外国人労働者に必要な日本語教育とは?方法や課題を【具体的に解説】

「外国人を雇ったが、予想外に日本語がうまく通じない」

採用後にこうした問題に直面することは少なくありません。株式会社日本総合研究所の調査によると、実際に外国人労働者の雇用比率が相対的に高い主要産業449社のうち、約7割が外国人労働者とのコミュニケーションに課題を感じると回答しています[1]

【外国人労働者の活用上の課題】(グラフ)

株式会社日本総合研究所「「人手不足と外国人採用に関するアンケート調査」結果 ―受け入れ拡大に多くが賛成。制度の改善・国内人材の活用支援の要望も―」,2019年4月17日公表,p13を基にライトワークスにて作成,https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchreport/pdf/11052.pdf(閲覧日:2022年11月9日)

一方、外国人労働者も日本語でのコミュニケーションに課題を感じています。求人情報検索エンジン大手のIndeed Japan株式会社が運営するメディアでは、「日本語の難しさ・分かりにくさがコミュニケーションの課題になっている」と解説しています[2]

また、外国人留学生就職情報サイト「リュウカツ®」が実施したアンケートによると、「日本で働いてみて、不満に思ったこと・がっかりしたこと」の回答第2位は、「日本語ネイティブでないことの配慮が不足(早口や難しい言葉を使われる)」でした[3]

構成が複雑な日本語の学習は簡単ではない上に、生活上必要な日本語と職場で必要とされる日本語は違うものです。このような理由から、外国人労働者には日本語教育が必要と考えられます。同時に、日本人従業員からの配慮や工夫も必要でしょう。

本稿では、外国人労働者の日本語レベルを巡る課題、日本語教育の方法、そして従業員同士のコミュニケーションを促進する施策や、外国人労働者の文化に配慮した環境づくりの事例などを紹介します。ぜひ参考にしてください。

[1] 株式会社日本総合研究所「「人手不足と外国人採用に関するアンケート調査」結果 ―受け入れ拡大に多くが賛成。制度の改善・国内人材の活用支援の要望も―」,2019年4月17日公表,p13,https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchreport/pdf/11052.pdf(閲覧日:2022年11月9日)
[2] Indeed Japan株式会社「外国人従業員とのコミュニケーションエラー その原因や伝え方の工夫」,『/LEAD』,https://jp.indeed.com/lead/ways-to-communicate-with-foreign-workers-to-prevent-misinterpretation (閲覧日:2022年11月9日)
[3] リュウカツ「【日本で働く外国人社員アンケート】日本の「雇用の安定」を評価(約 50 %)する一方で 、「役割の曖昧さ」・「人事評価の基準」には不満(各約 30 %)も 「評価制度」「キャリアパス」「日本人側の意識」が定着のカギ」,https://ryugakusei.com/whitepaper/4415/(閲覧日:2022年11月9日)

1. 外国人労働者には日本語教育が必要

日本の生産年齢人口減少による労働力不足が、喫緊の課題として注視されています。このような状況で新たな労働力として期待されているのが外国人労働者です。しかし、外国人労働者にとって日本語で説明された業務内容を理解することは相当難しいと考えられます。

1-1. 「日常会話レベルの日本語」では仕事は進まない

日本語能力試験(JLPT)は、日本語の能力試験として最も一般的な試験です。N5~N1のレベルに分けられ、外国人の日本語習熟度合いの指標によく用いられます。

【日本語能力試験認定の目安】(表)

レベル認定の目安
N1幅広い場面で使われる日本語を理解できる
読む:論理的にやや複雑な文章や、抽象度の高い文章(新聞の論説、評論など)が理解できる
聞く:自然なスピードの、まとまりのある会話やニュースが理解できる
N2幅広い場面で使われる日本語をある程度理解できる
読む:論旨の明快な文章(新聞や雑誌の記事・解説、平易な評論など)が理解できる
聞く:自然に近いスピードの、まとまりのある会話やニュースが理解できる
N3日常的な場面で使われる日本語をある程度理解できる
読む:日常的な話題について書かれた文章が理解できる(難易度が高い文章も、言い換え表現があれば理解できる)。新聞の見出しから概要をつかむことができる。
聞く:やや自然に近いスピードの、日常的な会話がほぼ理解できる
N4基本的な日本語を理解できる
読む:基本的な語彙や漢字を使って書かれた、身近な話題の文章が理解できる
聞く:ややゆっくりと話される、日常的な会話がほぼ理解できる
N5基本的な日本語をある程度理解できる
読む:ひらがなやカタカナ、基本的な漢字を使って書かれた、定型的な語句や文が理解できる
聞く:ゆっくりと話される、短い日常会話から、必要な情報を聞き取ることができる

国際交流基金,日本国際教育支援協会「N1~N5:認定の目安」,『日本語能力試験 JLPT』を基にライトワークスにて作成,https://www.jlpt.jp/about/levelsummary.html (閲覧日:2022年11月2日)

この表から分かるように、日本語の習熟度はN5が最も低く、N1に向かって高くなります。

例えば在留資格のうち「特定技能」「技能実習」(介護職種)では、JLPTのN4レベルが求められます[4]。N4レベルでは「基本的な日本語」を理解することは可能ですが、日本人と一緒に働くに当たり十分なレベルとはいえません。

N4レベルの日本語は、「自分の気持ちとその理由を簡単な言葉で説明することができる」程度のレベルです。また、日本語の解説を理解することができるようになるのは、N3レベルからといわれています。

なお、介護以外の職種の技能実習では、必要な日本語のレベル自体が定められていません。

「技術・人文知識・国際業務(技人国)」「高度専門職」の在留資格では、N2、N1レベルの日本語能力が求められます。これは、大手企業が大卒の外国人を採用する際、N2の取得をエントリー条件とすることが多いためです。

しかし、N2やN1レベルの日本語能力を持っていても、実際に日本で日本人と一緒に働くに当たっては、コミュニケーションに困難を感じる例が少なくありません。専門用語和製英語(カタカナ語)が混じっていたり、早口だったり、抽象的な内容になったりすると、難易度が一気に上昇するといわれます。

1-2. 仕事で使える、実用的な日本語教育が求められている

上述の通り、外国人の就労シーンにおいて日本語能力の指標に一番よく使われるのはJLPTです。外国人従業員への教育支援の一環として、JLPTの受験料を負担する企業もあります。

しかし、JLPTの試験を構成しているのは「言語知識(文字・語彙・文法)」「読解」「聴解」の3つで、「会話」の要素はありません[5]。もちろん、この3つは日本語を習得するために必須のスキルです。しかし、JLPTの高いレベルに合格していても、必ずしも日本人と会話による円滑なコミュニケーションができるとは限らないのです。

そう考えると、JLPTは日本で働く外国人にとって、在留資格を取得したり、就職したりするために必要な資格の一つ、つまり「手段」であって「ゴール」ではないということが分かります。外国人労働者が、日本で日本人従業員と一緒に働き、パフォーマンスを発揮していくために必要な日本語能力は、就職した後にこそ培われていくべきものと想定できるのです。

なお、職種によっては、そこを怠ることが大事故につながる場合もあります。建設業や製造業など、危険を伴う作業が必要な現場では、安全衛生教育の一環として「逃げろ」「危ない」といった緊急の言葉の周知徹底が行われています[6]

1-3. 在留資格に注意!日本語教育と業務の関係

外国人従業員がどのような在留資格を持っているかによって、行うことができる日本語教育の内容は異なります。

技能実習では、実習計画にない活動はできません。技能実習生を受け入れた後から必要性を感じて日本語教育を行うと、不法就労と見なされてしまう可能性があります。あらかじめ、実習計画に日本語教育を組み込んでいれば問題ありません。

また、技能実習生が自主的に、休日に日本語学校に通うなど日本語を勉強し、その費用を受け入れ企業が負担をするのなら問題はありません。技能実習生は日本語が話せなくても業務ができることが前提となっているので、このような日本語教育を行うのは珍しいケースです。

特定技能は、特定技能1号に対する支援で日本のマナーやルールを学びます。支援には、日本語学校や日本語教室の入学案内、オンラインの日本語講座の案内など、日本語学習の機会の提供も含まれます。

案内にとどまらず、特定技能外国人に具体的なプログラムを提供したい場合は、技能実習生と違い、業務内で日本語教育を行うことが可能です。技能実習のように計画ありきではないので、業務上のニーズに合わせて比較的柔軟に支援を行うことができます。

技術・人文知識・国際業務(技人国)の在留資格を持っている外国人従業員への日本語教育も業務内の実施で問題ありません。

高度専門職の場合は専門用語を交えたコミュニケーションが重要になるため、日本語教育を必要とするケースがあるようです。この場合も業務内に実施し、勉強してもらいます。

事前にJLPTのレベルが分かっていても、実際に入社してから日本語教育の必要性に気付くことは間々あります。企業側は在留資格に合った対応ができるよう、上記のような基本情報を押さえておきましょう。

[4] 厚生労働省「技能実習制度 運用要領」,https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0000183085.pdf(閲覧日:2022年12月6日)
[5] 日本語能力試験(JLPT)「試験科目と問題の構成」,https://www.jlpt.jp/guideline/testsections.html(閲覧日:2022年11月17日)
[6] 厚生労働省「外国人の採用や雇用管理を考える事業主・人事担当者の方々へ 外国人の活用好事例集~外国人と上手く協働していくために~」,p11,https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11655000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu-Gaikokujinkoyoutaisakuka/741015kkf0920.pdf(閲覧日:2022年11月2日)

2. 外国人労働者への日本語教育の方法

ここでは、企業が外国人従業員に日本語教育を行う方法をご紹介します。

日本語教育を実施する事前準備として「自社に必要な日本語」を把握しましょう。外国人従業員と日本人従業員のコミュニケーションの場面を洗い出し、どのような場面でコミュニケーションが取れなくなるのか、調査を行うことが必要です。自社にとって必要な日本語を洗い出した後、日本語教育の方法を検討しましょう。

日本語学習を支援する代表的な方法は、次の3つです。

・日本語学校に通ってもらう
・外部講師に委託する
・eラーニングを活用する

一つずつ見ていきましょう。

2-1. 日本語学校に通ってもらう

自社の外国人従業員に日本語学校に通ってもらう方法です。日本語学校によっては、既に就職している外国人労働者向けのコースを備えているところがあります。例えば、あいさつや日常会話、業務連絡・電話対応の仕方、上司への報告方法などが学べます。

日中の他、土日や夜間に受講するコースを提供している日本語学校もあるので、外国人労働者の生活スタイルに合わせて選ぶとよいでしょう。

就職している外国人労働者に向けたコースを備えている日本語学校に通うと、業務に役立つ実践的な日本語をプロの講師に教えてもらうことができます。

さらに、年代や国籍を越えた仲間ができる可能性がある点もメリットです。外国人労働者の場合は、日本にあまり知り合いがいないケースもあり得ます。交友関係が広がり友人が増えれば、生活が楽しくなったり、お互いに支え合ったりすることもあるでしょう。

日本語学校は全国各地にあります。日本語学校を探すには、Googleなどの検索サイトで「○○(地名) 日本語学校 ビジネス」と入力して検索するとよいでしょう。企業の所在地によっては近くに日本語学校がないケースもあるかもしれません。しかし、現在はオンライン授業を行う日本語学校も存在するので調べてみましょう。

2-2. 外部講師に委託する

自社の外国人従業員の日本語教育を外部講師に委託する方法もあります。

自社内で研修を行う場合、自社の外国人従業員が学んでいる様子を見学できるので、本人の意欲や日本語レベルを確認することが可能です。また、言動を通じて、それぞれの個性や課題などを把握することもできるでしょう。こうした取り組みは、研修後のコミュニケーションやマネジメントに役立ちます。

外部講師の中には、1対1のレッスンや、オーダーメイドの日本語レッスンを行っているところもあります。少数の外国人従業員を対象としていたり、受講する外国人従業員の日本語レベルに大きな差があったりする場合には、このようなレッスン形式を取る外部講師を探すとよいでしょう。

また、講師とコミュニケーションを取りながら日本語講義を受けられる、オンライン日本語レッスンを提供している外部講師も存在します。

日本語講師を派遣する外部講師は数多く存在しますが、自社が求める教育を実施してくれるかどうかを判断するには、候補となる講師と丁寧にコミュニケーションを取ることが必要です。

自社の外国人従業員の日本語レベルを確認するとともに、日本語教育をする目的・ゴールなどの要件を事前に整理した上で、相談に臨みましょう。

2-3. eラーニングを活用する

eラーニングは、インターネットを利用して学習を進める教育システムです。インターネット環境があれば「いつでも・どこでも」学習ができるので、現在ではさまざまな企業がeラーニングを導入しています。

企業向けのeラーニングといえば業務教育やビジネスマナー研修などが思い浮かびますが、日本語教育を目的としたものもあります。教育ベンダーに限らず、自治体や大学が独自に製作し、ウェブ上で無料公開しているものもあります。

eラーニングの利用について特筆すべきメリットは、インターネットがつながる環境さえあれば、時間帯や場所を選ばずに学習を進めることが可能である点です。また、学習の進捗率をマネージャーが閲覧できる仕組みになっている教材もあるので、外国人従業員がどこまで学習を進めているのか適宜チェックすることもできます。

3. 事例:従業員同士の交流によるコミュニケーション促進

日本語の教育は重要です。しかし、実際のコミュニケーションに必要なのは言語だけではありません。互いの文化や習慣を知り、理解を深めていくこと、また、共通体験を増やしていくことで、より円滑なコミュニケーションが可能になります。

ここでは、従業員同士のコミュニケーションを促進するための施策を行っている企業事例をご紹介します。

3-1. 技能実習生と週1回の交換日記(株式会社まちだ)

「株式会社まちだ」は福岡県にあるとび・足場仮設工事の専門業者です。

株式会社まちだの基本情報[7]

・所在地:福岡県直方市大字頓野569-16
・事業内容:とび
・足場仮設工事・従業員:32人(うち外国人12人)※事例公表当時
・HP:https://machidakk.com/company/

同社は、自社の技術が途上国でも求められる技術だと考え、国際貢献のために技能実習生を受入れています。

外国人労働者を大切なスタッフの一人と捉えており、週1回の交換日記を実施することで技能実習生の気持ちを理解し、信頼関係を深めています。また、月1回、通訳と管理職を交えた定例会を行い、技能実習生の気持ちや不安・不満を聞き取っています。

また注目すべきなのは、技能実習生自身が自分のキャリアを選択する「10年カリキュラム」という施策を行っていることです。母国に戻って技能を役立てるのか、もしくは在留資格「特定技能」を取得し長期滞在を望むのか、技能実習生の目標や事情に合わせて自分自身で決定することができます。

この「10年カリキュラム」の取り組みの効果として、「特定技能」の在留資格を申請する技能実習生が出てきています。技能実習生からは「目標はもっとスキルアップして現場の職長になること」という声が挙げられており、成長を実感しながら生活している様子がうかがえます。

3-2. 外国語講座で異文化交流(九州電設株式会社)

「九州電設株式会社」は、熊本県の電気工事業者です。

九州電設株式会社の基本情報[8]

・所在地:熊本県熊本市東区石原3丁目6番13号
・事業内容:建設業(電気工事業)
・従業員:100人(うち外国人5人)※事例公表当時
・HP:https://www.kec43.co.jp/

業界の技術者不足のため、また社員教育を目的とした異文化交流のため、技術・人文知識・国際業務の在留資格を持っている外国人労働者(技人国)を採用しています。

同社は交流イベントとして月に1度、外国人従業員による母国の紹介や、日本人従業員向けに外国語講座を開催しています。これにより、日本人従業員・外国人従業員同士で異文化交流を実現させています。

こうした取り組みを実施することで、同社の外国人従業員からは「自国の文化を理解し、公平に接してくれている」との声が寄せられています。

【コラム】外国人従業員とのコミュニケーションのために社員旅行を活用する例も

社内では交流機会のない外国人従業員とコミュニケーションを取る機会として、社員旅行を利用するのも効果的です。

「社員旅行net」では、外国人従業員と共に楽しむことができる社員旅行を企画・提案しています 。そば打ちや風鈴作りなど、日本特有の文化を体験することが可能です。このような文化体験・イベントを通じて、日本人従業員と外国人従業員が自然に楽しくコミュニケーションを取れるでしょう。

参考)
社員旅行net「外国人社員との交流を深める!社内イベントで日本のもの作りを体験するプラン(東京編)」,https://www.syain-ryokou.com/topic/archives/3567(閲覧日:2022年11月7日)

[7]JEWELS+ 外国人材に選ばれる九州・山口WinWinプロジェクト「外国人労働者が働きやすい工夫をしている企業事例集【令和3年度版】」,p6,https://www.pref.kagoshima.jp/af21/documents/98965_20220522113454-1.pdf (閲覧日:2022年11月24日)
[8]JEWELS+ 外国人材に選ばれる九州・山口WinWinプロジェクト「外国人労働者が働きやすい工夫をしている企業事例集【令和3年度版】」,p19,https://www.pref.kagoshima.jp/af21/documents/98965_20220522113454-1.pdf (閲覧日:2022年11月24日)

4. 事例:固有の文化に配慮した環境づくり

日本はハイコンテクスト文化といわれます。言葉に頼らなくても文化を共有できる集団に慣れているため、異文化の存在に気付き、適切な配慮をする習慣が生まれにくい環境といえます。このため、外国人従業員に対しても、日本の文化や自社の文化を無意識に押し付けてしまっている可能性があります。

これは、意図的でなくとも、外国人従業員の持つ文化や慣習を無視することにつながりなります。それにより外国人従業員がストレスを感じたり、業務をスムーズに行えずパフォーマンスが低下したりするかもしれません。このリスクを企業はどう解消すべきでしょうか。

この章では、外国人労働者の文化に配慮するために社内を改革した事例を挙げます。

4-1. 外国人労働者の文化に配慮した事例1:カシオ計算機株式会社

「カシオ計算機株式会社」は、東京都に本社を置くグローバル企業です。

カシオ計算機株式会社の基本情報[9]

・所在地(本社):東京都渋谷区本町1丁目6番2号
・事業内容:製造業
・従業員:2,768人(うち外国人29人)※事例公表当時
・HP:https://www.casio.co.jp/

同社では、イスラム教徒の外国人労働者を採用したことを契機に、「お祈り部屋」を設置しました

イスラム教において、祈る方向は「メッカがある方向」と定められています。同社のお祈り部屋ではそれも配慮し、メッカがある方向を示す矢印を提示しています。

他にも、食堂メニューの肉の種類をイラストで表示することで、食肉に制限のある宗教に配慮をしています。また、母国の重要な行事へ参加したり、母国で家族や親戚と会う機会を設けたりするための特別休暇を付与しています。

4-2. 外国人労働者の文化に配慮した事例2:楽天グループ株式会社

「楽天グループ株式会社」は、通販サイトやクレジットカード事業など、多彩なサービスを展開している企業です。

楽天グループ株式会社の基本情報[10]

・所在地(本社):東京都世田谷区玉川1丁目14番1号
・事業内容:通販事業、金融事業など
・従業員:グループ全体で2万8,216人(うち外国人7,783 人)※2021年12月31日時点
・HP:https://corp.rakuten.co.jp/

楽天グループ株式会社は、2012年に社内公用語を日本語から英語にしたことが大きな話題になりました。この取り組みは同社のダイバーシティ推進を加速する大きな役割を果たし、世界中の優れた人材の採用を可能としました。

同社は、外国人労働者の文化に配慮しています。具体的には、イスラム教を信仰している従業員への配慮として「祈祷室」を作り、ハラル料理をはじめとした幅広いメニューを社内カフェテリアで提供するなど、外国人労働者が持つ文化への配慮をしています。

また、日本人従業員と外国人従業員が文化の違いから生じる日常の問題について話し合う機会を設けているのも特徴的です。これまで、日本人特有の「本音と建前を使い分ける」といったコミュニケーションスタイルの差について理解を深める機会をつくりました。

同社には多様な国籍の従業員が所属しているので、異文化への理解を深めるための講演会や勉強会を開催し、相互理解の深化を図っています。

[9] 厚生労働省「外国人の採用や雇用管理を考える事業主・人事担当者の方々へ 外国人の活用好事例集~外国人と上手く協働していくために~」,p17, https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11655000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu-Gaikokujinkoyoutaisakuka/741015kkf0920.pdf(閲覧日2022年11月7日)
カシオ計算機株式会社「会社概要」,https://www.casio.co.jp/company/profile/(閲覧日2022年11月7日)
[10] 楽天グループ株式会社「企業情報」,https://corp.rakuten.co.jp/about/(閲覧日:2022年11月7日)
楽天グループ株式会社「ダイバーシティ」,https://corp.rakuten.co.jp/sustainability/employees/diversity/(閲覧日:2022年11月7日)

5. 日本人従業員の意識改革を促す施策も重要

外国人従業員が安心して働ける職場を実現するためには、日本人従業員の意識改革も必要です。ダイバーシティ&インクルージョンの推進は、企業風土を次世代型に変えていくために有効です。

また、外国人従業員とのコミュニケーションの活性化を図るなら、分かりやすい日本語を使用するのも良い方法です。詳しく見ていきましょう。

5-1. ダイバーシティ&インクルージョンの推進

ダイバーシティは「多様性」を、インクルージョンは「包括」を意味する英単語です。この2つを組み合わせた「ダイバーシティ&インクルージョン」という言葉・概念は、個人の人格や才能を生かした組織に欠かせない要素です。

ダイバーシティ&インクルージョンを推進する主なメリットは、生産性の向上や優秀な人材の確保、従業員の定着率の向上です。

多彩なバックボーンを持つ人材からアイデアを吸収することで、より多角的な視点でビジネスを展開することができます。それは生産性の向上につながります。

また、ダイバーシティ&インクルージョンを掲げることで、国籍などを問わず優秀な人材が集まるようになります。そうしたさまざまな人材に配慮した社内システムを構築することで、従業員の定着率も高まるでしょう。

ダイバーシティ&インクルージョンを実現する方法には、大きく次の3つのステップがあります。

・ステップ1 推進活動の準備
・ステップ2 全社で情報を共有
・ステップ3 実践・定着

一つずつ見ていきましょう。

・ステップ1 推進活動の準備

従業員の意識改革や推進体制の構築を行います。自社の制度や仕組みを整備し、多様な人材を受け入れる準備をします。

・ステップ2 全社で情報を共有

ダイバーシティ&インクルージョンを実践する前に、「なぜ行い、どのような変化が期待できるか」などの情報を全社で共有します。

・ステップ3 実践・定着

ステップ1で作成した制度や仕組みを用いて、実践に移します。

これらのステップを慎重に、かつ段階を踏んで取り組むことで、ダイバーシティ&インクルージョン推進の成功率が上がります。

詳細はこちらの記事をご参照ください。

ダイバーシティ&インクルージョンとは 考え方・進め方を徹底解説!
https://research.lightworks.co.jp/diversity-and-inclusion

5-2.「やさしい日本語」を社内の共通文化に

「やさしい日本語」とは、日本語の理解やコミュニケーションに困難を感じている人に配慮した日本語のことです。

やさしい日本語の特徴は、日本語特有の冗長な表現や尊敬語・謙譲語ではなく、直接的ではっきりとした言葉を使用することにあります。例えば、「おっしゃった」ではなく「言った」と言い換えるなどです。

「やさしい日本語」について、詳細はこちらの記事をご参照ください。

やさしい日本語が生まれた背景や考え方の他、「ハサミの法則」や「ワセダ式」といった実践に必要なポイントも具体的に紹介しています。やさしい日本語を社内の共通文化にすることで、日本人従業員と外国人従業員のコミュニケーションが活性化し、業務効率の向上につながると考えられます。

6. まとめ

外国人を雇用すると、「業務内容を理解できるほど日本語を理解していない」という問題に遭遇することがあります。一方、外国人労働者も日本語でのコミュニケーションに課題を感じています。

在留資格のうち特定技能と技能実習(介護職種)は、JLPTのN4レベルが求められます。N4レベル程度の日本語能力とは「自分の気持ちとその理由を簡単な言葉で説明できるレベル」であり、基本的な日本語を理解することは可能です。なお、介護以外の職種の技能実習では、必要な日本語のレベル自体が定められていません。

しかし、日本で日常生活を送る場合においても苦労する場面が存在するため、N4レベルで日本語を使用する業務は困難です。

一方、技術・人文知識・国際業務高度専門職の在留資格を持っている外国人労働者の日本語レベルはN2やN1程度が多く、比較的日本語を操ることができます。しかしながら、専門用語や和製英語(カタカナ語)が混じっていたり、早口だったり、抽象的な内容になったりすると理解が難しくなります。

社内での人材育成の一環としてJLPTの受験を勧める企業もありますが、JLPTの受験内容には「会話」の要素がないので、高いレベルに合格しても日本人と会話によるコミュニケーションができるとは限らないのです。そう考えると、JLPTの合格は手段であり、ゴールではありません。

外国人労働者が、日本で日本人従業員と共に働き、パフォーマンスを発揮するために必要な日本語能力は、就職した後にこそ培われていくべきものと想定できます。特に、危険を伴う作業が必要な現場では、「逃げろ」や「危ない」といった緊急の言葉の周知徹底は不可欠です。

企業が外国人従業員に対して日本語教育を実施する場合、在留資格によって日本語教育を行う方法を変化させる必要があります。特に、技能実習生に日本語教育をする場合は事前に実習計画に盛り込んでおきましょう。

外国人従業員に日本語教育を行う際、重要なことは「自社に必要な日本語を把握すること」です。日本人従業員と外国人従業員のコミュニケーションの場面を洗い出し、どのような場面でコミュニケーションが取れなくなるのか調査した上で日本語教育の方法を検討しましょう。

外国人労働者への日本語教育の方法は、主に3つの手段が考えられます。

・日本学校に通ってもらう
・外部講師に委託する
・eラーニングを活用する

・日本学校に通ってもらう
日本語学校によっては、既に就職している外国人労働者向けのコースもあります。メリットは、共に日本語を学ぶ仲間ができる可能性があることです。日中の他、土日や夜間に受講するコースを提供している日本語学校もあるので、外国人労働者の生活スタイルに合わせて選ぶとよいでしょう。

・外部講師に委託する
自社の外国人従業員が講義を受けている様子を見学できるので、学習態度をチェックすることができます。他にも、1対1のレッスンや、オーダーメイドの日本語レッスンを行うところもあります。自社が求める教育を実施してくれるかどうかを確認するため、事前に入念な打ち合わせが必要です。

・eラーニングを活用する
eラーニングでも日本語教育が可能です。特筆すべきメリットは、インターネットがつながる環境さえあれば、時間帯や場所を選ばずに学習を進めることができる点です。

外国人従業員にパフォーマンスを発揮してもらうためには、日本語教育の他に従業員同士のコミュニケーション促進も必要です。本稿では、以下のような事例を紹介しました。

株式会社まちだは、技能実習生と週1回の交換日記を実施することで、技能実習生の気持ちを理解する努力をしています。また技能実習生に「10年カリキュラム」を用意することで、技能実習生が自分のキャリアを選択できるようにしています。

九州電設株式会社は、従業員同士の異文化理解を深めるため、外国人従業員の母国の言語講座を月1回の頻度で開催しています。

また、外国人従業員の持つバックボーンを尊重した事例としては、カシオ計算機株式会社が挙げられます。同社は、イスラム教徒の外国人労働者を採用したことを契機に、お祈り部屋を設置しました。

楽天グループ株式会社も同じようにイスラム教徒の外国人従業員に配慮し、ハラル料理をはじめとして幅広いメニューを社内カフェテリアで提供しています。同社では、文化の違いから生じる日常の問題について話し合う機会を設けることで、相互理解の深化を図っています。

外国人従業員が安心して働ける職場を実現するためには、日本人従業員の意識改革も必要です。ダイバーシティ&インクルージョンを推進し、企業風土を次世代型に変えていきましょう。ダイバーシティ&インクルージョン推進のメリットは、生産性の向上や優秀な人材の確保、従業員の定着率の向上です。

やさしい日本語を社内の共通文化にすることも、外国人従業員と日本人従業員のコミュニケーションを活性化させる方法の一つです。やさしい日本語とは、日本語の理解やコミュニケーションに困難を感じている人に配慮した日本語のことで、直接的ではっきりとした表現を使います。

日本人従業員と外国人従業員、それぞれが能力を十全に発揮して協働するには、コミュニケーションを取り合い、相互理解を深めることが必要です。そのために自社でどのような教育や取り組みが必要か、今一度考えてみてはいかがでしょうか。

参考)
厚生労働省「外国人の採用や雇用管理を考える事業主・人事担当者の方々へ 外国人の活用好事例集~外国人と上手く協働していくために~」, https://www.mhlw.go.jp/file/04-Houdouhappyou-11655000-Shokugyouanteikyokuhakenyukiroudoutaisakubu-Gaikokujinkoyoutaisakuka/741015kkf0920.pdf閲覧日:2022年11月2日)
厚生労働省「技能実習制度 運用要領」,https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-12000000-Shakaiengokyoku-Shakai/0000183085.pdf(閲覧日:2022年12月6日)
JEWELS+ 外国人材に選ばれる九州・山口WinWinプロジェクト「外国人労働者が働きやすい工夫をしている企業事例集【令和3年度版】」,https://www.pref.kagoshima.jp/af21/documents/98965_20220522113454-1.pdf (閲覧日:2022年11月4日)
株式会社日本総合研究所「「人手不足と外国人採用に関するアンケート調査」結果 ―受け入れ拡大に多くが賛成。制度の改善・国内人材の活用支援の要望も―」,2019年4月17日公表,https://www.jri.co.jp/MediaLibrary/file/report/researchreport/pdf/11052.pdf (閲覧日:2022年11月2日)
日本語能力試験(JLPT)「試験科目と問題の構成」,https://www.jlpt.jp/guideline/testsections.html(閲覧日:2022年11月17日)
カシオ計算機株式会社「人材活用と職場環境の整備」,https://www.casio.co.jp/csr/social/utilize/(閲覧日:2022年11月7日)
楽天グループ株式会社「ダイバーシティ」, https://corp.rakuten.co.jp/sustainability/employees/diversity/(閲覧日:2022年11月7日)
社員旅行net事務局「外国人社員との交流を深める!社内イベントで日本のもの作りを体験するプラン(東京編)」,https://www.syain-ryokou.com/topic/archives/3567(閲覧日:2022年11月7日)
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レイハラ@2x

技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第15回)

レイハラ@2x

技能実習制度及び特定技能制度の在り方に関する有識者会議(第14回)

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技能実習生の受入れ人数枠とは?さまざまなパターンごとに丁寧に解説