この記事を読むと、次のことが分かります。
・技能実習指導員の役割
・技能実習指導員に求められる要件
・技能実習指導員の養成講習の内容
・技能実習生とのコミュニケーションに役立つテクニック
技能実習指導員とは、技能実習生を直接指導し、技術の手ほどきなどを行う役割を担う人材です。技能実習生と直に触れ合うので、技能実習において大変重要なポジションといえます。
本稿では、技能実習指導員の役割や選任要件、養成講習を受けることのメリットなどについて解説していきます。
また、技能実習において技能実習指導員と並んで重要な役割を担う、技能実習責任者・生活指導員についても触れているので、参考にしてみてください。
目次
1. 技能実習指導員とは?技能実習生を直接指導する役割
技能実習指導員とは、技能実習の現場で技能実習生を指導する役割を担う人材です。技能実習生を直接指導する上司に当たり、技能実習計画通りに実習が進むよう、技能実習生の仕事面でのサポートを行います。技能実習生、実習実施者の両者にとって、重要なポジションです。
実習実施者は、技能実習を行う事業所ごとに技能実習指導員を1人以上選任する必要があります。
同じように重要な役割である技能実習責任者・生活指導員については4章で解説します。
2. 技能実習指導員に求められる要件
技能実習指導員になるためには、いくつかの要件があります。
2-1. 技能実習指導員になるための要件
技能実習指導員は、次の要件を全て満たす人材でなければいけません。
・実習実施者(受入れ企業)の常勤の役員もしくは職員
・技能実習を行う事業所に所属している
・技能実習生に習得させる技能を5年以上経験している
・実習実施者(受入れ企業)の常勤の役員もしくは職員
技能実習指導員は、技能実習生が実習を行う事業所の常勤の役員、もしくは職員である必要があります。ここでいう「常勤」とは、パートやアルバイトではなく、フルタイムで働く正規雇用の役員・職員であることが考えられますが、常勤の定義は厳格に法令で定められているわけではありません。
しかし、例えばいわゆる「パート労働法」である「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」の目的を定める第1条では、以下の通り記載されています。
“通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図ることを通じて短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし……(以下略)[1]”
この記載によると、「通常の労働者」(フルタイムかつ無期雇用の労働者)とパートやアルバイトは明らかに区切られています。このように区切る法令もあることを考えると、技能実習指導員の要件に含まれる常勤を正規雇用と捉え、正規雇用の役員・職員を選任する方が無難でしょう。
・技能実習を行う事業所に所属している
技能実習指導員は、技能実習生が働く事業所に所属していなければいけません。技能実習指導員には技能実習生を直接指導する役割があるため、指導を適切に行えるよう実習を行う現場について熟知している必要があります。
・技能実習生に習得させる技能を5年以上経験している
技能実習生が習得する技能を5年以上経験していることも、技能実習指導員に求められる要件です。技能実習生は技能を習得するために来日するので、熟達した技能を持つ技能実習指導員に指導してもらいたいと考えているでしょう。この要件は、技能実習生のこうした思いをくみ取っているとも考えられます。
2-2. 介護業種における技能実習指導員の要件
介護業種の技能実習指導員は、2-1で挙げた要件に加え、以下の要件も満たす必要があります。
・技能実習指導員のうち1人以上は介護福祉士や看護師などの資格取得者、または技能実習指導員に必要な5年以上の経験に加え3年以上の経験を有した実務者研修修了者
・技能実習生5人につき1人以上の技能実習指導員を選ぶこと
介護の現場では利用者の安全確保が第一であるため、技能実習指導員に高い実務レベルが求められるといえるでしょう。
そもそも介護事業所が技能実習生を受入れるためには、利用者宅でサービスを提供する業務を除く介護業務を行っており、開設後3年以上経過していることが必要です。
また、技能実習生に夜勤業務や緊急時の対応が求められる業務を行わせる場合には、技能実習生以外の介護職員を配置するなど、利用者の安全確保のために必要な措置を講じなければなりません。
こうした点を踏まえると、介護という人の命を預かる業種における技能実習指導員の役割の重要さが分かります。
2-3. 技能実習指導員になれない人
以下の要件に当てはまる人は、技能実習指導員になれません。
・技能実習法第10条第1号から第7号まで、または第9号のいずれかに該当
・過去5年以内に入出国または労働に関する法令に関し不正・不当な行為を行った
・未成年
・技能実習法第10条第1号から第7号まで、または第9号のいずれかに該当
外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(技能実習法)第10条は、技能実習計画の認定欠格事由を扱った条文です。この条文に該当する場合、技能実習指導員になることはできません。
・過去5年以内に出入国又は労働に関する法令に関し不正・不当な行為を行った
「出入国に関する法令」とは、出入国管理及び難民認定法(入管法)や同法施行規則などのことです。「労働に関する法令」とは、主に労働基準法、労働安全衛生法などが該当します。
これらに抵触する行為を5年以内に行った場合、その人は技能実習指導員になることはできません。
・未成年
未成年は、正規雇用の職員であっても技能実習指導員にはなれません。
3. 技能実習指導員の養成講習は必要?
技能実習責任者・生活指導員と同じように、技能実習指導員は養成講習を受けることができます。ここでは、技能実習指導員の養成講習について詳しく解説します。
3-1. 「優良な実習実施者」の認定を受けやすくなる
技能実習指導員のために、随時養成講習が行われています。この講習は技能実習指導員になるために必要不可欠、という決まりがあるわけではありません。しかし、技能実習指導員全員が受講することで、「優良な実習実施者」に認定されやすくなります。
コラム:「優良な実習実施者」とは
優良な実習実施者と認められるには、外国人技能実習機構に「優良要件適合申告書(実習実施者)」という書類を提出し、受理されなければいけません。
優良な実習実施者に認定されると、技能実習3号の受入れが可能となり、技能実習生を受入れる人数枠が拡大されます。
優良な実習実施者になるためには、前述の申告書で150点中90点以上を獲得しなければいけません。所属する技能実習指導員全員、または生活指導員全員が養成講習を受けていれば、それぞれ5点が加算されます。
なお、技能実習責任者は、優良な実習実施者の認定の有無にかかわらず養成講習の受講が義務付けられています。
3-2. 養成講習の内容
養成講習の内容は、以下の通り[2]です。なお、講習時間は正味5.5時間とされています。
・技能実習法
・労働関係法令
・技能実習指導の行い方
・労働災害防止・労働災害時対応
・技能実習生との向き合い方
・理解度テスト
理解度テストに合格すると、受講証明書が交付されます。合格点は70点です。不合格の場合、受講証明書は交付されません。交付されるには、別日に再度受講し、理解度テストで70点以上を獲得する必要があります。
4. 技能実習指導員の他に必要な人材
技能実習において、技能実習指導員の他に技能実習責任者と生活指導員が必要です。これらの役割について解説します。
4-1. 技能実習責任者
技能実習責任者は、技能実習を行う事業所ごとに必要な技能実習の責任者です。技能実習を俯瞰する立場の人材で、技能実習指導員をはじめ技能実習に関わる職員の監督、技能実習の進捗管理などを行います。
技能実習責任者になるためには、技能実習に関与する職員を監督できる立場にある常勤の役員・職員であり、過去3年以内に技能実習責任者の養成講習を受けていることが求められます。
4-2. 生活指導員
生活指導員は、技能実習生の生活の手助けをする人材です。技能実習生が日常生活で困っていた場合には相談に乗り、技能実習生が実習に専念できるように環境を整える役割を担います。
生活指導員にも養成講習があります。技能実習責任者のように受講が必要不可欠なわけではありませんが、生活指導員全員が講習を受けることで優良な実習実施者と認定されやすくなります。
4-3. 技能実習指導員・技能実習責任者・生活指導員は兼務可能
技能実習指導員、技能実習責任者、生活指導員は、それぞれ求められる要件を満たしていれば兼務することが可能です。
ただし、1人でこれらの役割を兼務すると、大変な労力が必要となるでしょう。技能実習指導員、技能実習責任者、生活指導員のいずれかになれる役員・職員が所属しているのであれば、役割を分担することをおすすめします。
5. 技能実習生とのコミュニケーションに役立つ「やさしい日本語」
技能実習生と直接コミュニケーションを取るのが技能実習指導員です。技能実習生との言葉の壁に苦慮する場面も予想されます。
技能実習生は、入国前後に日本語・日本文化の講習を受けてから技能実習の場に来ます。しかし、これらの講習だけでは日本語能力が不足している場合もあるので、実習実施者側でも配慮が必要です。
コミュニケーションがうまく取れていないと感じる場面があったら、「やさしい日本語」を使うことを検討してみましょう。「やさしい日本語」に関しては、関連記事をご覧ください。
6. まとめ
技能実習指導員とは、技能実習の現場で技能実習生を指導する役割を担う人材です。技能実習生にとっては直近の上司に該当します。
技能実習指導員になるためには、以下の要件を全て満たしていなければいけません。
・実習実施者(受入れ企業)の常勤の役員もしくは職員
・技能実習を行う事業所に所属している
・技能実習生に習得させる技能を5年以上経験している
介護業種の技能実習指導員は、以下の要件も満たす必要があります。
・技能実習指導員のうち1人以上は介護福祉士や看護師などの資格取得者、または技能実習指導員に必要な5年以上の経験に加え3年以上の経験を有した実務者研修修了者
・技能実習生5人につき1人以上の技能実習指導員を選ぶこと
介護の現場では利用者の安全確保が第一であるため、技能実習指導員に高い実務レベルが求められるといえるでしょう。
また、以下の要件に当てはまる人は、技能実習指導員になれません。
・技能実習法第10条第1号から第7号まで、または第9号のいずれかに該当
・過去5年以内に入出国または労働に関する法令に関し不正・不当な行為を行った
・未成年
技能実習指導員は、技能実習責任者・生活指導員と同じように養成講習を受けることができます。この講習は技能実習指導員になるために必要不可欠、という決まりがあるわけではありません。しかし、技能実習指導員全員が受講することで、優良な実習実施者に認定されやすくなります。
養成講習の内容は、以下の通りです。
・技能実習法
・労働関係法令
・技能実習指導の行い方
・労働災害防止・労働災害時対応
・技能実習生との向き合い方
・理解度テスト
理解度テストに合格すると、受講証明書が交付されます。合格点は70点です。
技能実習において、技能実習指導員の他に技能実習責任者と生活指導員が必要です。技能実習責任者は、技能実習を行う事業所ごとに必要な技能実習の責任者を指します。生活指導員は、技能実習生の生活の手助けをする人材です。
技能実習指導員、技能実習責任者、生活指導員は、それぞれ求められる要件を満たしていれば兼務することが可能です。ただし、1人でこれらの役割を兼務すると、大変な労力が必要となるでしょう。要件を満たす職員が他にも所属しているのであれば、役割を分担することをおすすめします。
技能実習生と直接コミュニケーションを取るのが技能実習指導員です。技能実習生との言葉の壁に苦慮する場面も予想されます。コミュニケーションがうまく取れていないと感じる場面があったら、「やさしい日本語」を使うことを検討してみてください。
技能実習指導員は、技能実習生にとって非常に身近な存在です。技能実習生が実習に集中でき、適切な指導を受けられるよう、選任する際は技能実習指導員の要件や役割を念頭に置き、慎重に検討しましょう。
他の人はこちらも質問
Q. 技能実習指導員の要件は?
A. 技能実習指導員になるためには、以下の要件を全て満たしていなければいけません。
・実習実施者(受入れ企業)の常勤の役員もしくは職員
・技能実習を行う事業所に所属している
・技能実習生に習得させる技能を5年以上経験している
Q. 技能実習指導員とは何ですか?
A. 技能実習指導員とは、技能実習の現場で技能実習生を指導する役割を担う人です。技能実習生にとっては直近の上司に該当します。
Q. 技能実習の生活指導員の仕事は?
A. 生活指導員は、技能実習生の生活の手助けをする人材です。技能実習生が日常生活で困っていた場合には相談に乗り、技能実習生が実習に専念できるように環境を整える役割を担います。
[1] e-Gov「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」,https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=405AC0000000076(閲覧日:2023年3月27日)
[2] 公益財団法人 国際人材協力機構「養成講習とは」,https://www.jitco.or.jp/ja/regulation/training.html(閲覧日:2023年3月7日)
参考)
公益社団法人 日本介護福祉士会「介護職種の技能実習指導員講習テキスト」,2021年7月,https://www.mhlw.go.jp/content/12000000/000826362.pdf(閲覧日:2023年3月27日)
e-Gov「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」,https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=405AC0000000076(閲覧日:2023年3月27日)
e-Gov「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律」,https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=428AC0000000089_20221001_504AC0000000012(閲覧日:2023年3月7日)
公益財団法人 国際人材協力機構「養成講習とは」,https://www.jitco.or.jp/ja/regulation/training.html(閲覧日:2023年3月7日)
公益財団法人 国際人材協力機構「外国人技能実習制度とは」,https://www.jitco.or.jp/ja/regulation/(閲覧日:2023年3月27日)
外国人技能実習機構「よくある御質問(技能実習計画の認定申請関係)」,https://www.otit.go.jp/files/user/docs/info_jissyu_06.pdf(閲覧日:2023年3月27日)