産性向上や国内人材確保のための取組状況を踏まえた上で検討が行われます。有識者会議は対象分野や受入れ見込数について関係者の意見やエビデンスをもとに透明性のあるプロセスで設定を行う方法を議論していきます。

特定技能制度では、日本人の雇用機会の喪失や処遇の低下を防ぐといった観点から、分野ごとに人材不足の見込数と比べて過大でない範囲で向こう5年間の受入れ見込数が設定され、それがその分野の特定技能外国人の受入れ上限として運用されています。生産性向上や国内人材確保のための取組を行っていることや、そうした取組を行ってもなお人手不足が深刻であることを具体的に示した上で、各分野の所管省庁が受入れ見込数を提案し、制度所管省庁(法務省・外務省・厚生労働省、国家公安委員会)のチェックを経て閣議で決定されています。

また、技能実習制度で職種を追加する際には、業界団体による提案、専門家会議の開催とパブリックコメントの実施、認定申請書の提出、技能実習法施行規則の改正等といったプロセスがとられています。

有識者会議はこのような現行制度を踏まえながら、技能実習に代わる新たな制度における受入れ見込数の設定方法や、新制度と特定技能制度における受入れ見込数や対象分野の設定方法について議論していくことになります。

5. 転籍の在り方

論点4 転籍の在り方
(1)転籍の在り方(具体的方策(要件、時期、回数等))
(2)受入れ企業等が負担する来日時のコストや人材育成コストへの対応方策
(3)人権侵害や法違反等があった場合の救済の仕組み(事前把握方策等)
(4)転籍先を速やかに確保する方策(公私の機関(業所管省庁、ハローワーク等)の関与の在り方を含む。)

中間報告では、新たな制度でも「人材育成」の趣旨を残すため一定の転籍制限は残すとしたものの、「人材確保」という実態に即した目的も加わるため、制度趣旨と外国人保護の観点から、転籍要件を緩和する方向性が示されました。

技能実習制度のもとでも法令違反があった場合など実習継続が困難なケースでは技能実習生の転籍(実習先変更)が認められています。第9回会合では、現在の転籍手順などに関する資料が示されました。資料によると、外国人技能実習機構(OTIT)による実習先変更支援受理件数は2017年度20件、18年度36件、19年度54件、20年度49件、21年度39件でした。

技能実習では、各技能実習生を受け入れる際に受入れ企業等が最初に負担するコストがあります。転籍要件を緩和する場合、企業等が負担する来日時のコストや人材育成コストについて、転籍時にどのように取り扱うかについても考えなければなりません。第9回会合での資料によると、受入れ企業等が技能実習生1名を受け入れる際に監理団体に最初に支払う初期費用の平均は341,402円です。この費用は入国後講習(講習コスト、講習期間中の技能実習生への手当)や募集・選抜に関する費用に充てられます。その後、監理団体や送出機関への管理費を毎月支払いますが、資料によると、監理団体への監理費(1年目)は平均30,551円です。

転籍要件を緩和した場合、技能実習に代わる新制度で働く外国人が転籍によって地方から大都市に流れ、地方で外国人労働者を安定的に確保することが一層困難になることが懸念されています。第9回会合では、新制度での転籍を予測するための資料として、転職が自由な特定技能外国人の全国での分布状況や転職状況などに関する資料が示されました。

資料によると、特定技能外国人の全国での分布状況は、日本人就業者の分布と大きな違いはありません。そして、就業者全体(日本人と外国人)に占める特定技能外国人の割合が全国平均(0.152%)より高い都道府県は全体の約45%で、そのうち大都市圏は約55%、それ以外は45%です。

転職状況については、特定技能1号外国人154,864人(2023年3月末、速報値)のうち勤務先を変更した経験がある人は全体の9.3%(14,401人)で、この人たちの勤務先変更回数は1回が92.3%で、2回が7.1%となっています。また、2022年に自己都合退職した特定技能外国人の退職までの在籍期間は6カ月以下が40.4%、6カ月超1年以下が34.7%、1年超2年以下が22.0%となっており、退職経験者の大半が2年以下で退職していることが分かりました。

別のデータで特定技能外国人の分野別・自己都合退職者数も示され、2023年2月までの延べ人数で、全分野では19.2%が退職し、分野別では宿泊で30.4%、農業で24.7%、飲食料品製造業で23.7%、外食業で19.1%が退職しています。自己都合退職後の状況は、帰国が32.2%、特定技能での転職が28.4%、別の在留資格への変更が14.5%でした。

6. まとめ

第9回有識者会議では、最終報告に向けた下記の9つの論点について細部を修正して決定したほか、第1~第4の論点について現状把握を深めるためのさまざまな資料が示されました。各論点に関する今後の議論の行方が注目されます。

・新たな制度及び特定技能制度の位置付けと両制度の関係性等【総論】
・人材育成機能や職種・分野等の在り方
・受入れ見込数の設定等の在り方
・転籍の在り方
・監理・支援・保護の在り方
・特定技能制度の適正化方策
・国・自治体の役割
・送出機関及び送出しの在り方
・日本語能力の向上方策

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